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白痴の黒  作者: 忌神外
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45話 二度目の対話2

「では、今回の話は私とエストリーのそれぞれが把握している範囲で説明します。まずは私の方から。……途中で何かあれば、止めてもらっても構いません」


「承知したよ」


「無論、エストリーの方も止めていただいて構いません。この場では見解の一致が望ましいですから」


「……それで構わないわ。続けて」


「……それではリテーリアさんからも説明は受けているかもしれませんが、私の方からも大まかな説明します。その後、細かい部分を説明できればと」


 この場での最大の目的は事情を説明し、アルセドさん、そして、エストリーの理解と協力関係を得ること。もしくは女神の対処に関する協力が得られずとも、前にここで話した内容の関係になることだ。失敗は交渉が決裂し、敵対関係になること、そして、考えなければいけないのはアルセドさんかエストリーのどちらかを切り捨てなければならないことだ。まあ、まずはそうならないように気をつけねば。


「まず、今回の件は私とエストリーとの一件から、始まったとも考えられます。エストリーがゲヘナに来たその日、私は乗っ取られていた彼女に誘き出され、この城には本来、存在しえない場所……、いや、空間と言ったらいいのでしょうか。とにかく、およそ、魔術か異常としか」


「ソトガミ、あれは異常。魔術じゃないわ」


「……失礼しました。異常が原因と思われる異空間に閉じ込められかけました」


「結果はアルセドさん達も把握している通りでしょう。乗っ取られていたエストリーに対し、私は彼女の乗っ取り状態を解除し、そして、エストリーが異空間を生み出した原因と考えられる鍵を壊したことで外に出ることに成功しました。その後はアルセドさん達の知るところです」


「そうだね、その後、わしは君達をここに呼び、話をしたね」


「はい。ちなみに隠すつもりはないので、説明はしますが。実際問題、アルセドさんは異空間の中で行われていたことをどのくらい把握していたのでしょうか?」


「ソトガミ君とエストリー君があの中でどんな会話をしていたか、それはわしらの知るところではない。だが、激しい戦闘をしていた。それは把握している」


「お聞きしてよろしければ、それはどういった要因で戦闘を行っていたと判別したのでしょうか?」


「……魔術を用いた行動は痕跡が残りやすい。だが、意図して消すこともできる。では、異常についての痕跡はどうだと思うかね?」


「……わかりません」


「異常の痕跡はほとんどの場合、意図して消すことは不可能なのだよ。薄れるのは時間と共にといった場合がほとんどだ。そして、ソトガミ君とエストリー君の戦闘はゲヘナのあの部屋があった場所を中心に異常の痕跡を放ち続けていた。それが、二人の身に何かあり、そして、戦闘が行われているという仮説に至った理由なのだよ」


 なるほど。つまり、迂闊に触手を出して、戦闘した場合、アルセドさん達への揉み消しは難しいのかもしれない。実際に確認したわけではないから、あれだが。


「エストリーが乗っ取られていたことについてはどうでしょうか?」


「エストリー君は護衛の目的で監視していたよ」


 まあ、そうか。私もきっと監視されていたのだろう。


「だが、二人が一時的に姿を消すまでの間に、護衛を任されていた者はその任から、外れていた」


「はい?えっと、それは何故です?」


「正確には裏切っていたのだよ。その者はエストリー君の監視を行っていたのではなく、乗っ取られていたエストリー君の行動が妨害されないように協力していたのだよ。ソトガミ君と我々のどちらにも気が付かれないようにね。つまり、エストリー君が乗っ取られていたことはソトガミ君が異空間に消え、戦闘を行うまで、誰も把握できていなかったのだよ」


「話を聞いた限りではその人もエストリー同様、乗っ取られていた可能性はありますね。まあ、単純に内通していたという可能性もあるとは思いますが。ちなみにその方は今現在、どのような状態でしょうか?」


「自ら命を絶ったよ。我らが駆け付けたと同時にね」


「なるほど、そうですか。残念です、何かお話を伺えればと思っていたのですが」


 そうか。だが、そういうことなら、疑問は残る。一つはゲヘナの対応だ。あの場所を中心に異常の痕跡が放たれていたことを把握していたのなら、私とエストリーが戻って来た部屋には少なからず、誰かしらの目はあったはずだ。


 だが、誰とも出会うことはなく、一旦、エストリーの部屋に行き、自室に戻り、リテーリアさんの部屋まで行ったタイミングでエヌルグトースさんから、声をかけられた。


 それは何故だ? 戻って来たタイミングで声をかけてこなかった? こちらの様子から、何か、推察していたのか?


