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第14話「ムチとニコルの1日(後編)」

 ニコルは銀行内へ入る。

 ニコルの入ったドアは、金庫へお金を出し入れするための通路用のドアだったらしく、すぐ向こうに金庫室のドアが見えた。

(ちょうど犯人達の裏手に回れたな。バレない様に1人ずつ始末していく)

 ニコルはさらに受付へ行くためのドアの鍵を解錠する。流石に金庫室へのドアだけに鍵が堅牢難関だ。ニコルの腕前でも中々解錠できない。

 ようやく解錠が成功してドアを少し開ける。

 受付エリアの様だった。話し声聞こえる。


「ですから先ほども申し上げた通り、金庫室へのドアと金庫室のドアの鍵を持っているのは店長だけなんです。その店長は今用事で出かけています。戻るまで待っていただけませんか?」

 この銀行で2番目に偉いと思われる壮年のオトコ♂が強盗犯に向かって話しているのが見えた。


 私はロビーの中央に集められた人質の塊の中央にいた。

 横にいる女性が泣いている。

 私は女性に話しかけた。

「大丈夫ですよ。この手の銀行強盗は犯人に抵抗しなければお客に対して危害は加えません。ピストルの弾は貴重ですから。だから大丈夫ですよ」

 横にいる女性は泣きながら何度も頷いた。

 そうは言ってもどうしよう。店長いないみたいでなんか揉めてるっぽいし…。強盗犯がどういう行動に出るか…。

 そう私が考えると強盗犯のリーダーが大声で怒鳴った。

「なら、今すぐ玄関口に張り紙を貼って来い!『店長は鍵を持って銀行内に入ってこい!入ってこなければ人質を殺す』ってな。銀行が閉まってるところを見たら異常事態を察して逃げるかもしれないからな!」


 銀行員の受付窓口の女性が張り紙を持って入り口へと行く。

 女性がドアを開ける。

「おい、どうなってんだ!なんで閉まってるんだ!」

 という声がする。

 表で銀行には入れない人達からの怒声が聞こえる。

 銀行員の女性はすぐにドアに張り紙を貼ってドアを閉め、鍵をかける。

 途中、無理矢理入ろうとする人がいたが、強引に押し出してドアを閉めた。


(なるほど、少しは頭が回るようね。でも、店長が素直に入ってくるとは限らない。ビビって逃げちゃうかもしれないし、最悪、お金を優先して私たちを見殺しにするかもしれない。覚悟は決めておかないと)


 そう考えて、思わず腰についていたムチの握り手をぎゅっと握った時だった。


「おい、そこの!何やってる!」

 強盗犯の人質の見張り役が怒鳴った。

「そこのお前だ!」

 怒鳴った相手は私の様だった。

「おまえ、何コソコソしてやがる」

 私は胸ぐらを掴まれて無理矢理立たせられた。

 しまった!

「おい、なんだこのムチは。随分ご大層なムチをお持ちの様だなぁ」

 強盗犯は私のムチを奪い取り、私を放り投げる。

 うっ!

「だ、大丈夫?」

 先ほど声をかけた女性から声をかけられた。

「だ、大丈夫です」

 しまった。いざという時の保険ムチが奪い取られてしまった。これじゃ犯人に抵抗する事ができない!どうしよう!せめてニコルがいれば…。


(あの野郎ッ!姉様に暴力振るいやがったな!)

 ニコルの顔が鬼の様な顔つきになった。


 急に銀行の表がざわざわしだす。

 強盗犯は敏感に反応する。

「あなた店長さんでしょ!早く入って銀行開けてよ!」

「それになんなんだよ、この張り紙は!」

 店長が帰ってきた!?

 強盗犯もその騒ぎに気付いたらしく、玄関ドアの方へと向かう。

「ちょっと早く開けなさいよ!」

「なにやってんだよ!」

 表の客の怒声が続く。

 強盗犯のリーダー格がドアへ着く。

 カーテンを少し開けて外を覗いているようだ。

「あ、おい、どこいくんだ!」

「なんで開けないのよ!」

 まさか……!


 強盗犯のリーダー格がドアを開けてピストルを構える。

 表から悲鳴があがる。

「てめえら、どけ!死にたいのか!」

 銀行の客が散り散りになって行くのが悲鳴が遠ざかる音で容易に想像できた。

 リーダー格が叫ぶ。

「銀行員や客がどうなってもいいのか!戻ってこい!」

 …やっぱり!店長逃げたな!どうなるのよ、私たち!

 リーダー格がくうに向かってピストルを1発放つが店長は逃げでしまったようだ。

 チッというリーダー格の舌打ちが聞こえる。


 強盗犯のリーダー格が2番目に偉い壮年の銀行員に詰め寄る。

「おい、店長の野郎お前らを見捨てて逃げやがったぞ!他に金庫室を開ける方法はねぇのか!なければお前ら全員殺すぞ!」

 人質から悲鳴が上がる。


「ん?」

 銀行員に詰め寄っていたリーダー格が何かに気づいたようだった。

「おい!お前!そこの金庫室へと繋がる扉、少し開いてねぇか?」


(しまった、気づかれた!)

