第八話:「新たな力」
新たな一日の始まりと共に、エルナ村は活気を取り戻していた。だが、魔物の襲撃から数日が経過しても、村人たちの心にはまだ消えない悲しみが残っている。特にシアがいない日々に慣れるには、皆にとって長い時間が必要だった。それでも、村の未来のために一歩一歩進んでいくことが、シアへの恩返しであり、自分たちの使命だと皆は心に決めていた。
その朝、ルナは村の広場で数人の仲間たちと集まり、村を守るための新しい計画を立てていた。ドワーフのガルド、エルフのリラ、そして年長のエリンが彼女を取り囲んでいる。
「ガルドさん、リラさん、そしてエリンさん、これからの村の防衛には皆さんの知識が必要です。どうか力を貸してください」
ルナが頭を下げてお願いすると、ガルドは深く頷き、力強く答えた。
「任せときな、ルナ。お前さんには世話になってばかりだし、わしらもこの村を守るためなら何だってやるつもりさ」
リラも微笑んで、ルナの肩を軽く叩きながら言った。
「みんなで協力して村を守る。それが、シアの願いでもあったからね」
エリンも穏やかな表情でルナを見つめ、ゆっくりと語りかけた。
「シアの意志は、私たち全員が引き継ぐべきものだ。ルナ、君がその先頭に立ってくれるなら、我々も全力で支えるよ」
ルナは仲間たちの言葉に胸が熱くなり、感謝の気持ちでいっぱいになった。村人たちがこうして支えてくれるからこそ、自分も負けずに頑張ることができるのだと実感した。
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数日後、村の防衛力を強化するために、ルナは防御結界の範囲を拡大する練習に取り組むことにした。彼女は、村の周囲に魔法のバリアを張り、魔物の侵入を防ぐことを目指している。
ある夜、彼女が結界を強化するために集中していると、リラが静かに近づいてきた。
「ルナ、少し休んだらどう?最近、ずっと無理をしているように見えるよ」
リラの優しい言葉に、ルナは思わず肩の力を抜いて微笑んだ。
「ありがとう、リラさん。でも、みんなのために、少しでも早く結界を完成させたいんです。シアさんが守ろうとした村を、私も全力で守りたいから…」
リラはその言葉にしばらく黙っていたが、やがて静かに頷いた。
「シアも、きっと君のことを誇りに思ってるよ。私たちはみんなで力を合わせて、村を守り抜こう」
その言葉に励まされ、ルナは再び気力を取り戻した。リラが見守る中、彼女は村の周りに力強い防御結界を張り巡らせた。その結界は、村の人々の思いを映すかのように、静かに輝いていた。
翌朝、ルナはガルドと共に村の鍛冶場に向かっていた。ガルドが作成した新しい罠の仕組みを学び、さらに防衛力を高めるためだ。鍛冶場には村で採取された希少な鉱石が積み重ねられており、それらを素材にして作られた武具が並んでいた。
「ルナ、お前さんも自分の武器を持ってみたらどうだ?魔法もいいが、実際に使える武器があれば、いざという時に役に立つだろう」
ガルドがそう提案すると、ルナは少し驚きつつも頷いた。
「確かに…防衛だけでなく、自分自身を守るための力も必要ですね。ガルドさん、私に武器の扱いを教えていただけませんか?」
ガルドは満足そうに笑い、彼女に適した軽量の剣を手渡した。その剣は彼が丹精込めて作り上げたものであり、ルナの手に馴染むように調整されている。
「この剣なら、お前さんにも扱いやすいだろう。まずは基本から教えるから、しっかり覚えていけよ」
ルナはガルドに感謝しつつ、武器の訓練に励むことを決意した。鍛冶場での訓練を重ね、少しずつ剣の使い方に慣れていく自分に、新たな力が備わっていくのを感じた。
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村の防衛が着々と進む中で、エルナ村には少しずつ明るさが戻りつつあった。子どもたちは元気に遊び、村人たちは笑顔を取り戻し始めていた。ある日、ルナはエリンと共に村の子どもたちに魔法の基本を教えることになった。エリンは村で最も魔法に詳しい年長者であり、彼の教えは村人たちから尊敬を集めていた。
「ルナ、君も子どもたちに教えてみたらどうだい?君の魔法には、きっと彼らも憧れるだろう」
エリンがそう言って笑顔を見せると、ルナも嬉しそうに頷いた。子どもたちはルナに興味津々で、目を輝かせて彼女の指導に耳を傾けている。
「じゃあ、みんなで一緒に魔法の力を感じてみましょう。目を閉じて…自然のエネルギーを感じるのよ」
ルナの優しい声に従い、子どもたちは目を閉じて魔力の流れを感じようとした。その光景を見守りながら、ルナはシアがいた頃のことを思い出していた。シアが教えてくれた優しさと強さが、自分を支え、村の未来を守る力になっているのだと実感する。
しばらくして、子どもたちが目を開け、ルナに感謝の言葉を伝える。
「ルナお姉ちゃん、ありがとう!ぼくたちも強くなれるかな?」
その言葉に、ルナは力強く頷いた。
「もちろんよ。みんなには、きっとすごい力があるわ。それを信じて頑張ってね」