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白痴の黒  作者: 忌神外
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53話 奇妙な頭飾り2

「ソトガミ、あんた、いいやつね!」


 先ほど泣いていた少女はアイスを頬張りながら、満面の笑みでそう言った。


 今、私は本来の予定を変更し、この少女達のご機嫌を取っている。今日、得た私の教訓はひとつ、このぐらいの子供は適当にアイスなりを買ってあげれば、案外どうにかなる。しかし、いいのか? そんな簡単に評価を変えてしまって。お兄さんは実に心配だ。君が悪い大人に出会わないか、出会う前に賢くなってくれることを祈るよ。


 ……それにしても、子供の力は思ったより強い。不意に引っ張られた時に姿勢を崩しかける。下手したら、押しつぶしていた。これは気をつけねば。


「ミリアムちゃん、だ、だめだよ。そんな一杯食べちゃったら、お夕飯、入らなくなるよ……?」


 レイラと言う少女にもついでだが、買ってあげた。注意しながらも、アイスは食べている辺り、ちゃっかりした子なのかもしれない。


 ……あの後、エストリーに冷ややかな眼差しで半ば呆れられながらも試したのだが、どうも、エストリーは頭飾りに触れないらしかった。私から見ると、エストリーが触れようとする瞬間に頭飾りは消え、手を離すと、同じ形状のものが再出現する。そんな現象が起きていた。


 しかしながら、それ以外のことはまだ、何一つわからない。人によって、形状の違う理由もわからない。結局、これについては別途、調査が必要だ。


「ふぅ、美味しかったわ」


「それは良かった」


「気に入ったわ。あんた、私の友達にしてあげる!」


「友達? ……君の?」


「何よー! 不満なのー!?」


反応に困り、エストリーを見る。うん、無関心、素晴らしい。


「目を背けるなんて、そんなに嫌なの!?」


「ああ、いや、そんなことは。……なら、君の友達にしてもらおうかな」


「ふふん! そうよね!」


 こちらに手を差し出してきた。


「握手は友達の証!」


「ああ、そういう。……ええっと、よろしくね、ミリアムちゃん」


 手を軽く握り返した。


 まあ、どんな相手であれ、今はつながりを持っておくに越したことはないか。こういった子供の感覚と言うのは必要な気がする。それにエストリーや城の関係者以外の視点も必要だ。この世界の住人が幼少期に何を考え、育つのか、知っておいて、損はないだろう。それは友好的になる際に、きっと役立つ。


 ……しかし、光景を考えると事案な気がしてよろしくないな。明日の小学校の朝礼か夕礼で不審者情報として、全クラスにお伝えされてそうな気がしてならない。


「ん!」


 ミリアムちゃんはエストリーにも手を差し出した。


「私も? ……そう、なら、お友達にしてもらおうかしら」


 そう言うと、エストリーも握手を交わした。


「……あ、あの」


 声の主はレイラだった。


「わ、わたしもお友達にしてくれませんか……?」


「ああ、勿論。よろしく」


 今度はこちらから、あの少女と同じように手を差し出すと、彼女はおずおずと、こちらの手に触れ、控えめに握ってきた。こちらも適度に握り返す。


「よろしく、ミリアムちゃん、レイラちゃん」


 そんなこんなで、私とエストリーはゲヘナ在住の少女2名と友達になったらしい。


「二人とも、私について来なさい。面白いところ、案内してあげるわ!」


 ミリアムちゃんがそんな提案をしてきた。面白いところか。まあ、子供に付き合うのも大事だが、今は頭飾りの調査に加え、ゲアルさんのこともある。正直、これ以上、余計な道草は食えない。


