第18話「ムチと天下一緊縛会4」
「さあさあ!ついにやって参りました!記念すべき第1回目の天下一緊縛会、早くも最後となる決勝戦となってしまいました!」
最初で最後にすべきよ、こんな変態な大会。
「それでは両チーム、登場していただきましょう!まずはこの大会、1回戦から勝ち上がってきたキャンドルチーム!対するは、謎多き女王様チーム!このチームの情報は全く手に入りませんでした!しかし、彼女たちのその風貌、網タイツに革製の黒いボンデージそして赤いハイヒール。まさに期待ができそうです!まさに決勝戦に相応しい2チームでありましょう!」
ヤバい。クリスとエドワードの目と心臓がハートマークになってドッキンドッキンと前後に動いてる。これはすでに試合が始まる前に負けが決定してしまう。
ええい!こうなったら最後の手段だわ!
「クリス様!エドワード様!」
「「ん?なんだ、キャンドル?」」
「あなたたち負けるつもりでしょ」
「「ドキッ!!」」
「…図星の様ね。いい?勝ったら学生の間は週一であなた達を縛ってあげます。しかし、負けたら一生、お縛りオアズケですからね!!!」
「「な、なんだってーーー!!!」」
「うぉー!俺たちはどうすりゃいいんだ!じょ、女王様に縛られたい!でも縛られると2度とキャンドルから縛られない!なんて残酷な選択肢なんだ!」
エドワードが嘆く。
クリスも頭を抱えながらヘッドバンキングをして悩んでいる。
こうして、両チームはステージの横に並んだ。
私、クリス、エドワード、ニコル、そしてダリルの5人が。
話は少し遡る。
闘技場の医務室である。
「これ以上は…無理ですね」
医者がそう言う。
エリザベスは準決勝での無理がたたり、すでにボロボロになっていた。
「ごめんなさい。キャンドル様。最後にお役に立てなくて」
「気にしないでエリザベス。優勝は私たちの力でもぎ取ってみせるわ!」
「期待していますわ、キャンドル様。あなたならできる」
「それじゃあね、エリザベス。ここで待ってて」
「さあ、先鋒戦!さっそくいってみましょう!クリス選手対ベラ選手です!」
両者ステージの中央に立つ。
「それでは試合開始!」
瞬間、審判の目の前を目に止まらぬ超高速で縄が通り過ぎる。
だが、クリスは紙一重でそれを避ける。
縄を引き戻したベラ選手は笑みを浮かべる。
「流石にやりますわね。キャンドル様のチームなだけありますわね」
「それは私からのプレゼントだよ」
「?…何を言って…あっ!」
ベラ選手が戻した縄の先には薔薇の花が刺してあった。
「さあ、君の全ての技を見せたまえ。期待しているよ、ベラ」
「くっ、全ての奥義を駆使して倒してみせますわ!」
「Diamond Dust!」
ベラ選手が奥義の基本技ダイヤモンドダストを繰り広げた。
その奥義はあっけなく、クリスの身体を覆った。
「いっ、いっぽ…」
審判がそう宣言しようとした時、クリスの姿は消え、ベラ選手の背後に現れた。
「え!?」
ベラが戸惑う。
「ほら、もっと奥義を…ほら…」
(なんか息遣いが荒い、この人!)
ベラの背筋に寒気が走る。
「Turtle Head!」
ベラ選手は二つ目の奥義を繰り出す!