 いや、向こうからしてみれば、私とエストリーは突然、消え、突然、戻って来た。……なら、警戒はするか。私とエストリーが分かれたタイミングで声をかけてきたのは正しい対応なのかもしれない。


「そういうことであれば、まずは乗っ取られたエストリーと私が異空間に消えて、その後、再出現するまでの話をしましょう」


 しかしだ、次に誘拐犯についても、疑問が残る。女神と同じ姿をしていたらしい誘拐犯はエストリーを乗っ取り、内通者を用い、私をあの異空間まで誘い出した。そこまでのことをしてまで、何故、わざわざ、私の血を欲したかだ。


 やはり、不老不死が目的だったのだろうか? 血を欲していたのはわかるが、誘拐犯が斬り付けた際についた私の血を、ついた剣の血を舐めとらなかったのは何故だろうか?


 ……いや、欲しているのは誘拐犯だが、あの時の体はエストリーなのだ。なら、エストリーが舐めても目的としては意味がないか。多分、あの誘拐犯は私か、私の血を一定量持ち帰ることが目的だったのだろう。


「食事を終えた後、私は自室でゆっくりしていました。そこに乗っ取られていたエストリーがやってきました。ちなみにその時点では私もエストリーが乗っ取られていたことには気が付いていません。まあ、少し違和感は感じていましたが」


 エストリーから、聞いた話だと、私は彼女の口に指を突っ込み、血を舐めさせたことでああなったらしい。だが、あの程度の量で充分ならば、自身の不老不死が目的ならば、何故、あの時に、剣に血が付いたその瞬間に退散しなかったのだろうか?


「違和感?」


 ……つまり、誘拐犯にとっては血の量はあれだけでは不十分だったのだ。あれが具体的に何をしようとしたのかはわからないがひょっとしたら、成分を研究して、量産する目的や不老不死の軍団でも作ろうと考えたのかもしれない。だが、ともかく、あれの目的は自身が直ちに不老不死になることではなかったのかもしれない。そして、あれは少なくとも、不老不死ではないだろう。私とエストリーに敗れたのだから。


「うーん、まあ、結果論なところもあるのですが、何というか、あの時のエストリーって、正直、私に対して、わざわざ、部屋まで来て、話をするような人物ではなかったと思うんですよ。というより、正直、色々警戒されていたんじゃないかなって」


「どうしてそう思ったのかしら?」


「まず、この世界の人達とは見た目が明らかに違うじゃないですが、黒髪ですし。それにエストリーの魔術を打ち消したのにも関わらず、魔術のことを何一つ知らないという相手何て、正直、私がエストリーなら、気持ち悪さしかないですし、警戒して、一人で会おうとは思いませんよ。何されるかわからないですからね」


「……別にそこまで警戒はしていなかったわよ」


「あれ、そうなんですか?」


「警戒は確かにしていたわ。でも、正直、わからないという気持ちが一番大きかったもの」


「わからない、ですか?」


「だって、貴方、本当に何も知らなそうだったのだもの。でも、全く違う何かで私と話しているようでもあった。それが何かはわからなかったわ。まあ、もっとも、それが何かはすぐに知れたのだけれど」


 ああ、なるほど。まあ、確かに私の境遇についてはその後、エストリーに話すことになるのだ。


「まあ、そうですね。ああ、すみません。アルセドさん、続きを話しますね。このことについても説明します」


 アルセドさんはこくりと頷いた。


「乗っ取られたエストリーに案内され、私は城のとある扉の前に案内されました。彼女の手にはいつの間にか鍵が握られていて、彼女が鍵穴に鍵を差し込み、扉を開くと、そこは異空間でした」


