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第6話「ムチとローズエッタ学園寮傷害事件」(後編)

「そうだ思い出した!!僕、わがままボディだから首をストンとやられた時に気絶するのに少し時間があったんだ。その時に、背後から『私の名前はキャンドルよ』と言っていたよ。今思い出した!」


 モブEが立ち上がりながら指をさして私を見た。

 全員が私の方を見る。

「ちょ、ちょっと待って!私何もやってないわよ!?無実、無実だから!信じて!このメガネと蝶ネクタイにかけて誓うわ!」

 モブEがジーーーっと疑いの目で見てくる。

 そこにクリスとニコルが同時に行った。

「いや、それはない(ありません)」

 え!?とクリスとニコル以外の全員が驚く。

 クリスが続けて言う。

「例えばこのモブE君がやられたという3日前の午後10時30分頃なんだが、この日キャンドルは寮から帰って宿題をしてからは、お気に入りの恋愛小説の『アキッレとアンジェラ」を読みつつ、ミルク入りのアッサムティーを飲んで午後10時18分に就寝している。彼女にはれっきとしたアリバイがあるんだ」

 ちょっと待って、そのアリバイ、やたら詳し過ぎないか!?なんで本のタイトルや紅茶の種類まで知っている!?!?

 構わずクリスは続ける。

「そう、彼女にはアリバイがある。だから彼女に協力を仰いだという経緯があるんだ」

「となるとあれだな、キャンドルを名乗る誰かって事になる。キャンドルに恨みでもある人間か?」

 エドワードが言った。

 恨みのある人間…いくらでもいる気がする。

 何せ、クリス王子とエドワードが私に?求愛しているのだ。多くの女子達から恨みを買っていても、全く不思議ではない。

 ゆえに、これまた心当たりが多過ぎて犯人を絞れない。

「なぁ、あいつじゃないのか?今年俺たちと一緒に入学してきた性格悪いって噂のあの縦巻きロール金髪のアイツ。名前…なんていったっけ…そうだジュリエッタだ。あいつなら今注目を集めているキャンドルに嫉妬して嫌がらせをしたとしてもおかしくないだろ?」

「ふむ…彼女か。まあ可能性としてなくはないが…わざわざ夜中に男子寮に侵入してまでやるのかな」


 なんでも、ジュリエッタという金髪縦巻きロールの悪徳令嬢がいるらしく、彼女もムチを持っているらしい。ムチを持ってる理由は私と違って単に気に食わない相手を辱めるために持っているそうだ。あー、怖い怖い。


「ところで、キャンドル。君の従者であり弟ぎみのニコル君に少し頼みがあるんだ」

 えっ?なんだろう。

「明日は休みだ。基本的に犯行は休日か休日の前日に行われている事が多い。ここにモブAからEが被害にあったおおよその日時がこの紙に書いてある。それを元手に犯行が可能な人間、つまりアリバイがない人間をある程度絞ってもらう事は出来るかな?取り敢えずはまずは調べるのは男子寮の人間からでいい。ニコル君は私の従者ではないゆえ、キャンドル、君の口から弟ぎみにお願いしてもらえないかな、と思ってね」

「分かりました。クリス様。ニコル、出来るわね?」

「姉様の頼みとあらば」

 クリスから紙を受け取り、シュッと姿を消した。相変わらずだけど、なんなのこの猛スピードは。

「それでは、エドワード、キャンドル。男子寮に巡回に行こうか。さっきも言った通り、今日は休日の前日。犯行があってもおかしくはない」

「私が男子寮に入ってもよろしいのでしょうか?」

「それに関してはすでに美化委員長に許可は取ってある。安心していい」

 時間は午後9時半。学園の決めた就寝時間まであと1時間である。

 私はいざ犯人と対峙した際に自衛と捕縛を兼ねて縄の用意と動きやすい服装に着替えさせて欲しいとクリスに頼み、モブEを自分の部屋に帰らせて、男子寮入り口に午後10時半にクリスとエドワードと待ち合わせする事にした。


 男子寮内に入る。

 シンとしていて廊下の明かりも少なく、少し怖い感じがする。

 確かにこれなら虚をついた犯行は行いやすいだろう。

 1階は1年生、2階は2年生、3階は3年生のフロアとなっている。

 この学園は王族や貴族の学園なので、学校全体の生徒数はそんなに多くないんだけど、王族や貴族が住むだけあって、一部屋一部屋が大きい。特に王族の部屋に至っては何平方メートルあるんだって感じで広いし、さらに従者専用の部屋まであるので、1フロア1フロアが結構広いのだ。おかげで結構巡回には手間がかかってしまう。

