52話 奇妙な頭飾り
「少しお聞きしたいことがあるのですが」
「何?」
「今日は皆さんが何やら、丸やら、四角やらのアクセサリーを頭に身に着けているように思えるのですが、何か、行事でもあるんですかね? それとも、この世界では案外、一般的だったりするのでしょうか?」
だが、この前、出掛けた時にはそんなことはなかったのだ。
「曜日か何かでつける決まりでもあるんですかね? エストリー、何か、知っていませんか? もし、知っていたら、教えていただきたいのですが」
今日出会う人のほとんどが、いや、恐らくは全員が頭にアクセサリーのようなものを身に着けている。女性も男性も、老人から若者、子供。今だって、道行く人達は皆、身に着けている。この世界に来てから、今日まではそんなことなかった。
「一体、何のことを言っているの?」
「え? いや、だから、アクセサリーですよ。さっきだって、道行く人がつけていたじゃないですか。ほら、あそこにいる女性の方は丸い形状やつですし、そこの男性は三角の形状をした頭飾りをつけているでしょう」
「待って、……待ちなさい」
「はい?」
「見間違いでは、ないのね?」
……嫌な予感がする。
その後、道行く人を互いにそれぞれ確認し、特徴を言い合ったが、顔のほくろや服装等の特徴は概ね、一致するにも関わらず、ただ、頭飾りだけは一致しないことが多かった。私が頭飾りの特徴を言うと、彼女は高確率でそんなものは確認できないと言う。形状や色ではなく、存在する、しない……そんな不一致だったのだ。
「エストリー、まあ、私にしか見えていないものがあるようですね」
「もし冗談なのであれば、まだ許してあげるわよ?」
「残念ながら冗談ではないですね」
「はぁ……」
「申し訳ないのですが、ちょうどいいので、あそこの子供を呼んできてはいただけないでしょうか?」
「自分で呼べばいいのではなくて?」
「いやぁ、エストリーの方が警戒されないと思うので」
「……仕方ないわね、まったく。少し待っていなさい」
その後、エストリーが子供たちに何かを話すと、2人の少女がこちらに来た。
1人の少女は少しびくついており、こちらを見ながらも、こう聞いてきた。
「あ、あの……! 私達に何か、御用、でしょうか?」
「ああ、その怪しい者ではないので、心配しないでください。私は外神和平といいます。ゲヘナの城から来た者です」
待った、怪しい者ではないって、言うのは怪しいのでは? まあ、もう手遅れか。
「お城から? なら、お兄ちゃんは王様に仕えているの?」
おどおどした女の子とは対照的に元気そうな女の子がそんなことを聞いてきた。
「まあ、仕えているというよりはお世話になっているといいますか」
「ふーん、ま、別にどっちでもいいわ。なんか、あんたと話したら、お小遣い貰えるって聞いたから、来ただけだし」
「ちょ、ちょっと、ミリアルちゃん、失礼…だよ」
「そのぐらい気軽な方が私も話しやすいので、気にしないでください」
まずはこの少女二人の警戒を解くところからだなぁ。といっても、子供の扱いには慣れていないので不安でしかないが。
「ほーら! あたしの言った通りじゃない、レイラ。あんたも、もっと、堂々としないと駄目よ」
「そ、そんなこと言ったって……、大人の人だし……、うぅ……、そ、それに……」
少女が何やら、耳打ちをしている。うーん、ミリアルと言うらしい少女はともかくとして、この少女にはかなり警戒されているな。どうしたものか。
「はぁ、あんた、ほんとーに、こわがりね!近くで見てみたら、ただ、髪が黒いだけじゃない。むしろ、つまらなかったわ」
なるほど、つまらないか。新しいパターンだ。人によっては問答無用で邪険にされたものだが、案外、こんな感じなのかもな。それならば、どこかに付け入る隙はあるのかもしれない。まあ、敵対されるよりは友好的に会話ができるに越したことはないからな。
「ミリアルちゃん! 言わないでって、言ったのにっ!」
「あんたが心配し過ぎなのよ。ねぇ、ソトガミさんも気にしないでしょ?」
「ええ」
「ほら、問題ないじゃない」
「そういうことじゃないよお!」
「ああ、えっと、君たち、いいかな? 少し聞きたいことがあるのだけど」
私がそう言うと、レイラという名らしい少女はびくっと震えた。
「な、なな、何、でしょうか?」
少女はミリアルの陰に隠れながら、そう言った。
「そんなに怖がらなくて、大丈夫ですよ」
あんまり考えたことなかったのだが、黒いとか関係なく、実は子供に怖がられるような見た目なのだろうか? そこら辺、どうなのだろうか?
