フレデリカ・クラークの手記 3
1
両親が殺された。
親友も殺された。
私は復讐者だ。
私の大切な人達にした事を後悔させてやる。
今の私に慈悲などない。
だから命乞いをしたって無駄なのに。
この目の前にいる男もだ。
腕の中にいるのは男の娘だろうか?
わんわん泣いている。
可哀想に。
だから私は声をかける。
『大丈夫だよ。怖くないから安心して。あなたに痛いことはしないから大丈夫だよ』
全然泣き止まない。困った。
あぁ。これが原因か。
足元に転がっている母親の頭部。
でも、仕方がないの。あなたのお母さんは酷いことをしていた悪者なんだから。こうなって当然なの。お母さんが生きていると、この先も関係のない子供達が沢山死んでしまう。
父親である男がわめく。
『この子だけは!この子だけは助けてやってくれ!』
わかってるよ。この子には罪とかないから。最初から殺す気なんてないし。
でも私は意地悪だから、その事を教えてやらない。
『さぁ?どうしようかしら』
あら。酷い顔ね。
大の大人がピーピー泣かないでよ。この子の父親でしょ。
奥さんが死んだ時は、もっと男らしい顔つきだったのに。
それに、私の親友や他の大勢の人達にした酷い事と比べたら、娘の命なんかじゃ釣り合わない。
私は、泣きじゃくる女の子に笑顔で優しく声をかける。
『安心して。この世界にはお父さんやお母さんみたいに残酷な人だけじゃないの。だから、きっと誰かが助けてくれる。あなたは一人でも立派に生きていけるよ』
腰にある剣を抜き放つ。
ゴトン
地面に重たいものが落ちた。
女の子の鳴き声が止む。
なんて虚な目をしているのだろうか。
あなた生きているのに。死んだのはお父さんだよ。
『お嬢さん。大丈夫だよ。私もあなたと同じでね、お父さんとお母さんを目の前で殺されたの。だから。ねっ。ほら見て。私は元気に生きているでしょ。あなたも大丈夫よ。じゃあね。バイバイ』
2
『次はここよね?』
隣にいる協力者に確認をとる。
『そうですね。間違いございません』
この確認は大切だ。
間違って殺してしまったら私がただの殺人者になってしまう。
『じゃあ行ってくるね』
三階建の建物の前に降り立つ。
一階から順番に行きましょう。その方が逃げられる心配が減る。一人たりとも逃がさない。
あれ?戸締まりとかしてないのね。扉を壊す手間が省ける。
でも、結局最後は全部燃やしちゃうから関係ないのだけど。
中に入ると、研究者のような白衣の人間が一斉にこちらを振り返る。
えっと……いち、にい、さん………とりあえず八人か。
多くて面倒ね。一気に片付けてしまおう。
ザシュ
一番近くにいたメガネの男の首を一刀で切り落とす。
室内に響きわたる悲鳴。
『これは私の親友の怨みだよ』
ザシュ!ザシュ!ザシュ!
剣を振るう度に床に鈍い音が響く。
『これも親友の分……これも。これも。これも』
あと一人。
白衣の女だ。
私と同じくらいの年かなぁ。
地面に座り込んで逃げようともしない。
腰が抜けて動けないのだろうか。
今は涙と鼻水でグチャグチャだけど、本来は美人さんなんだろうな。整った顔立ちをしている。
床が濡れていた。失禁でもしたのだろう。
『お、お願い。許して。殺さないでぇ。お願いよぉ!」
また命乞いか。
そんなもの無駄なのに……
この時、私の中でフラッシュバックが起きた。
お母様の最期の姿がよみがえる。
あの時の映像がこの女の姿と重なって見えた。
こんな奴がお母様と重なるなんて。
殺された親友の事を考え、頭に浮かぶ映像を無理矢理振り払った。
再び復讐の炎を心に灯す。
ドシャ
頭部を失った体が血の海に崩れ落ちた。
あれ?おかしいな。
自分の体の異常に気付く。
呼吸が乱れている。
今までこんな事なかったのに。
気分が悪い。
吐くのを必死に堪える。
まだ二階と三階に始末しないといけない人間がいる。
魔法が使えればまとめて焼き払えるのに。
今の私は魔法が使えなくなっている。
さっさと終わらせて今日は休もう。
お風呂に浸かって寝てしまおう。
明日の朝には、この吐き気もおさまっている。
これは私がやらないといけない。
一日でも早く、あいつらをこの世から抹殺しなくちゃいけない。
ここまで順調に進んでいる。
確実に悪い奴を排除している。
それなのにどうしてだろう。
涙が溢れてくる。
もう後戻りはできないところまで来てしまった。
私はあと何人殺せばいいのだろう。
3
終わった。
全てを終わらせた。
もう誰も殺さないですむ。
悲しくないのに涙が止まらない。
悲願を達成したのに嬉しくない。
私は正しい事ができたのだろうか?
他に方法があったのではないだろうか?
私がやらなければ、いまだに多くの犠牲者が出続けているだろう。
でも、大量虐殺をしたという事実は決してなくなる事はない。
この先の未来で私は、この『罪』の報いを受ける日が来るかもしれない。
その時は、あえて『罰』を受け入れよう。
その覚悟はできている。
FIN