 1階から順に見て回る事にした。1階で犯行を目撃した場合、階上へ追い込むためだ。

 3階から見回って階下で犯行が行われると逃げられる恐れがある。

 1階をいつもより歩行速度を落としつつ、クリスとエドワードで見回る。

 クリスが先頭でエドワードが最後尾で、私を守る様に挟んでくれている。なんだかんだでこの2人、紳士なんだ。とちょっと見直した。

 1階で結局何も起きず、2階を見て回る。

 最初は緊張してたけど、段々慣れてきた。

 2階でも何も起きずに最後の3階へと向かう。

 クリスが懐中時計にロウソクの火を近づけて時間を見る。既に時刻は午後11時を回っていた。

「うーん、とっくに犯行は起こっててもおかしくはないんだが…。今日はハズレか…」

 結局3階でも何も起こらず、何も発見できなかった。

 クリスは

「今日のところはこんなもので良いだろう。さあ、撤収しよう。入口に戻るぞ」

「あーあ、結局歩き回っただけかよ。退屈だったぜ。事件が起こってくれればいいのによ」

 とエドワードがあくびをしながらそう言った。

「まあでも事件なんて起きないに越した事はないですわ。戻りましょう」

 クリスとエドワードは頷いて、全員入り口へと向かい、1階にたどり着いた時だった。

 先頭に立っていたクリスが

「誰かが倒れてる!?」

 と言って歩くスピードをあげた。

 確かに誰かが倒れている。

 暗くても分かる。ここの男子生徒だ。

「おい、大丈夫か、おい!」

 エドワードが男子生徒の上半身を起こして揺さぶる。

 クリスは男子生徒に外傷がないかをチェックするが、外傷はない。

「うう…」とうめき声をあげて、その男子生徒の目が開いた。

「君、どうした!?何があった!?」

「うう…く、クリス様…?僕…廊下を歩いてたら突然何かで拘束されて…それから…「私はキャンドルよ」と言ってから気絶させられました…」

 同じ犯行だ!

