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10話「ムチとエドワード」

 最近のエドワードは充実していた。

 友人が何故か減って最近ではクリスとばかりになってしまったが、別に友人をたくさん作りたいわけでも無いし、クリスの事も別にライバル視してただけで嫌いじゃなかったし、これはこれで良い。学校のある日はクリスと縄を縛りながらキャンドルをストーキングし、近日はクリスと共にコーヒーや紅茶を飲みながら小説『エドとマルゲリータ』について語り合う。たまにガキの邪魔が入るが、中等部の頃より充実した毎日を過ごしている気がしていた。


「やめてくださいっ!!」

 当然どこかから声が聞こえた。

 エドワードが校舎の片隅の方へ行くと、女生徒の1人が3人の男子生徒に囲まれている所だった。

「こ、これは!」


「やめときな!女の子が嫌がってるじゃないか!」

 エドワードは叫んだ。

 実に胸にくるものがある。何故ならこのセリフは『エドとマルゲリータ』で2人が出逢った時のセリフだからだ。


「はぁ?……こりゃ笑える。最近奇行の多いと評判のエドワードさんじゃないか。何か?俺たちの事も笑わせに来てくれたのか?」

「ギャーハハハ」

「あ?」

 最近どうも舐められてる気がするし、喧嘩をふっかけられる事も増えた。

「どうもお前らの事を調教しなおしてやる必要がある様だな」

「はん、やれるもんならやってみな!」

「おい、ちょっと待てよ。確かアイツクリス王子のツレなんだろ?後で問題にならないか?」

「大丈夫大丈夫、自分がやられたって事でクリスに泣きつくなんてこいつにゃ無理だよ」

「だな」

 男子生徒3人がエドワードを囲む様に広がる。

 エドワードは言った。

「上等だ……はっ!じょう等だ、かかってこい!」

 このセリフは、結婚を頑なに認めようとしない貴族であるマルゲリータの父に向かって最終決戦の時に主人公エドがはいたセリフである。

(まさかこんなところであの名セリフが言えるなんて…)

 エドワードはうっとりとしながら、3人をワンパンづつで倒した。まさに瞬殺である。

「最近俺のこと舐めてる奴多いな?勘違いすんなよ?」

 うめき声をあげる3人。

「ふっ、まさに締め直してやったぜ、縄だけに」

 エドワードは腰を抜かしている女性とのところまで歩く。

「あんた、もう大丈夫だぜ」

 トゥン♡

 女生徒の頬は赤くなっていた。なにしろ暴漢3人組から助けてくれた上に、顔も超絶美形だからだ。

「あ、あの…お名前は?」

「あ?名前?…エドワードだけど」

「エ、エドワードさん…あの…その…もし良かったら私とお付き合いを…」

「結び合い!?」

「え!?いえ、お付き合いを…と思いまして…その…だめですか?」

「うーん」

 頭の後ろをぽりぽりかきながらエドワードは言った。

「すまねぇな。今は誰とも付き合う気が起きねぇんだ。俺の心はすでに縛られちゃってるんでな」

「え?縛られ…?」

 エドワードは上着をバッ!と脱ぎ捨てた。上着の下には亀の甲羅の様な模様で上半身が縛られていた。(ちなみにエリザベスにやってもらった)

「ひっ」

 急に青ざめる女生徒。

「へ、変態ーーーーーーっ!!!」

 女生徒は100mを9秒を切るかのようなスピードで走り去っていった。

「へ、変態…だと…?芸術だろうがぁぁぁぁぁ!!!!!」

 エドワードの叫びは虚しく響き渡った。

 エドワードが去って倒れた3人組の男子生徒が立ち上がり始めた。

「ううっ、やっぱアイツつええよ」

「喧嘩売ったのが間違いだったな。あいつに関わるのやめようぜ。変態だし」

「そうはいくかよ…」

 3人組のリーダー格の男が歯を食いしばりながら言った。

「このままで済むかよ…みてろよ…痛い目見せてやるよ、エドワード」


 翌日の昼食休憩後の授業開始直後だった。


「私の財布がない!」


 教室中に声が響き渡る。

 教師がさっそく犯人探しを始めた。

「やった人は名乗り出なさい。財布の中身が無事ならば、今なら軽微の罪で処理する」

 ……だが誰も名乗り出ない。

「分かった、そう言う事なら持ち物検査をするしかないな。全員、所持品を机の上に出す様に!」

 教師がそう告げた瞬間、エドワードはピンときた。

 すぐにバッグの中を確認する。その中には見たことのない財布が入っていた。

(あー…これは…そういうことか。なるほどね。心当たりは…あり過ぎてわかんねぇわ。だが、昔の俺ならまだしも今の俺なら)

