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第四話:「初めての依頼」

ルナがエルナ村での生活に馴染み始めてから、さらに数日が経った。彼女は村人たちとも顔見知りになり、時折頼まれる小さな仕事を手伝いながら、自分なりのペースでこの異世界での生活を楽しんでいた。


ある朝、ルナがシアの家で朝食をとっていると、ドアが勢いよくノックされた。誰だろうと思いながらドアを開けると、そこには元気いっぱいの小柄な獣人族の少女、リリが立っていた。リリはふわふわの耳と尻尾を揺らしながら、興奮した様子でルナを見上げていた。


「ルナ!おはよう!急にごめんね、お願いがあってきたんだ!」


ルナは驚きながらも微笑んでリリを家の中へ招き入れた。リリは村の中でも活発で、誰にでも親しげに接する性格で、ルナもすぐに彼女と打ち解けていた。テーブルについたリリは、少し恥ずかしそうにルナにお願いを切り出した。


「実はね、森の奥にしか生えてない『サファリ草』っていう薬草を採ってきてほしいんだ。私が薬草を採るのを手伝いたいんだけど、あの森には魔物が出るから一人じゃ危険で……」


ルナはその話を聞いて少し緊張したが、同時に初めての「冒険」に心が躍った。サファリ草は薬効が高く、傷を癒す効果があるため、村では重宝されているが、周辺には弱い魔物がいるため、村の子どもたちだけでは採りに行くのが難しい場所に生えているという。


「大丈夫、リリ。私が一緒に行くよ」


ルナは笑顔で答え、リリは喜んでルナに飛びついた。シアも、初めての森での薬草採りに少し心配そうな顔をしていたが、ルナにいくつかのアドバイスをした後、彼女に小さなナイフと袋を渡した。


「気をつけてね。サファリ草は青い葉を持っているけど、似たような形の毒草もあるから間違えないように」


ルナはシアに感謝しつつ、リリと共に森へと向かった。村の出口から少し歩くと、緑が濃く茂る森が見えてきた。木漏れ日が降り注ぎ、静かな空気が流れているが、森の奥にはどこか神秘的で少し不気味な雰囲気も漂っていた。


森の中を進んでいると、リリがルナに森の薬草について話してくれた。サファリ草だけでなく、他にも小さな傷を癒す「ミスリ草」や、香りが良くてお茶に使われる「スイセイ草」などが自生しているという。リリは植物についてよく知っており、ルナも彼女の知識に感心しながら話を聞いていた。


「リリって、薬草にすごく詳しいんだね。どうしてそんなに知ってるの?」


「えへへ、おばあちゃんが昔から色々教えてくれててね。薬草のことは大好きなんだ」


話しながら歩いていると、突然リリが立ち止まり、指をさして小さな茂みの奥を示した。


「あれ、あそこにあるのがサファリ草だよ!」


ルナがリリの指差す方向を見ると、確かに青い葉を持つ草が群生していた。彼女たちは慎重に近づき、一つひとつ丁寧にサファリ草を採取し始めた。ルナはシアに教わった通り、毒草と見分けるために葉の形状や香りを確認しながら、慎重に採っていく。


「これで十分かな?」


リリがそう言って収穫した薬草を確認していると、突然背後から低いうなり声が聞こえた。二人が驚いて振り向くと、そこには森の魔物である「シャドウウルフ」が立ちはだかっていた。シャドウウルフは体が影のように薄暗く、鋭い牙と赤い目が不気味に光っている。


「リリ、下がって!」


ルナはとっさにリリを守るように前に出たが、彼女自身も魔物と対峙するのは初めてで、どうすればいいのかわからなかった。しかし、リリはルナの手を引き、慌てた様子で低い声でささやいた。


「ルナ、こっちに来て。逃げ道があるんだ」


二人は息を潜め、リリが知っているという隠れ道を通ってシャドウウルフから距離を取った。彼女たちはなんとか安全な場所まで逃げ込むことができたが、ルナの心臓はまだ激しく鼓動していた。


「ふぅ、なんとか無事に逃げられたね……リリ、ありがとう」


「ううん、私もルナがいてくれたから心強かったよ」


ルナとリリは顔を見合わせ、ほっと安堵のため息をついた。初めての危険な体験に、少し恐怖を感じたものの、ルナはこの異世界で生きていく上で、こうした場面にも立ち向かわなければならないことを痛感した。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


村へ戻った二人は、集めたサファリ草を薬師のリオに届けた。リオは二人が無事に帰ってきたことに安堵しながら、集めてきたサファリ草を手に取り、丁寧に調べ始めた。


「よくやったな、リリ、ルナ。これでしばらくは村の薬が安泰だ」


リオの表情はいつも通り冷静だったが、どこか嬉しそうな表情が見え隠れしている。リリも満足そうに胸を張り、ルナに感謝の意を伝えた。


「ルナ、本当にありがとう。ルナが一緒じゃなかったら、こんなにたくさん集められなかったよ」


「こちらこそ、一緒に行けて楽しかったよ。また何か手伝えることがあったら、いつでも声をかけてね」


二人は笑顔で再会を約束し、別れた。ルナにとって、この経験は初めての「冒険」として心に刻まれた出来事だった。彼女はこの村での生活だけでなく、少しずつ自分の力を試しながら成長していく自信を得ることができた。


その夜、ルナはシアの家で一日の出来事を振り返りながら、初めての冒険について語った。シアはルナの話に耳を傾けながら、微笑みとともに彼女を励ました。


「ルナ、本当に頑張ったね。こうやって少しずつ経験を積んでいけば、この村でしっかりとやっていけるはずさ」


ルナはシアの言葉に勇気づけられ、心の中で決意を新たにした。この村での生活は、まだまだ始まったばかりだが、村の人々と共に過ごす中で、少しずつ自分の居場所が見つかっていくような気がした。



こうして、ルナは日々の生活の中で少しずつ村の一員として認められ、仲間たちと共に新たな冒険と試練に立ち向かう日々が続いていくのだった。

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