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第11話「ムチと第3のオトコ♂」

「姉様、ときが近づいてきました」

「えっ」

 夜にニコルが部屋のドアを開けて入ってきた。

「この作品の作者は、元々持っていたネタが3〜4話分しかないくせに見切り発車で連載を始め、そろそろネタ切れになろうとしています」

「えっ。つ、つまり…」

「はい、()()()()()()です。週刊少年漫画誌によくあるパターンですが、ネタ切れを起こしたり人気が思ったより出ないとだいたい()()()()展開のやつです」

「や、やはり!」

「はい。姉様もそろそろ覚悟を決めていただくしかありませんね」

「分かったわ、ニコル。ありがとう」

 私は腰に据えたムチの握り手をギュッと握った。


 夜更け、寮のクリスの部屋の前にガタイの良いオトコ♂が立っていた。

 コンコンココンコン。

 オトコ♂は変わったノックをした。

 ドアの向こう側から声がした。

「縄」

 ドアの向こう側からそう声が聞こえると、

「ムチ」とドアの前のオトコ♂は答えた。

 ドアは開かれ、ガタイの良いオトコ♂は部屋の中へ入っていった。

 少し経つと、今度は金髪の縦ロールの女がクリスの部屋のドアの前に立つ。

 コンコンココンコン。

 また同じノックがドアにされる。

 そしてドアの向こう側かは声がした。

「縄」

「調教」

 ドアが開かれ、金髪縦ロールの女は部屋の中に入っていった。


 クリスの部屋には、クリスとエドワードとエリザベスの3人がいた。

 3人は深刻そうな顔で互いを見合う。

 しばらくの沈黙の後、クリスが口を開いた。

「さて…少し前から我ら3人で計画していたあの案件をそろそろ本格的に始動しようかと思う」

「えっ、ついにですの?」

「フッ、ついに動くのか、あの計画が…『キャンドルとムチのファンクラブ』が!」

「ああ、会員ナンバーは彼女のムチのトリコになった順番で構わないな?私が1番、エドワードが2番、エリザベスが3番」

「特に異論はないですわ」

「俺も、だ。会員ナンバーは2番だが、彼女のムチへの愛情は1番な自信はあるからな」

 3人は頷いた。

「だが、流石に少々会員数が足りないかと思う。そこで会員数を増やす手取り早い方法として、ダリル・ベンジャミン、彼を会員に勧誘しようかと思う」

「ダリル・ベンジャミン、四天王の1人で主席合格でこの学園に入ってきたオトコ♂ね」

「そうかあいつか。あまりに出てこないから読者様もお忘れだぜ?」

「それについてはむやみやたらに沢山のキャラを出す事を良しとしない作者のポリシーも絡んでるんだ。すまないが、了承して欲しい」

「その作者以外忘れてた四天王第3のオトコ♂ってダリルだったよな。俺、あいつ苦手なんだよな」

 クリスは小さいため息をついてこう言った。

「まあ、彼自身はとても良い奴なんだが、私も正直仲が良いとはいえない。彼はとにかく勉強一筋であまり周囲の人間と関わろうとはしないからな。だが、やはり彼も中等部の頃我々と同じで美形で人気があったのも確かなんだ。彼が入ればそれだけで会員が増えそうだし、彼の知性も借りることができる。まさに一石二鳥だと思ってな」

「うーん…あいつ、マジもんの堅物だぜ?引き入れられるのか?」

「では、私が以前は軟弱者だった、と?キャンドル、彼女のムチはそんなものを超越した魅力があるのだよ」

「わかる…わかるぜ…。俺たちの人生を一変させやがった」

「そう、キャンドル様のムチはそんじょそこらのムチとは違いますわ」

「よし、ならばダリル・ベンジャミンの勧誘にかかる。その前にキャンドルの協力を取り付けないとな」

 その後、3人は小説『エドとマルゲリータ』について存分に語り合った♡


「ダリル、お前は立派な男になって世の中のためになる人になりなさい」

 5歳になる頃あたりから、ダリルは日頃より父からそう言われ続けてきた。

 父は立派な人で、貴族でありながら平民を見下さず、ノブレス・オブリージュをそのまま体現した様な人物だった。

 ダリルはそんな父の言葉を疎ましいとは思わずに、むしろ尊敬をしていた。父の様になりたい、父の様に世の中の役に立つ人物になりたい。

 ダリルは小さい頃から勉学に励んだ。

 12歳の時、肺の病気で亡くなった母のダリルへの最期の言葉も「立派な人間になって世のために生きなさい」という言葉だった。

 最後の最後で母は自分ではなく平民へ目を向けていたことにダリルは少なからず寂しさを覚えたが、それでも聖女というべき母を尊敬をしていた。

 父は言う。

「良い人間とは何か、正しい人間とは何か、ダリル分かるかい?」父がダリルに尋ねた。

「優しい人間であるという回答は不正解だ。怠惰をなりより優先し、他人よりも己の欲を満たす事を優先する人間にとって、優しさは時として毒となりかねないし、正しい人間とは、正しい信念を持つ人間ではない。人間は己の事を正しいと思った時点で、他者性や客観性を無くし、正義は独善という悪へと変化する。正義とは他人の為に行うもの、まずは言葉や行動から己の心を排除し、徹底的に他人の為に動く事、そして、常に自分の正義を疑い続けるものこそが本当の正しい人間なのだ。分かるかい?ダリル」

