君の心は俺の心を色づける
感動を誰かに与えられる人間になりたいという思いから書き始めました。かなめです。
まだ、初めてで拙いところもあるかと思いますが、頑張らせていただきます!
よければ、ブックマーク登録、評価、コメントよろしくお願いしますぅぅ。
『俺の世界は灰色だ』
ただ命令だけに従って生きてきた。俺にとって命令とは、生きる意味そのものだった。
物心ついたころから、そういう世界にいた。
俺は、父に捨てられたらしい。らしいというのは、覚えていないからだ。俺を拾ってくれた人がそう教えてくれた。
その人の下で、働き始め、あらゆることを教わった。物の買い方から道理に反する事まで…。そんな日々を過ごしていた。
その人は、この国の『王』だった。この人がどうして俺を拾ったのか。どうして俺に色々教えてくれたのかはよく分からない。ただ俺は、この人のために生きようと思った。
その人が命令する事はなんだって聞いた。それが、この国の為になり、そしてその人の為にもなるから。
その人の為になるなら、道理に反する事であっても厭わず、速やかにこなした。
いつからか同業者の中では『ブラックナイト』と呼ばれるようになった。
======
王専用の執務室
「招集に応じ、参上しました」
俺は、膝をつき恩人の次の命令を待った。
王はたくさんの書類に目を通しており、自分に気付くと書類から目を離し話し始めた。
「よく来たな…クロウ。よくやってくれた」
「もったいなきお言葉。貴方様の為なら当然のことです」
その言葉に王は、ため息をついた。
「はぁ…硬すぎるぞ?普通にしてくれ…こんな時ぐらい、休ませろよなぁ」
「少しぐらい威厳を見せてくださいよ。まあ、俺も楽なのでいいですが」
そして、王は途端に真剣な表情になった。
「時にクロウ。ちょっとした頼みごとがあるんだ」
「それは、命令ですか?」
「いや、命令ではなく頼み事だ」
命令ではない…長い間、この人についてきたが俺に命令ではない頼みごとをしてきたのは初めてのことだった。
「どういった内容なのでしょうか?」
「内容…は、だなぁ…俺の娘を外に連れ出してほしいんだ」
レイン姫のことか。そういえば、過去の一件以来部屋に閉じ込めていると聞いたが…外に連れ出してほしいって…もしかして、一度も外に出していないのか?
「あの…失礼ですが、ずっとあの日から閉じ込めているのですか?」
それを聞いた王は、フンッと鼻を鳴らし腕を組んで威厳たっぷりに話し始めた。
「閉じ込めているとは聞き捨てならんな。私は、外に潜む脅威から娘を守ってるだけだ!でもまぁ…侍女に様子を聞いたら、笑わなくなりましたとかなんとか…まぁ、言っててなぁ…。まぁ、お父様としてはだなぁ…大変可哀そうに感じた次第なのだよ」
はたから見ても過保護すぎる父親は、頬をポリポリとかきながら答えた。
俺は、そんな一人の父親を見て、はぁとため息をつき、ふと考えた。
どうして、俺なのだろうか…
娘が笑わなくなったから、忍びなく思い外に連れ出してほしいと思ったということは…外に連れ出すと同時に、レイン姫を楽しませて笑ってもらわなければ意味がないのではないか?
だが、俺はこれまで命令に従うだけの人生しか送ってこなかった。その仕事も楽しいと思って受けたことは一度もない。
『俺は楽しいという気持ちを知らない』
そんな俺が、姫を楽しませることは出来るのだろうか…幸せにすることは出来るのだろうか…
無理に決まってる。俺には出来ない。この任務に俺は適していない。生憎これは命令ではない。ここは辞退しよう。
「あの…どうして私なのでしょうか?今回に関して言えば、他に適した人材が多くいると思います」
その言葉に王はとても寂しそうな顔をした。
「私は君も心配してるんだよ」
心配…?王が俺に…心配されるようなミスを犯したことはこれまで一度としてない。それだけは、俺の自信であり、プライドでもあった。
「失礼ですが、他の者より功績をあげているはずです。王が心配されるようなことは無いかと」
王は、その言葉に額に手をやり、やれやれといったしぐさをしてみせた。
「そういうことではなくだなぁ…娘と同じくらいクロウ…君にも申し訳なく思っているんだ」
申し訳なく…?感謝すれど恨むようなことはされていないが…?
