第12話「ムチと3人のオトコ♂」
目覚めは良くない。なんだかまた頭が痛い。前にも同じ様な事があった気がするけど思い出せない。
「ニコルぅ。なんか頭痛いからコーヒーちょーだい」
「既に用意はしてあります、姉様」
「さすがニコルぅ。いつも仕事がはやーい」
「姉様の考えてる事など、愛する弟には全てわかっているのですよ」
「まっ、ニコルったらぁ」
私はコーヒーを飲んでしばらく落ち着いてから、登校の準備を終えて部屋を出たところ…だった。
ドアを開けるとそこには片膝を立てて読書しながら座っているダリルがいた。
私が部屋から出てきたことを知ると、ダリルは本をしまった。
「きゃっ!ダ、ダリルさん…!?なんでここに!?」
「申し上げたはずです。僕はあなたの犬です、と。忠犬ならば主人が出てくるのを待っているのは自明の理でしょう」
「…え?犬?」
…私、絶対なんかやらかしてる!昨日図書室に行ってダリル君に話しかけたあと記憶にない部分があるけど、その間に何かやってる!
私はニコルに耳打ちした。
「もしかして私、またやらかしてる?」
「いいえ?ダリルを仲間に引き入れるのは元々計画としてご存じだったでしょう?」
「それは知ってるけど、犬の部分は知らないわよ、あたし!」
「そこは…どうでもいいです。今は仲間を失いたくないので、適当にダリルに合わせといてください」
「わ、分かったわ。でもダリルさん」
「犬、とお呼びください」
「さ、流石にそれは無理だから、せめてダリルさんにしていただけません?」
「ご主人様のご要望とあればそう致します」
「よ、よろしくね。でも、ダリルさんはクラスが違うのでは?」
「僕はあくまでご主人様がクラスに着くまでの護衛です。僕がついていくのはそこまでです」
「あ、あのそのご主人様っていうのもやめてくれません?キャンドルで良いですから」
「承知致しました。キャンドル」
ああ…また悩みの種が増えてしまった。
ニコルはあまり嬉しそうな顔はしていない。また姉様に新しい虫がついた、という独り言がかすかに聞こえてきた。
私は授業中余計な事を考えていた。
3人の美形な男子が私についてくれてる。これっていわゆるハーレムなのでは?と思うけど、なぜか全然嬉しくないのはなんでなんだろう。普通、こういうのって3人があたしを取り合うとかそういう展開になるんじゃないの?
だが、その展開が本当にやってくるとは思わなかった。
「なあ、キャンドル。やはり私と付き合わないか?」
昼食時間の中庭のベンチに座っていたら、クリスにあごをクイっと上げられてそう言われた。
近い近い近い!唇が触れそう!
あたしの顔は真っ赤になった。
変貌したとはいえ、やはりクリスは美し過ぎる。
「てめぇ、何勝手な事やってんだ!キャンドルは俺のオンナだって決まってるだろ!」
「ふっ、キャンドルの最初の縄に触れたのは私だし、何よりキャンドルを理解しているつもりだ」
「ざけんな、ものの数日の差だろ、なぁキャンドル!」
エドワードも私に顔を近づけて言った。
「俺のオンナになっちまえよ。クリスと付き合ったって、堅苦しい王族や貴族のお約束ごとに付き合わないといけないから大変だぜ?」
そこへダリルが鼻で笑って割って入った。
「2人とも笑わせてくれるな。僕とキャンドルが結ばれるのはもはや運命なのだよ。僕とキャンドルがひとつになれば、この世界の学問をひとつふたつ上のレベルに持っていけるし、それが人々の幸せになるんだ」
「てめぇ、昨日自分はキャンドルの犬だって言ってたじゃねぇか。じゃあ一生忠犬やってろよ。それで十分だろ!」
「忠犬が主人と結婚してはいけないという理由はないだろう?これだから脳まで筋肉の人間は困る」
「何を勝手に2人で話を進めている。私が一番にキャンドルに出会ったんだ。運命は私を選んだ、という事なんだよ。これでもわからないのかい?」
「上等じゃねぇか、いや縄等じゃねぇか!こうなったら実力で勝ち取ってやる!」
「お、おまえ、エドとマルゲリータの台詞をパクったな?許せん。こっちも縄等だエドワード!かかってこい!」
「ちょ、ちょっと待って!私のために争わないで!」
そういいつつ、私はぬっとりと優越感に浸っていた。私を争ってとんでもない美形3人組が喧嘩をしている。何これ…天国?
っておい!なに縄で縛りあってるんだ!
「ふん!エドワード!この程度かい?私はもっと上手に…いや縄手に縛れるぞ!」
「なんだと!これならどうだ!」
「ふっ、性格と同じだな、縛り方が荒くて強引だ。そんな縛り方でキャンドルの心を縛れると思うのかい?」
ダリルはその争いに参加せず、本を読んでいる。縛られる事に興味はあっても、縛る方には興味はないようだ。
「全く、馬鹿な連中だ」とぼそっと言っていた。
「キャンドル。やっぱり僕をもう一度縛ってくれるかい?もう少しでこの問題解けそうな気がするんだ」
クリスとエドワードがその台詞に気がついた。
「てめえ、何勝手な事しようとしてるんだ!キャンドル、縛るなら俺の方を縛ってくれ!」
「いや、私の方だ!」
…喧嘩が別の方向性に変わってしまった。
3人が誰が先に縛られるかで言い争っている。当然、中庭にいる周りの生徒からは「変態だ」「変態だわ」の声が聞こえてくる。
私の優越感は氷の様に冷めてしまった。
何この3人…特にダリルなんて試験の時にまで私に縛ってくれとか言ってきそう…この場は退散するしかないな。
と思って3人が言い争ってる間に教室へ戻った。
またしても私は授業中に余計な事を考えていた。
どうしよう…あの3人、どうすればいいの…。かっこいいんだけど…かっこいいんだけど!!!その後が変態なのよ!!!