「じゃあ、どうすれば良いの?正しい人間には何が必要なの?」

「お前はまだ小さいからよく分からないかもしれないが、世の中には人の優しさを己の利益のために利用しようとする人間も少なくない。だから必要なのは哲学と論理と、自分の正義を利用されないための狡猾さが必要なんだ。そこに優しさを足してあげればいい。いつかお前にも分かる時が来る」

「うん、父上。僕頑張るよ」

「ああ、お前ならきっと出来る。いつか、私を超える人間になれるだろう」


 久々にダリルは父の夢を見た。

 母は亡くなったが父は存命で、しかも寮暮らしになって父とは1ヶ月も離れてないのに、これは寂しさからくるものか、それとも使命感から来るものか、ダリルは少しばかり逡巡しゅんじゅんした。

「自らの正義を疑い続けるものこそが、正義へと辿り着く…ひたすら他人の為に生きている父の言葉らしいな」

 ダリルは起き上がって、従者にコーヒーを用意してもらい、登校前の日課の読書にはいることにした。


「うむ、正解だ。ベンジャミン君。素晴らしい。本来これは3年生で習う問題なのだが、さすがベンジャミン君だ。みなも拍手を」

 クラス中からダリルへ拍手が向けられた。

 隣に座っていた女生徒がダリルに話しかけてきた。

「さすがですわ、ベンジャミン様。本当に才能がおありですわね」

 ダリルはひとつ間を置いて応えた。

「いや、僕は本当にそこまで才能があるわけじゃないよ。努力に努力を重ねただけなんだ。それを他人が見てないだけさ」

「まあっ、謙虚ですのね」

(謙虚じゃないんだけどな、本当に努力してるだけなんだ。)

 ダリルは意識をすでに黒板の方へ向けていた。


 昼食休憩時間、その日のクリス・エドワード・エリザベスはストーキングをしてなかった。

 3人は昼食を取り終わってベンチに座っていたキャンドルの前に片膝をたてて座っていた。

「あ、あの…どういう事なんですか、ファンクラブって…」

 私は3人の言ってる意味がわからなかった。

「そのままの意味ですわ、キャンドル様」

「そう、私たちは君のムチに魅せられ、それを愛好する会を創設しようと思ってるんだ」

「正直こんなムチなら俺たちだけで独占したい所だが、会のためだ仕方ねぇ」

 何を愛好するつもりなのかがさっぱり分からないんだが。

「つきましてはキャンドル様、ファンクラブの人数を増やすためにも、四天王の1人を籠絡ろうらくして欲しいんですの」

 増やしてどうするんだ!しかも、籠絡って!

「キャンドル。相手はかなりの難物だが、君の縄とムチならそれも可能だと思ってる」

「完全に同意するぜ」

「あのっ…あのっ!」

 私は狼狽しながら問うた。

「はい?」

「会の趣旨がよく分からないし、私なんかのファンクラブなんてそんなの私の身の丈にあってないし、ごめんなさい!お断りします!」

「姉様、少し待ってください」

 いつのまにかニコルがいた。助かった!

「姉様、ここは一つクラブの創設を認めて、彼らに協力してみるのはいかがでしょうか?」

 …………え?

 いつもなら助けてくれるはずのニコルが…姉様に余計なハエをまとわせたくないとか言ってるニコルが何故クリスたちの援護を!?

「さ、さすがニコル君だぜ。俺たちのファンクラブの尊さを理解してるなんて」

「なに、どうってことはありませんよ」

 ニコルは素っ気なく言った。

「ちょ、ちょっとニコル!」

 私はニコルに近づいて耳打ちした。

「どういうつもりなのよ!助けてくれるんじゃないの?」

「姉様、ファンクラブ自体はともかくとして、今は姉様の周りに味方を増やしておくというのはあと4話後にとって有益なのではないですか?」

 そ、そうか、あの展開か!なら、1人でも協力者は欲しい所だ。

「わ、わかりました。ファンクラブの創設を認めます」

「「「キャンドル様!」」」

「それと、誰を仲間に引き入れれば良いのですか?」

 クリスが前に出てきた。

「それは私から説明しよう」


 ダリル・ベンジャミンは放課後、いつもの様に図書室にいて勉強していた。

 図書室にいた人間がひとりまたひとりと少なくなっていく。

 途中、ダリルに告白をしに来た女生徒がいたが、「ごめんね、僕は卒業するまで勉強一筋でいたいんだ。君に魅力がないわけじゃない。本当にごめんね。もっと良い人が見つかることを願ってるよ」と断った。


