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「ただいま…」
そう言って帰ってくると、リップルが早速駆けつけてくれた。
「お兄ちゃん! お帰りなさい」
「うん、ただいまリップル」
リップルはよほど僕のことを心配してくれていたようだ。
そして、僕の手に持ったドラゴンの杖をみて、驚く。
「どうしたのそれ?」
「ああ、これはね、僕の新しい相棒だよ」
ニヤニヤと笑いながら、使ってもいないこの杖をリップルに渡す、
杖から漂う莫大なエネルギーを感じることができるだろうか?
「おかえりノエル、マリイ様には会えたかい?」
お母さんが聞いてくる。
「おかえりノエル…それにしても…その、立派になったな…装備が」
お父さんもやはりこの装備に興味が奪われるのか、
子供らしい輝いた目で、僕を眺めていた。
◆
僕は家族に僕の物語を説明した。
・ハルモニア魔法大会のこと、そしてそこで僕は十分に通用したこと
・マリイを含めて、他の魔法使いとは違うやり方で僕は魔法を使っているということ
・その翌日にギルドにスカウトされてギルドに登録したこと
・ギルドの討伐依頼を受けまくって、装備を買ったこと
「それで、この装備はリアの街の武具屋のとっておきのドラゴン装備なんだ、
これを買うために魔物と討伐して、帰るのが遅れちゃったんだけど…」
「ほう…ドラゴン装備ならおそらく50万マニラくらいはするだろう?
しかしそんな大金をどうやって荒稼ぎしたのだい?」
「えっと、その、魔法で… って、50万マニラですか!???」
「ドラゴン装備は本当に希少な伝説級な装備だからね、滅多に手に入らない上に、加工もものすごく大変なんだよ」
お父さんがオタク特有の早口で説明してくれる、
そうか、だとしたらあの武具屋の人には感謝しなければいけないだろう。
もしかしたら僕が貧弱な装備だったから、憐れんでくれたのかもしれない。
いや、僕がそんな金を稼げると思っていなかったからかもしれないけれど。
「とにかく、まあそのギルドで稼いで、買ったんですよ」
そう言って僕ははしゃぎすぎてこなした依頼の報酬を商店街で買った焼き菓子と共に袋から取り出す。
12万マニラはあると思う…正直、
魔法をぶっぱして遊んでいただけなのだけれど、
小遣いが30マニラだったことを考えれば、この金額はものすごい大金であることに違いはないはずだ。
「えっと、まあ、親孝行…ということで?」
そう言って両親に渡したけれど、
お母さんもお父さんも、頭の上に?が浮かんでいた。
「これは、ノエル、お前が得た金かい?」
「そうですよ、この装備を買うためにエルという…えっと、魔法大会で一緒になった女の子がいるんですけど、彼女が装備を僕に貸してくれてですね、
それのおかげで捗った…という感じでしょうか。」
正直彼女がいなければ、もっとかかっていただろうと思う。
それほどまでに彼女の杖は強力だった。
「ふむ、それでノエル、お前は一体このあとはどうするつもりなんだね?」
お父さんが僕の目を見て言う。
僕は答えに困る。
僕としては、このまま金がなくなれば仕事をして、
残りはぐうたら過ごす…というのも悪くない気がする。
しかし、ネットもないこの世界で、
それをするのは、確かに少し退屈な気もする。
この世界に来る前の僕は、本当の意味で社会に参加していなかった。
あの生き方を繰り返すのは、
あまり魅力的な選択肢には見えなかった。
家族で自給自足の生活をして暮らしていくこと、
それも一つの生活の形ではある。
でも、僕はこの世界でもっと遊びたいと思った。
できれば、人ともっと触れ合ってみたいと思った。
「僕は…もう少し、いろんなところを見てきたいなと、思います」
「お兄ちゃん?」
リップルが意外そうな顔をする。
そうか、リップルとは離れ離れになるのか。
確かに、リップルと離れ離れになってまで望むことはないような気もする。
「でも、しばらくは休もうと思います」
そうだ、別に今すぐ決めなくてもいいだろう、
時間はいくらでもあるのだ。
僕はドラゴンロッドを置くと、
しばらく休むことにする。
(親孝行か…そういえば全然できてなかったな…)
体も強くないし、運動も苦手だった、
そのせいでどちらかといえばお荷物だったと思う。
それなのに優しくしてくれていた両親のことが、
急に恋しくなった。
もし、前の世界でも僕にこれだけの才能があれば…
そう思ったけれど、前の世界はそう言った場所ではなかった。
勉強ができたって、友達がいなければ虚しいだけだし、
才能があったって、それが受け入れられなければ意味のない世界だった。
逆にこの世界は、才能さえあれば、ギルドでこんなに大金を稼いで、
大した苦労もなく、他人を幸せにすることができるのだ。
こんなにわかりやすい世界で、
恵まれた才能。
でも、こうして仕事ができるようになったからと言って、
僕の人生自体が豊かになったわけじゃあないだろう。
僕はいったい何がしたいのか?
僕が目を閉じると、
気づけば意識を手放していた。