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「ノエル…一体その魔法はどこで?」
「いや、これはオリジナルです。 魔法の基礎さえ出来ればあとは応用なので…」
僕がそういうと、お母さんはまあ、と呆れたような顔をしながらいう。
「もうあなたには学校は必要ないかもしれないわね…お父さん、どう思います?」
「うむ、まさかすでにこんなにも魔法を使いこなしているなんて流石の俺でも思わなかったぞ。ノエル、お前はその才能をここで枯らすのは勿体無いな。 お前なら、賢者様のところに弟子入りでもしてみたらどうだ?」
「賢者様?」
なんかいい響きだと思った。
「ああ、この世界の大魔法使いの一人、マリイ・エメラルド様だな。 なんでもすごい魔法を使うんだそうだ。」
「まあ、お父さんったら… 賢者様は本物の大魔法使い、基礎の基礎すら学んでないノエルでは流石に無礼だと思うわよ」
「まあ、それもそうか。 でも、一度くらい本物の大魔法を見せてやりたいところだがな」
「それもそうよね…なんと言っても自分で魔法を作れてしまうのだもの。 恐ろしい才能だわ。 ちょっと考えてみましょうか」
うーん、弟子入りかあ…色々な魔法をみて学べるのは確かに面白いけれど、
賢者様が怖い人だったら嫌だというのはある。
マリイと言ったっけ?
名前的に女性っぽいけれど、賢者様というくらいなのだからおばあちゃんだろう。
「近くにいるんですか?」
「いえ、隣町リアのハルマリア魔法学園の学長をやってるのよ、私も会ったことはほとんどないけれど、入学式の時に大規模な水の魔法で、盛大に祝ってくれたのよねえ」
ふむ、魔法の使い方的に至って平和な感じがする。
「どのくらいかかるんですか?」
「馬車で4時間もあれば着くんじゃないか?」
お父さんが言う。
「それでは今度、挨拶にでも行ってみようかなと思います」
「いや、賢者様にアポもなしなんて、流石に無理があるんじゃ…」
そこまで言われて気づく。
完全にゲーム感覚というか、
異世界ライフって感じだった。
でも、現実世界では引きこもりだったわけだし、
出ていき方もわからないというか、そんな感じだ。
そもそも自分はこの世界で何になりたいのかがわかっていない。
ただ、前の世界で出来なかったこと…
やりたかったことくらい、やってみてもいいんじゃないかとは思う。
僕は誰とも関わってこなかった、
一言で言えば、生きて、来なかった。
人間の喜びを知ることもなかったな。
確かにゲームやパソコンなど、周辺のものは充実していて、
そう言った遊びはできたんだけど、でもそう言って頭で遊べば遊ぶほど、
それを現実でやってみたいと思う気持ちは、強くなるものじゃないだろうか。
RPGゲームの主人公は、旅に出て、魔王を倒す。
誰かを助けることで、英雄になる、
一般人が特別になる。
僕がこの世界で強いのかどうかは、わからないけれど、
でも、そんな存在になりたいとは、思うよなあ…
リップルを見る。
「?」
きょとんと僕の方を見るリップル。
生前の僕には妹や兄妹と呼べるものは存在しなかった。
だから、このまま家族で自給自足を続けるというのも、
魅力的な選択肢ではないだろうか?
いや、でもいつかはリップルだって、誰かと結婚するのだと…?
ぐぬぬ、まあ確かに僕がこのまま行くとすればシスコンの未来になることは間違いないだろうし、
それと同じように僕にだって出会いがあるかもしれないじゃないか…
ここまで考えて自分がこのまま前の生活の延長をやろうとしていたことに気づいた。
僕は外に出なければいけない…
そして、いろんなものを見て、出会わなければならないと。
「あの、行ってみます…その、マリイ様に会いに…」
「えっ? 本当に行くの?」
リップルの不安そうな顔に、
僕の心が痛む。
正直、リップルも来るかと言いたいところだけど、
やはりここは我慢だろう。
「うん、まあでも、アポもないし、多分何もなく帰ってくると思うよ?」
「そっか。 道中はモンスターも出るんだし、気をつけないとダメだよ」
こんなふうに気を遣ってもらえるのは、
幸せだなあ。
生前の?僕にはそんなものは無かった。
みんながみんな忙しくて、
僕のことは…いや、やめておこう。
とにかく僕は、一週間後、旅立つことになった。