章1 superbia
乾いた音がした。
鋭い痛みがした。
誰かが何かを叫んでいた。
きっと死ぬ。
青い月を思う。 明るいあの子を思う。
蘇る走馬灯。
消えていく光
深い意識の底に落ちた。
一Prologueー
「いいか、お前たちは今日から断罪者となる。狩り続けろ紅音、蒼」
ピロン♪
「アナタは⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎になりました。」
綺麗な満月の夜、蒼はいなくなった。
彼の瞳と同じくらいの、ゾッとするほど青い月だった。
【欲】ほしいと思う心。むさぼりほしがる心。
【大罪人】 欲が強くなりすぎた故に危険な"権能"と呼ばれる力を得た者
【断罪者】 大罪人の権能、欲を狩りその者を社会に戻す努力をする者。中には少し権能を使える者もいる。
この世には当たり前だが人間がいる。
そして人間には「欲」がある。
欲は時に人の原動力となりその人に利益をもたらす。
しかしその欲求が強く、醜くなるとそれはもはや利益をもたらすものではなく破滅させるものとなる。
昔の話だ。
増えていく犯罪に政府は頭を悩ませていた。
政府の犯罪研究機関が調べたところ大きな犯罪を起こした者は過去に規模は小さいが同じ種類の犯罪を起こしていた。
だがこの関連性に気づいたとて政府には防止策がない。
小さい犯罪を起こした者全員が将来大きい犯罪を起こすとは限らないからだ。
だがある時に状況は一変する。
断罪者を名乗る者たちが現れたのだ。
「あなた達が気づいた犯罪者の関連性は全て『欲』によるものだ。
私たちは『大罪者』と呼んでいる。
欲は大きく7つに分けられる。
それがかの有名な「七つの大罪」だ。
「superbia」「avaritia」「invidia」「ira」「luxuria」「gula」「pigritia」
この欲が強くなりすぎた者が『権能』を手にしその力を邪に使っている。そしてそれを「狩る」のが断罪者つまり私たちだ。」
もちろん政府は信じるわけがない。
だが関連性に当てはまる犯罪者のもとへ断罪者たちを連れていったところ暴れていた犯罪者は急に大人しくなった。
驚く政府へ断罪者たちは言った。
「私たちは欲・権能を取り除くことができるどうか私たちに任せてくれないか。」
信じられない。任せる訳には…と渋る政府へ続けて言った。
「ここで断ったとてあなた達にどうにかする術などないでしょう?」
そう言われては政府も承諾するしかなかった。
私は代々続く断罪者の家系の娘だ。
断罪者として欲を狩る傍ら私は弟を探している。
あの日突然いなくなった弟を。
おっと、そろそろ「断罪」の時間だ。
ー1st sin superbia ー
「なぁなぁアイツ、白雪紅音だっけ?相変わらずすました顔してるけど可愛いよなぁ。1発ないかなぁ?」
「お前アホだろ。てかあの子"断罪者"って噂じゃんやめとけよ」
「はぁ?お前ほんとに欲が暴走したやつは狩られるって信じてんのかよダッセー。」
はぁ。うるさい。
学校なんてもの行くだけ無駄ね。
私は普段私立メイリス学園高校の2年生として生活している。
進学校らしいけど進学校って名ばかりの猿の集まりじゃない。
いつか断罪者の役目にも終わりがきてその後で苦労しないようにって行かされてるだけ。
そしてこの学校では大きな欲を抱きやすい年頃の子どもが集まること、そして多少裕福な家庭の子どもが多いからか大罪者がとても多く生まれていた。
だからその監視も兼ねている。
調べてもらったところこの学校には今回「傲慢」、「怠惰」、「憤怒」、「色欲」、「暴食」がいるらしい。
今回の大罪人「傲慢」の持ち主を早く断罪して1週間ぐらい休みたい。
まぁ大体「傲慢」の権能を持つやつはバカが多いから苦労せず見つかるはずだけど……。
ガラガラ!!