またしてもクリスはあっけなく縄に縛られる。
「いっぽ…」
審判が一本を宣言しようとすると、またしてもクリスの姿が消え、ベラ選手の背後に回り込んでいた。
「ほら、もっとあるだろう?奥義は。少なくとも、準決勝で6つの技は確認しているぞ…ハァハァ」
「ひっ、く、来るな! The ZEN!」
「い、いっぽ…」
「Shrimp Attack!」
「いっぽ…」
「Reversal Shrimp Attack!」
「いっ…」
ベラ選手が技を繰り出すたびに、かかった様に見えて、その瞬間には抜けられ、背後に回られる。
ベラ選手の精神は限界に達しようとしていた。
ベラ選手は背後に回ったクリスから話しかけられた。
「ハァハァ…ヒントは2回戦のニコルの戦いにあった。技をかけられたとしても、一本を宣言される前に抜け出して仕舞えばいい。これで、キャンドルのムチを確保しながら、君の縄を愉しむ事ができる…フフ」
「く、くっ!最後の奥義ですわ! The Club of Crab!」
しかし、結末は変わらなかった。
結局はクリスに抜けられてしまった。
ベラ選手はその場にへたり込んで、
「こ…降参ですわ…」
降参を宣言した。
「なんということか!散々責められていたはずのクリス選手!まさかの勝利!これは意外な結果となりました!」
「さすがはエバンス殿の弟子だ。良い技だったよ」
そう言ってクリスはチームの元へ戻った。
戻ったと同時に倒れ込んだ。
「ああーっと!やはり責められ続けた代償か!クリス選手、倒れ込んでしまいました!まさに死闘、死闘であります!」
場内に歓声が湧き上がる。
「き、気持ち良すぎた…♡」
が、違う!クリスは顔を紅潮させて、ハァハァ言ってる。気持ち良すぎて精神がイってしまったようだ。騙されるな、観衆たち!
クリスは観衆に拍手で迎えられながら、そのまま担架で医務室へと運ばれたが、エリザベスと違って一切心配する気にならない。
「さて、次はエドワード選手対ワン選手!それでは次鋒戦、行ってみましょーーーーっ!」
「やるな、クリス。その方法があるとはな」
この後も同じ展開となった。
エドワードに縄がかかったと思いきや、一瞬のうちに縄を抜ける。
これを、最終奥義まで繰り返した直後、いつの間にかワン選手はエドワードにお姫様抱っこされて、場外に放り出された。
「じょ、場外勝ちー!エドワード選手、強し!」
エドワードがチームへ戻ってくると、またしても倒れ込んだ。
「ああーっと!クリス選手に続いてエドワード選手も試合直後に倒れてしまいました!それだけ死闘だと言う事でしょう!まさに!まさに決勝戦にふさわしい戦いであります!」
違う…。
「ハァハァ…き、気持ち…よかっ…た♡」
ほら見ろ…。
だめだこいつら…強すぎるけど、ダメすぎる。ま、まあ2連勝したからギリギリ許してやるわ(怒)
そしてエドワードも担架で医務室へ運ばれた。
「さて!早くも中堅戦。ニコル選手対ホース選手です!どういった戦いになるのか!それでは試合開始!」
ニコルは先手必勝でダイヤモンドダストを繰り出すが、あっさりとホース選手の縄で弾かれる。
「くっ」
ニコルは角度を変えながら何度もダイヤモンドダストを繰り出すが、やはり簡単に弾かれてしまう。
「フフ、あなたのダイヤモンドダスト、完成度自体はかなりのものだけど、あなたの持ち技はその一つよね。技のキレは凄くても、来ると分かってるならば対処自体はそう難しいものじゃないわ」
「…ッ」
次にニコルはクナイを織り交ぜて縄を放つが、やはりホース選手に軽くいなされてしまう。
(くっ、ダメだこのままじゃ…こうなったら…未完成だけどタートルヘッドを繰り出すしかない…!相手は僕の技はダイヤモンドダストしかないと思ってる。その心の隙を突く!)
「あれ?どうしたの攻撃してこないの?」
ニコルは一か八かの確率をよりあげるために、相手が技を繰り出すその時にカウンターでタートルヘッドを放とうとしていた。
「ざーんねん。その手には乗らないわよ?」
「えっ、」
「あなた、今度は私に攻撃させてカウンター狙ってるでしょ?でも残念でした。私からは攻撃しないわよ?でも、私はいつでもあなたを倒せる事を忘れないで。あなたが勝つにはあなたから技を仕掛けるしかないの。残念だったわね、主導権はあなたではなくて私にあるの。ほら、かかってきなさい」
「くっ!だったら、その余裕を後悔に変えてさしあげますよ!ダイヤモンド…」
ホース選手がニコルのダイヤモンドダストの宣告をした瞬間身構えた。
そしてその次の瞬間、ニコルは技を変えた。
「クイットネス奥義!!
