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結論から言うと、僕はもうすでに疲れていた。
だって、用事もなくこの街に来て、いったい何をすると言うのだろう?
周りは知らない人だらけだし、リップルもいない。
それだけで帰りたくなってしまう。
すると、女の子が木の下で上を見つめている。
木の上には、猫がいて、
まあつまるところ、降りれなくなってしまったのだろうと予想する。
「降りてきていいよ」
僕が木の下に行って、猫にそう呼びかけると、猫は僕を信頼したように、
ストンと落ちてきて、僕の腕の中に飛び込んだ。
「よしよし、もう木にのぼっちゃダメだよ」
僕が猫をキャッチすると、その頭を撫でてやる。
「にゃーん」
猫はそういうと、僕の腕から飛び降りて、
そのままどこかへと言ってしまった。
「えっと、それじゃあ、僕はこれで」
「あ、はい。 えっと、ありがとうございます」
女の子はそう言って頭を下げた。
カッコつけちゃったけど、あとあと思い返せば恥ずかしいような気もする。
あまりにも生前?のキャラと違いすぎるんだからね…
まあ、そんなことを言っても仕方がないだろう。
この世界でくらい、リア充してもいいんじゃないか?
と言ったような邪念が湧いてくるけれど、結局現実でもヘタレを続けてるじゃないか。
そんなことを思いながら歩いていると、立派な建物が目についた。
そしてそこには、「私立ハルマリア魔法学校」と大きな文字で書かれている。
まるで、お城のようなそれは、
初めて見るものを威圧するような感じ。
少なくとも僕には場違いな感じがして、
やっぱり帰ろうと、踵を返そうとすると、「ちょっと」と声をかけられる。
「えっと?」
「この学園を見ていたのでしょう? 何かようなのかしら? それとも、もしかして学園の志望者かしら?」
小さな女の子に声をかけられた。
正直、年はリップルくらいだけど、金色の髪と、活発そうな、陽のオーラにあてられてしまって、
僕は居心地が悪くなってしまった。
「いや、その…」
陰キャムーブをしていると、女の子は一言、
「明日一般人も参加できる魔法大会があるのよ、あなたの魔法はよく知らないけれど、参加してみたら?
この学園が主催しているから、いい成績ならサービスされちゃうかもしれないわよ?」
というか、冒険者初心者のような格好の僕に、よくそんなふうに言えるなあ…
と僕は半ば呆れていた。
けれど、実際に魔法が見れるのであれば、経験にはなるかもしれないと思ったから、
僕は会場と時間を聞こうとする。
「えと、会場と時間を聞いてもいいですか?」
「ふうん、参加する? それなら、登録しておいてあげるわよ」
「えっと…もしかしてあなたはここの先生なのですか?」
「えっと、ま、まあ、そんなところだわ… というか珍しいわね」
「えと、何がですか?」
「いえ、こっちの話よ。 それじゃあ、早速…」
そういって、女の子は僕の腕を掴むと、ポンッと僕の腕に輪っかができて、
「ハルモニア魔法大会 NO314 ノエル」 と書いてある。
「明日の8時、場所は学校のコロシアム1棟よ。 期待してるから」
そう言うと、女の子は学園の校門へと吸い込まれていった。
「えと…なんか気づいたらいきなり試験に参加してた件… それより、勉強も何もしてないけど大丈夫なんだろうか…ぶっつけ本番、ノー勉…うっ、頭が…」
そんなこんなで、学園から少し離れたところで宿を取った。
都心部だというのに、10マニラで足りるのだから、
くる前は30マニラという手持ちに不安があったけれども、意外と大金だったんだなあ。
装備は、布でできたマントと、それから、このお父さんから譲ってもらった、
青銅の剣である。
これは意外と軽くて、使いやすい。
そして…実は厨二病である僕はこの剣で遊び…げふんげふん…研究していたわけなのだが…
つまり…その…ふへへ…
これは僕のとっておきであるけれども、
明日の魔法大会では、目玉になればいいなあと思う。
もし明日の大会で出場者がありえないほどすごかったなら、
僕の隠居生活も確定するわけだけれども…
なにしろ、運が良かったというしかないだろう。
僕はなんだか自分の冒険が始まったような、そんな浮かれた気分になっていた。