近所のお兄さんは僕の恋人。
「あっつぅ~…ただいま~」
たかにぃの声がすると、僕は鍋の火を止めて玄関へと向かった。
「お帰り、たかにぃ。今日は早かったね」
「おー。広海が来るって言ってたから、さっさと仕事終わらせて帰ってきた。てか何?この匂いはカレーか?」
「うん、たかにぃの好きなカレー作ったんだ」
「へー。広海料理作れたんだ」
そう言いながら、たかにぃはしゅるっとネクタイを緩めた。緩めたネクタイの隙間から、汗に濡れてキラキラとした鎖骨が見え、ドキッとする。
「ううん…たかにぃに美味しいご飯が作ってあげたいなって前から思ってて、それでお母さんから作り方を習って練習したんだ。まあ、まだカレーしか作れないし、美味しいかわからないけど」
「なるほど、俺は毒味役ってわけか」
「…いちおう味見は何回もしてるもん。けど、たかにぃの口に合うかわからないから─」
僕が話している途中で。
「んっ…」
「……」
たかにぃが、僕の唇に唇を重ねた。
「…もぉ~…急にキスしないでよ」
「ふっ、ちょっと味見したくなったんだよ。何回も味見したって言ったから、ちょっとは広海の口にカレーがついてるかなって思ってさ」
「…で、味は?分かった?」
「ん~…美味しいかったよ、広海の唇」
ペロッと自分の舌で唇を拭いながら、たかにぃは言った。
「も~!僕の唇じゃなくて、カレーの感想が聴きたいの!」
「はいはい、夕飯の時にちゃんと食ってから言うよ。汗くさいから、取りあえず風呂入っていい?」
「うん、カレーもまだ出来上がってないし、先にお風呂入っちゃってて」
「さんきゅー」
たかにぃはそう言って、お風呂場の方へと行った。
僕は指先で自分の唇をふにっと触ると、ふふっと笑って台所に戻った。
◇・◇・◇
たかにぃとは、僕が高校2年生の時に初めて出会った。
友達の家で遊んだ帰り道。急に大雨が降ってきて、その雨宿りした場所が、たかにぃの住む小さなアパートだった。
僕が雨宿りしていると、仕事から帰ってきたたかにぃが「濡れたままいると風邪引きそうだから、ちょっと俺んちで暖まっていけ」って声をかけてくれて、僕はたかにぃのお家に上がった。
たかにぃのお家のお風呂と、たかにぃの洋服を借り、お風呂から出てきたその時。
「お風呂ありがと…うわっ!」
「あぶなっ…」
ドサッ!
足を滑らせ、リビングで座っていたたかにぃを押し倒すような形で、たかにぃの身体に覆い被さった。
すると。
「ん…?……!!」
転んだ拍子に、たかにぃと僕の唇が重なってしまった。
「うわーーっ!!ごっごごご、ごめんなしゃっ…!!」
僕のファーストキス、だった。
僕がわたわたと動揺していると。
「…何?キスは初めてか?」
「え…あっ……はい…」
「へ~、お前女ウケしそうな可愛い顔してるから、モテそうだけどな」
「いや、僕、まったくモテないです!」
「…じゃあお前、俺と付き合ってみる?」
「…へ?え?いや、でも、あなた男の人…ですよね?」
「あ?男が男を好きになっちゃだめか?」
「いや、別にだめじゃないと思います…けど。僕、女の子が好きって言う───んぐっ」
僕が話していると、たかにぃは僕の事を押し倒し、僕の唇を激しく奪った。
そして激しいキスの後、押し倒した状態で僕を見下ろしながら、たかにぃは言った。
「…ふっ、いつか俺のこと好きって言わせてやる」
「は…あっ……もう、好きです」
「はっや」
僕はたかにぃの激しいキスで、たかにぃに恋した。
恋、させられた。
◇・◇・◇
「おー!うんまっ!」
「ほ、ほんと?」
「うまいうまい!こんなウマイカレー食べたの人生で初めてだよ」
「え~…何それ、うそくさ~…」
お風呂から上がり、僕の作ったカレーをガツガツと食べるたかにぃ。
「も~…ほっぺたにごはんつぶついてるよ。たかにぃは僕より5つ上だし、社会人で大人なのに、時々僕より子供っぽいよね~」
クスクス笑いながら、たかにぃの頬についていたごはんつぶを取った、時。
─────────カチャーン…
「んぅっ…」
「……」
スプーンが床に落ちる音がしたのと同時に、息苦しくなった。
たかにぃが、僕にキスしたのだ。
たかにぃは激しく僕の唇にキスしながら、そのまま僕の身体を床に押し倒した。
そして。
「…誰がお前より子供っぽいって?今日の夜は覚悟しとけよ?」
ぺろりと自分の唇を舌で濡らしながら、たかにぃは僕を見下ろしながらそう言った。
甘く刺激的なカレーの味が、僕の口の中いっぱいに広がった…