Turtle Head!!」
ニコルはタートルヘッドをホース選手に繰り出す!!
が、その技も弾かれる!
「The ZEN!!」
ホース選手がザ・ゼンの技を繰り出すと、ニコルの身体はホース選手の放った縄に縛られる!
「一本! ホース選手の勝ち!」
歓声が湧く。
ホース選手はニコルの側に近寄ってこう言った。
「やっぱりね。あなたの持ち技で完成度が高いのはダイヤモンドダストだけ。なのに、完成度の低いタートルヘッドで賭けに出た時点であなたの負けは決まっていたのよ。修行をやり直すことね」
そう言ってホース選手は悠然とステージを去っていった。
ステージから降りたニコルは子供の様に泣いた。いや、実際子供なんだけど。
そのままニコルは会場の大人に付き添われて控室の方へと去っていった。
「さてさてさーて!残るは副将戦と大将戦の2試合を残すのみ!キャンドルチーム、副将戦で決めてしまうのか!それとも、女王様チームが大将戦まで持ち込むのか!実に楽しみな一戦です。それではしあい」
「降参します」
……は?
ダリルはそのまま踵を返し、ステージを降りてきた。
「副将戦、あっさり決着!バンブー選手の勝ちです!」
ブー!!
今度は会場からブーイングが巻き起こる。
そりゃ当然だ。
私も怒ってる。
「どうして降さ…」
「僕が負けるなんて最初から分かりきってるじゃないですか。ならキャンドル様には悪いけどさっさと降参して勉強してた方がいい」
「そ、そんなこというなんて、今後はもう縛ってあげな……はっ!!!」
そうだ!
確かに私は負けたら今後縛ってあげないとは言ったが、それはクリスとエドワードに言ったのであって、ダリルには言っていない!しまった…やられた!
「…計画通り!(キリッ」
ダリルはメガネを中指でクイっと上げてそう言ってニヤリと笑った。
このオトコ♂…策士!
「さあ会場にお集まりの皆様…!ついに…ついにこの大会も残す試合はこの1試合となりました!!果たして優勝チームはキャンドルチームとなるのか、女王様チームとなるのか…さあ、大将のお二方、ステージに上がってください!」
私と相手の選手がステージ中央に上がる。
「さあ大将戦、キャンドル選手対ローズ選手、試合開始!」
先手は相手のローズ選手の縄飛ばしから始まった!
だが、私はムチでそれを弾く!
またしてもローズ選手の縄が連続で来る。
弾く弾く弾く。
この時点で私は頭の中で予感が横切った。
(おそらくこのローズ選手…)
私は奥義戦に持ち込むことにした。
「クイットネス奥義Diamond Dust!」
「Diamond Dust!」
「Turtle Head」
「Turtle Head」
「The ZEN!」
「The ZEN!」
……やっぱりだ。私が技を繰り出せば、相手も同じ技で相殺してくる。
技のキレも互角。私とローズ選手は完全に互角だわ…。
両者の攻撃が止まり、ジリジリと間合いを保つ。
私も焦ってはいるが、それは相手も同様らしく、責めあぐねている感じが私にも伝わってくる。
「やりますわね、さすがエバンス様の御息女」
「あなたもね、ローズさん」
お互いがニヤリと笑う。
「さあ、どうするキャンドル?その対戦相手はあえて君と同じレベルに仕上げてある。今までの君じゃ勝てないよ」
来賓席で試合を見守る、父であるJ.J.エバンスこと、トライアングルホース・クイットネスが呟いた。
試合が続く。
「このままじゃ負けるな、キャンドルは」
突然、観客席にいた精通おじさんが呟いた。
「負けるってどうしてだい?完全に互角じゃないか?」
隣にいる観客がそう言った。
「技術的には、な。だがどうだい?少しづつ押され始めてるだろう?」
キャンドルには相手の放った縄で少しずつ傷が出来始めていた。
「技術的には互角でも体力は互角じゃない。段々とキャンドルの技のキレが鈍ってきてる。だから、押され始めてる。このままじゃ負けるのさ、キャンドルがね」
「さ、さすが精通おじさんだ、あんた何者だい?」
「なぁに、通りすがりの緊縛精通オトコ♂さ」
「なんだ、単なる通りすがりかぁ。納得だぜ」
事実、私は負けのふた文字が頭の中を頻繁によぎり始めた。こっちはもうムチを振るう腕が重くなって動かなくなりそうなのに、あっちの技のキレは全く衰えてない。
このままじゃもうすぐ一本勝ちされちゃう!
