第16話「ムチと天下一緊縛会2」
「次の相手は私たちよ!」
全員麦わら帽子に農夫の格好して、髪型を三つ編みにしたミツアミーズ(なんて安易なネーミング)が私たちの前に立った。
「え?休憩なし?」
「ええ、2回戦までは休憩はないみたいですわ、キャンドル様」
エリザベスがそう言った。
ま、まあさっきのは雑魚過ぎて疲れてないしまあいっか。
「さあさあ!次の2回戦は先ほど勝ち上がりました優勝候補筆頭のキャンドルチームと、大草原で農業を営んでいる5人姉妹のミツアミーズの対戦になります!」
私たちって優勝候補なんだ…。
というか、私の対戦相手の順番ってどうなってるんだろ。
身内へのツッコミが忙しすぎて忘れてたわ。
私は対戦表の書かれているボードを見る。
1回戦「モブチーム」
2回戦「ミツアミーズ」
準決勝「カウ・ぼーいず」
決勝戦「女王様」
……決勝戦だけ明らかに変態度が高い…。
「先ほどの作者の手抜きとは一味違うミツアミーズ、ちゃんと名前もあります!」
名前あるのは当たり前でしょ…。
「ミツアミーズ先鋒は五女のグレイス!若干14歳ですが、実力は本物!、対してキャンドルチーム先鋒はなんとこの国の第1王子であらせられるクリス・ダーニエッタ様!先ほどは何故かあっさり負けてしまいましたが、果たして2回戦どうなるのか!」
どうもこうもないわよ。結果は分かりきってるでしょ…。
「ふむ。いい勝負をしそうな雰囲気だが、それでもキャンドルチームの方が実力は上だな。特に先鋒と次鋒のポテンシャルは計り知れない」
精通おじさんが言った。
「へえ、そうなのかい?そんなに凄いのかい?」
「ああ、ポテンシャルだけでいえば彼らはバケモノクラスだ」
「では、早速クリス選手対グレイス選手の試合を開始します!それでは試合開始!」
「一本!グレイス選手の勝ちです!」
やっぱりだよ…。
「早い!あまりにも早い決着!一回戦に続いてクリス選手一体どうしたんでしょうか!」
どうもこうもないわよ…。わざと負けにいってるんだから…。
「続いて次鋒戦、エドワード選手対キャリー選手!エドワード選手はとても強いという噂です。これは期待できそうです。果たしてキャリー選手はどこまで食らいつけていけるのか!実に楽しみです。それでは次鋒戦いってみましょう!試合開始!」
「一本!キャリー選手の勝利!」
「一体どうした事でしょうか!優勝候補のキャンドルチームですが、先ほどから先鋒と次鋒の選手が絶不調です!これは心配です!」
私はクリスとエドワードを睨みつける。
だが、2人とも実に幸せそうだ。先ほどよりも悦んでいる。確かにモブチームよりも縄の実力はあったのだろう。
「案の定こういう展開になりましたね。僕が中堅戦なんとかしてきます」
「頼んだわよ、ニコル!もうあなたとエリザベスしか頼れないの!」
「分かっています。僕は姉様のために頑張りますよ」
ニコル頼もしい!誰かと違って!
「さあさあ早くも中堅戦!中堅はキャンドルチームの大将キャンドル選手の実弟、ニコル選手です。対してミツアミーズの中堅はローラ選手。ミツアミーズチームの三女になります。年齢は18歳!それではいってみましょう。試合開始!」
ミツアミーズのローラは不敵な笑みを浮かべてニコルに話しかけた。
「なぁに?あの先鋒と次鋒の体たらく。あなた達、本当に優勝候補なの?笑っちゃうわ。あたしもすぐ決着を付けてあげる。かかってきなさい!」
ニコルは下を向いたまま、ふぅっと息を吐いてローラを見た。
「雑魚ほど良く喋る。結果ですぐわかりますよ。自分の方が雑魚だってね」
「なんですって!」
ローラは縄を放つ。
だが、それを軽々避けるニコル。
さらにローラは縄を放つ。
またしてもギリギリで避けるニコル。
ニコルは見下した笑みでローラに話しかける。
「なぜ僕がこうやってギリギリで避けられるかわかりますか?」
「なによ、いったい!」
「技があまりにノロ過ぎて大きく避ける必要すらないからですよ。もうちょっとマシな技とかないんですか?」
「生意気なガキね!いいわよ!見せてあげる!『エドとマルゲリータ』から習ったこの技で!くらいなさい!菱形搾り!」
農業の牛の乳搾りとかけているのだろうが、結局はクイットネス家の奥義のダイヤモンドダストと同じではないか。もしかしてこの技で牛の乳搾りをやっているんだろうか、とニコルは考えた。だが、技のキレはキャンドルどころかニコルのそれよりも遥かに劣る。
ニコルはローラの菱形搾りで菱形が連なる形で縛られた。
司会進行役が
「いっぽ…」
一本と言いかけた時、縄の中はもぬけの殻になった。
「えっ!?」
ローラが驚いているといつのまにか背後にいたニコルにささやかれる。
「縛りが甘過ぎるんですよ、技のキレも鈍い。だからかけられた状態からでもすぐに抜けられる。こうやってね」
「う、うわぁぁぁぁ!!!」
ローラは振り返りながら縄を再度後ろにいるニコルに放とうとした。
だが、
「クイットネス家奥義!