「今のは忘れてくれ…とにかく、娘を外に連れ出すのは君だ!君にしか頼めない!引き受けてくれるな、クロウ!」
「嫌です」
「そうかそうか!君ならそう言ってくれると思っていたよ!...…今なんて?」
「俺にはそんなの無理ですよ!どうして俺なんですか?人を楽しませるなんてできませんよ!俺なんかには!」
その言葉を聞いた王は、ニヤリと笑みを浮かべた。
「だからこそ君なのだよ。クロウ」
何を企んでいるんだ…この人は
「どういうことですか?」
「楽しませる必要なんてないんだ!そう!必要なのは経験なのだよ!」
経験…もしかして、この街を直接姫が見ることで学びになると考えているのか?
それでも、どうして俺が連れ出す必要がある。そういうことなら俺じゃなくてもいいのではないか?
「そういうことなら他の方に頼むべきだと思います」
王は、その言葉を待っていたと言わんばかりに目をきらりとさせた。
「君はとても強くて、ミスもなく、何より信用できる!君以外にこの頼み事ができる適任はいない!そう断言しよう」
この人は、どうしても俺に行かせたいらしい。
俺にできるのだろうか…まあ、護衛目的で頼んだのならば近くにいるだけでもいいだろう。楽しませる必要はないのだ。力むだけ無駄だろう。
それにこの人の頼みとあらば引き受けるしかない。この人には恩を感じているのだから。
「分かりました。その頼み引き受けさせていただきます。ですが、近くにいるだけですからね」
「あぁそれで十分だ。娘を守ってやってほしい」
俺は小さく頷き、その場を後にした。
「君が、少しでも自分の殻を破れることを期待する…愛しているよ2人とも」
======
あの少し開いている窓。そこが、姫のいる部屋か。
本当に俺なんかでいいのだろうか。いや、一度引き受けた以上、途中で放棄することはありえない。ただ、黙々とこなすだけだ。そんなのもう慣れたことだろ。
俺は、開いている窓の前に立つ。
部屋の中には、積まれた本の山と一冊の本を読む少女がいた。
少女は、本を読んでいても笑いもせず、哀しみもしない何も感じない感情のないような表情でただ静かに本を読んでいた。
俺は、少し気後れしてしまった。
本当に俺なんかにこんな楽しいも悲しいも感じないようなこの少女を外に連れ出せるのだろうか。楽しませられるのだろうか。
楽しませる必要がないのは知っている。けれど、何故かそう思うたび心が苦しくなった。
『この少女のために俺になにかできないのだろうか』
「誰か…誰でもいいから…私を外の世界に連れ出して」
その言葉は小さく微かな願いでしかなかっただろう。それでも、俺の心には静かに波紋を生んで次第に大きくなり、俺の心を突き動かした。
俺の指は自然と窓をコンコンと叩いていた。
======
その少女は、とても笑う人だった。
どんなことにも目を光らせて、興味を示し、ちょっとしたことでも笑顔になる。
そんな少女を見ていると自分までだんだんと楽しく感じ始めた気がする。
流石に無知すぎるけどな。
りんごすら知らない箱入り娘。あの人は、どうしてあんなに過保護過ぎるのだろうか。
「私、一人が幸せなんて不公平ですよ!できることなら…私をこんなに幸せにしてくれたあなたと一緒に幸せになりたいです!」
驚いた。幸せ。そんな言葉俺には一番似合わない。ただ命令に従うだけが俺の生きる意味、そんな俺に幸せはありえない。
なのに、この少女は俺にも幸せを願うのか?
