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欲の断罪者と欲の大罪者  作者: 徒華
3/4

3 ira 上

布敷ねむりを断罪した紅音。

次の大罪人を探し始める。

ー3rd sin irawrathー

怠惰を断罪したことにより残りは5人。

ギリッ。私は爪を噛んだ。

布敷の言葉が脳にこびりついて離れなかったのだ。

権能の手に入れ方を教えていたのが蒼だったなんて。

いや信じられない。だって相手は大罪人なのだから。

「ねぇ。」

不意に後ろから声がした。

「布敷……。学校に来てたのね。」

そこにはパーカーのフードを被りマスクをした布敷がいた。

「まぁ。権能がないとサボれないしね。高校は卒業しろって親がうるさいんだよ。毎朝車で送り迎えされるしさ。」

「思ったより元気そうで何よりよ。で何か用?」

「いや?蒼の情報聞きたいんじゃないかなって思ってさ。協力しようかな?って感じ。僕も君の近くにいれば変なやつに絡まれないしさ〜。権能うばったんだからいいよね?」

「蒼の情報が本当なら別にいいわよ。」

「なんで嘘つく必要があるのさ。まぁ信じるかはあなた次第!ってやつ?」

そう言うと布敷は白い手を差し出してきた。

ここは少しでも蒼の情報が欲しい。そして布敷に対して少し感じていた罪悪感「世界から解放してくれよ!」「変な奴に絡まれないしさ〜」

と言った布敷の声が蘇る。

それならば私が取るべき行動は。

「わかったわ。」

手を握り返すと布敷はとても嬉しそうに

「やった!交渉成立だね!」と言った。

「じゃあ連絡先交換しよ!」と言われたのであまり開いたことの無いアプリを開き交換をした。

目をキラキラさせた布敷は「ありがとう!友達みたいで嬉しいな〜!」と喜んでいた。

「じゃあ僕、お昼は保健室で食べるからじゃね〜」

忙しい子。まぁなんであれこれで蒼には近づいた。

さて次の罪人は……。

「あ〜か〜ね〜!!お腹空いた〜!!ご〜は〜ん〜!!」

私の思考を遮ったのは元気な日和の声だ。

彼女はこちらに向かって走ってきていた。

可愛らしいな。と思いながら待っていると。

「桜さん!廊下は走らないでください。何度言ったら分かるんですか?」

突然大きく鋭い声がした。そして続けて

「その大きな声も迷惑なんですよ!もう少しお淑やかに出来ないんですか?」

と言った。

確かに日和にも非はあるが生徒の前で生徒がそこまで言う方も言う方ね。

きっと私も日和のことが好きなのだろう若干の怒りが湧いた。

カツカツカツ

「ここで大声で怒鳴りつけるあなたもあなたでうるさいわよ。それに先生でもないのに何の権限があって人に説教してるのかしら。」

静かにそう言いながら私は謎の女子生徒に近づく。

まさか指摘されるなんて思わなかったのだろう。

急に顔を真っ赤にし女子生徒は叫ぶ。

「な。あなたこそなんなんですか?まさかあなたはこの非常識な女子生徒の味方なんですか?!」

何この子ヒステリー持ちなの?

「確かにこの子も廊下で走ったり大声出したり少しは落ち着きなさいよって思うけど、ただ注意すればいいだけのことをわざわざ吊るしあげるように怒鳴りつけるなんてあなたも非常識の部類じゃない?」

