魔法との出会い
とりあえずこの世界での生活にもだいぶ慣れてきた。
野菜を育て、時には狩りのようなこともする。
文明が発達した昔の世界では馴染みないことだったけれども、
この世界の両親が教えてくれる。
「って、ちょっとまって。 お母さん、それは何をしているの?」
「何って、罠を仕掛けてるに決まってるじゃない」
「罠って、何もしてないけど?」
「拘束魔法よ。 ここを通ると足を凍らせて動けなくする魔法なんだけどね…」
「何それ怖い…もし僕が踏んだりなんかしたら…」
「大丈夫よ、人間には害のないように組んであるから」
どうやらここには魔法というものが存在するらしい。
そっか、魔法かあ…
「それって僕も覚えられるんですか?」
「えーっと…」
期待していう僕に対してお母さんは目を泳がせる。
まさか僕には魔力が存在しないとか?
そんなことないよな…?
「前に教えようとしたけど、全然興味示してくれなくてね…」
お母さんが悲しそうな顔をしている…
むう、相当に親不孝なやつじゃないか…まあ、僕なんだけれど。
「そうですか、でも今の僕は魔法、興味ありますよ」
「そう、それじゃあね…」
そういうとお母さんが部屋の奥から一冊の本を取り出してくる。
「初級魔法の本…主に火の魔法と、水の魔法、氷の魔法、雷の魔法ね…」
そう言って、嬉しそうに教えてくれるお母さん。
「あのね、お母さんはね、昔は結構有名な魔法使いだったみたいだよ? 魔法学校でもかなり優秀だったんだって…」
リップルが嬉しそうに語る。
「リップルは魔法使えるの?」
僕がいうと、リップルは悲しそうな顔をして、
「私には才能ないんだもん…魔法の本は難しくてよくわからないもん」
なんて、言う。
魔法と言えばイメージの世界だと思うのだけれど、
術式とか、実際は難しい数式なんだろうか。
僕も数学は苦手だった…
というか、頭を使うことも苦手だった気がする。
「じゃあ、ほら、これが火の玉を打ち出す魔法…ファイヤボル。 熱い火の玉を、体の外に打ち出す感覚よ」
そう言われて本を読むと、それは曼荼羅のような、
人の頭の上に、吹き出しのようなもので真っ赤な炎のようなものが描かれている。
「思い浮かべて、それを魔力によって現実化する…それが魔法なの。」
お母さんはそういう。
僕は集中する。
自分の体を流れるエネルギーのようなもの…そしてそれを何倍にも増大させるようにイメージする。
そしてそれを、ぎゅっと圧縮しながら、燃えるような火の玉を想像する。
「燃え尽くせ、ファイヤボル!」
僕がそういうと、僕の手から大きな、それこそ僕の体の半分ほどの直径を持つ火の玉が、
時速150kmくらいの速度で、飛んで行く。
「ノエル、あなたは…」
いくら森といっても、このままじゃ森が焼けてしまうと思った僕は、
そのまま雨を想像して、ファイヤボルが当たって発火した部分に雨を降らすように思考を働かせる。
すると、空に集まってきた雲がたちまち雨雲に変わり、雨を降らせた。
「ごめん、少し、調子に乗ったみたい…」
僕がそういうと、隣にいたリップルが、目を輝かせた。
「すごい…お兄ちゃん、あんなに大きな魔法、見たことないよ!!!」
「え? そ、そう?」
「うんっ、 お母さんのも見たことあるけど、もっと普通だったよ」
「魔力を制限していたんじゃないの?」
呑気にいった僕に対して、お母さんが真剣な顔をしている。
「ねえノエル…あなた、魔法学校に入るべきよ こんなことしてる場合じゃないわ!!!」
「えっ、でも僕は今の生活も気に入って…」
「いや、今のはものすごい才能よ。 私でも見たことないもの。 ノエルあなた…天才だったんじゃないの!!!お父さん、お父さん!!」
そう言ってお父さんを呼びにいくお母さん。
「えっと…」
気まずくなってリップルの方を見る。
「お兄ちゃん、やっぱりすごい人なんだね」
リップルがそんなことを言う。
「違うよ、きっと今のは何かの間違いというか、その…ほら、あれだよ。 能力を制御できてなかったんだよ」
「ううん、それでも制御できる魔力には限界があるって、お母さんは言ってた。 だから、あんなに大きなファイヤボルを作れるお兄ちゃんの才能は本物だよ」
「そ、そっかあ」
「お母さんはお兄ちゃんを学校に行かせるって言ってる。 そうなったら私、一人ぼっちになっちゃうね」
リップルはそんなことまで言い出す始末。
「いや、それはないんじゃない? 僕に才能があればリップルにも才能があるはずだよ」
「でも私は何回もお母さんに教えてもらったのに出来なかったよ?」
僕はさっき雨の魔法も降らせることができた。
だとしたらこの世界の魔法は魔術でもなんでもない、
ただのエネルギー変換だ。
思考エネルギーを使って、体を流れるエネルギーを、
別のエネルギーに変換する。
だとしたらこの世界は夢の世界なんだろうか?
でもとりあえずリップルと離れ離れになってしまうのは、
僕としても回避したいところだ。
「大丈夫だよ、試しに今度は僕が教えてみよう」
せっかくこの世界に来たんだもの、
楽しまなきゃ損だろう。