「ねえ、貴方、レイラと言ったわね?」
エストリーがレイラに話しかける。
「は、はい!」
「安心なさい。貴方達に何かあったら、私がこの男をぶちのめすから」
……私が安心できなくなった。
「安心してください。私なんかより、このお姉さんの方が何万倍もこわ」
「ソトガミ?」
「何でもないです、すみません。……ん、んん! それより、聞きたいんだけど、君たちや周りの大人が頭につけているその、頭飾り? なのかな、良くわからないのだけど、それは何なのかな? このお姉さんにはどうやら、見えないみたいなんだ」
「はぁ? 何? 飾りってどれよ? そんなもんつけてないわよ」
視線を向けるとエストリーは『ほら、言ったでしょう?』と言った感じでこちらを見ている。
「ええっと、例えば、君が頭に着けているこれは? もしよければ、少し、触らせてもらえないかな? その、少しの間だけでいいんだ」
「ちょっと、よく見なさいよ! ソトガミさん、目が悪いの? 何もつけてないって、言ったでしょ!」
「ああ、えっとね。じゃあ、こうしよう。少し、頭を触らせてもらえないかな? 別途、お小遣いあげるから」
「嫌よ! レディの頭を気安く触らないで!」
「……えっと、これじゃ駄目かな?」
私は袋からいくつかの硬貨を取り出した。この世界の貨幣価値というか、感覚はまだ完全には身に着けてはいないが、恐らく、このぐらいの年頃の子供には大金に見えるはずの額だ。
「そんなにくれるの!?」
「ああ、勿論。少しの間、触らせてくれたら、このお金は全部、君のものだよ」
我ながら、誤解されそうな言い回しをしているが。
そう言うと、エストリーが私の耳に顔を近づけ、私に聞こえるぐらいの声でこう囁いてきた。
「ソトガミ、言っておくけれど、貴方が言っている頭飾り以外を故意に触っていると私が判断をしたら……、その瞬間に貴方の指をへし折るわ。これは冗談ではないわ。触れた指を全て、折るわ。理解したかしら?」
怖い。とりあえず、黙って頷いた。
「……そう。なら、そのまま誤った考えは起こさないことね?」
「あー、とりあえず、頭以外の箇所には決して触れないので、安心していただければ」
「なら、やるわ! さっ、いいわよ! 気が済むまで触ってちょうだい!」
「ミリアルちゃん、や、やめといた方が……」
「安心なさい。変なことをしないか、監視しているから」
私は安心できないのだけどな。まあ、いい。早いところ確かめるとしよう。
「では……」
「ひゃっ!?」
私に見えている頭飾りだが、触れると確かに感触がある。金属に似たその感触は温度こそ、空気に触れているような感覚だが、明らかに触れている。それだけはわかる。確かにこれは存在し、今、目の前の少女はこれを身に着けているのだ。だが、問題はそれを私以外の誰も認識していないのだ。
「ど、どうしたの?」
「わ、わかんない。頭触られてないのに、でも、何か変っ!」
うーん、触れてみてわかったが、案外がっちり固定されている。だが、この頭飾りを力強く動かそうとしても、少女の頭の動きに連動する。つまり、こちらから、この頭飾りを動かし、少女の頭を動かすことはできないようだ。
そして、少女には触れられているような感触が存在するらしい。
「変って、何が変なの……?」
「わかんない、わかんないけど、怖い! 嫌っ! やめて、やめてよ! お金、いらないから、やめて!」
おっと、そんなに拒絶反応を示すか? うーん、これは、どういうことなん……。
「ソトガミ、やめなさい」
……おおっ!
腕を掴まれたと思ったら、直後、頬に衝撃が加わる。ビンタされてしまったようだ、エストリーに。触れていた手も思わず放してしまった。少女の方を向くと、目に一杯の涙を貯めている。でも、まだ泣いてはいないようだ。
「……ごめんね。怖がらせる予定はなかったんだ」
「あ、あんた! 私に、一体、何したのよ!」
決壊してしまった。鼻水も出し、ぐじゅぐじゅになりながら、そんなことを言われる。
「害するつもりはなかったんだ。ごめんね。ええっと、聞きたいんだけど、君には頭のどこかに触れられている感覚があったのかな?」
「わかんないわよ! 頭、変な感じで、でも、触られてないのに、触られてて、わかんない!」
うーん、どういうことだ? だが、私が頭飾りに触れたことで確かに異常とも言える変化が見られたのだ。一体、何が起きている? 私がおかしいのか? それとも、彼女や町の人達がおかしくなっているのか?
まあ、ともかく、一先ずはこの少女を泣き止ませるのが先か。
「そっか、ありがとう。約束通り、これは君にあげよう。その、本当に怖がらせるつもりはなかったんだ。だから、泣き止んでくれると嬉しいな」
少女の手を取り、硬貨を握らせる。
「な、泣いて、なんか……っ!ないん、だからぁっ!」
……どうしたものか。
「ソトガミ、貴方が悪いのだから、自分で何とかなさい」
「……はい」
見捨てられてしまったようだ。うーん、どうしたものか?
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