だめよ!
私は勝たなきゃいけないの!
だから…自分を信じて…私だけの緊縛で勝つしかない!
私だけの緊縛ってなんだろ…?
お父さん…。
私は小さい頃の父との思い出を振り返った…。
けど、特に何もなかった。
正体を現してなかった父は普段はまともだからだ。
ホントに特に思い出もない!
じゃ、じゃあ学園生活はどうだった?
「キャンドル!縛ってくれたまへ」
「キャンドル!縛ってくれ!」
「キャンドル様!縛って頂けませんか?」
…ダメだクリスとエドワードとダリルのノイズしか頭をよぎらない。
刹那、左肩に痛みが走った。
余計な事を考えていたせいで反応が遅れ、相手の縄が左肩に当たった。
私は疲れが出ていた事もあり、そのままよろけて倒れてしまった。
「ああーっと、キャンドル選手ダウン!これより審判によるカウントが始まります!19カウント以内に立ち上がらなければ、ローズ選手のノックアウト勝ちです。それではワン!……」
私は仰向けのまま倒れ込んだままだった。
っていうか、私こんな所で何してんだろ。
なんで勝たなきゃなんないんだろ…。
お空に太陽が燦々と輝いている。
あーあ、こんな時でもお日様は輝いてるんだね。
その時、5歳の時に母から言われた言葉を私は思い出した。
「キャンドルは太陽なような子ね」
そっか…。私は太陽なんだ…。
「カウント14! 15! 16!ああっと!キャンドル選手立ち上がりました!」
やってみるしか…ないか。
私は最後の力を振り絞って、たった今思いついた技を繰り出した!
「行くわよ!キャンドル奥義!
サンシャ……」
だが、私の繰り出したムチはローズ選手に簡単に弾かれてしまった。
「あなたも中堅戦と同じ過ちを犯そうとしてるのね。新技でもやろうとしたんでしょ?奇跡頼み?でもそんな付け焼き刃に頼った時点であなたの負けなのよ!喰らいなさい!」
「奇跡は起きるものじゃない、起こしてみせるもの!私は負けない!」
「キャンドル奥義!
The Sunshine!」
「The Club of Cr……」
技を出そうとしたローズ選手が突然よろめいた。足元を見ると、エドワードがさっき拳で開けた穴に躓いたからだ。
ここしかない!
私は奥義Turtle Headを応用し、身体を太陽の模様の様に縛る新技を繰り出した!
そして、見事その技はローズ選手の身体を巻き縛った!
「一本! キャンドル選手の勝ちです!!」
審判の勝利のコールと共に私はその場にへたりこんでしまった。
準決勝では負けに繋がったけど、最後はエドワードに助けられちゃったわね…。
すると、いつの間にか来賓席にいたはずのお父さんが目の前に来ていた。
「おめでとうキャンドル。ついに君だけの緊縛を手に入れたね」
私は溢れんばかりの笑顔でこう答えた。
「そんなの一生いらない」