Diamond Dust!!!」
それよりも先にニコルのダイヤモンドダストがローラの身体を完璧に縛った。
「一本!ニコル選手の勝ち!」
司会進行役が一本勝ちを宣言する。
観客席から歓声があがる。
「これが本当の菱形搾りですよ、お嬢さん?」
ニコルはもうローラを一瞥すらしないまま、キャンドル達の元へ戻った。
「さっすがニコルぅ!頼りになるぅ!」
「当然ですよ、姉様」
「さすがニコル様ですわ!格の違いを見せつけましたわね!」
「当然です。そこの役立たずとは違います」
ニコルはすました顔でそう言った。
「それでは副将戦!エリザベス選手対メアリー選手!年は20歳!若い2人の女性が縄と縄のプライドをかけて闘います!これは楽しみです!」
縄と縄のプライドって何よ…。
「それでは副将戦、開始!」
エリザベスとメアリーが同時に縄を放つ!
縄と縄が弾け合って手元に帰る。
「これは流石に一回戦と違って骨がありそうね」
エリザベスはそう呟いた。
「そうね、あなたもそこそこ腕が立ちそうだわ」
「申し訳ありませんわね、それでも勝ちは譲れませんわ!キャンドル様のために!」
またしても同時に縄を放つ2人!
だが、またしても縄と縄が弾け合う!
2人は何度も縄を放つが、試合は少しづつ優勢が傾いてきた。
5回縄を放つと、2回相手に当たるエリザベスに比べ、メアリーは3度エリザベスに当てるようになってきたからだ。
エリザベスの服には傷が付き、顔には数カ所擦り傷ができた。
エリザベスのほんの少しの劣勢を察した私は、エリザベスに激励を送る。
「頑張ってエリザベス!あなたならやれる!この短期間でダイヤモンドダストを習得できたんですもの!」
エリザベスはキャンドルの方を見てニコっと笑った。
(キャンドル様に期待されてる。その期待を裏切るわけにはいかない!)
キャンドルは目を瞑った。
(相手の縄の動きに惑わされるからダメなんだ。キャンドル様の技を信じるしかない!)
「ここで勝負をかける!くらいなさい!菱形搾り!」
メアリーが縄を放つのと同時に、エリザベスも縄を放った。
「Diamond Dust!!!」
2人の縄は同時にお互いを縛りあった!
両者、同時に倒れ込む。
「えっこれって…」
これって引き分け…?
司会進行役が前に進み2人を見て
「この勝負、引きわ…」
「少し待ちなさい」
お父さん!?
ステージの側にはお父さんがいた。
お父さんがステージに上がって、縛られた2人を見る。
「この勝負、エリザベス選手の勝ちとする」
観客席から歓声が上がる。
それに異議を唱えたのは対戦相手のメアリーだった。
「どういう事ですの!?この勝負、引き分けじゃないの?」
「確かに縛ったのは同時だ。だが、縛り方がより丁寧なのはエリザベス選手の方だった。だからエリザベス選手の勝ちとしたんだよ」
「くっ、こんなはずじゃ…!」
「勝負あり!結果はエリザベス選手の勝利となりました!」
歓声が上がる。
2人は縄を解かれ、ヨロヨロとよろけながら自分たちのチームのところへ帰っていく。
「キャンドル様、なんとか勝ちましたわ。あとはよろしくお願いします…」
「分かったわエリザベス。あとは私に任せといて!」
「それでは最後の大将戦、キャンドル選手対キャロライン選手です!キャンドル選手はあのJ.J.エバンス様のご息女!まさに期待のルーキーです!」
大会1回目でルーキーもへったくれもないだろう。
「そして、そのキャンドル選手の対戦相手はキャロライン選手…えーっと…年齢は非公開……です」
ちょっと待って、あの人どう見ても姉妹じゃないでしょ!あの人だけ年取り過ぎ!
「いや、どうみてもお母さ…」
ギン!!!!!
その睨みで人を殺せそうな睨みをキャロラインはキャンドルに放った。
キャンドルは思わず黙ってしまった。
「あたしの年季の入った縄の技術、とくと見せてあげるわ、お嬢さん」
「え、若いんじゃないんですか?なのに年季って…」
ギン!!!!!
め、目が赤く光ってる…これはヤバいやつだ。もう突っ込めない…。
「それでは大将戦、はじめ!!!」
私は腰のムチをヒュンヒュンと体操のリボンの様に回しながら、少し距離をとった。
相手のキャロライン選手はジリジリと距離詰めてくる。
(相手が何してくるか分かんないし、今回も先手必勝で行こう!)
「クイットネス家奥義!
Turtle Head!!!」
キャロラインの身体が瞬時に亀の甲羅の模様の様な形で縛られていく。
「一本!キャンドル選手の勝ち!」
……へ?
何、あれだけ大物感を漂わせておきながら私の瞬殺?どういう事?
と思っていたら、相手のキャロラインは頬を赤らめながら、
「さ、さすがエバンス様の娘さんだわ。素敵な縛り♡」と悦に入っている!
ヤバい!この人クリスとエドワードと同じだ!わざと私の技を食らったんだ!
私はすぐにムチを解いた。
物足りなかったのか、キャロラインが迫ってくる。
「あ〜ん、これじゃ物足りない。もっと縛って〜♡」
「ひー!」
私はチームに戻るだけでなく、控え室の方まで走って逃げた。
「ンもぅ、いじわるぅ♡」
キャロラインはモジモジしながらそう言った。
「なるほど、キャンドルチームの弱点、見えてきたぜ」
観客席で2回戦を見ていた、カウ・ぼーいずの大将のワイアットが自身ありげにそう言った。
「あのチームの弱点は先鋒や次鋒じゃねぇ、副将だ」