と言うと彼女は

「チッあなた達みたいな人達、いつか痛い目みますよ。」

と悔しそうな表情で意味深なことを言って去っていった。

「はぁ……。」

若干の疲労を感じつつ怯えている日和を見る。

「……紅音ごめんね。」

申し訳なさそうに私に言った。

「別にいいわよ。ただあなたももう少し落ち着いて。声もちゃんと聞こえるし私は逃げないから。」

「はぁい。」

「さ。ご飯食べに行きましょ。」

タンッタンッタンッ

コツコツコツ

異なる2つの足音が階段を昇っていく。

「日和。あの女子生徒知ってるの?」

気になってたことを歩きながら聞く。

「何度言ったら」という言葉が引っかかっていたのだ。

「あぁ……。うん。私のクラスの委員長なんだ……。|木葉智世(キバチセ)さん。」

「え?」

私のイメージと違う。

「木葉さんって大人しい人じゃなかったかしら?」

「普段はそうなんだけど、ここ数ヶ月で急に様子がおかしくて……。ルール違反とか常識に過敏に反応して怒鳴ってくるの。すごい怖くて……。」

泣きそうになりながら日和は言う。

私が断罪してる間にそんな事が起きてたなんて。

なんだかいつもより憔悴してる?

「大丈夫なの?」

「うーん。まだ大丈夫だよ!ただクラスの空気がすごい重くて息苦しいかな。」

「私に出来ることがあったらすぐに言って。」

「うん!紅音ってやっぱり優しいな〜。どうしてほかの子は知らないんだろうね?」

「日和にだけだからだよ。」

「え〜?照れる〜!」

日和はたった1人の大切な友達だからただそれだけだ。

そのまま談笑しつつご飯を食べ、私達はそれぞれの教室へ戻った。


その夜夢を見た。

「お父様!蒼が蒼が!」

「放っておけ。あんな出来損ない。」

「そんな…。」

目を赤く腫らした幼い私は父親の言葉に絶望した。

自分の息子がいなくなったのに『出来損ない』と切り捨てた。

「ならば!私一人で探します!」

駆け出そうとする私を止めたのは母親だ。

「おやめなさい紅音。貴女が何かに巻き込まれたらどうするの?」

もう巻き込まれている蒼はいいのですか?!

言いかけた言葉は飲み込んだ。母も父も(できそこない)に情を持つ私を冷たい目で見ていたからだ。

「わかりました。勉強をしてきます。」

「そう。それでいいのよ。私の可愛い紅音。」

満足そうな母と父を前に私の心は冷えていった。


最悪の目覚めだ。

こういう時こそ日和に会いたい。

そんな気持ちを持ったまま昼に日和を待った。が

「……来ない。」

あまりにも遅い。

彼女はお転婆で天然だが遅刻とかをするような子ではない。

しょうがない。探しに行こうかしら。

と彼女のクラスへ向かう。

「うわぁぁぁぁぁぁ!!」

突然叫び声が聞こえ5組の方から男子生徒が焦った様子で廊下を走って行った。まるで何かから逃げているようだった。

「え。」

「何あの子。こわ。」

「あれ5組のやつだろ?」

「何かあったのかな?」

様々な憶測が飛び交う廊下を歩き5組に行くと5組はさっきあの生徒が飛び出して行ったとは思えないほど異様に静かだった。

「ねぇ。」

不気味に思いながらも入口近くにいた女子生徒に声をかける。

「はい?」

「このクラスに桜日和って子がいると思うのだけれど……」

「桜さんは今日は休みです。」

最後まで言うより先に私の言葉を遮るように女子生徒は言った。

「……わかったわ。ありがとう。」

あまりの不気味さに私は礼だけ伝えてその場を去った。

とりあえず、日和に「大丈夫?欲しいものとかあったら言って。」とメッセージを送り午後の授業を受け、帰り道を久しぶりに1人で歩いた。

日和の家の前を通るととりあえず電気も点いているし日和の父親の車もあったためひとまず安心して自分の家に入った。

まぁ日和のことだから「期限切れたお菓子食べちゃった……。」ってしょんぼりしながら次の日には来るはず。

そう思った私と裏腹に日和は次の日も更に次の日も学校には来なかった。

「なんで……。日和に何があったの?」

そうだ!メッセージは?私が送ったメッセージはどうなった?