「同じ犯行だな…だが、これまでと違い、気絶させる前に名乗っている。犯行の仕方が少し変わったのか…?君、いつやられた?」

「い、今何時ですか?」

 クリスは再度懐中時計を見る。午後11時20分である。

 クリスはその男子生徒に時刻を告げると、「たぶん、20分くらい前です」

 と男子生徒は答えた。

「やられたな…」

「どういう意味だクリス」

「真犯人は我々が3階を調べに行ったタイミングで犯行を行ったんだ。そうすれば物音や悲鳴が我々には聞こえづらいからな」

「なるほど頭の回るやろうだぜ」

「君、すまない。外傷があるかどうかもう少し詳しく調べたいので上着だけ脱がせてもらっても良いかい?」

 はい、と男子生徒が答え、クリスが男子生徒♂の上半身をムクと、その背中を見たクリスが何かに気がついた。

「こ、これは…!?いや…これでは決定的な証拠には…」

 クリスは何かを考え込んでからこう言った。

「取り敢えずこの男子生徒を部屋に帰して、我々も各自部屋に戻ろう。おそらくもう犯行は行われないはずだ」

 クリスは何かに気がついているようだ。

「それで明日、改めて…キャンドル、君の部屋でニコル君にお願いしたい事がある」


 翌日の午後3時、クリスの部屋には私、クリス、エドワード、ニコルと、クリスがニコルに頼んでいたアリバイのない容疑者3人がいた。全員男子である。

 容疑者3人に事情を話して、3人それぞれに自己弁護を行ってもらう事にした。

 またしても顔にAとBとCの文字が書かれている簡易人間だ。

 作者はやる気があるんだろうか?いや、ない。

 クリスは進行役を私に任せて、部屋の隅で腕組みをして目を瞑った。

「さあ、語ってちょうだい。真実はいつもひとつ!嘘をついても私にはすぐにわかるわよ、バーロー」

「キャ、キャンドルなんかお前口調が変だぞ」

「せやかてエドワード、ワイはもう事件解決モードなんや。犯人はこの中いる!」

 エドワードもニコルも容疑者3人も、「ああ、まあそうでしょうね」という冷静な顔をしている。

「ついに名探偵キャンドル様の出番よ!」


 モブAは語る。

「確かにその日のその時間僕は部屋にいませんでした。寮の外に出て星を眺めていたんです。風紀委員のクリス様ならご存知かと思いますが、知ってましたか?この学園寮、門限や就寝時刻が設定されている割には寮の玄関は24時間開けっぱなしなんです。なんでも今は3年生になってる王族のとある方が我々の住む場所は牢獄じゃないと駄々をこねて玄関の鍵をするのをやめさせたらしいですね。セキュリティの観点からすると問題はありますが、隣に従者がいますし、王族の従者はみな手だれの者ばかりらしいので、そのままなし崩しに玄関に鍵が掛からなくなったとか。だから僕はそれを利用して星を見に行ってるんです。美しい僕には美しい星がお似合いですしね」

「犯人はあなたね!」

 私は大声で言った。モブAは戸惑っている。

「な、何を根拠に!」

「根拠はないわ…ただなんとなくよ!なんとなくあなたのそのナルシストぶりが犯人っぽいんだわ!」

 私は思い切りドヤ顔をした。

「姉様、まだ全員の話を聞いたわけではないので、取り敢えず先に進みませんか?」

 まずい…まずいぞ。エドワードは心中焦っていた。この名探偵は確実に迷う方の迷探偵だ。下手すりゃ事件を迷宮入りさせてしまうかもしれん。


 モブBが語り出した。

「ぼぼぼぼぼぼ僕は外に出て本を読んでいただけで…」

「あなたが犯人ね!」

 私はまたしてもドヤった。

「自分の部屋で本を読むならともかく、暗い外に出て本を読むなんてどう考えてもおかしいわ!犯人はあなたよ、B!」

「でででででも本当に本を読んでいただけで…就寝時刻を過ぎて明かりをつけてたら寮長にバレてしまうし、()()()()()()()()()()()

 Bは明らかに挙動不審に目をキョロキョロさせている。

「お前、キャンドルじゃないけど怪しいなぁ?」

 エドワードが凄んだ。

「なんだよその本ってやつは。見せてみろ!」

「ちょ、ちょっとやめてよ!いやだよ!やめて!!!」

 エドワードはモブBから強引に本を奪い取った。その時に本の間から四葉のクローバーがほろりと落ちたのをキャンドルは見逃さなかった。

「こここここれはぁ!!!!!!」

 本をペラペラとめくっていたエドワードが、絵を血走らせながら興奮している。

「どうしたエドワード」

「クリス、ちょっとこっちに来い!」

 クリスが本をペラペラとめくる。

「こここここれはぁ!!!!!!」

 エドワードと同じ反応だ。何の本なんだろ。

「き、き、き、君。()()()()、どこで手に入れたんだ!」

「こ、これはその…あの…」

「分かった。今はいい。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「あ、ありがとうございます」

「とにかく絶対だぞ!絶対に教えてくれたまえ!」

 クリスが興奮を鎮めてからまた部屋の隅へ行き、腕を組んで目を瞑った。


 モブCが語り始める。

「あ…あのごめんなさい。寮を抜け出して来たのは事実です。その…秘密があって…」

「犯人はあなたね!」

「え…」

「その秘密とやらが決定的な証拠ね!」

「いえですから今からその秘密を話そうかと…」

「犯行を自供するとは良い心がけね!」

「実はここの寮の近くに池がありまして…。夜中にそこに行くと、光をまとった小さい虫が飛び回っていて、とても綺麗なんです…。一度見た時はらハマってしまって…ついつい夜中に寮を抜け出して見に行ってしまってるんです。ごめんなさい」


 特に3人ともどこかに怪しいと思える証言はない。怪しいといえば2人目のモブBの本が何なのかが怪しいが、エドワードまでその子の本を守ろうとするので手が出せなくなった。


「ああっ!」

 突然私はよろめいて、近くの椅子に座り込んだ」

「犯人は分かったわ。この眠れる美女推理クイーンキャンドル様がね!」

「いや、お前寝てないだろ。口が動いてるぞ」

 エドワードの無粋なツッコミは無視する事にした。


「その3人の証言に、犯人の名前が隠されていたのよ!」

「な、なんだってー!」

 モブA〜Cとエドワードが叫ぶ。

「まずは最初の容疑者。あなた、ナルシストね。そして2番目の容疑者は本の栞に四葉のクローバーを使っていた。足元に落ちているわよ?」

 モブBがそれに気づいて慌てて拾う。

「そして3人目の容疑者、あなた池に行ったそうね?」

「はい」

「つまりよ!ナルシスト(Narcissist)のN、クローバー(Clover)のC、池(Lake)のL、それぞれの単語の頭文字を並べると、とある人物の名前が浮かんでくるわ!」

