それは光速を超えた
ここはグリーゼ581恒星系第3惑星。
私はこの惑星に生命が存在するか、観測に来たのだ。
人類が居住出来るかは既に否定されている。
質量が地球の5.3倍以上、とても生活には向いていない。
恒星に近く、潮汐ロック、つまり同じ面を恒星に向けて公転している為、昼の面は暑く、夜の面は極寒と予想されていた。
ただ、来てみると大気と対流でおかげで、夜の面も極寒とまではいかない。
せいぜいシベリアくらいの寒さであった。
私は昼と夜の境界面、「夕焼けの続く場所」の探査をしている。
ここは暑過ぎもせず、氷結もしない、丁度良い場所なのだ。
そこには液体の水が存在していた。
夜の面で形勢された氷河が昼の面の熱伝導で融け、氷河から昼の面の砂漠に流れる河川が幾筋も存在する。
その川底には、石が幾つも転がっている。
その一つを触ってみた。
「ヌルヌルしている」
これは藻類か菌類が繁殖している可能性が高い。
調査機器を持って来られたら詳しい事が分かるのだが、それが出来ず残念だ。
この場所は、常に斜めから恒星の光が差し込んでいる。
主星は赤色矮星だが、距離が近い為に視直径は大きい。
そして斜めからの入射と、大気中の塵のせいで、赤い光が更に赤くなっている。
氷河から砂漠に流れ込む水は、終端で巨大な三角州を作り、そこで蒸発して水蒸気を大気に送り込む。
水蒸気と、砂漠から巻き上がる砂とで、雲を形成。
だから「夕焼けの続く場所」という名の通り、雲を通して見える赤い巨大な恒星のシルエットと、空一面の深紅の光が照らす不気味な世界であった。
さて、この恒星の光で成長する生物とは?
タイムリミットだ。
クエストは終了し、私は地球に瞬時に戻ってしまう。
「どうでしたか?」
装置を開発した博士が尋ねる。
「凄いものです。
20光年を一気に旅出来るなんて。
しかし……」
「全ての物体は光速を超える事が出来ない」特殊相対性理論。
人類はいまだこの光速の壁を突破出来ないでいる。
だから物体ではない「精神」を跳躍させ、数十光年先の惑星に移動させたのだ。
それは確かに画期的な技術といえた。
だがしかし……
「見て来たものが現実か、幻覚か、それとも妄想なのか区別がつきませんね」
意識が見たものは現実か虚構か?
それは科学よりも哲学の範疇なのであった。
ある意味、宇宙人とかUFOってこうやって来てたりして。
物体そのものは来られずとも、意識、思念体、霊魂、とにかくそういう形として。