普段自分からはなかなか開かないメッセージアプリを開くがそこには返信どころか既読すら付いていなかった。

何かがおかしい。嫌な予感がする。

授業が終わったあと私は連日1人の道を全力で走って日和の家へ行った。

ピンポーン

「すみません!紅音です!日和は?」

「あぁ……紅音ちゃん……。日和は……とりあえず中に入って。」

中から出てきた日和の母親は憔悴しきった顔で私を出迎えた。

「ごめんね。こんなのしかないけど……。」

紅茶を淹れてくれる。

「ありがとうございます。いただきます。」

「…………。」

「…………。」

しばらくの沈黙のあと日和の母親は話し出した。

「……実はね日和は部屋に閉じこもったまま出てこないの。ご飯もそんなに食べてなくて……。叫び声が突如聞こえたり、話しかけても返してくれなくて……。もう部屋の中で何をしてるのか……。」

そう言うと母親は泣き出した。

私は絶句してしまった。

だって日和はお母さんとも仲が良くていつも「お母さんの作るご飯が美味しくて幸せ〜。」なんて言うくらいなのに。

「理由もわからないのですか?」

「えぇ……。」

「もし良ければ入っ「ぎゃあぁぁぁぁぁぁ」。」

私の声をかき消すように叫び声が聞こえる。

「日和!」

私の足は自然と階段を駆け登り彼女の部屋の前に来ていた。

ドンドン!

「日和!開けて!私よ!紅音!!」

「お願い日和……。」

母親と必死にドアを叩く。

部屋の中からはすすり泣く声と

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」という声が聞こえる。

「お母さん。ごめんなさい。でもこうするしかないと思うの。ドアを壊してもいいですか?」

真剣な目で伝える。

これは外の世界で待っていてはダメなやつだ。

無理やりにでも開けて日和を助けなければ!

母親は静かに頷いて

「ごめんね。紅音ちゃん迷惑かけて。お願いします。」

私もしっかり頷く。

「日和!ドアの近くにいるなら離れて!」

そう言ったあと……

ヒュン!

ドゴッバギッ!

私は全力の蹴りてドアを蹴破った。

急いで開いた部屋の中を見て私たちは絶句した。

部屋の中は暴れたような跡があり部屋の真ん中に座り込んでいる日和はどこかを虚ろな目で見つめ「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい。」とひたすらに呟いている。

