第七話:「誓い」
村は魔物の襲撃を受けた夜の傷跡を、まだ色濃く残していた。村の家々には応急処置の痕が見られ、通りには傷ついた者たちがよろめきながらも再び立ち上がろうとしていた。だがその光景の中で、シアの姿だけが見つからない事実が、村人たちの心に重くのしかかっていた。
ルナは村の広場に集まった人々を見回し、皆に感謝の言葉をかけた。シアが最後に村を守り抜いたこと、そしてその意志を自分が受け継ぐことを伝えようとしたが、彼女の喉は何度も詰まり、言葉を続けるのが難しかった。それでも、彼女の真摯な姿勢に村人たちは静かに耳を傾けていた。
「みなさん、シアさんが命を懸けて守ってくれたこの村を…これからは、私が守ります」
ルナがそう誓ったとき、村人たちの中からひとり、年老いたエルフのエリンが彼女に近づいてきた。彼はルナの肩に優しく手を置き、微笑んで言った。
「ありがとう、ルナ。私たちも力を合わせて、この村を守り続けよう」
エリンの言葉に勇気をもらったルナは、仲間たちの温かな視線を感じながら、改めて村を守ることを心に決めた。村の一人ひとりが家族のように感じられ、その人たちを守る責任がルナの心に静かに刻まれたのだ。
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その後、ルナは日々の生活の中で、防御魔法や回復魔法の習得に力を入れるようになった。村を守るために必要な知識と力を得るため、仲間たちの協力も借りながら、少しずつ学んでいった。
ある日の夕暮れ時、ルナはエルフのリラと共に村の見張り塔に立っていた。リラは弓の名手であり、魔物の動向を察知する感覚も優れているため、見張りの役割を任されていた。
「ルナ、疲れてない?少し休んだほうがいいんじゃない?」
リラが心配そうに問いかけると、ルナは微笑んで首を横に振った。
「大丈夫だよ。今は何よりも、みんなと一緒に村を守ることが大切だから」
リラはルナのその言葉に感心したように頷き、ふと遠くを見つめながら静かに言った。
「…シアさんも、きっと空の向こうで見守ってくれているよね」
その言葉に、ルナは胸の奥がじんと温かくなった。シアが遺してくれた思いは確かにここにあり、リラや他の村人たちも、その存在を忘れることなく心に刻んでいる。ルナは改めて、村を守ることが自分の使命だと感じた。
翌朝、ルナは鍛冶屋のガルドと共に村の防衛計画を話し合っていた。ガルドは無骨なドワーフの男性で、普段は寡黙だが、村の防衛となると真剣な眼差しで意見を述べる。彼は村の周囲に罠を仕掛け、魔物が再び攻めてきたときに備えることを提案した。
「お前さんには防御魔法の訓練を続けてもらうとして、わしが造った罠も活用してくれ。魔物がまた来ても、この村は簡単には落とされんさ」
ガルドはそう言って力強く頷いた。ルナもその言葉に力をもらい、自分が学んだ魔法で村を守る決意を新たにした。
村人たちは一丸となって防衛の準備を進め、異種族同士の協力のもと、エルナ村の防衛力は日に日に強化されていった。エルフや獣人たちも自らの技術を活かし、それぞれの役割を果たしていく。ルナは彼らと共に、日々訓練を重ねながらも、村の平穏を守るための努力を惜しまなかった。
そんなある晩、ルナは村の広場でひとり、夜空を見上げていた。そこへ村の子どもたちが駆け寄ってきて、彼女に抱きついた。
「ルナお姉ちゃん、またお話して!」
子どもたちはルナに懐いており、彼女が村のために頑張る姿に憧れの目を向けていた。ルナは微笑み、子どもたちを優しく抱きしめた。彼女の心にはシアの思いが今も息づいており、その思いが子どもたちの中に根付いていることに、彼女は胸が熱くなった。
「もちろん、お話してあげるよ。でも、その前に約束してほしいことがあるの」
「え?何?」
子どもたちは興味津々の様子でルナの顔を見上げた。
「みんなが大人になったとき、今度は村のみんなを守る側になってね」
ルナがそう言うと、子どもたちは大きく頷き、元気よく答えた。
「うん!ルナお姉ちゃんみたいに強くなる!」
その言葉に、ルナの目に涙が浮かびそうになったが、彼女は笑顔で子どもたちを見つめ続けた。シアが守ろうとした未来が、確かにここに根付いていることを感じ、ルナは静かに感謝の祈りを捧げた。
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やがて季節が移り変わり、エルナ村には再び穏やかな日々が訪れた。村人たちは互いに助け合いながら、かけがえのない平和を築き上げていった。ルナもその中で仲間たちと支え合いながら、日々を過ごしていた。
ある日、彼女はエリンと共に森を歩いていた。村の防衛のために必要な素材を集めるためであり、エリンはルナに優しく話しかけた。
「ルナ、君がここにいてくれることで、村はとても安心していられるんだ。シアがいた頃と変わらないくらい、君の存在はみんなにとって大きなものだよ」
エリンの言葉にルナは少し恥ずかしそうに微笑んだが、心の奥底ではその言葉が大きな支えになっていた。
「ありがとう、エリンさん。でも、私はただみんなが幸せでいてくれるだけで十分なんです」
エリンはそんなルナの姿勢に深く感動し、そっと頷いた。彼らは何も言わずに歩き続け、ただ静かな森の中で自然の音に耳を傾けていた。
その日、ルナは夜遅くまで訓練場で魔法の練習をしていた。彼女が結界を張る力を強化するために集中していると、ふと背後から村人たちの優しい声が聞こえた。
「ルナ、お疲れさま。私たちはあなたがいるだけで安心できる。ありがとう」
声の主はリラやガルド、そしてエリンだった。彼らはルナを心から信頼し、その存在がどれほど心の支えになっているかを伝えた。ルナはその言葉に涙を浮かべ、感謝の気持ちで胸がいっぱいになった。
「皆さん、私も皆さんがいるからこそ、頑張れるんです」
ルナは仲間たちに向かってそう答えた。