「ああ、えっとね。申し訳ないんだけど、この後、少し用事があってね。今日はここでお別れしようと思うんだ」


「ええ! ……でも、用事なら仕方ない、わね。うぅ……」


「良かったら、また違う日にその場所に案内してくれないかな?」


「なら、明日! 明日はどうかしら?」


 明日か……、まあ、特に何かある訳ではないが、今日の会話次第では何かあるかもしれないし、確約はできないな。


「ごめんなさい。私は行けないわ。先約があるの」


 そういえば、リディアさんと庭園に行くんだっけか。まあ、明日は時間があれば、一人で調査するか。


「そう、残念……。ソトガミさんは?」


「明日の予定は、……実はまだ、わからないんだ」


「なら、あたし、明日から、お昼になったら、ここにいるわ。ずっと待ってるから、時間ができたら、必ず来なさいよ! 約束だからね!」


「わかったよ。明日以降で都合が良くなったら、必ず行くよ」


「絶対よ! 約束したんだからね!」


 そうして、子供たちと約束を交わすことになったのだった。


 ミリアムちゃん、レイラちゃんと別れた後、私達は一旦、調査を中断し、本来の目的であるゲアルさんの工房に向かった。まあ、現時点では私に見えるというだけで、特に変な現象は見られない。私が意図的にあれに触れようとしなければ、道行く人は頭についている頭飾りに気づきもしないのだろう……。


 ゲアルさんの工房にはこれといって、迷うことなく辿り着けた。


「あのー、すみませんー! ゲアルさんはいらっしゃいますでしょうかー?」


 工房に入ると、奥の方から、頭飾りをしたゲアルさんが出てきた。


「ゆっくりのお出ましじゃないか」


「面倒をかけたわね。すまなかったわ。でも、問題は解決したの。もうあの文に従う必要ないわ」


「ふん、えらい勝手な話だね」


 私はゲアルさんに頭を下げ、謝罪した。


「お忙しい中、お時間を取らせるようなことをしてしまい、申し訳ありませんでした。あの、これ、少ないかもしれませんが、受け取ってください」


 そういうと、私はいくらか金銭の入った袋を差し出した。聞いている限りでは労働者の一日分の金銭に値する。


「ふん、要らないよ。用済みなら、さっさと帰んな。小僧どもの相手しているほど、暇じゃないよ」


 そう言うと、ゲアルさんはこちらに背を向け、工房に戻ろうとした。


「お待ちください。お邪魔しましたし、受け取ってください」


「要らないと言っただろ」


 ここで引くわけにはいかない。ここでの私の評価はまだ低いだろう。こういったことは決して蔑ろにしてはならない。そんな気がするのだ。


「お忙しいのでしたら、私に手伝えることがあれば、何でも手伝います。私にできる事であれば、いくらでも、こき使ってください」


「あんたら、こき使ったら、後で面倒被るのはあたしだよ。お断りだね」


「いえ、絶対にそのようなことにはさせませんので、何卒、この度のご迷惑に対する補填をさせてください」


「……私もソトガミと同じ意見よ」


「全く、強情なやつだね。……少し待ってな」


 そう言うとゲアルさんは工房の奥に戻っていった。それを見届けると、エストリーは小声でこんなことを言ってきた。


「何を言うつもりなのか、事前に聞いておくのだったわ」


「お忙しいようでしたら、エストリーは先に帰宅しても大丈夫ですよ?」


「面倒をかけたのだから、貴方がそうするのならば、私も同じように償うわ。でも、今は頭飾りの調査が最優先ではなくて?」


 まあ、気になるには気になる。だが、今のところ、私が何かしなければ、何の問題もないように思える。実は放っておいても大丈夫だったりするのだろうか?


 ……いや、流石にもう少し調査はするか。


「まあ、現時点では基本的にこちらから何か変なことをしない限りは悪影響とかはなさそうですし、このぐらいの寄り道をする余裕はあると信じたいですね」


「楽観的で羨ましいわ。ところで、ゲアル殿は頭飾りをつけていたかしら?」


「ええ」


「そう、私には見えなかったわ。……本当に、私にはついていないのよね?」


「ええ、見た限りはどこにも」


 ここに来る途中、念のため、エストリーから了承を得て、少し複雑な顔をした彼女の髪を触り、頭皮を含め、しっかりと探してみたが、エストリーには頭飾りは見当たらなかった。頭飾りのあるなしはわからない。


「そう、なら、良かったわ。また、体をおかしくされていたのなら、貴方としっかりお話しする必要があると考えていたのだけれど」


 ……エストリーにはついてなくて、本当に良かった。


 程なくして、ゲアルさんがかなり大きめな木箱と共に戻って来た。与えられた仕事は配達のようだ。持ってみると、かなり重い。中身は金属製のくぎ。それは重いはずだ。紙に書かれた配達先の店の名前とその住所が書かれている。私は配達物を持つ係、エストリーは先導係ということで配達を行うことになったのだった。


 配達先に行くと、私の風貌もあってか、多少、怪訝な顔をされもしたが、幸い、エストリーの存在とゲアルさんのサインによって、特に問題なく、配達は完了した。そして、受け取りのサインを持って、ゲアルさんの工房に戻ると、また、指定されたお店に配達を行う。そんな仕事を6件程度こなした。なお、仕事中、私もエストリーも素性は隠した。


 ……ふと、冷静に考えたら、隣国のお姫様が誰かの下で働いているこの現状にはかなり問題がある。私はともかく、エストリーに関しては完全にやらかしたと言える。


 ……今日のこと、エストリーは内緒にしてくれるだろうか?