「日和!日和!しっかりして!」

母親が揺さぶる。

母親と目があった瞬間

「おかあ……さん……?」

と言って倒れてしまった。

「日和ーーーー!」

母親の叫び声が響く。

「おばさん、落ち着いて。」

なんとかおばさんを落ち着かせて日和に駆け寄ると彼女は寝息をたてていた。

その目の下には濃く、黒いクマがあった。

「ゆっくり休んで。」

「おばさん、大丈夫。日和は寝てるだけ。ベッドに移してあげよう?」

「よ、良かった……。そそそ、そうねベッドで寝かせてあげなきゃ!」

まだ若干混乱している母親とともにプリントが乱雑に置かれているベッドを直し、そこに日和を寝かせた。

……日和はこんなに物を乱雑に扱う子じゃない。

綺麗に整理整頓されたクローゼット。

彼女がそれだけ外にでていないことを痛いくらいに証明している。

それにあの濃いクマ……日和をこんな風にしたやつが罪人であろうとなかろうと私が殺す。

私は静かに誓った。


その夜また夢を見た。

死んだ目で通学路を歩く私だ。

きっと断罪と蒼探しで疲れているのだろう。

「あーかねっ!大丈夫?」

ぎょっとした顔の日和は聞いてきた。

「……。」

「あっ!今日お母さんがケーキ焼いてるらしいの!紅音もたべよ!」

黙り込む私を連れて彼女は家へと向かった。

ケーキをひと口食べるなり泣き出す私に慌てる日和。

目覚める直前彼女の言葉が聞こえる。

「大丈夫。私も協力する!紅音を助けるから。」

日和は蒼を探すことをずっと手伝ってくれている。

今もだ。

最初は近所しか行けなかったものの、少しずつ探す範囲は広くなっていった。

「私…日和に支えられてばっかね。」

ならば今私がすることはただ1つ彼女を救うことだ。

何が原因なのだろうか。

…そういえば1つ引っかかることがあった。

「最近の5組の様子…。」

日和がいるかを聞きに行った時叫びながら走っていった生徒。クラスのあの異様な空気。

何かあるに違いない。

少し調べてみよう。

それには協力者が必要ね。


次の日の昼。私の足は保健室へむかっていた。

「失礼します。」

「あら?白雪さんどうかしたの?」

男子から絶大な人気を誇る桃井先生が尋ねてくる。

「布敷さんに会いに来ました。」

「え?!布敷くんに?彼ならそっちの部屋にいるけど出てくるかしら…ちょっと確認してくるわね。わぁっ!」

机の上にあった絆創膏の缶に肘が当たり倒してしまった。

「大丈夫ですか?」

「ごめんね〜。ついでに1枚いる?」

絆創膏を笑顔で差し出してくるがなんだか気持ち悪くて「いえ自分で持ってるので」とやめておいた。

「あらそう。布敷くーん!白雪さん来てるけど〜?」

一瞬声を低くなった?気のせいかしら。

そのまま待っていると

「あれ?どうしたの?」

とキョトンとした顔の布敷が出てきた。

「お昼ご飯と聞きたいことがあるの。」

「え〜聞きたいことって何〜?」

そう言って戻っていく布敷の後ろに続いて部屋に入った。

「5組について何か知ってる?」

「5組?う〜ん。」

私のよりも少ないお弁当をつつきながら布敷は考えている。

「違和感とかでもいいの。」

「統率がとれてるクラスなイメージかな?委員長めっちゃ怖いよね。サボる時もあの教室だけは行く気にならなかったよ。」

今なんて絶対入れないね。

そう言いながらまだ残っている弁当箱を片付け始めた。

「木葉さんってそこまで怖いイメージなかったのだけれど。」

「あ〜1年生の時は知らないよ?2年生になってからすごいみたいな話は職員室で遊んでた時に話題になってたよ〜。てかなんかあった?君ってさ大体1人で何でもやるでしょ?蒼くんが言ってたよ。姉は誰にも頼らなくていいんだよって。」

蒼という言葉に胸がちくりと痛む。

「別に。」

「え〜僕たち友達なのに〜。」

「サボってるときに何か噂とか聞かなかった?」

「やだよ。僕ばっかり教えてるよね?君がなんで5組のことを知りたいか教えてくれたら教えてあげるよ。」

不貞腐れたように布敷は言った。

どうしようか。

「ま。なんとなく分かるよ。桜さん関係でしょ?」

「どうしてそう思うの?」

「だって普段君は桜さんとお昼ご飯を食べるはず。そして桜さんは5組。なら桜さんに何かあったって考えるでしょ?」

「意外に観察力あるのね。」

「肯定ととっていいんだよね?」

「……そうよ。」

「やった!大当たり!」

「日和がずっと休んでる。家に行った時にも錯乱状態で叫んでいた。学校でも5組から奇声をあげて逃げていく生徒を見ているし教室の異様な雰囲気も見たの。だから調べてる。」

「ふーん。なるほどね〜。君って意外に友達思いなんだね。」

「日和だけよ。」

私の言葉に少し悲しそうな顔をした布敷はすぐに表情を笑顔に戻した。

「木葉智世は大罪人である。」

「え?」

「学校の掲示板のよくある噂さ。でも調べる価値あるんじゃない?」

「ありがとう。」

キーンコーンカーンコーン

予鈴が鳴る。

「僕いつもここでご飯食べてるからまた何かあれば来てよ。僕も楽しそうだから色々見てみるよ。」

「そう。わかったわ。ありがとう。」



7000字を超えそうなので2つに分けます。

少しずつ前のものも改変してますので良ければ読み直ししてみてください。

SNSもやってますので良ければフォローしてみてください。

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