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「うわっ、入りずら…」
明らかに門番っぽい人がいるし、
正直魔法学校の時の比じゃないくらい入りにくかった。
けれどもまあ、受付の人に杖を返せば、それで十分だろう。
「あの…」
「なんだね? 君は?」
「う、えっと、借りていたエルさんの杖を返しに来たんですが…」
そう言って僕は両手に持っている杖を見せる。
「ああ、これはエル様のものだな、それにしてもどうしてお前がエル様のものを持っているのかな?」
「えっと、それはですね…」
説明しようと思って声を出した時、扉の中からエルが飛び出してきた。
「ルック、大丈夫よ、彼は私が招いたようなものだから…いらっしゃい、案内するわ」
エルがそう言うと、ルックと呼ばれた門番は、ハッと言って、
僕を通そうとした。
「えっと、エル、僕は別に君に杖を返そうと思っただけで…」
「そうね、別にそれでも良いわ。 と言うか何? もう8万マニラ稼いできたわけ?」
「えっと、それが…モンスター狩りが楽しくなっちゃって…」
チラリと目を逸らす。
「相変わらずのバカ魔力ってわけね…それよりもどうなのよ、その…ドラゴン装備というやつは」
「いや、まだ流石に試してないよ…というか、試したらまた止まらなくなっちゃいそうだし…」
「ふうん、じゃあ、試しに私の魔法でも食らってみる?」
そう言うと、エルのアイスボルが飛んでくる。
サッカーボールほどの大きさの球が、僕めがけて飛んでくるが、
アイスボルは、僕のドラゴンローブに当たったが、ローブには霜一つ残らなかった。
「すごい性能ね」
「ほんとだね、確かに防具というだけはある、武具屋のおじさんが思いっきり、斧を振り下ろしても、傷もつかなかったよ」
ぶっちゃけ、強すぎると思う。
ゲームの世界なら、HPがあるとして、
ダメージ軽減とかはあるとしても、0ダメージというのは相当レベルなりを上げてステータスを上げないと到達しないか、一生到達しないかのどちらかだ。
しかし、このドラゴンローブは、物理も魔法も、きちんとした耐性を持っている。
僕自身は、一般人であるけれども、
これを装備すればこの間の火炎狼の攻撃など、びくともしないのではないだろうか?
いや、怖いからシールドを使うけれど。
しかもこれは店売りの装備…つまり金で買えてしまうのだ。
ゲーマーとしては、むしろそこから上、金で買えないものこそ
価値があるような気がしてならないけれども、僕は冒険者だったかしら?
魔王の討伐に向かっちゃう?
いや、そもそもこの世界に魔王なんているのだろうか?
しかし、ドラゴンなるものがいるのであれば、
やはり安心はできないだろう…
「ところでノエルはこれからどうするわけ? 私はそもそもあなたという存在を最近まで知らなかったわけだけど、ノエルって今まで何してたの?」
「えっ…」
エルは痛いところをつくなあと思う。
「その、家族と自給自足生活をしてました…」
「そんなに魔法の才能があるのに?」
エルは驚く。
でも、実際僕は異世界転生? 転移というものをしてきたのであって、
その前のノエルはどうやらクズな引きこもりだっていう話なんだからね。
「というか、魔法を覚えたのもつい最近なわけで…」
「ああ、そうだったわね…と言うかそれって本当なの? わたし、3歳の頃から魔法教育受けてるんだけど?」
「僕のは自己流だからね…」
おそらく相当の努力をしてきたのだと言うことはわかる、
僕はそうではないから、同情されても困るだけだろう。
「あ、そうだ、これ、杖を貸してくれたお礼なんだけど、よかったら受け取ってよ」
そう言って僕はレッドオーガーのペンダントをエルに渡す。
「え? これって何、ペンダント?」
「そう、多分火属性の攻撃を軽減する効果くらいはあると思うよ。 詳しい効果は、わからないけどね」
もしかしたら、僕のドラゴンの杖を強化することも可能かもしれないけれど、
でも、エルにはお世話になったしね。
「あの、これってどう言うつもりなのかしら?」
「え? お礼だけど…」
「そう…そうよね」
エルはなぜか落ち込んでいる気もするけれど、
よくわからないな…
「とりあえず僕は家に帰ることにするよ…この後のことはわからないけど、
ギルドの依頼は定期的にこなして自立する感じにはなるんじゃないかなって感じかな…」
「ふうん…まあ、こっちに来たらたまには会いに来なさいよ」
エルがそう言う。
「え…」
僕の一言に今度はエルの顔が引きつる。
「…はあ、あなたって鈍いわよ、色々」
「そう?」
「ええ、ペンダントなんて送っといて、本当にそれでさよならって感じじゃない」
なぜかため息をつくエルに僕は非常に居心地が悪くなる。
「えっと、ごめんなさい」
「謝られると私も困るんだけど…」
エルはそんなふうに言う。
はっきり言うが僕はイケメンという柄ではなければ、
むしろオタクでインキャなのだから仕方がない。
でもまあ、無双チート系主人公といえば、自信たっぷりのイケメンと決まっているわけで、
いくら中性的な容姿とはいえ、中身がこれではせっかくのチートも台無しだ。
どうせ僕はモンスター相手にしかイキることのできない臆病者さ、
いや、でも確かに僕ももうそんな歳なんだろうか?
そう考えて僕はまじまじとエルの顔を見てしまう。
整った顔と、深緑色の髪…真面目清楚系ではあるけれども、
学生のせいで少しだけ幼さも残っている完璧ぶり。
キサラギのような可愛い全開というような感じでもないけれど、
彼女はお嬢様属性まで持っているわけで…
そんな邪念にかられて僕はエルから目を逸らした。
エルはエルで、僕にそういう目で見られたことに気づいたのか、
ちょっとだけ頬が紅かった。
「で、今更私の魅力に気付きましたの?」
お嬢様言葉で威圧するエルに、
僕は「はい…」と目を逸らすしかできないわけで。
「ふふっ、あなたって女性慣れしてないのね…ふうん。」
急に分析しだすエルに対して、
僕は逃げ出すように急用を思い出す。
「あっ、このままだとその、今日中に帰れなくなっちゃうから、それじゃあ、ごめんね」
僕は礼儀も忘れて逃げ出した。
中身を覗き込まれるような視線が怖かった。
僕は内面を覗き込まれるのは嫌いなんだ…
つまり、臆病なのだから。
いや、そんなふうに言い訳をしたら、余計にガチっぽいじゃないか、
僕は魔法使いだ、いや、誇ることじゃないけれど。
僕は商店街でお土産の焼き菓子を買って帰った。