 最後の配達らしき仕事を終えると、ゲアルさんから、『食ってきな』と誘われ、食事を振舞われた。特に断る理由もなかったので、いただくことにした。知らない野菜やら肉やらのよくわからないごった煮の料理は空腹を満たしてくれた。普通に美味しいとは思う。良くわからない味だったが。


 食事後、ゲアルさんにお礼を言い、工房を去り、そして今は城に戻る途中だ。


「そういえば、結局、私達は誰と会わされるんでしょうね?」


「知らないわよ。有力者とお近づきになれるのなら、貴方にとっては都合が良いのではなくて?」


「まあ、それはその通りなんですけどね。何というか、エストリーはともかく、権力を持った人の前はそれなりに緊張しますし、アルセドさんがわざわざ引き合わせてくるなんて、一体、どんな人と会わされるんだろうなって」


「意外ね。私はあまり緊張していないように思っていたのだけれど」


「それなりにはしますよ。というより、こちらの世界での礼儀作法とかわからないですし、とんでもない地雷を踏みぬかないか心配なんですよ。それこそ、エストリーの時みたいに」


「そうね。でも、向こうは貴方の事情を知り得ていると思うわ。それなら、多めに見てもらえるのではなくて?」


「だと嬉しいですけどね。そういえば、エストリーは明日、リディアさんと庭園を見に行くんでしたっけ?」


「それなら、行かないわ」


「え?」


「言ったでしょう? 頭飾りの調査が最優先だと。そんなことは後回しよ」


「お気持ちは嬉しいのですが、私一人でも調査するので、リディアさんと庭園に行っていただいても大丈夫ですよ?」


「この世界に疎い貴方が一人で調査して、成果を挙げられるとは思えないのだけれど」


「うーん、まあ、そうかもしれませんが、やっぱり、そこまで急いで解明しなければならないようには思えませんし、最悪、アルセドさん達を頼るという手もあります」


「そう、なら、貴方の好きにしなさい。私はリディアと庭園を見てくるわ。でも、何かあったら、深追いせず、必ず、私を呼びに来なさい。明日はドーレス殿の庭園にいるから。必ず呼びに来るのよ。……わかったかしら?」


「はい。まあ、そういう状況になったら、一旦引いて、エストリーを頼らせてもらいますよ。ありがとうございます」


 まあ、何かあった時に私が呼びに戻れるかどうかは知らないのだが、そうなったら詰みなので諦めるしかない。


「……そういえば、エストリー。リディアさんについて聞きたいことがあるのですが」


「リディアがなにか?」


「ああ、いや、ここからは単に世間話でもしようかと。お二人は仲がいいみたいですが、今回、ゲヘナに来ているヴァルスフィアの方々で他に仲の良い友人はいたりするんですか?」


「……リディアにはそれなりにいるでしょうね」


 おっと? ……振る話題を間違えたかもしれない。


「私は立場が違うもの。対等に接しているつもりでも、実際には対等じゃない。向こうもそれはわきまえているわ。だから、友というには少し違う。でも、それで構わないわ。私情を捨てた方がより正しい決断を下せると思っているもの。私の選択で国の大事を誤るわけにはいかないわ」


 軽い世間話をしようと思っただけなのに、思ったより、重くてしっかりとした返答が返ってきた。


「そうですが、まあ、エストリーの方がどう考えているかはわかりませんが、私はエストリーのことを対等な友人として見ていますよ」


「あら? 貴方は下だと思っていたわ」


「えぇ……、そうなんですか?」


「冗談よ。でも、そうね。私にとって、貴方の存在は本当に奇妙だわ。対等なのかもしれないし、実は私の方が下なのかもしれない。そうでしょう? 貴方からは時々、全く別の何かで私達を見ていると感じるもの。貴方の国、貴方の世界、それが今いるゲヘナやこの世界と対等かなんて、推し量ることは難しいわ。でも、貴方はただ対等に振舞っている。それが奇妙で、そしてとてもわからないの」