はっ、と気がついた。まずい…このままじゃ成績下がっちゃう…。
私は頭を抱えた。
次の休養日、私は街へ繰り出す事にした。
3人から逃げるためだし、中庭にいても、部屋にいてもなんだか視線を感じるからだ。
カフェで紅茶を飲む事にした。
「はぁーなんだか久しぶりに息抜きしてる感じがする。よーし、本を読みながら紅茶とスイーツで今日はゆっくり過ごしちゃお!」
私はニッコニコでスイーツにかぶりついたが、作者の思惑でそんな平和はすぐに終わりを告げるのであった。
「おー、そこのねえーちゃん、俺たちと仲良くしないかい?」
3人組のオトコ♂が私に話しかけてきた。
ちょっと!おい!作者!ベタ過ぎるだろ!何このテキトーな展開!どうせあたしが困っているところに例の3人組が現れて、退治はしてくれるんだけど、その退治の仕方が変態的っていうオチでこの話終わらせようとしてるでしょ!
でも…でも…こう言わざるを得ないっ!
「ちょっと…やめてください!」
「「「やめろ!彼女が困ってるじゃないか!」」」
来たよ…やっぱり来たよ、クリス・エドワード・ダリルの3人組。
はいはいどうせこうなるって分かってましたよ。
そして、なんとか奥義!とか言って縄とかでなんとかするんでしょ?
もうどうでもいいわよ…。
と私が考えていると、
「大丈夫かい?キャンドル」
え?
「危ないところだったな、キャンドル」
「僕も安心しましたよ」
既に悪漢は普通にクリスとエドワードによってのされていた。そういえばこの2人、普通に戦っても強いんだっけ。
…って!
「どうすんのよ!この後のオチは!」
私が激怒した。
エドワードが困惑する。
「い、いやオチと言われてもキャンドルがあんまり作者の考えを先回りするから作者が困って普通に処理しちまったんだが…」
「話にオチがないと終われないじゃない!」
「そ、それはそうだけど今更どうしろと」
「縄なんとかの奥義やらなんやらで変態なところ見せなさいよ…」
「キャ、キャンドル君は何を言ってるんだい…」
「縄とムチ使ってるお前が変態とか言うなよ…」
「僕は縛ってもらえればなんでもいい」
…うわああぁぁぁぁぁ!!!この3人から変態扱いされてしまった!わ、私が1番の変態だったの!?そ、そんな!そういえば日本の諺にも「類は友を呼ぶ」とかいう言葉があった様な…。
「や、やめて!私をあなた達と一緒にしないで!」
「何言ってるんだキャンドル、もう我々は縄とムチという芸術に魅せられた一蓮托生の仲間だろう」
「そうだぜ、キャンドル。もうファンクラブの設立を許可しといて自分だけは違うとかそういうのはないだろ、仲間だぜキャンドル?」
「僕たちはもう縄で繋がれた仲なんですよ。硬く縛られて離れられない」
ダリル!なんかうまいこと言った様なドヤ顔はやめろ!
みんな私を仲間にするのはやめて!
私は逃げた。(とりあえずお代は机の上に置いといた)
両腕をまっすぐに後ろに伸ばし、上半身を90度前傾にした独特な走り方で逃げる。
3人も同じ走り方で…ってダリルは強くもないし体力もないので早々に脱落した。
人の波をかき分けて走る私、だが残りの2人も同じ様にかき分けて追いかけてくる!
さ、さすがクリスとエドワード。一筋縄じゃいかない!
そう思ってると、
ドン!
誰かにぶつかった。
「「おいおいねーちゃん、どうしてくれるんだ。腕折れちゃったかもなぁ?」
え、オチはそっちの系統だったか!
「ご、ごめんない!許してください!」
「無理だなぁ。ねーちゃんの体で癒してもらおうかなぁ?」
「「やめろ!彼女に手を出すな!!」」
クリスとエドワードが追いついた。
もうこうなったらなんでもいい、クリスとエドワードに貸しを作ってでも助けてもらうしかない!
「クリスさん、エドワードさん、助けてー(泣)」
「「あい、わかった!」」
「奥義!Diamond Dustもどき!」
「奥義!Turtle Headもどき!」
クリスとエドワードは私の奥義を真似てあっという間に暴漢2人を縛り上げた!
もどきのくせに結構サマになってる。私が10年間もかけて築き上げた奥義が数日でふたりにモノにされかかってる。これはこれで悲しい!
周囲でこの様子を見ていた人々は口々に「変態だ」「変態よ」「見ちゃダメ!」と言っている。
結局は作者の思惑通りのオチに踊らされてしまった。
私はへたり込んで泣いた。
「うわーん、変態と同じにされちゃったよー!」
「キャンドル、泣いてる君も可愛いよ」
「そうだぜキャンドル」
「うわーん、そういう問題じゃなぁい」
私は泣いた。
そして学園に戻り、クリスとエドワードにカリを返すために泣きながら2人を縄で縛った。
2人はうっとりとしていた。
「「キャンドル最高!!!」」
私は最低な気分だ。