 今更締めると逆に自分の存在がバレてしまう!

 ニコルはさっと扉から少し離れる。


「おい、ちょっと見てこい!誰かが金庫室側にこっそり逃げた奴がいるかもしれねぇ」

「わかった」

 人質の見張り役だったオトコ♂が受付窓口裏のドアへと向かう。


(アイツ…しめた。姉様に暴力を振るった報いを受けさせてやる!)

 ニコルはその場からシュッと消えた。


 人質見張り役の強盗犯がドアを見る。確かに少し開いている。

「アニキ!本当に開いてますぜ!」

「おい!どういうこった!店長の持つ特殊な鍵じゃないと開かないんじゃなかったのか!」

 リーダー格のオトコ♂が壮年の銀行員に詰め寄る。

「と、特殊な鍵じゃなければ開かないのは本当なんです。なんで開いてたのかは…わかりません。閉め忘れたかもとしかいいようが…」


「おい、ちょっと金庫室への通路を確認してこい!誰かいるかもしれないからな!」

「分かった。見てくる」

 人質の見張り役のオトコ♂はドアをゆっくりと開けて中を見る。

 暗いが見えなくもない。どうも誰かがいるとは思えなかった。

 強盗犯はドアを全開きにしてゆっくり中へ入っていく。

「おい!誰かいるのか!」

 中に入って床に直置きにされた書類等の箱の裏などを確認するが誰もみつけられなかった。

 その時、天井から鋭い眼光が光った!


「…遅ぇな…なにやってんだ、あいつ」

 リーダー格はイラついていた。

「おい、まだか!」

 ドアの方に向かって叫ぶ。

 …返事は返ってこない。

「おい、ドアの向こうの様子を見てこい!」

 と、もう1人の強盗犯に向かって命令する。

「分かった」

 一言そう言ってピストルを構えながらドアの方へ向かう。

 開けられたままのドアを通り、通路の中に入る強盗犯。

 次の瞬間、

「うわああああああ!」という強盗犯の叫び声が聞こえた。

「おい、どうした!」

 リーダー格も金庫室へ向かう通路の方へ向かう。

「あ、アニキ、見てくれ。あいつが縄で…変な縛り方で縛られてる!」

「な、なんだこりゃ。おい!おいしっかりしろ!」

 リーダー格が倒れた強盗犯に話しかけるが返事はない。

「あ、アニキ、ダメだこれ。固く縛られてて全然縄が解けねぇ!」

「ちくしょう、お前ナイフ持ってないか?」

 もう1人の強盗犯は首を横に振る。

「くそっ、俺もだ。ピストルだけで十分だと思ってナイフを持ってくるのを忘れちまった!」


(さっきのムチを持っていた女の子、無事ですか?)

「えっ!」

 驚いてビクッとなる受付窓口の女性。

 ニコルは指を立てて口に当てた。

(静かに。さっきムチを取り上げられた女の子がいたでしょう?彼女は無事ですか?)

(だ、大丈夫みたいです。あなた、いつも来てくれるニコル君よね?裏でやったのあなたなの?)

(ええまぁ。2つ確認ですが、金庫を開ける方法は本当に店長の持つ鍵しかないんですか?それと強盗犯は全部であの3人だけで間違いないですね?)

(3人で間違いないわ。金庫室は本当に他に手段はないの。でもどうしよう。店長逃げちゃったみたいだし…あたしたちどうなっちゃうのかしら…)

(安心してください。そのために僕がいるんですから。いざという時は協力お願いします。足元失礼しますよ)

 と言って、ニコルは銀行内へ窓口の女性の足元へと隠れた。


「おい!誰かナイフ持ってないか!」

 銀行員は全員頭を横に振る。

(当然だ。ここにあるのはせいぜい封筒を開けるためのペーパーナイフくらいだ。そんな物で僕の特製の縄は切れないよ)

「おい、客ども!お前らもナイフ持ってないか!?」

 リーダー格が客に対してそう聞く。

(普段から何の用もないのに殺傷能力のあるナイフなんて持ち歩くわけないだろう)

 ニコルは強盗犯をバカにするが、特に用もないのにムチや縄やクナイを常に持ち歩いているキャンドルやニコルに彼らをバカにする資格はあるのだろうか。

「チッ、役に立たない客どもめ」

 リーダー格が唾を吐く。

(銀行強盗に来といて客に対して何の期待をしてるんだ)

 ニコルは鼻で笑う。


「おい!裏手に誰かいるだろう!さっきお前ここにいる人間で全員だって言ってたよな!?」

 リーダー格が壮年の銀行員に詰め寄る。

「本当なんです。他には誰もいないはずです!嘘はついていません!」

「じゃあ、別の嘘をついてるな?スペアキーがあるか、金庫室を開ける別の手段があるだろう!?」

「…ありません。スペアキーも他の手段もありません…」

「役に立たない奴だな!」

 リーダー格が壮年の銀行員を殴る。銀行員が倒れ込む。

 リーダー格が壮年の銀行員の額にピストルの銃口を当てる。

「本当はあるんじゃないのか?方法が。言わなきゃ死ぬぞ」

 壮年の銀行員は震えるだけで沈黙を保ったままだった。


(さて、どうするか。出来るだけ2人を引き剥がして1人づつ始末していくのが理想だが、どうやって2人を引き剥がす?もう一度、裏手に誘い込んでみるか?)