「別に下に見てはいませんし、下でもないと思いますよ」


「そうね。何故だか、下に見られているようには思わないわ。それにわからないからこそ、もしかしたら、貴方は唯一、私にとって、対等と言える存在かもしれないわね。……貴方が私にとって唯一の存在というのもそれはそれで癪ね。やっぱり今のは忘れなさい」


「ここまで言っといて、最後にそれはひどくないですか?」


「ちょっとした気まぐれよ、許しなさい。……貴方とこんな風に話していると、時々、私も何を言っているのかよくわからなくなるわ」


「エストリーもあんまり考えずに発言する時があるんですね」


「それはお互い様でしょう? でも、私の場合、貴方から影響を受けた気がするわ」


「まあ、エストリーみたいな人に何かしらの影響を与えられたのなら、光栄だと思っておきますよ」


「そうね、光栄に思いなさい。それに貴方だって、私の影響を受けていると思うわ。私と貴方、お互いに奇妙な影響を与え合っているのではなくて? この関係を続けていれば、もしかすれば、いつか本当に対等な関係を示せるかもしれないわよ? 面白いことに、私達の間には、どちらが上か下かという明確な境界がないもの」


「まあ、確かに。エストリーはともかくとして、この世界で私の存在は曖昧もいいところですからね。本来、存在してないはずの人間がいるわけですし、曖昧も何も、元々、お互いに感知できない無の存在だったわけですし」


「まるで物語だわ。でも、もしこれが物語だとするならば、主人公はどちらなのでしょうね? 異なる世界を知った私と異なる世界に来た貴方……、それとも、他に主人公がいるのかしら? 例えば……、そう、フィオナも当てはまるのではなくて? 貴方を見つけたアルセド殿も、もしかしたら、リテーリア殿の物語かもしれないわね? 貴方は誰が主人公だと思うかしら?」


「誰がと言う訳ではないですが、死なないなら主人公になりたいですし、死ぬなら、謹んで他の方に主人公をお譲りしますよ。物語にいるなら、正直、喧騒に巻き込まれず、平穏に暮らしたいですからね。冒険も楽しいかもしれませんが、死にたいわけではないので」


「貴方はどちらだとしても、平穏には生きられないと思うわ」


「そんなことはないと思いたいのですが」


「少なくとも、この世界で生きていくのであれば、貴方の容姿は不利なの。諦めなさい」


「諦めたくないんですけどねぇ。まあ、とりあえずはエストリー達を頼らせてもらいますよ」


「好きにしなさい」


 城に着く頃には空は暗くなった。城でも夕飯はすでに作られていたのだが、流石に入らないため、謝罪と共に今日は食べてきてしまったことを伝え、断りを入れた。


 エストリーと軽く別れを告げ、自室に戻った。部屋にフィオナさんがいるか、恐る恐る扉を開けたが、今回はいなかった。どこか安堵する気持ちと残念なような気持ちがあったが、まあ、適当に待っていれば、直にリテーリアさんが呼びに来るだろう。そうして、暫く待機する間、私は日記を取り出し、簡潔に私にしか見えない頭飾りについて、日記に記した。


 ……ある程度、必要な情報を書き込み、ついでにミリアムちゃんとレイラちゃんのことも記しておこうかとしたところで、扉が叩かれる音がする。


「ソトガミ、私だ。準備が整っているなら、アルセド様の元に案内する」


「ああ、はい。ちょっと待って下さい。すぐに出ますので」


 私は急いで彼女達の名前だけを書き込み、日記をしまうと、扉を開けた。


 目の前にはリテーリアさんがいる。そして、リテーリアさんも奇妙な頭飾りをつけている。わからない。何故、エストリーはついていないのだろうか?


 ……いや、駄目だな。ついている方が異常なのかもしれないし、どちらにせよ、全く問題はないのかもしれない。一先ずはアルセドさんの元へ向かうとしよう。

読んでいただき、ありがとうございます。


誤字などがございましたら、教えていただけると助かります。


感想やブックマークをいただけますと励みになりますので、良ければ、お願い致します。

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