過去の蓋を開けて
誰かに感動を与えられる人になりたいという思いから小説を書き始めました。かなめです。
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『なぜ私は部屋から出られないのでしょう』
ぼんやりとした意識の中ふとそんなことを思った。
部屋にいることは自分にとって世界そのものであり、意識するようなものではなかった。
物心ついた頃からこの部屋にいて、なぜ私がこの部屋にいるのか、なぜ私は部屋から出られないのか、なぜ私は過去の記憶を思い出せないのか…
何も分からなかった。
分からなかったと表現するのは間違っているのかもしれない。私は……思い出したくないだけなのかもしれない。
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「どうかしたか?」
隣で歩いていたクロが心配そうにこちらを見ていた。
「大丈夫ですよ?それよりもあちらのお店に行ってみましょう!」
私は、ボロボロに廃れている看板が付いたお店を指さして言った。
「あぁ…あれはもう既に潰れてる。お店として機能はしてないだろうな」
「どうしてですか?」
率直な疑問にクロは少し考えたあと言葉を返した。
「今の平和な日々に武器屋なんて儲からないだろ?つまりそうゆうことだ」
武器屋ですか…なるほど…少し興味がありますが、潰れているなら仕方ありませんね。
私たちは、潰れている武器屋を横目に素通りしようとしたがあるものが私の目に止まり少しとどまった。
武器屋の横に続く裏路地
そこに落ちていた白色の布切れ
白色の布……
頭の奥が少しピリつくのを感じる。この布を広げてはいけないそんな気がした。
ダメだと頭の奥で継承が鳴り響くのを感じるが、それでもその手は少しづつ布を広げた。
そこには、黒い毛並みのライオンの刺繍が編まれていた。
それを見た瞬間、私の記憶の深い部分が呼び覚まされるようなあの時の情景がフラッシュバックするかのように視界がちかちかと火花を散らすかのように見えた。
足がふらつき耐えられず倒れるところをクロが支えてくれた。
「体調でも悪いのか?」
「大丈夫です…少しふらついただけですよ」
クロは、心配そうに私を見つめていた。
「今日は、早めに帰ろう。なにか…嫌な予感もするし」
「私なら全然大丈夫です!だからそんなに心配……」
なさらないでください
言葉は続かなかった。
薄れゆく視界の中、クロがなにかを叫んでいるような姿が写った。
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私は、小さい頃お父様とお母様と一緒にこの国ではないどこか別のところにお出かけした。
お父様は、私に他の街のことも姫として知っておくべきだと仰った。
お母様は、私たちを見ていつもにこやかに微笑んでいた。
そんな思い出が私にはあった。
幸せな家族に囲まれた幼少期。私は、とても幸せだった。
私は、外の世界が好きだった。だから、小さい頃は毎日のように家の庭で走り回ったり寝そべったり遊んだりしていた。
それほど、外の世界が好きだったのにどうして私は……
『外の世界に恐怖を抱いているのだろう』
あの布を見て思い出した。忘れていた。外の世界に憧れを抱いていた私は、過去の私に蓋をした自分であったのだと。
私は、怖かった。暗かった。辛かった。痛かった。泣いていた。
私の国ではない違うところ。私は家族と一緒にお出かけをした。
私にとっては、新しい世界であり、新しい色であり、新しい出会いでもあった。
その時は、とても心が踊るのを感じた。
こんなにも世界は広くて、こんなにも世界が美しいなんてまだ幼かった私は、もっとたくさんのことを知りたいと願った。
だけど、その願いが叶うことは無かった。
私は、どんなことにも興味を抱くような子供だった。いろいろな物に夢中になって周りが見えなくなることもあるほどに。
それゆえ、私は両親とはぐれてしまった。知らない街、知らない人、知らない風景。
少し怖かった。
それでも、私は家族に会いたい一心で走り回った。
私は、外の世界が好きだった。希望に満ち溢れた外の世界が好きだった。知らない街も知らない人も知らない風景もみんな私を歓迎してくれてる気さえ、その時はしていた。
だけど、その希望は一瞬で絶望に変わった。
私は、誰かに口を押えられ、意識が遠のいた。
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目を覚ますとそこは薄暗いどこかの部屋
身体は縛られていて思うように動かない。口も縛られていて思うように話す事も出来なかった。
状況が理解できなかった。
先ほどまでは、街の中にいたはずなのにどうして私はこんなところで縛られているのだろうか。
扉の奥では、何人かの男が会話をしていた。
「これで……。…金……とうぶん…」
「あの女……国……有名……」
あまり聞き取れないが、私は何かに利用されるのかもしれない。
お父様とお母様に迷惑を掛けてしまうのかもしれない。
ごめんなさい。ごめんなさい。
私が、興味を抱かなければ、はぐれることもなかったのに。
すると、扉が開いた。
先程、扉の奥で会話していた三人の男たちがニヤニヤした表情でこちらに向かってきた。
「姫さんのお目覚めか?丁重におもてなししてやらないとな」
「だなぁ~なんせ、この姫さんのおかげで俺たちは一生遊んで暮らせるんもんなぁ~」
二人の男は、愉快そうにのんびりとそんなことを話していた。
すると、一人の男が私の方を向き険悪そうな表情で私に言い放った。
「お前のせいだ。お前があんなところに一人でいたせいで、たくさんの奴が迷惑してる」
私のせい……みんなに迷惑を掛けてる……
「おい!精神的にいじめるのはやめとけ。面倒ごとが増えるのはごめんだぞ?」
「お前、一人になっても笑ってたよな?笑顔で親でも探してたのか?私、信じてますみたいな感じか?」
一人の男が止めに入ったが、それを振りほどき私を問いただすように言葉を続けた。
「だが、お前が思うような幸せなんてこの世界にはないんだよ。誰か、一人でもお前を助けようとした奴がいるのか?声を掛けた奴は?」
私は……信じてる。私が好きな外の世界を。知らない街も知らない人も知らない風景もみんな……私、信じてる。
「いないだろ?誰もお前のことなんかどうでもいいんだ。お前がいくら信じようがそれにこたえる奴はいない。お前はこの世界に嫌われている。お前のせいでたくさんの奴が迷惑して、たくさんのものが損なわれる」
そんなことない。私は、それでも信じてる。この世界のこと。私の好きな外の世界を。
「お前…人間の本心って聞いたことあるか?」
本心……?
