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第六話:「決意の夜」

エルナ村を取り巻く静けさは、魔物の群れが押し寄せるという緊迫した状況によって一変していた。村の見張りから警報が鳴り響き、村人たちはそれぞれの役割を果たすべく持ち場へと急いだ。すべてが暗闇に包まれた夜、魔物たちのうなり声が風に乗って聞こえてくる。ルナは心の中で深く息を吸い、胸の奥に湧き上がる恐怖を必死に抑えながら、村の避難場所で村人たちを守っていた。


「落ち着いてください、必ず皆さんを守ります」とルナは、子どもや年老いた村人たちに語りかけた。


遠くでは、シアをはじめとする村の守り手たちが魔物と戦っている音が響き渡っている。村人たちの中にも武器を手にした者たちが応戦していたが、敵の数は予想をはるかに超えていた。魔物たちは、大型の狼のような姿をしたものや、空を飛ぶ影のような鳥型の魔物まで、さまざまな姿形で村を襲撃していた。


ルナは避難所で待機している村人たちを見守りつつ、自身も小さな火球を手に防衛の準備をしていた。初めての大規模な戦闘に不安が募るが、それでも村を守るという決意が彼女の背筋を伸ばしてくれる。


「ルナ、君はここで村人たちを守っていてくれ。俺たちで前線を支える!」村の守り手のひとりがルナに指示を出してから、剣を手に魔物たちの前線へと向かっていった。


しばらくして、前線で戦っていたシアが血まみれの姿でルナのもとに戻ってきた。息を切らし、何かを伝えようとしているシアの姿に、ルナは衝撃を受けた。


「シアさん!どうしたんですか、こんなに…」


「ルナ、聞いて。魔物の数は…多すぎる。もう村の防壁が崩れかけているわ…みんなで何とか持ちこたえているけれど…」


シアの言葉は途切れがちで、彼女の体力が限界に達しているのが明らかだった。それでもシアは、ルナに向かってわずかに微笑みを見せた。「大丈夫。ルナが村を守ってくれているのを見て、みんなも安心しているから」


ルナはその言葉に胸が締め付けられるような思いがしたが、シアを勇気づけるために必死に笑顔を返した。「シアさん、私もここでしっかりと守ります。だから…」


その時、再び魔物の咆哮が村中に響き渡り、恐ろしい足音が迫ってくる。シアはその音に反応し、再び前線に戻ろうと立ち上がった。


「ルナ、ここを頼んだよ。君が村の光になってくれると信じているから」


シアが前線に戻った直後、ルナは激しい爆発音を聞き、悲鳴と共に魔物の咆哮がさらに激しくなっていくのを感じた。彼女は祈るようにシアの無事を願いながら、魔法の結界をさらに強化して村人たちを守っていたが、その矢先、守り手のひとりが血まみれの姿で避難場所に駆け込んできた。


「シアが…!シアが…!」


その言葉に、ルナの中で何かが崩れるような感覚が走った。シアが倒れたという知らせに、村中が静まり返り、深い悲しみが漂った。


激しい戦闘の末、ようやく村人たちと守り手たちは魔物の襲撃を撃退することができたが、その代償はあまりにも大きかった。数多くの村人が傷つき、愛する人を失った者も少なくなかった。夜が明けたとき、ルナはシアの遺体が村の中央に運ばれてきたのを見て、言葉も出せずその場に膝をついた。


「シアさん…どうして…こんなことに…」


ルナの目には涙が溢れ、体が震えた。彼女にとってシアは、異世界で初めて出会った友であり、優しさと強さを教えてくれた存在だった。


村人たちもシアの死を悼み、彼女の勇敢な行動を讃えながら、その場で静かに祈りを捧げた。誰もが悲しみに暮れていたが、同時に新たな決意が村全体に広がっていた。これ以上、魔物によって大切な者を失いたくないと。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


その日の夕方、ルナはひとり村の外れの丘に立ち、静かに夜空を見上げた。彼女はこの異世界で初めて感じる「喪失感」と対峙しながら、今後どうすべきかを考えていた。


「シアさん…私はどうしたらいいんでしょうか」


彼女は声に出して呟いたが、返事が返ってくることはなかった。ただ、冷たい夜風が彼女の頬を撫でるだけだった。


だが、ルナはその瞬間、心の奥底から強い決意が湧き上がってくるのを感じた。彼女はここで立ち止まるわけにはいかない。この村を、そしてシアが守ろうとしたすべてを、今度は自分が背負っていかなければならないのだ。


「私は…シアさんの意志を受け継ぐ。この村で暮らす皆を守り抜いてみせる」


静かな誓いを立てたルナは、翌朝、村の人々と共に新たな防衛策を考え、魔法の訓練にも一層励むことを決めた。村に新たな防衛の力をもたらすため、そしてシアが愛したこの村を守るため、彼女は全力を尽くす覚悟だった。


ルナはもう迷わない。シアの意志を胸に、魔物の脅威から村を守る「守り手」としての新たな道を歩み始めたのだった。




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