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「討伐ご苦労様です! いきなり大仕事でしたね」
ギルド支店に戻ってくると、
先程まで案内してくれた人が笑顔で対応してくれる。
「うん、とりあえず倒しました…報酬の受け取りは?」
「確認させていただいてから…ということですが、そのペンダントは…」
「レッドオーガーの首につけられていたやつです…討伐の証になればいいと思って」
「そのペンダントは火属性を軽減するようで市場にだせば莫大な金額になりますよ…
それでは、早速報酬の方をお支払いいたします!」
そう言って、5000マニラの大金入った大袋を渡される。
すごい大金だと思うけれども、
命懸けの仕事なのだから、当然稼げなきゃ誰もやらないか…というような気もする。
早速お土産でも買って、家に帰ろうと思い、
帰りに商店街の方に寄っていくことにした。
…
「それにしても、流石にこんなにでかい袋を背負っていたら、目についてしまうな…」
そんなわけで、早速まずは武器屋にでも入ってみることにする。
「あら、いらっしゃい。 ここはかなりの品揃えのある武器屋さ」
そう言って、いろいろな武器を見せてくれる。
剣一つとっても、大きくて重そうなものから短剣のようなもの、
槍、斧など、色々あるなあ。
お父さんは戦士だという話だし、強そうな剣でも買っていったら喜ぶだろうか?
僕は厨二チックに魔法戦士…というのが今の感じだけれども、
憧れとしてはやはり杖…長杖は欠かせないと思う。
回復魔法から、攻撃魔法まで、しっかりこなす杖…
うむ、かっこいいなあ。
そんなことを思っていたら、今持っている青銅の剣が10マニラで売られていた…
ふむ、これは安いのか、それとも高いのか…
動きやすそうなローブ、軽鎧…ふむ、迷う。
もし、レッドオーガーとの戦いでも、少し油断していたら丸焦げになっていたかもしれないと考えると、
やはり属性耐性だろうか…それとも、物理防御を上げるべきだろうか…
「お客さん、もし金があるなら、いい品が入ってるよ!」
そういって奥に案内されると、なるほど、
確かに頑丈そうなローブと、長杖のセットがあった。
「レッドドラゴンの鱗で作られた装備だな…こいつは今日はいったばっかりだけど、
普通なら1年待ちとかが普通の品だぜ」
「そうなんですね、いくらなんですか?」
「10万マニラ…と言いたいところだが、8万マニラだな…」
「うえー、流石にそれは高くて買えませんよ」
「なんて言ってもSランクの魔物の素材だ…ロマンだろう?」
「あはは…遠慮しておきます…お土産も買わなくちゃいけないので」
それにしても、ドラゴン素材の防具か、ゲームなんかでは強い部類に入るけれど、
やはり憧れであることは間違いない。
というか、それほどの素材のものがこうして店売りに出されるということ、
しかし、レッドオーガー1体で5000マニラと考えると、やはり高すぎるような気がする。
どうせなら、ドラゴンを1体倒してきて、作ってもらうか?
いや、流石にはしゃぎすぎだ。
「しかしお客さん、そんなチンケな装備じゃ幾つ命があっても足りないと思うぜ?」
まあ、確かに僕には鉄壁のシールド魔法があるけれども、
確かにこのままってわけにはいかないのも事実だ。
武器は別にいいとしても、
やはり防具くらいは買っておくべきか…
「じっさいな、防具っていうのはガチで硬いんだぜ? 試しに、この5000マニラのドレイクの皮製のマントを着たマネキンその剣で切ってみ?」
「え、でも商品じゃ…」
「いいから、実際に体験してもらうのが一番なのさ!」
武具屋のおじさんがそういうので、
僕は仕方なく、全力で切らせてもらうことにした。
「じゃあ、えいっ」
そう言われたけれど、確かにこのマントは頑丈で、青銅程度の硬さのものであれば、
ギンッ、という感じで弾いてしまうのだ。
これにはちょっと興奮した。
「あちゃー、お客さん、剣の腕が全然ダメだね… 剣ってのはね、こうやって振るのさ!!!」
そういうと武具屋のおじさんが思いっきり力を入れて、
ガツン、とマントを切り付ける。
かなり本気だった…
しかし、やはりマントは硬く、ガキン、と弾かれてしまう。
「ほらね、これが防具ってもんさ、試しにお客さんの布のマントでも同じように切ってみようか?」
武具屋のおじさんのドヤ顔に、ちょっとイラッとしながらも、
僕は防具の重要性を教えられた気がした。
「じゃあ、防具だけ…」
僕がそういうと、おじさんは
「ダメだ、武器もそんなんじゃ、今みたいに弾かれちまうぞ? ちなみにお客さんは戦士なのかい?」
「いえ…魔法使いです。」
「ふうん、それじゃあ、杖の能力も知らないってわけだ。 剣は武器で、魔法の力を高めるわけじゃない…つまりこっちも試させてやるから、買ってきな!!!」
そう言って、武具屋のおじさんはまた奥の部屋から杖を取り出してくる。
「ほら、持ってみ?」
そういうと、レッドドラゴンの素材でできた杖…を持つ。
一言で言えば、軽く、そして驚くほど手に馴染んでしまった。
「ほら、感じるか? 自分の魔力が強化されてるのが?え?」
「あー、これは確かに、すごいことになりそうですね」
試しに指先にエネルギーを集中して、ファイヤボルを生成する。
すると、自分の体を動かすのと同じように、スムーズに、かつ無詠唱で、
ファイヤボルが生成された。
「へえ、すごいですね、これは…」
「こいつはただでなくてもレッドドラゴンの生命力を宿していたんだ…お客さんみたいな火の魔法なら扱いも容易いぜ」
「いや、これは試し斬りしたくなっちゃいますね…」
「だめだぜ? こいつは8万マニラだ」
「ふむ、8万マニラって、どれくらいのモンスターを倒せば溜まるものなんです?」
「うーん、大体Aランクが15000マニラだとして、これを6回ってところじゃないかな」
「ふうん、じゃあ、Sランクなら?」
「Sランク? お客さん死ぬ気ですか? そんな装備で勝てるほど甘くはないぜ?」
「じゃあさ、この装備貸してくださいよ。 秒で稼いできますんで」
「は? 何言ってんだよ、貸出なんて、そんなのできませんよ!」
「そうですか、じゃあ、とりあえず保留にしておきます…」
「そうですか、死んでも知りませんよ、俺は」
「…だって金ないんですもん」
大体にして、僕はお土産を買いに来たのであって、
自分の装備を整えている場合じゃないだろう。
悲しい気持ちで、武器屋を出て行こうとすると、
ちょっと、と声をかけられた。
「なんですか…僕は今、悲しくなっているところなんですよ…」
不貞腐れながら、顔を上げると、そこには
ハルマリア大会で一緒に戦ったエルが、立っていた。