 場がしーんとなった。

 全員頭の上にハテナが出ている。当然だ。

 この世界に英語もないしアルファベットもないのだから。

「それはNCL、あなたよニコル(Nicole)!!」


 私はニコルをめっちゃ指差した。

 メチャクチャな推理だ。とクリスとニコルを除く全員が口をあんぐりと開ける。

「姉様、何を言ってるんです。なぜ僕が犯人なんです?しかも姉様の名前を騙ってまでこんな事する理由はなんです?」

「問答無用よ、ニコル!あなたが犯人よ!ちなみに証拠はないわ!そこを突かれたら困るから金輪際黙ってちょうだい!バーロー」

 無茶苦茶だ…。


 そこに腕を組んだままじっと黙っていたクリスが突然口を開いた。

「けど、君。君にもアリバイがないのは確かだろう?」

「はい、そうなりますね。でもそれはあなたから頼まれた調査の依頼で忙しくて…」

「実は見たんだよ、私は」

「何をです?」

「昨夜の被害者の身体を見たんだよ。服まで脱いでもらってね、そしたらあったんだよ、肩から背中にかけてうっすらと縄の跡が!」

「……ッ」

「犯人はキャンドルを名乗っていたみたいだが、キャンドルなら20分経っても縄の跡が残るようなヘマはしない。彼女の絶技は本物だ。一切の跡すら残さないだろう。ということは、だ。我々を出し抜いて1階で犯行を行う手腕、アリバイがない、さらに縄の跡がうっすら残る程度の縄の技術。キャンドルほどではないにしろ、やはり縄の技術はかなりのものだ。大半の跡は消えてしまっていたからね。こうなると犯行が可能な人間は相当に限られると思うのだがね、ニコル君?」

「証拠は…証拠はあるんですか?」

「残念ながら証拠はない。証拠を残すほど間抜けじゃないだろうしね」

「フッ…ならば…」

「だから誓って欲しい。姉の前で、心の底から自分は犯人ではない、と」

「ウッ……!」

 クリスの部屋にしばらくの静寂が流れる。

「分かりました。認めますよ。一連の犯行は私によるものです」

「やった、流石推理クイーンキャンドル、大正解だわ!」

 いや、解いたのは全部クリスだろ…、とキャンドル以外の人間は全員そう思った。


「なぜ…こんな事したんだい?しかも姉の名前まで騙って…」

「あなたたちというハエが姉様にまとまりついてるんでね。最初は排除しようかと考えましたが、逆の発想をしました。ハエをたくさん増やす事で逆に姉様にあなたたちが近づけないようにしようと考えましたが、浅はかな考えでした。被害者の誰も縄の魅力に気が付かない愚鈍な人間ばかりでした。素質と素養がありそうなのは、そこのモブBさんだけでしたね」

「自供したね。悪意はないにせよ、傷害事件は傷害事件だ。罪は償ってもらうよ。最悪、学園から出ていってもらう事になるかもしれない」

 ニコルがクスリと笑う。

「おっと、反省はしますが後悔はしてませんよ?取引です、クリス王子及びエドワード様。私の犯行を見て見ぬふりをしてもらえれば、あなた方がさっきから気になってるその本を2冊進呈しましょう。これでどうです?」

 私がつい立ち上がってこう言ってしまった。

「そんな…公明正大なクリス様がそんな取引をするわけが…」

「「取引成立だ!!!」」

 クリスとエドワードは同時にそう叫んだ。

「傷害事件は最初からなかった。委員会にはそう伝えておくし、私の全身全霊をかけてこの事件を隠蔽してみせよう」

「おう、おめぇら。この事他の人間にバラしてみろ。タダじゃおかねぇぜ?」

 エドワードが容疑者全員に凄んで強引に同意させた。

 最低だこの2人…。昨日ちょっと見直したのに、もうこれかよ。


 こうして事件は解決した。

 私はメガネと蝶ネクタイを外してこう言った。

「真実はいつもひとつっていうけど、現実じゃ真実はいつもいまひとつ、ってことね」

 ドヤ顔を作ったが、周りは冷え込んだままシンとなった。

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