 そして、図書室が締まる直前になって、図書室に図書委員以外はダリル1人になった時だった。

「あ、あの…すみません」

 1人の女生徒がダリルに声をかけた。

「ん?なんですか?」

「あの私のファンクラブに入ってもらえませんか?」

 ダリルは眉をひそめた。

「……話が飛びすぎてよく掴めないのだけど。そもそもファンクラブって何だい?」

「ファンクラブはファンクラブ。彼女を崇拝し、愛好する会さ。その名誉ある会に君を招待しようというわけだ、ダリル君」

 後ろからクリスがそう言った。

「…ますますよく分からないな。僕が彼女を崇拝する意味が分からないし、その会自体がどういうものなのかの説明にもなってない」

「それはこれから分かるよ、ダリル君」

 ダリルは少し考える素振りを見せてからこう言った。

「とにかく、申し訳ないんだけどお断りするよ。僕は今は全て勉学に費やしたいんだ。将来、学者になって世の中の人のためになりたいからね」

「やっぱり話し合いじゃ無理だぜ?魅力が分からないというのなら、カラダ♂で分かってもらうのが一番だろう?」

「なんだ君たち、僕に何をしようっていうんだ!?」

「キャンドル様お願いします」

「ダ、ダリル君。ごめんなさい!!!」

 私は腰のムチを取り外し、ひゅんひゅんと回し、何事だと席を立ち上がったダリルに向かってムチを放った。


「クイットネス家奥義……

  Diamond Dust!!!」


 ダリルのカラダ♂は菱形が連なる形の模様で縛られ、両手両足がえび反りで後ろに回される形で固定され、宙に吊るされた。

 ダリルを背にして片手でムチを持った私は、空いた左手の人差し指で、ピンと張ったムチを弾いた。


「You wanna be Nawa!」


 決め台詞を吐いた。

 背後でちゅどーんと爆発が起きる。

 どうして図書室に爆発物があるんだろうか。いや、考えるな。


 罠を緩め、ドサリと音を立ててダリルが床に落とされる。

 どう?と私はダリルを見た。

 ダリルは眉をしかめながらこう言った。

「…不愉快だ。今すぐこの縄を外してくれないか」

 えっ、効かない!?

 私とクリス・エドワード・エリザベス全員が驚きの表情をした。

「なんの真似事かわからないが、いきなり人をムチで縛るとはどういう了見だい?僕は少々怒っているよ」

「あ、あの…あの…」

 どうしよう怒ってるよ。どうしよう。

 私が動揺していると背後からエリザベスが耳打ちした。

「大丈夫です、キャンドル様。保険は用意しております」

 エリザベスはキャンドルの口にウイスキーを使って作ったチョコレートを大量に私の口に無理矢理押し込んできた。


 …

 ……

 ………


「フッ、なるほどダイヤモンドダストじゃダメってわけね。なら、これならどうかしら?」

 私はシラフの状態だとダイヤモンドダストとタートルヘッドしか使えない。だが、酔っ払うと全ての奥義が使えるようになるのだ。

「あんたのような堅物に相応しい技で縛ってあげるわ!いくわよ!」

 私のムチがうなりをあげて再度ダリルへと向かっていく。


「クイットネス家奥義……

  THE ZEN!!!」


 ダリルのカラダ♂は座禅を組んだ形で縛り上げられ、宙に吊るされた。

 ダリルの脳内はまるで宇宙の中心にいるかの様な、そんな壮大な空間を意識の遊泳をしているかのような気分になった。

 ダリルを背にして片手でムチを持った私は、空いた左手の人差し指で、ピンと張ったムチを弾いた。


「You wanna be Nawa!」


 ちゅどーん。よくこの図書室、破壊されないな。未知の物質ででもできているのか。


「くっ…こんな…だが………悪くない♡」


 堕ちたーーーーーっ!!!

 クリスとエドワードとエリザベスはガッツポーズをした。


「くっ、僕がこんなムチにオチてしまうなんてそんな事は…だが…!」

 ダリルはキャンドルに掴み掛かった。

「た、たのむ。また今の技をかけてくれないか!?今ならいまだに誰も解けていないピエールの最終定理が解けそうな気がするんだ!お願いだ!」

「ダメよ。そんなホイホイ奥義をご褒美してあげる程私は優しくないわよ」

 私は思い切りニヤリと笑った。焦らしに焦らしてやる。

「そ、そんか御無体な!何とぞお願いします!なんでもするから!」


「「「なんでもすると言ったな?」」」


 顔全体が真っ暗なのにニヤけた目と口だけが光るクリスとエドワードとエリザベスの3人の顔がダリルを見下ろした。


「何でもいたします!わたしめはあなたの犬でございます!」


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