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白痴の黒  作者: 忌神外
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6話 村の教会

「あ、ソトガミさん、着替え終わったんですね。ではいきましょう」


 フィオナさんに案内され、村を見回る。


「ここでお茶の葉を育ててるんですよ」


「そうなんですね」


 と言っても、別段何ということもなく、丸太運びの時に何となく見ていたところである。


「あ、アルバンさんのお家はここですね」


「ああ、副村長さんの……」


「ちょっと、祖父の様子を見ても……?」


「えぇ、大丈夫ですよ」


 うん、とりあえず周りにそれらしき監視がいるか、確認しやすくはなった。まあ、見当たらないが。


 ……ここで逃げてみるか? いや、着替えのみでは流石に無鉄砲か。せめて、1日分の水と食糧は用意しなければ。それに出ていくなら昼よりも夜の方がいいだろう。


「ソトガミさん、お待たせしました。少しだけ元気になっていました。もう少しアルバンさんの家で休むそうですが、お昼過ぎには帰ってくるって言ってましたよ」


「そうですか、それはよかったです」


「あ、次は教会の方に案内しますね」


 教会? 何となく嫌な予感がする。これは行って大丈夫なのだろうか。宗教勧誘が目的の場合、間違いなくここで逃げ出さなくてはいけないのだが。


「教会……ですか。よろしければ、どのような神様を信仰なされている教会なのでしょうか?」


 素直に答えてくれるかはわからないが聞いておく。


「もしかして、異なる神さまを信仰なされているのでしょうか?もしそうであれば、すみません」


「ああ、いや、特にそういうわけではないのですが、宗教には疎いものでして」


「いえいえ、よかったです。でも、大丈夫ですからね? ソトガミさんが別の神さまを信じていても、私たちはソトガミさんを苛めたりはしませんから」


 これは安心させるためだろうか、遠回しの警告だろうか。まあ、両方と受け取っておこう。


「すみません、宗教には本当に疎いものでして、それでこの教会はどのような場所なのでしょうか?」


「私たちは昔からこの世界を守ってくれていたと言われている女神様を信じているんです」


「女神様?」


 何か引っ掛かるが、女系の神様か、日本も神道の天照大御神とかいたが。他の宗教に寛容な辺り、多神教なのだろうか?


「はい! とても美しくて賢くて、慈愛に溢れた優しい女神様と言い伝えられているんです」


 何故だか引っ掛かっていたのがなくなった気がした。


「あの、私っ女神様のお話、小さい頃、よくシスターに聞かされてたんですけど、よければ、あの、聞きませんか!」


 フィオナさんは前のめりになっており、話したくて仕方がない様子だ。勧誘とみて、間違いないか。というか、シスターとはこの教会のってことだろうか? 話はまあ、今は素直に聞いた方がいいか。


「あー、ならお願いします」


「はいっ」


 彼女はにこやかに返事をすると、語り始めた。


「むかーしむかしですねー、まだ、その女神様しかいなかった頃のお話です。女神様は一人悲しく暗闇の土地で過ごされていたんだそうです」


「はあ」


「でも、一人で寂しかったのでしょうか? 女神様はある時私達のご先祖様を作りました。でも生まれたばかりなので喋ることや、考えることも出来ません」


「なので、女神様はご先祖様に知恵と言葉を与えてくださりました。私達のご先祖様は女神様の話相手として楽しく過ごしていました」


「ある時、女神様は暗闇で作ったものの姿が見れないことを悲しく思い、光を作りました」


「そのときに私達のご先祖様は初めて女神様の姿を見ました。初めて見た女神様はとても美しく、私達のご先祖様は皆、女神様を好きになりました」


「それと同時に自分達は女神様を除き、皆同じ姿である事もわかりました。これでは誰が誰だかわかりません。皆、女神様を真似て白い髪、青い瞳にしようと、一生懸命姿を変えました」


「でも、ご先祖様にも器用な方と不器用な方がいたり、性格の違いで姿にも色々な違いが出てきました」


 皆が女神様を真似たのであれば、多少の違いはあれど、皆女性ばかりなのでは?


「姿を変えていくご先祖様を眺めていた女神様ですが、構造は皆同じことに気がつき、もうひとつ違う構造をした、ご先祖様を作りました。それが男性だと言われています」


 ああ、そういう解釈か。


「ただ、自分の姿とも違うので少しごつごつした形になってしまいましたが、ですが、それにより男性は女性より、力持ちになりました。」


「ただ、一人一人作っていくうちに女神様は疲れてしまいました。なので、えっと、男性と女性が仲良くするとっ、新しいご先祖様が出来るようにしたんです!」


 ん? ああ、なるほど、そういうことか。


「えとっ、あのそれでですね、女神様は人間以外にも様々なものを作りました。森だとか川だとか、鳥さんだとかです」


「それで、ですね……」


「そこにいるのはフィオちゃん……?」


 しゃがれた声が聞こえる。顔を向けると灰色のローブを着た猫背の老婆が杖をつきながら、こちらにゆっくりと近づいているのが見えた。


「あ、テレサおば様!」


 フィオナさんはトタタタッと老婆の元に駆け寄った。老婆が歩くのを手伝っているようだ。


「ああ……ありがとう。フィオちゃんは誰と話してたの……?」


「おば様、この方が旅の人ですよ。ソトガミさんって言うんです」


「そうなの、ごめんなさいねぇ……。目があまり見えないものだから」


「いえいえ、あの外神と申します。お世話になっています」


「ええと、そうなの……。私はテレサ、この教会に住んでいるの。良ければ、中でお茶でもいかが……?」


 少し怖くはあるが、逃げ場はない、ここで誘いを断るのもあれか。


「ええ、是非」


「フィオちゃん、悪いのだけど、お願いしてもいいかしら? 戸棚におやつがあるから、それも取ってちょうだい」


「おやつあるんですか! わかりました!」


 フィオナさんは嬉しそうだ。会話をしていると気がついたら、教会の扉の前まで来ていた。


「どうぞお入りになって」


「ああ、では失礼します」


 少し重い扉を開くと、質素な椅子が並べられていた。奥の方に見える像は女神だろうか?


