君の心は私の心を色づける
どうもみなさんかなめです。今回は最終回ではありませんよ?
窓が静かに開かれ、おもむろに手が差し伸べられる。
「君に見せたいものがある。だから、もう一度だけ。俺を信じてほしい」
夕焼けにその身を赤く染めたクロがそこにはいた。
信じる…それは、私にとっては怖いもの。
相手の本心を覆い隠し、目を背けるための言葉。
それでも、この灰色の世界で暖かく赤色に染まる君の言葉は私を包み込むような不思議な力を感じた。
私は、ゆっくりとその差し出された手に自分の手を伸ばす。
『お前はこの世界に嫌われている』
私には、この手をとる資格がない。
クロを信じる資格がない。
だって、私は迷惑をかけるから。
だって、私はこの世界にとって不必要な存在だから。
だって、私は……
その瞬間、私の手を強く包み込むように握られる感触を感じた。
自分の手を見るとそこには、自分の手を掴むクロの姿があった。
クロは、じっと私を見つめ言った。
「外の世界に行こう」
その言葉と同時に私の体はふわりと宙に浮いた。
本で読んだことがある。勇者が姫を連れていくときに姫をこのように持っていた。
私は、赤く染まる街をクロに抱き抱えられながら駆けた。
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私たちは屋根伝いに街を駆け巡った。
そして、ふとクロを見つめるとあることに気付いた。
「どうして…そんなに傷だらけなのですか?」
クロの体からは、血が滴り落ち、クロの皮膚には細かな切り傷が多く見えた。
クロは、私の問いを聞き、私を見て少しだけ微笑んだ。
「生きる意味を見つけたから」
生きる……意味…
クロは、自分の生きる意味を見つけたのですね…それは……とても素晴らしいことです。
私も一緒に喜びたいのに…私は……私には、生きる意味なんて分からないから。
クロの生きる意味とは一体何なのでしょうか…
私は、クロに何も聞かなかった。
色すらも分からない私には程遠いものだと感じたから。
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国の門近くの屋根上にて
ただ、呆然と連れられるままに来てしまったが、行き先を聞いてはいなかった。
「どこに行くのですか?」
「隣の国に行く」
隣の国……?ということは、私はこの国から出るということ?
でも……それは…
「命令違反なのではないでしょうか?」
クロは、その言葉に私を抱きかかえていた腕の力を少しだけ強くした。
「これは命令ではないから大丈夫だ」
命令ではない……?それってもしかして…クロが私を攫ったことになるのでは…?
クロは、私の考えを読んだのか、私を見て薄く微笑み言った。
「そんなのどうでもいい!俺は、もう命令には縛られない。それで、何かを損なうとしても俺は後悔しない!お前と一緒に見れるなら」
それほどまでに私に見せたいものとは何でしょうか…?
クロは、私を抱きかかえたまま壁にできるだけ近くて高い屋根から飛び、悠々とそれを乗り越えた。
空を舞うときの風はとても気持ちよく優しく私の頬を撫でた。
私が知らない外の世界が私を歓迎してくれているかのような気がした。
でも、私の世界は外の世界に出てもなお灰色の世界のままだった。
あたりがゆっくりと暗くなり始めようとしていたころ、私たちは風を切るほどの速さで駆けるのだった。
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辺りが完全に暗くなったころ
ようやく私たちは、隣の国の門前に着いた。
街は、たくさんの明かりで白く輝き、活気に満ち溢れているのが見て取れた。
「……間に合った…みたい…だな」
「クロ…」
あまりにもボロボロのクロに何も私は声を掛けられなかった。
クロは、そっと私を降ろして私の手を掴み、ゆったりと歩き始めた。
たくさんの人、たくさんのお店、たくさんの食べ物…
私の国にもあった温かさよりももっと温かい場所。
私の置いてきた私の思い出たち。
周りは、とても白く白く瞬いている。
それなのにどうして私の世界はまだ灰色なの?
明るくて優しくて賑やかでたくさんの色があるはずなのに…
どうして私の世界にはまだ色が無いの?
私は本当に…世界にとっていらない存在なの?