 リーダー格はチッと舌打ちして銃口を外す。

「ダメだ、アニキ」

 もう1人の強盗犯が金庫室に続く裏通路から出てきて、リーダー格に耳打ちする。

「鍵は複雑で解錠できないし、鍵穴と蝶番の周辺も斧や銃対策で鉄板が貼られてる上に、蝶番の金属も硬い。開けるのは相当キツそうです。どうします?鍵持った店長逃げたし、もう俺たちも逃げるしか…」

「馬鹿野郎!今更逃げて帰れるか!なんとしてでも開けるんだよ!金庫を!」

「で、でもどうやって…」

「そうか、そういう事か…」

「アニキ、どうしたんです」

「そこの金庫室への通路も鍵がかかってたけど開いてたろ?つまりそこにいた奴を探し出せば金庫室も開けられるってわけだ」

「さすがアニキ!」

「おい、誰かいるんだろ?姿を現せよ!現さないと客を撃つぞ」

 ニコルは窓口の足元に潜んだままだった。

(悪いけど、誰かが撃たれたとしても絶好のチャンスが来ない限りは僕は出ないよ)


「そこの女がいいな。おいこっちに来い!」

 リーダー格が客の1人を呼ぶ。

 女性は恐る恐るリーダー格のところへ行く。

(姉様!?)

 ニコルは驚く。

 呼ばれたのはキャンドルだったからだ。

 リーダー格はキャンドルを背後から拘束し、銃口をキャンドルのこめかみに当てる。


(まずい、状況がどうとか言ってられない!行くしかない!姉様は今無防備なんだ!)


 窓口から飛び出し、リーダー格ともう1人の強盗犯がニコルの存在に気付こうとした時、ニコルはキャンドルに当てられているピストルに向かってクナイを投げつける!

 クナイは見事銃に当たり、銃はリーダー格から離れた所に飛んで行った。

 次の瞬間、ニコルはリーダー格の側頭部に膝蹴りを入れる。リーダー格はキャンドルを思わず放してしまった。

 その瞬間、

「Diamond Dust!」

 リーダー格は菱形が連なる形で身体中をしばられ、両手足を海老反りの形になって拘束され、宙に吊らされた。

(次だ!)

 間、髪を容れずニコルはもう1人の強盗犯に向けてクナイを投げつけようとした瞬間、額に銃口を当てられた!

「てめぇみたいなガキが不審人物の正体だったとはな…動くなよ?」

(しまった。思ったよりも強盗犯の判断と行動が早かった…くそっ)

 ニコルは強盗犯を睨みつけた。

「いい根性してやがるじゃねぇか、ガキのくせして。だが2人だけだと思って油断しやがったな?俺たちの計画を邪魔しやがって。ガキといえど容赦しねぇ。死ねよ」

 強盗犯が引き金を引こうとしたその瞬間。

「油断していたのは…」

「そっちの方だ!」

 突然、女装を解いてクリスとエドワードが現れ、一瞬のうちに2人同時に強盗犯の腹部に強烈なパンチがめりこまれた。

 犯人は悶絶して気絶した。

「大丈夫だったかい?キャンドル?」

「クリス様、エドワード様、どうしてここに!?」

「いやなに、キャンドルをつけ回すのは俺たちの趣味でもある。だから今日は女装を試してみたんだが、こんな事になるとはね」

「どんな趣味よ!やめてよ!クリス様エドワード様!」

「そんな事はどうでもいいんだ」

「いや、よくないわよ!」

「それよりも早く強盗犯を拘束した方が良いのでは?」

 クリスとエドワードがニヤニヤしている。

「そ、そうね。警察が来る前に拘束しなきゃ!」


「クイットネス家奥義!

  Turtle Head!!!」


 強盗犯はまるで亀の甲羅の模様の様に縄で縛られ、拘束された。


「「ニヤリ」」


「さあ、キャンドル。このムチは君のだろう?これで犯人を更生させたまえ!」

「そうだぜキャンドル、やっちまいな!」

「ようし、反省しなさーい!」

 私は犯人を容赦なくムチでビシバシ叩いた。


 その瞬間、

「きゃー!変態よ!」

「へ、変態だ!」

「別の意味で強盗犯とは危険だわ!」

「逃げるぞ!ここにいては別の意味で危険だ!」

 次々とお客さんと銀行員が恐怖を抱いて銀行から逃げていった。


 こうして、私とニコルの1日は終わった。

 一応、後日不審な目をされながら警察から感謝状をしぶしぶ贈られた事を追記しておきたい。



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