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第十話:「襲撃」

ある穏やかな朝、エルナ村の青空の下では、いつも通りの静かな日常が流れていた。ルナは村の端にある小さな丘から村全体を見渡し、柔らかな微笑みを浮かべていた。長い黒髪が風にそよぎ、深い青の瞳はどこか遠くを見つめている。今日も何事もなく一日が終わればいい、そう願うように、彼女はゆっくりと空を見上げていた。


「ルナ、こんなところにいたんだね」


振り向くと、ガルドが小柄でがっしりとした体を揺らしながら彼女に歩み寄ってきた。ガルドは鍛え抜かれた筋肉を誇る体格で、腕に抱えた大きな武器が彼の職人気質を物語っていた。ルナは彼に微笑み返し、彼の隣に並んで腰を下ろした。


「ガルドさん、朝の風が気持ちよくて…少し、ぼんやりしてしまいました」


「はは、まあ時にはゆっくりするのもいいだろう。だが、今は少し用心も必要だぞ。最近、近隣の村が盗賊に襲われたらしいからな」


その言葉に、ルナの表情が引き締まった。盗賊の存在は以前から噂には聞いていたが、今までは遠くの話だった。それが、とうとうこの村にも迫りつつあるのかもしれない。


その日の午後、エルナ村の広場には村人たちが集まり、皆で防衛について話し合っていた。リラやエリンも参加しており、彼らはそれぞれに緊張の色を浮かべている。リラはエルフらしいしなやかな体つきをしており、長い銀髪が背中を流れている。その冷静な瞳が村の周囲を鋭く見つめ、どこか張り詰めた様子だった。


「ルナ、結界の強化はできる限り進めているけど、もし大規模な襲撃が来たら…私たちだけで守り切れるかどうか」


リラが不安そうに言葉を続けると、エリンがゆったりとした声で皆を落ち着かせるように語りかけた。エリンは年齢を感じさせるが、穏やかな笑みと深い知恵を湛えた眼差しで、村人たちに安心感を与えていた。


「焦らずに、皆で対策を講じればよいのだ。ここにはルナやガルド、そして我々がいる。村全体で力を合わせれば、どんな困難も乗り越えられるはずだよ」


その言葉に、村人たちは小さく頷き合い、少しずつ緊張が和らいでいった。ルナもエリンの言葉に励まされ、改めて村のためにできることを考え始める。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


数日後の夜、村は異様な静けさに包まれていた。月明かりが薄く辺りを照らす中、ルナは静かに村の防衛線を見回りしていた。結界の周囲を巡り、異変がないかを確認する。その時、森の奥から聞こえたかすかな物音が、彼女の耳に届いた。


「…まさか、盗賊が」


ルナの心臓が早鐘を打ち始め、村に緊張が走る。彼女はすぐに広場に戻り、ガルドやリラ、エリンにこの異変を伝えた。


「みんな、すぐに備えてください。おそらく、盗賊がこちらに近づいています」


ガルドは力強く頷き、鍛えた腕で手斧を掴んだ。その眼差しは鋭く、戦士としての気迫がみなぎっている。リラもまた弓を握り締め、冷静に周囲の様子を伺っていた。


「ルナ、あなたは村の守りに集中して。私たちはここで迎え撃つわ」


ルナは二人に向かって深く頷き、防御結界の強化に取り掛かった。彼女は村の人々を守るために持てる魔力を全て注ぎ込み、結界をさらに固めていく。魔法陣が輝きを増し、村を包み込むようにして力強く広がっていく。


しばらくして、村の境界付近に盗賊たちが姿を現した。彼らは暗闇に溶け込むように隠密に行動していたが、その数は予想を超えるほど多く、彼らが持つ武器も見慣れないほど鋭く光っていた。荒れた服装に、獰猛な表情を浮かべた彼らのリーダーが先頭に立ち、村を狙っている。


「おい、ここは平和そうな村だな。どうせ抵抗もできねぇだろう。たっぷり奪ってやるぜ」


リーダーが叫び声を上げると、盗賊たちは一斉に突撃を開始した。しかし、彼らが結界に触れた瞬間、魔力の壁が激しい閃光を放ち、盗賊たちは弾き飛ばされた。怒号が飛び交い、彼らは再び結界を突破しようと試みるが、ルナが張り巡らせた防御はびくともしない。


その様子を見て、ガルドが笑みを浮かべた。


「さすがだ、ルナ。お前さんのおかげで奴らも手こずってる」


しかし、盗賊のリーダーもすぐに戦術を変え、結界を弱体化させるための魔具を取り出し始めた。結界に対する対策を持っているとは、彼らがただの盗賊以上の存在であることを示している。


「ルナ、このままでは結界が破られるかもしれない。急いで他の策を考えよう」


リラが冷静に指示を飛ばし、エリンもまた、何かの呪文を唱え始めた。ルナも焦りを感じながらも、持てる限りの魔力で結界の強化を続ける。


その瞬間、ガルドが先頭に立って、盗賊たちの前に立ちはだかった。彼は屈強な腕で大きな手斧を構え、敵の攻撃を受け止めながら力強く振り下ろす。ガルドの戦いぶりは圧巻で、次々と盗賊を倒していったが、それでも数が多く、村への侵入を完全に阻止するのは難しかった。


「ガルドさん、無理しないで!」


ルナが叫ぶと、彼は微笑みながら応えた。


「心配するな、ルナ。わしはまだまだ元気だ。お前さんは結界を頼む」


その言葉にルナは力を込め、再び結界を強化する。次々と現れる敵を前に、村の防衛は次第に限界に近づいていたが、彼女は最後まで諦めずに仲間と共に戦い続ける覚悟を固めた。


そして、エリンが唱えていた呪文が完成し、周囲に光の壁が立ち上がった。彼の魔法によって村全体に守りの力が加わり、盗賊たちを追い払うように圧力をかけていく。盗賊たちはその強大な防御力に恐れをなし、次々と退却を始めた。


「撤退しろ!奴らはただの村人じゃない!」


リーダーがそう叫び、盗賊たちは慌ただしく森の奥へと姿を消していった。


静寂が戻った村の中で、ルナは深い息をつき、仲間たちと顔を見合わせた。エルナ村を守るために皆が一丸となって戦い抜いたこの夜、彼らの絆はさらに深まったように感じられた。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


リラがそっと微笑みながら、ルナの肩に手を置いた。


「よく頑張ったわ、ルナ。あなたの結界がなければ、私たちはきっと守りきれなかった」


ルナは照れくさそうに微笑み、仲間たちの労いの言葉に感謝の気持ちで応えた。


「いえ、皆さんがいてくれたから、私はここまでやれたんです。これからも、皆でこの村を守り抜きましょう」


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