大きな音を立ててドアが開く。
「はっはー!今日からお前らは俺の奴隷だ!!」
「は?いきなりどうしたんだよ井上。」
「俺は権能を手に入れた。"傲慢"のな!」
「は?何言ってんのどうしたんだよお前笑。頭ついにイカれたか?笑」
「お前……いい時計してんな俺に寄越せよ!」
「だから…お前頭大丈夫か?って……えぇ?!」
「ま、正人大丈夫?!」
「春香!助けてくれ!勝手にう、腕が……ぁぁ」
意思では抵抗しているのに素直に時計を差し出そうとする体。間違いない。権能ね。
王也の手にはスマホが握られそこには「アナタは傲慢の大罪人となりました。」と書いてある。
思ったより簡単に見つかったわ。
やっぱりバカは楽でいい。けど……
「ふん。これでこの時計は俺の物だ。」
「か、返せ!僕のだぞ!」
差し出した体制のまま動けないままのクラスメイト、そしてその周りの人達に向かって彼は叫ぶ。
「俺様、井上 王也様に従え!」
「「「うわぁぁぁぁ!」」」
クラスメイトが頭を押さえてうずくまり悲鳴をあげる。
権能を使われると厄介なのには変わりない。
大罪者は特定の物や条件が無いと権能を発動出来ない。
とりあえず手に持ってるスマホを狙い回し蹴りを放つ。
カランカラン
命中。転がってただの直方体化して床に落ちているそれを取ろうとする。が
「何すんだテメェェェェ!」
井上は私に突進してきた。そりゃそうだ。
躱す。躱す。躱す。
あー埒が明かない。
相手は傲慢のイメージにぴったりなほど大柄だ。
確か……柔道部とかだっけ。武道やってるなら心も鍛えて欲しいところね。
断罪者は常人離れした身体能力を持ってるわけではないし周りと比べて小柄な私がコイツとまともにやり合って勝てるとは思えない。
だから……
躱した時に素早く拾い上げたその直方体を持って私は大罪者に言った。
「止まりなさい。」
「!! ……うっ……うぅ」
次の攻撃のために飛びかかってきた彼はまるで犬のように私の足元に崩れ落ちた
「不思議そうな顔ね。怒っているようにも見えるわ。私は少しだけ権能が使えるの。」
大罪者が権能を発動する物に触れるとその権能を一時的に使える程度だが。
さっきまで威勢よく向かってきていた大柄な男は何も出来ないまま私を睨みつけている。滑稽。
これで終わりではない。
一応断罪者は「なぜ権能を持つに至ったのか」「何を望んだのか」を調べ、欲をなくして社会に戻すのかそれとももう手遅れとして消してしまうのかを決めなければならない。
私は告げた。
「さぁ審判の時間よ」
次の瞬間突如空間が裂け私たちはその裂け目に吸い込まれた。
「どこだよ……ここ……。」
呆けた顔をしながら罪人が言う。
「ここは断罪室。あなたのような罪人を連れて来て、欲またはその命ごと狩る場所。あぁ安心して一方的に殺したりしないわ。」
大きな鎌を持って近寄った。
「ち、近寄んな!」
怯えた顔をして後ずさる男。いきなり狩らないって言ったのに。
「まぁまぁ落ち着いて話をしましょう?あなたの話を聞かせてよ。まずはそこからよ。」
「……本当に何もしねぇのかよ。」
「ええ。話を聞き終わるまでは何もしない。約束するわ。」
「何を話せばいい。」
「あなたの過去、望んだこと全てを」
「チッわぁったよ。俺は別に普通の家庭のはずだ。親父も母親も普通の人だ。俺もただ昔から腕っぷしの強い子どもだ。ほんとそんだけだ。」
「何も無いのに権能を手に入れるなんてことないのよ。何かあるはずよ。」
「ほんとに何もねぇよ!!」
沸点に達したのか叫び始める。
「うるさい。罪人が。」
ブンッ!
牽制のために首に鎌を近づける。
「ひっ……。」
情けない声を上げ後ろに後ずさる大罪者。
「た、ただ俺と喧嘩して負けたヤツらとか弱いヤツらが俺に従ってるのは面白いし、良い気はするけどよ……。」
原因がでてきたわね。でもそんなことだけで権能なんて手に入れられる?かなり強い欲がないといけないのに。
ただ、目の前で怯えきっている男の目に隠し事や嘘は見えない。
「おそらくそれね。権能のことはどこで知ったの?」
「あ、ある日突然スマホに送られてきたんだよ。"アナタは傲慢の大罪人となりました。"って。」
確かに大罪人となった場合その人になんらかの通知がいく。最近はスマホばっかだからスマホに来たのだろう。
でもやはり私の知りたいことは出てこない。
なぜすごい強いとも言えない欲望で権能が手に入ってしまったのか。
考え込む私を見て罪人は思い出したように言う。
「……関係あるか知らねぇがよぉ。力を手に入れる数ヶ月前に夢を見たんだ。」
「夢?」
「なんかフード被った男が出てきて言ったんだよ。
"強く願え。さすれば神は力を与え、望みは叶う"
ってな。俺はなんの事か分からなかったけどな。」
大罪者になることを助長しているの?
「何かそこで願ったの?」
「世界が俺に従えって冗談半分で願ったんだ。そうしたら……。」
「本当に力が手に入ったのね?」
「そうだ。」
不思議な話だ。詳しく調べなければ。
と、その前にこの罪人をどうするかだけど……。
「……今回は見逃すわ。権能を大人しく渡したらだけど。」
「ありがてぇ!権能なんてくれてやる!殺されるよりはマシだ!!」
話が早くて助かる。なら……
「手を出して。」
「?ほい。」
私が手を重ねるとまばゆい光が放たれた。」
「な、なんなんだよこれ!」
「落ち着いて。あなたから権能を取るだけよ。」
やがて光は消え手の中には黄色い炎のようなものが揺らめいていた。
「これで終わりよ。もう帰っていいわ。ただ記憶だけは消させてもらうけど。」
"眠れ"
罪人。いや井上はその場に倒れた。
そして闇が彼を飲みこんだ。
次の日教室にはいつも通りうるさい井上がいた。
「無事戻れたようね。でも次はないわ。」
そっと呟いた。
「なんか言ったか?」
こちらを睨みつけてくる井上。
「いいえ。」
ー断罪完了ー残り6人
お久しぶりです。
新しく連載します。
今度こそ完結させるので良ければご覧下さいませ。