 エドワードは瞬時に手持ちの縄で財布を球状に縛り、天井に放ち、天井のはりに宙吊りにした。

 あまりの早業に誰もみることすらかなわなかった。

 そして、持ち物検査でエドワードの順番になったが、当然、くだんの財布は出てこなかった。意外そうに驚いた表情をしていたのは被害者役の女生徒だった。

(あーなるほど、こいつが主犯かグルね。だが、こいつ自体に恨まれる覚えはないから、主犯は他の誰かか…)

「あ、あのっ」

 別の方向から女生徒の声がした。

「昼休みの休憩中、エドワード様が教室内でうろうろしてるのを、わ、私見ました!」

 教室内がざわめく。

(なるほど、こいつは本来は俺のバッグから財布が見つかった時に『私、エドワード様が何かをバッグに入れるのを見ました』っていう目撃者役を担当するはずだった女か。最低でも犯人は3人以上か…誰だよ)

「エドワード君、君は昼食時ここにいたのかね?」

「いねぇよ。昼食時は毎回中庭にいるからな」

 ザワザワ。そういえばあいつ中庭の木に抱きついてハァハァ言ってた気がする。変態だ。変態だわ。のヒソヒソ声が聴こえる。エドワードは耳も相当良いので全てのヒソヒソ声は聴こえている。

 教師は質問を続ける。

「誰かエドワード君が中庭にいるのを見た者はいるかね?」

 しーんとして誰も手をあげない。

 当然だ。俺は昼休みは毎日の楽しみであるキャンドルのストーキングのために、キャンドルに見つからない様に隠密行動をとっている。誰かにみつかるはずがない。

「では、君が中庭にいたことを証明出来るものはいるのかね?」

「いますよ、風紀委員のクリスとエリザベス・ジョーンズと一緒にいた」

 教室が再度ざわめく。風紀委員と一緒にいた、というのは相当な証言だ。説得力が違う。

「ほぅ。それではクリス殿にそれが本当かどうか確かめてくるとしよう」

 いかにもエドワードへの疑いを持ち続けているという口調で教師は続けた。

「火のないところに煙は立たないともいうし、被害者や目撃者がいる以上、君への疑いが晴れる事はない。放課後、私のところへ来る様に」

 ばかやろう、人間は嘘をつく生き物だろうが!嘘ってのは火の無いところにも煙を「作り出せる」事のできる手段なんだよ。バカか、この教師は。エドワードは心の中で唾を吐いた。


 放課後、エドワードは面倒だったが余計なトラブルを招かないためにもくだんの教師の元へ行った。

 クリスとエリザベスの証言がすでに取られていたことからすんなりと容疑は晴れたが、日頃の生活態度や話し言葉についてグチグチと説教を垂れ流された。

(執拗に俺に食い下がったのはそう言うことか。俺のことが気に食わないんだろうな)

 エドワードはぐったりとなって教師の部屋を出た。

「あー、うっぜ。だが、もう一つ仕事しないとな…」

 エドワードは教室へと戻っていった。


「何かお探しものかい?」

 エドワードはエドワードの席のあたりを必死で探している女生徒に声をかけた。

「きゃっ」

 女生徒は驚いた様にエドワードの方を見た。

「残念だったな、俺を犯人にできなくて。ああ、ちなみに財布はここだぜ」

 ニコルが投げた物の一つを拝借したクナイを天井に投げて、天井に吊り下がった球体の縄を手元に落としてキャッチした。クナイは釣り糸に縛られているので、釣り糸を引っ張ってクナイも回収する。