どこまでお人好しなんだよ。でも、少しだけ嬉しかった。ただ、そう思った。
======
夕暮れ時の丘上の教会前
「素敵!!」
少女が大きな声で叫んだ。
その言葉が俺の心を揺れ動かす。今日という日がこの少女にとってどれだけ大切だったかが伝わってくる。
俺は、この少女を楽しませられたのだろう。
でも、俺はこの少女をこれ以上笑顔にはさせられない。この少女は、俺に感謝しているように感じる。でも、その感謝は間違っている。
あの人に頼まれなければ、俺は連れ出そうなんて思わなかっただろうから。
俺は、少女を部屋に戻した。
夜は危険だから。
『どうして…?』
少女の言葉は震えていた。
俺はなんて言えばいいのだろうか。この少女になんと声をかければいいのだろうか。
そんなことはわからない。でも、この少女から笑顔を奪ったのは事実だ。
この少女にとって外に連れ出すということはとても大切なことだった。
だから、俺は事実を突きつけることにした。
『命令だったから…ただそれだけだ』
うそだった…自分の心にも嘘をついた。
なぜ、俺がこんな心もないことを言ったのかはわからない。
ただ、自分を命令という言葉で守りたかったのか。
それとも、幸せになる自分が許せなかったのか。
そんな資格がないのはわかっているのに。
「それでも…私は…うれしかったです…あなたと一緒に外の世界を見られて…本当に……っ!」
少女は泣いていた。それだけ、今日という日が彼女にとって大切なものだと感じてくれたのだろうか。
俺も嬉しかった。あなたと一緒に外の世界を見られて。
「命令でもいいから…また……私を連れ出して…」
素直じゃない俺は、君に嘘をつき続けることにした。
ただ、君をもう一度笑顔にしたいただそれだけのために。
======
少女は意外と意地悪だった。それでも、その意地悪は悪意のあるものではなく、ただ俺と楽しさを共有したいそんな気持ちが伝わってきた。
でも、本当に俺はこの少女を幸せにできたのだろうか。
こんなに自分に自信がないなんて自分でも驚きだ。
どんな仕事でも卒なくこなし、多くの功績をあげてきたが、一人の少女を楽しませるのにどうしてこんなにも悩まなければならないのか。
俺は、こんなにも何かに悩む性格だっただろうか…。
======
噴水広場前の紙芝居
たくさんの子ども達が、紙芝居を見に集まっていた。
俺も昔、一度だけ紙芝居を見たことがあった。
タイトルはなんだっただろう…そう、そのタイトルは…
【どんなお願い事も断れない一人の男の子の物語】
俺は、この紙芝居を見て自分も誰かを楽しませられる、幸せにできる人になりたい。そう思ったんだ。
俺の場合、お願い事ではなく命令という形だったけれどそれでもその命令を聞くことによって、どこかの誰かが幸せになると信じてこなしてきた。
幸せになったかどうかはわからないがそれでも信じてこなした。
いくら難しい命令でも、道理に反した命令でも、あの人が命令したからではなく、誰かが幸せになるならという思いでもしかしたら引き受けていたのかもしれない。
自分が一番自分の気持ちを分かっているはずなのに自分が一番分からないものなんだな。
『この少女は、俺と一緒にいて楽しんでくれたのだろうか』
「はい!とっても!」
俺の思いが勝手に言葉になっていた。それだけ不安だったのだろうか。確かめたかったのだろうか。
「今日の思い出も全部私の宝物です。私、感謝してるんです。クロに!私を連れ出してくれたのは、命令だったけれど、それでも私をこんなに幸せな気持ちにしてくれたのは紛れもなくクロなんです。だから、私もっとクロとたくさんのものを見て、聞いて、知りたい!私の見てる世界がたくさんの色で満ち溢れる…。そんな世界を私……クロと一緒に見たいです!」
確かなものだった。自分はこの少女を幸せにできていた。
こんなことを思ってくれていたなんて思わなかった。俺と一緒に幸せを願ってくれるなんて思わなかった。
幸せの感情が心の中で波紋を生んで広がっていく。心が温かくなるのを感じる。この世界が色を取り戻すのを感じる。
あぁそうか……
『君の心は俺の心を色づける』
またもう一度この少女と一緒にたくさんのものを見たい。
たくさんのものを聞きたい。
たくさんのものを知りたい。
レインと一緒に。
レインを部屋まで送り届けた後、自分の部屋に戻った。
そして、静かに窓の外、星空の広がる空を眺める。
いつか二人で笑い合える日が来ることを望んで。
ふぅ、いやぁスキー初めて行ったけど体力無さすぎて次の日、筋肉痛オンパレードでボロボロなんですが。子鹿のような足取りなのですが。箸持つときに手がプルプルするのですが。布団から出られないのですが。
布団からなかなか出られないのはいつものことなんだけどね。