第二話:「エルナ村での新生活」
エルナ村に住むことになったルナは、シアの家に泊まることにした。その夜、慣れないベッドに横たわりながら、異世界での新生活について期待と不安が入り混じった気持ちで目を閉じる。
「明日は何をしようかな……」
村の人たちがどんな仕事をしているのか、この世界では何が常識で何が違うのか、ルナには知りたいことが山ほどある。そして何より、このの村で自分にできることが何かを見つけたいと思っていた。
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翌朝、ルナは鳥のさえずりと窓から差し込む柔らかな光で目を覚ました。シアの家の中はまだ静かで、どうやら彼女はまだ起きていないようだった。しばらくぼんやりと天井を見上げていると、シアの言葉が昨日の夜のうちに村を案内してくれると約束してくれたことを思い出した。
「うん、今日は色々見て回ろう」
身支度を整え、そっと家を出ると、朝の村はすでに活気に満ちていた。農場で作業をしている人、何かを荷車で運んでいる人、みんなが忙しそうに動いているが、その表情はどこか穏やかだ。
「おはよう、ルナ!」
後ろから声がかかり振り返ると、シアが笑顔で手を振っていた。彼女もすでに仕事の準備をしているらしく、腰に小さなポーチを下げ、ハーブの束を手にしていた。
「おはようございます、シアさん!」
「うふふ、気軽にシアって呼んでいいよ。ほら、今日は村を色々と案内するって約束だったでしょ?行こう!」
ルナはシアに連れられ、村の中心部へと歩き出した。
村の広場は、様々な屋台が並び、村の人々が賑やかに話しながら買い物をしている。屋台には色とりどりの野菜や果物、そして不思議な形をした薬草や魔法の道具が並んでいた。シアが一つの屋台に立ち寄ると、店主のドラゴン族の女性がにっこりと微笑みかけてきた。
「おや、シアさん。今日は新しいお友達を連れてきたのかい?」
「そうだよ。この子はルナ。少し前にこの村に来てね、今は私の家に泊まってるんだ」
ドラゴン族の女性は興味津々な眼差しでルナを見つめ、少し驚いたように首を傾げた。
「そうかい、珍しいね。人間の姿をしているけど、なんだか普通の人間とは違う雰囲気だね」
ルナは少し困惑しながらも、にこやかにお辞儀をした。まだ自分が異世界に転生したことについて明かすつもりはなかったが、どこか不思議な気配が感じられるようだ。店主に勧められるまま、鮮やかな赤い果物を一口かじってみると、甘酸っぱくて初めての味が口の中に広がった。
「美味しい……!なんていう果物なんですか?」
「それは『カリム』っていう果物さ。この村じゃよく食べられるんだよ。元気が出るし、疲れも吹き飛ぶからね」
シアはそんなルナの反応に微笑みながら、他の屋台や店にも寄り道しながら村を案内してくれた。彼女の話を聞くと、エルナ村では日常の中にも少しだけ魔法や異種族の力が溶け込んでいることがわかる。例えば、果物や野菜が特定の薬効を持っていたり、家事の一部に簡単な魔法が使われたりするのだ。
しばらく歩き回った後、シアはルナを小さな薬草畑へと連れて行った。畑には見たことのない植物が整然と並んでいて、その中には小さな青い花や、太陽の光を反射してキラキラと光る葉っぱがある植物もある。
「ここは私が世話をしている薬草畑さ。いろんな種類の薬草が育てられていて、病気の時やケガをした時に使うんだよ」
ルナは薬草畑にしゃがみ込み、葉の触り心地を確かめたり、香りをかいだりしながら、異世界の植物に感嘆した。この世界にはまだ知らないものがたくさんあることを実感し、自分も何か役に立てることがあるかもしれないと期待を膨らませた。
「シア、私もこの村で役に立ちたいんです。何かお手伝いできることってありませんか?」
シアは少し驚いたように目を丸くしたが、すぐに嬉しそうな笑顔を浮かべて言った。
「ルナがそんな風に思ってくれるなんて嬉しいよ!薬草の手入れも助かるけど、どうせならいろんなことを経験してみたらどうだい?例えば、隣村に薬を届けたり、村の人たちの手伝いをしたり」
その言葉にルナは嬉しくなり、小さくうなずいた。こうして少しずつ村の生活に慣れながら、村の人たちと共に役立つことができるのなら、自分もここでしっかりと生きていける気がしてきた。
その後も、シアはルナにいくつかの薬草の使い方や効能を教えてくれた。村の人々の健康を支える薬草の重要性に触れる中で、ルナはこの村での役割を少しずつ見つけ始めていた。
昼過ぎになり、シアと共に家に戻ったルナは、再びシアが出してくれたハーブティーを飲みながら、今日一日のことを振り返っていた。
「シア、本当にありがとうございます。私、もっとこの村のことを知りたいし、皆さんの力になりたいです」
「こちらこそ、ルナが来てくれて嬉しいよ。村の人たちも、きっとあんたのことをすぐに気に入るはずさ」
シアの言葉に、ルナの心は温かく満たされた。この異世界での生活はまだ始まったばかりだが、シアをはじめ村の人々との出会いによって、新しい居場所が見つかるかもしれないと感じていた。
こうしてルナのエルナ村での新生活は、少しずつ形になり始めていく。異種族との交流を深めながら、彼女はこの村での暮らしにゆっくりと馴染んでいった。そしてその日々の中で、思わぬ出会いや、ちょっとした冒険が待ち受けていることを、ルナはまだ知らない。