第五話:「忍び寄る影」
エルナ村での生活にすっかり馴染んできたルナは、村の人々と協力して日々の仕事を楽しんでいた。村の手伝いをしながら、シアや村人たちと共に温かな日々を過ごしていたが、平穏な日々にどこか違和感を感じるようになっていた。
ある夜、シアと共に村の広場で夕涼みをしていると、突然、遠くの森の方から不気味な咆哮が響いた。ルナは驚いて音の方を振り返ると、シアの顔も険しくなっている。
「シアさん、今の音…何でしょう?」
「わからない…けれど、最近周辺で不穏な動きがあるって、村の警備隊が話していたの。まさか、魔物の群れがこの辺りに近づいてきているのかもしれない」
シアは少し悩んだ様子で村長のもとへ向かうと、村の警備員たちも緊急の集会を開いていた。ルナもシアに続いて会合に参加すると、村長は深刻な顔で村人たちを見渡していた。
「皆、集まってくれてありがとう。実は、最近近隣の村で魔物の襲撃が相次いでいるという情報が入ってきた。どうやら大規模な魔物の群れが、この地域に向かってきているらしい」
村人たちはその言葉にざわつき、ルナも驚きと不安を覚えた。彼女がここへ来てから村はずっと穏やかで、そんな危機が近づいているとは思いもしなかった。
「我々は村の防衛を固める必要がある」と村長が続けた。「ここには多くの家族が暮らしている。この村を守るために、皆で協力し合おう」
シアは冷静な表情を保ちつつ、ルナに向かって頷いた。「私たちもできる限りの準備をしよう。まずは村の防壁を強化することが必要だわ」
「私もお手伝いします!」とルナは決意を込めて言った。
翌日から、村は一丸となって防衛準備に取り掛かることになった。村の男性陣は村を囲む木製の防壁を補強し、少しでも強度を増すために補修作業を続けた。女性たちは食料や医療品の備蓄を増やし、非常時に備えた。
ルナもシアと共に村を回り、村人たちが安全に避難できるルートや場所を確認して回った。どこか張り詰めた空気が漂う中で、村人たちは互いに助け合いながら準備を進めていった。
「ルナ、ありがとう。君がいてくれるおかげで、皆も心強く感じているわ」とシアが微笑んで言った。
「私も、みんなと一緒に村を守りたいんです。この村はもう私の大切な場所ですから」とルナはしっかりと答えた。
その夜、ルナは自室で考え事をしていた。この平穏な村が襲撃されるかもしれないという現実が、彼女の心を少し重くしていた。しかし、同時に彼女は決意を新たにしていた。
「私はここで、自分の力を役立てたい」と心の中で誓い、彼女は魔物に対抗できるよう、基礎的な魔法の練習を始めることにした。異世界に来たことで、彼女の体にはかすかな魔力が宿っていることを知っていたからだ。
ルナは村の片隅で静かに魔法の練習を始め、火の玉や防御の魔法の使い方を一歩ずつ学んでいった。まだぎこちないが、少しずつ魔法の力が自分のものになりつつあるのを感じた。
数日後、ついに村の見張り役が異変を察知した。遠くの森の影から、数多くの魔物の姿が見え始めたのだ。警備隊は警鐘を鳴らし、村中に緊急事態を知らせた。ルナもすぐさまシアと合流し、村人たちの避難誘導を手伝うことになった。
「ルナ、私は前線で戦うから、村人たちを守ることに集中して。君がいてくれたら、村の皆も安心して避難できるわ」
「わかりました!シアさんも無理はしないでくださいね」とルナは心配そうにシアに声をかけたが、シアは真剣な表情でうなずいた。
村の入口にまで魔物が迫る中、ルナは村の中央に集まる子どもや老人を見守り、魔物が侵入してこないように警戒を続けた。彼女の心は不安と緊張で張り詰めていたが、少しでも村人たちが安全に避難できるよう、彼女も自身の魔法を使って防御の結界を張り、村の人々を守ろうと努力した。
そして、シアをはじめとする村の守り手たちが力を合わせて魔物を撃退しようと奮闘している姿が遠くから見えた。