 人間業ではない程の速さで球体を解体すると、中からピンク色の財布が出てきた。

「ほら、あんたの財布だろ?返すよ」

「や、やっぱりあなたが犯人だったのねエドワード様。今すぐに風紀委員会に報告しますわ」

「だから、俺に犯行は無理なんだって。昼食休憩時にここにいなかったのは既にその風紀委員によって証明されてるしな」

「そんなの誰が信じるものですか。どうせあなたは教師に信用されてない身。嘘だろうがなんだろうが私がもう一度あなたを糾弾してみせますわ」

「おや、口が滑った様だな。おいクリス、出てきていいぞ」

 教室のドアの裏からクリスが出てきた。

「そんなっ」

 女生徒が青ざめる。

「話は全部聞かせてもらったよ。僕が証人となり、エドワードの無実と君の事件へのマッチポンプを委員会に報告するとしようか」

「そんな…そんな…どうしよう…」

 女生徒は手を地面ついて四つん這いになった。

 エドワードが女生徒に近づく。

「ごめんなさい!ごめんなさい!もうしませんから許してください!」

「そうはいかねぇな。俺は借りはキッチリ返すタイプでな。おい、お前を雇ったのは誰だ?」


 夕方、日も暮れようとしている校舎の屋上に3人組のオトコ♂がいた。

「おせぇな、あの女達。結局どうなったんだよ。噂の方は聞こえてこねぇし」

「あの女どもの報告なしじゃどうなったかわかんねぇよ」

「そろそろ来るんじゃね?」

 そのセリフの直後に校舎の屋上用の扉がガチャと開いた。

 財布を無くしたと言った女生徒と、目撃者役の女生徒がやってきた。


「よぉ、待ってぜ」

 男が声をかける。

「首尾はどうだった?」

「きっとクラスで孤立して泣いてるぜ、モブAよ」

「えっ、俺の名前そんな名前なの?」

「そうだぜ。俺の名前はモブB、そしてこいつはモブCだ」

「作者の野郎…ッ、手を抜きやがって!」

「モブA、モブB、エドワードをダメにしたら、今度は作者の野郎をやってやろうぜ」

「そ、そんな事はどうでもいいんだ。それでどうだったんだ?」

 モブAは女生徒を問い詰める。

「そ…それが…ごめんなさい!だめでした!」

「はぁ!?ダメでした、じゃねぇんだよ。いいのか?お前らの今後の学園生活、みじめなものになるって言ったよな?」

「へぇ、そうやった脅して彼女たちを手駒にしてたってわけか、モブども」

 モブたちが女生徒2人の後方に視線を移すと、そこにはエドワードがいた。

「今後の学園生活がみじめになるのはどっちなのか教えてやるぜ」

「ちくしょう、バレたらしょうがねぇ。みんなでかかるぞ」

「フン、シメあげてやる!縄だけに!」

 一斉に殴りかかるモブA、モブB、モブC。

 しかし、全てのパンチを紙一重でかわすと、全員の腹に1発づつ強烈なパンチを叩き込む!

 3人はほぼ同時にうずくまって吐いてしまった。

 エドワードは振り返って自らを罠にかけた女生徒2人の方を見る。

「まあ、こういうこった。あんたらはもう自由だぜ」


 トゥン♡


 女生徒2人の頬が赤くなった。

 主犯の女生徒がもじもじしながら、

「あの…もし良かったら…あたしと…」

「だが!完全に許したとは言ってねぇ」

「え?」

「一応お前らは脅されていたとはいえこの俺様を罠にハメたんだからな。相応の罰は受けてもらうぜ」

「ば、罰…それはどういう」

 エドワードは背中の何次元ポケットから縄2つとムチを取り出して女生徒の前に放り投げた。

「さあ!それで俺を縛れ!そして、特注で作らせた、肉体を傷付けずに派手に音だけが鳴るそのムチで俺を叩け!」

「ひぃぃぃぃぃぃ、やっぱり変態だわぁぁぁ」

 女生徒は悲鳴をあげる。

「おい、こっちきていいぞエリザベス。オトコ♂どもの調教はお前に任せる!」

 ドアの向こう側から、ムチでピシピシと地面を叩きながらニヤけたエリザベスが入ってきた。

「お、俺たちにナニをする気なんだ!」

「ナニをする気ってこうするのよ!」

 一瞬にして3人とも縄で縛られた。

「なっ、う、動けねぇ」

「お楽しみはこれからですわよ」

「う、うわぁぁぁぁぁぁ」

「ブヒー!」


 その後数時間にわたってモブ3人組と女生徒2人の調教が始まった。

 そして、5人全員が思った。

「もう2度とこの2人には関わるまい」、と。


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