第九話:「穏やかな日々」
エルナ村は、また少しずつ穏やかな日々を取り戻しつつあった。魔物の襲撃から村を守り抜いたことで、村人たちの間には新たな絆が生まれ、互いに支え合いながら日々を過ごしている。ルナもまた、仲間たちと共に村を守るための準備をしながらも、少しの間だけゆっくりとした生活を楽しむことにしていた。
その日の朝、ルナは朝陽が差し込む村の広場に立って、深呼吸をした。森から聞こえる鳥のさえずりや、草原を揺らす風の音が彼女の耳に心地よく響き、村全体に漂う穏やかな空気が彼女の心を癒していた。
「おはよう、ルナ」
声をかけたのは、エルフのリラだった。彼女は手に小さなバスケットを持っており、その中には朝摘みの野菜や果物がぎっしり詰まっている。
「おはよう、リラさん。朝から畑仕事を?」
ルナがそう尋ねると、黄金の髪を揺らしリラはにっこりと笑って頷いた。
「ええ、今日も豊作よ。これを持って帰って、みんなで朝食にしましょう」
ルナはリラの提案に賛同し、二人でバスケットを抱えながら、ゆっくりと村の道を歩いていく。村の道端では、小さな子どもたちが元気に走り回り、年配の村人たちは朝の挨拶を交わしながらそれぞれの仕事を始めていた。村の中に漂う穏やかな空気に、ルナの心も自然と和んでいった。
村の広場では、リラの提案でみんなが朝食を囲むことにした。鍛冶屋のガルドが持ってきた焼きたてのパンの香ばしい香りが辺りに広がり、エルフのエリンが用意したハーブティーが温かい湯気を立てている。みんなが集まることで、村はまるで家族のような温かさに包まれていた。
「ルナ、最近はどうだ?新しい魔法も覚えたと聞いたが、どんな感じだ?」
ガルドがそう言って、ルナにパンを差し出しながら尋ねた。ルナはそのパンを受け取りながら、少し照れくさそうに微笑んだ。
「はい。少しずつですが、防御魔法も強化できています。ガルドさんのおかげで剣の使い方も覚えたので、少しは村の守り手らしくなれているかな…と」
ガルドはルナの言葉に満足そうに頷き、ルナの肩を軽く叩いた。
「それはいいことだ。お前さんはしっかり成長してるよ、シアも天国で喜んでるに違いないさ」
その言葉に、村人たちが静かに頷き、ルナも胸がいっぱいになる。彼女はシアのことを思い出しながら、皆と共に過ごすこの時間の大切さを改めて感じていた。
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食事を終えた後、ルナは村の子どもたちと一緒に畑で野菜の収穫を手伝うことになった。子どもたちは彼女のそばで嬉しそうに跳ね回りながら、大きなトマトやカボチャを抱えて見せびらかしている。
「ルナお姉ちゃん、見て!こんなに大きなトマトがとれたよ!」
ルナはその子どもたちの元気な声に微笑み、しゃがんで彼らの目線に合わせた。
「すごいね!こんな立派なトマトが育つなんて、きっとみんなの愛情が詰まっているんだろうね」
子どもたちは嬉しそうに頷き、手にした野菜を大事そうに抱えていた。彼らの無邪気な笑顔に触れながら、ルナは村の未来を守ることの意義を改めて感じていた。彼らが安心して成長できる場所を守りたいと改めて実感した。
その日の午後、ルナは村の周囲の見回りに出かけた。防御結界の範囲が十分に保たれているか、魔物の痕跡がないかを確認しながら、静かな森の中を進んでいく。森の木々が風に揺れる音や、ささやかな虫の声が耳に響き、ルナの心を静かに包み込んでいた。
しばらく歩いたところで、エリンが静かに現れた。彼はルナの気配を感じ取ったのか、偶然にも見回りのルートが重なったようだ。
「ルナ、ここで会えるとは思わなかったよ」
エリンは微笑みながら、ルナにそっと話しかけた。ルナもその言葉に安心し、二人でしばらく並んで歩くことにした。
「エリンさん、こうして森の中を歩いていると、シアさんが教えてくれたことをたくさん思い出します」
ルナがそう話すと、エリンは静かに頷いた。
「シアは優しくとても素敵な人だった。彼女が君に託したものは、これからもずっと君の中に生き続けるはずだよ」
その言葉に、ルナは胸の奥が温かくなるのを感じた。
夜になり、村は静寂に包まれていた。広場に設置された焚き火の周りで、村人たちが集まり、それぞれが家族や友人と語り合っている。ルナもその輪の中に加わり、ガルドやリラ、エリンと共に、村のこれからについて話し合っていた。
「ルナ、結界の強化も進んでいるし、防衛の準備は整ってきている。これで魔物が来ても、私たちは村を守り抜けるはずだ」
ガルドがそう言って、力強く頷くと、リラも微笑みながら彼に同意した。
「ええ、でも油断は禁物よ。これからもみんなで協力していきましょう」
エリンもまた、穏やかな表情で二人の意見に賛成し、ルナに視線を向けた。
「ルナ、君がこの村にいてくれることが、私たちにとって何よりの安心なんだ。これからも一緒に、この村を守っていこう」
ルナは仲間たちの言葉に感謝し、深く頷いた。彼らと共に村を守り抜くことが、彼女の中で何よりも大切な使命となっていた。そして、シアが守りたかった平和な日常を、この村で叶えるために全力を尽くすと心に誓った。
こうして、ルナと仲間たちは日々を共に過ごし、村の平和な日常を守るために尽力していった。子どもたちの無邪気な笑顔や、村人たちの温かな絆が、彼女の心を満たし、明日への希望を育んでいた。