「…………」


 不意に視線があった気がした。


 しかし、誰と? 誰も居ないのだから気のせいだろう。


「あ、ここではなくて、あちらのお部屋ですよ」


 まあ、ここではないよな。


 小部屋の一つに案内され、三人でお茶とおやつであるクッキーを頂いている。


 少し湿っているが美味しい。


「ソトガミさん、お口にあったかしら……?」


「ええ、美味しいです」


「それはよかった……。ところでソトガミさんはニホンという国から入らしたとか。どんなところなの……?」


 また、この話題か。んー、どんな国かと言われると意外と説明が難しいな。……というか、本当にここは日本じゃないのか?


「そうですね、私の出身は首都に近いのでそこに向かえば、高層ビルだったり、寺や神社とかがありますが、住んでいるところはまちまちですね。少し行けば畑がありますし」


「ビル……? ビルとはどういうものなの?」


「はい? えーと……、ビルはビルと言いますか。コンクリートやガラス等で出来た建造物ですね。というより、本当にご存じでないのですか? 日本」


「遠い国のことはわからないの……、ごめんなさいね……。フィオちゃんは知ってる?」


「私も知らないんです。ソトガミさん、良ければ、ソトガミさんの国のこと教えていただけませんか?」


「ご存知ないのですか。それは……すみません。うまく説明出来るかはわかりませんが……」


 日本を知らないことを疑問に思いつつも、一応、それなりに日本と言う国について、説明した。


「こんな感じなのですが、いかがでしょう?」


「すごいのねぇ……。そんなにお城がたくさん建っているなんて」


 うーん、ビルはお城ではないのだが、まあいいか。一応、お城もある。


「あら、テレサにフィオナ。それにそこの妙な格好をした黒いあなたはきっと旅の方だわ。お茶をしていたの?」


 扉が開く音がしたため、そちらの方向に目を向けると、そこには白く長い髪を1つに結んだ美しい女性がいた。


 誰だろうか? うーん、テレサさんの娘とか? いや、でもテレサさんはシスターでは? いや、そもそもカトリックではなかったな。


「……シスター! お帰りなさい!」


「えっ、シスター?」


「あら、何か?」


「え、いや、そこのテレサさんがシスターでは……」


「私は住み込みで手伝いをしているだけですわ……」


「私がシスターですが、何かご不満でも?」


「ソトガミさん、シスターはこっちで、テレサおば様はお手伝いの方です」


「そうですか」


 確かにテレサさんのことをシスターとは言ってなかったな。


「拍子抜けしたお返事ですね?もしかして疲れていますか?」


「え? いや、そういうわけでは。それに服装がそう見えなかったので」


「確かに、いつも教会で着ている服ではありませんが。運動していたのですから、こういう服の方が良いでしょう?」


「はあ、なるほど」


「またまた、拍子抜けしたお返事……」


「ソトガミさん、こう見えてもシスターはツァバートの神学校を首席で卒業した凄い人なんですよ」


「フィオナちゃん? こう見えてとはどういう意味でしょう? テレサ、あなたは私のこと、シスターに見えますよね?」


「シスター……その身なりではただの村娘に見えても仕方がないですわ……」


「……まあ、いいです」


 ついていけなくなってきているのだが。


「ええっと、よくわかりませんが、首席とは凄いですね」


 とりあえず、社交辞令でも述べておこう。


「あら、それはありがとうございます」


「でも、何でこんな村のシスターさんなんでしょう? 首席さんって、もっと、大きなところでシスターをするものかと思いました」


「……聞きたいですか、フィオナちゃん?」


「ごめんなさい……」


 圧がすごい。


「それはそれとして、あなた、ニホンという国から来たと聞きました。どんなところなのですか、ニホン」


 また、この話か。



 疲れる、とにかく疲れる。というのもこのシスターはとにかく質問攻めにしてくる。


「シスター……質問はそのぐらいに……」


「ソトガミさんは少し前まで倒れていたんですから、手加減してあげてください」


「……では、そうしましょう。まだまだ聞きたいことあるのですけどね」


 二人の加勢で漸く終わりそうだ。助かる。


「では、最後に1つだけ」


「シスター?」


「いえいえ、構いませんよ」


「ほら、この方もこう言っています」


「はぁ……」


 テレサさんと同じく、正直、私もため息をつきたい。


「それで最後に聞きたいことは何でしょう?」


「ええ、それでは……」


「…………」


「あなた、何故黒い髪をしているのですか?」


「…………はい?」


「ですから、何故髪を黒くしているのですか? それにその黒い外套、場所によっては殺されていますよ、あなた」


 黒って、もしかして、宗教的にまずいことなのか?


「ああ……私の見間違いではなかったのね……」


「そうですね、一旦この方と二人きりにして貰えます?」


「シスターっ! えっと、ソトガミさんは悪い方ではないと思います!」


「フィオナちゃん、大丈夫。もし何かあったら、大声で叫びます」


「あ……いえ、心配してたのはソトむぐっ!?」


「ご心配ありがとう、フィオナちゃん。……ではテレサも外してくれるかしら」


「……フィオちゃん、大丈夫だから、あっちでお話しましょう」


 扉が閉まり、シスターと二人きりの状態になってしまった。


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