「着いた…」
そんな考えをよそにクロは急に立ち止まり言った。
辺りを見渡すと、小高い丘の上にある街を見渡せるスポットに来ていた。
「どうしてこんなところに?」
辺りもとっぷりと暗くなり、クロの表情が分からなくなるぐらいになる。
「君と一緒に見るために」
その瞬間、空を覆いつくすほどの大きな大きな花の形をした火が辺りを綺麗に染め上げた。
そして次々と小さなものから大きなものまで空に花開いた。
「花火だ…これを君に見せたかった」
クロは、私を優しい瞳で見つめていた。
灰色の世界が花火と共に散っていく、私の世界を色づけていく。
私は、空を見上げて一つ一つ指をさしながら言った
「黄色!赤!青!紫!緑!たくさんの色が見える!私の…世界が……綺麗に染まってる…よ。うぅ…私、嫌われてなんてなかった……ううっ…うぅ……」
私はただ嫌われるのが怖くて全てのものから逃げていただけなのかもしれない。
本当は最初から私の世界はたくさんの色で彩られていたけれど、私はそんな世界から逃げて見ようとしなかっただけなのかもしれない。
こんなに世界はたくさんの色で出来ていて、いつもみんなを優しく包み込んでいたのに…
『お前…人間の本心って聞いたことあるか?』
どうして、今その言葉を思い出したのか分からない。
私のトラウマはまだ解決していないのかもしれない。
でも、この言葉を思い出しても私はその言葉に恐怖を感じなかった。
むしろ、私は気になった。どうして、クロは私にここまで優しくしてくれるのか。
私を幸せな気持ちにさせてくれるのか。私を何度も外の世界に連れ出してくれるのか。
私の傍に命令違反をしても居続けてくれるのか。
『私をこんなに優しい瞳で見つめてくれるのか』
花火はクライマックスに向けて迫力を増していった。
「ねぇ…クロ。あなたの本心を聞かせてほしい。どうして、私にそこまで優しくしてくれるの?」
クロは、私に顔を近づけ、私の耳元で私だけに聞こえるように言った。
『君のことが好きだから』
温かい色…
花火が終わり、小高い丘は下で行われている祭りの明かりで少しだけ照らされる。
それが嘘偽りのないクロの本心なのだと感じた。
そんな色をしていると感じた。
私はいつもクロに支えられてるね…
人の本心は、ひどいものばかりじゃない。きっと中には相手のことを誰よりも想う、そんな温かい色を持った人もいる。
私にとってのその人は…クロ。あなただった。
胸の鼓動がいつもよりも大きく音を立てているのが分かる。
あぁ…もしかして、私は…
クロのことが好きなのかもしれない。
本当は優しいのに素直になれないところ。ちょっと恥ずかしがりやなところ。それでいてちょっとだけかっこつけちゃうところ。私のことを誰よりも考えてくれるところ。私にたくさんの物や食べ物、そして世界を教えてくれるところ。私の心配をしてくれるところ。私が辛い時いつもそばにいてくれるところ。
気付けば、クロの好きなところがこんなにたくさんあったんだね。
私は、傍にいてくれるクロにいつしか心惹かれていたのかもしれない。
クロが私のことを好きだといってくれたおかげで、私の知らなかった気持ちに気付けた。
クロが私に心惹かれたように私もクロに心惹かれてた。
『君の心は私の心を色づける』
私は、クロの傍にいたい。クロの傍でクロを支えたい。クロが私を救い出してくれたみたいに。私を辛い時支えてくれたみたいに。
私もクロの為に生きたい。クロと共にこれからを歩みたい。
「私も…あなたと一緒にこの世界を見たい!」
涙が自然と溢れて、視界がぼやける。拭ってもとめどなく涙が溢れた。
ぼやける視界の中、優しく私に微笑みかけていたクロが糸が切れたかのように地面に倒れるのが映った。
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ということで、クロが倒れてしまいましたね。大丈夫なのでしょうか…。書いてるのは私なのですがね。
ということで、次回かはたまた次々回か…。最終回は、すぐ目の前に差し迫っている!
次回!王様号泣!デュエルスタンバイ!
(冗談です)