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第二の実践に関しては、魔物も弱かったので、
大した見せ場にはならなかった。
エルは得意の氷の魔法で凍らせた後、パリンと割り、
キサラギは初級のファイヤボルでKO
ハルキも距離をとりながらサンダボルで粉砕。
僕も似たような感じだった。
正直、このメンバーであれば魔物との戦力差がありありと見てとれた。
「そ、それでは気を取り直して、最後の大目玉、火炎狼です。 一応例年としてもかなり強いモンスターでして、炎属性なので、ノエルさんとキサラギさんは、不利だと思われます。 防御装甲も硬いので、多少の魔法であればピンピンしてるはずです。 それでは最後はこいつを協力して倒せるのかということで、やってみましょう!!! あ、もしやられちゃってもきちんと保護しますので、そこはご安心くださいねっ」
そういうと、火炎狼の入れられた檻が音を立てて開く。
その瞬間に、コロシアムの気温がグッと上がる。
「エル、火炎狼は強いのですか?」
「強いってレベルじゃありません。 例年よりも2段階は強いモンスターよ」
そう言って、エルが氷の魔法で動きを封じようと試みるが、
氷が炎によって溶かされてしまっている。
「嘘だろ…こいつは何が弱点なんだ?」
「…明らかに炎は効かないにゃ…だから私たちは戦力外…逃げるしかないにゃ」
そう言って、逃げるキサラギに、火炎狼が向かう。
「速いっ!?」
慌ててハルキがサンダ・ボルを生成し当てるが、分厚い毛皮に覆われた火炎狼には弾かれてしまう。
「キサラギさんっ」
僕はキサラギの前に立って、分厚いシールドを作る。
ガキンッ
火炎狼の鋭い爪が、シールドに当たって弾き返される。
(えっ…)
これには正直僕が一番びっくりした…
僕の貼ったシールドは、それほどに頑丈だったらしい。
それなら…これはどうだろう?
僕はそのまま火属性魔法であるファイヤボルを発動する。
「ファイヤボル!」
僕の身長の半分ほどもあるファイヤボルが、高速で火炎狼に向かって飛んで行く。
「何をやってるんだ! 火炎狼は炎属性の攻撃を吸収するんだぞ!!」
ハルキが叫ぶ。
しかし、高速でぶつかった巨大な火の玉はそのまま火炎狼の皮膚すら焦がした。
「…ガルル」
火炎狼が怒りの声を上げる。
ふむ…僕はそのまま右手の人差し指でアイスボルを生成し、飛びかかってきた火炎狼の体に、思い切りぶち込んだ。
火炎狼の身体は凍りついたまま砕け散り、
跡形も残らなかった。
「えっと、勝ったね。」
僕がそういうと、他の三人は恨めしいような、
非難の視線を送ってきた。
僕は居心地が悪くなって、乾いた笑いで誤魔化そうとする。
「ふうん、さすが私が見込んだ魔法使いなだけはあるわね!」
そういうと、上からぴょいと、何かが降りてきて、
その方向を見つめると、そこには昨日会った女の子がいた。
「が、学長!!」
エルが声を出す…
え、じゃあ、この人が…
「えっと、じゃあ、あなたがその、賢者のマリイ・エメラルド様ですか?」
「いや、リアの街で私を知らないのなんてあなたくらいのものよ? 銅像もきちんとあったでしょう?」
マリイはどうやら相当に有名らしい、
そりゃそうか、賢者様だもんね。
「えっと、見てませんでした。 名前は知っていたんですよ」
「はあ、それにしても、最初のあの技、一体何? ファイヤボルもあの威力となると…あなたの体からはそこまでの魔力量は感じないのだけれど?」
「ああ、僕は大気のエネルギーを思考で変換してるんですよ。 だからその、魔力のようなものは多分…」
僕がそういうとマリイは空いた口も塞がらないと言った様子。
いやね、だってそれで魔法が使えちゃったんだから仕方がないっていうか…
「…他にはどんな魔法が使えるの?」
「いや、自己流だからその…魔導書は家にあった入門編のやつしか読んでいないので…」
「はあああああああ!!!!!!! あんた頭おかしいわよ、なんでそれで魔法使えるの? 私たちの魔法のシステムとは全く別のシステム使ってるじゃない!!」
「じゃあ、これも使えるの?」
そういうと、マリイは力を集中すると、ゴロゴロと雲が音を立てて…
それからマリイが腕を振り下ろすと、見事にズドン!!!という音と共に雷が落ちてきた。
僕は同じように思考を集中させ、雲の上にエネルギーを注ぐ、
そしてそこから、一気に地面に落とすようなイメージで、腕を下に振り降ろした。
すると、同じように、雷が落ちた。
「ふうん、あなたを私の弟子にしてあげようと思ったけど、必要ないみたいね」
「え? なんでですか」
「いや、だって上級雷属性魔法ですら、あなたは簡単に習得してしまったのよ? あなたは思考エネルギーを実際のエネルギーに変換している。 つまりあなたはこの世界では無敵というか、なんというかもう規格外の存在じゃない…あなたはその気にさえなればもっと強い魔法すら自分で創造することができるわ…つまり何が言いたいのかっていうと、ああ、こんなことを私に言わせるわけ? 大体にして今年は難易度を上げて生徒達のプライドをへし折ってやろうと思ったのに、残念だわ!!!」
「えと、なんかすいません…」
「いいのよ、それよりあなたにはこの学校の特等生なんかじゃ足りないわ。 なんなら私が弟子にでもなろうかしら?」
そう言って僕の顔を見つめるマリイ…いや、賢者様。
「いや、その…」
思わず顔が赤くなってしまう、
そう、マリイは小さくはあるが可愛い系美少女なのだ。
「マリイ様!!!」
他の教師が注意すると、
退屈そうにマリイは冗談よ…と言った。
「でも、ノエルの防御術式は火炎狼の攻撃を弾くどころか、びくともしていなかった。
どうせ放っておいてもギルドの勧誘も激しくなるでしょうね… 」
こうして、魔法大会は幕を閉じたのだが、
マリイの予言がこうも早くに的中することになるとは、思いもよらなかった。