「お前の両親もお前を守ろうとする奴らも…みんな、本心ではお前のことを嫌ってる。迷惑に思ってる。人間ていうのはそういうもんだ。お前がいなければ、お前の両親はこんな面倒ごとにも巻き込まれずに済んだのにな」
私がいなければ…?お父様とお母様に迷惑なんてかけずに済んだ?
「お前…生きてる意味あんの?」
どくん
心臓の音が強く鳴り響くのを感じた。
「あ…うぅ…」
思うように言葉がでない。言葉が続かない。
涙が溢れてくる。
私なんていないほうがいいの?この世界にとって不必要な物?
『生きる意味って何?』
私に生きる意味なんてない。
そんなことを漠然と感じた瞬間、私に見えていた私の好きな世界、その世界から綺麗に色づいていた色が消えてなくなった。
私に残された灰色の世界。
世界が私のことを拒絶しているようで怖かった。
恐怖を抱いた。希望を失った。絶望だけが残った。
何も考えられない。何も感じたくない。何も知りたくない。
ぼんやりとした視界の中、かすかに伸ばされた手を取ることは出来なかった。
その人の肩部分には、黒いライオンの刺繍が編まれていた。
そのまま、意識は遠くなっていった。
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「完全に壊れちまったなあ~これ。どうする~」
「結構、簡単に折れちまったな。まあ、俺には関係ないけど」
目の前に縛られた少女の目は光を失い、俯いていた。
その時、扉が静かに開いた。
「命令により、お前たちを排除する」
扉から入ってきたのは、黒い服に身を包んだ一人の少年だった。
「おいおい、一人で何しに来たんだよ?お仲間はいないのか?」
その少年は、その言葉に静かに返した。
「一人で十分だ」
そこからは凄まじかった。
その少年は、ナイフを取り出したかと思った瞬間、仲間の一人が叫んでいた。
その叫びに反応した瞬間、もう一人の仲間からも悲鳴が。
そして、気付いた時にはすべてが終わっていた。
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俺は、素早く姫を縛っていた紐を切った。
「これで、大丈夫です。貴方のお父様が心配なさっています」
姫は、俺の言葉に反応することはなくただ地面ばかり見つめていた。
「姫…?」
何かあいつらにされたのか…?外傷は見当たらない…ならば、精神的に…。
でも…姫に対して、俺に出来ることは……何もない。
「姫…帰りましょう」
俺は、そっと姫に対して手を差し伸べた。
姫は、ぼんやりとした表情でしばらく俺の手を見つめた後、ゆっくりと掴もうとしたが、掴む前に力が抜け前のめりに倒れた。
素早くそのことに気付き、支えることは出来たが、姫の心の疲れは尋常ではないだろう。
俺には何もできない。関係ない。俺は、ただ…命令をこなすだけだから。
今は、命令通りあの人の元へ連れていこう。
俺は、出来るだけ早く自国に帰還した。
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目を覚ますと、そこは自室のベッドの上だった。
全て思い出した。忘れていた思い出。蓋をした記憶。
そして、外の世界に対する『恐怖』
体の震えが止まらない。腕で体を押さえても一向に止まる気配がない。
私の世界は灰色だ。何もかも。私の思い出も私の記憶も私の世界も。
生きる意味が分からない。
またみんなに迷惑を掛ける。私のせいで。
本心ではいなくなってほしいと思ってる。私のことを。
この世界は何度だって拒絶する。私だけを。
『私を外の世界に連れ出さないで』
あれからしばらく経過した。
目を覚ましてから一度も外には出ていない。
外に出ようとしても震えが起こって、思うように動かない。
また考えてしまう。私の生きる意味を。
何度かクロも私を心配して訪れてくれた。外に出ようと言ってくれた。
それでも私は、クロの顔もみずに無理としか言わなかった。
もう、誰にも迷惑を掛けたくない。そう思った。
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あれからどれぐらいたっただろうか…
まだ体の震えは収まらない。
ふと、窓の外に目をやる。
夕焼けが街を赤く染める頃
窓が静かに開かれた。
そこには、私をいつも心配してくれるあの人がいた。
彼は、静かにゆったりと手を差し伸べて言った。
「君に見せたいものがある。だから、もう一度だけ。俺を信じてほしい」
夕焼けが彼の背で美しく彼を照らした。
ふぅ…まだ、次回は最終回ではないですよ?
クロ君の苦悩も私は伝えたい!!そう思いました!!