「内部はどのようになっていたのかね?」


「中はそうですね。……まず、部屋の中に入ったはずだったのですが、天井とは思えない程の高さと広さがありました。後ろには入って来た扉のみで、壁などはありませんでした。そして、空と形容していいのかはわかりませんが、およそそれに見える何かはとても赤かったのです。色で言うと、夕焼けとかそういったものではなく、血の色というんでしょうか?とにかく、赤かったんです。まあ、異空間についてはこんなところでしょうか」


 我ながら何で扉の先に踏み込んだのだろうな? 疲れていたのもあったが、正直、警戒を優先すべきだった。……純粋に好奇心が勝ってしまったのだが。


「そのすぐ後、私は乗っ取られた状態のエストリーによって、襲われました。……あー、一応、補足しておくと、この時のエストリーは体の支配権をほぼほぼ奪われていたみたいなので、異空間内でのエストリーの行動は完全に別人によるものと考えていただければ」


「あら、随分とお優しいのね。少しは非難されると思っていたのだけれど」


「非難するつもりはありませんし、エストリーも私が非難する気がないのはわかっているのでは? というより、むしろ、これに関しては私が原因みたいなものですし、非難されるとしたら、むしろ、私の方だと考えていますよ」


「…………」


「エストリー?」


 私の呼びかけにエストリーは軽いため息をついた。


「……ソトガミ」


「……なんでしょう?」


「今回の出来事の多くは貴方が原因で起きたことだとは思うわ。でも、私が乗っ取られたのは、結局のところ、私自身が弱かったから乗っ取られた。それだけのことよ。だから、これは私自身の問題。貴方が今回のことをどう思おうと勝手だけれど、そういうところまで責任を負おうとするのはやめて。それは私の問題、私の責任よ」


 そう答えるエストリーの目には、表情には明確に強い意志があった。彼女とは出会って数日だったが、短期間でここまで印象が変わるとは思わなかった。


「……軽率な発言でしたね。すみませんでした」


「謝罪は受け入れるわ。ソトガミ、この後の話も私に対して、何らかの謝罪は不要よ。それはもう、貴方と私で受け入れたこと、……そうでしょう?」


「エストリー、ありがとうございます」


「そう」


 私は出会い方には恵まれていないが、出会った人物には恵まれているのかもしれない。


「では、話を先に進めますね」


 続きは何だったか? ああ、そうか、扉の内部に入って、エストリーと会話をして、その後だ。


「異空間の中ではエストリーと戦闘になりました。まあ、といっても、私は弱く、戦いにはなっていなかったのですが。とりあえず、左腕のこの辺りを、剣で、こう……ずばっと、切り裂かれたんですよね。当然、血は出ましたし、態勢を崩しました。すぐさま、エストリーの二撃目が来ました。まあ、当然、避けるのが間に合わないので、そこで、私は死ぬはずでした。ですが、そうはならなかったんです。そうならなかった原因は……」


 ここに来て、なお、言わない方がいいのではという考えに囚われてしまう。


 ……だが、決めたのだ、伝えると。最悪、敵対しても構わない。死ぬつもりはないが、この世界に来て、関わりを持った以上、この世界の人達に危険が迫っているのなら、伝えるぐらいのことはしよう。


「そうならなかった原因は私自身にあります。突如、現れた肉塊によって、私は助かりました」


「肉塊?」


「はい。特徴を口頭で伝えるとしたら、そうですね。まず、全体的な構成要素は見た感じでは腐敗した肉のような何かでした。まあ、特に名前もなさそうだったので、本当に見た感じのまんまで呼んでいるって感じですね」


 しかし、いつまでも肉、肉って、呼ぶのはあれかもなぁ。他に何かいい名称はないものだろうか? ……肉だな。


「肉に関してはイメージしにくいと思うので説明すると、とりあえず、少なくとも私やエストリーにとってはかなり気分が悪くなる異臭を放っています。また、形状は腐敗した肉の塊のような感じですね。ああ、ただ、形はこう、触手って言ったら、わかりますかね? こう、細長い形状になることもできれば、手のひらのような広がりを持った形状になることも可能でした。精密な形状まで模倣できるのかは不明です」


 どうなのだろうな? 可能なのだろうか?

 

 だが、わざわざ、そのためだけにあれを呼び出したくはない。あれについては、色々と把握しておきたいことはあるが、それによって、何らかの被害が出るのは避けねばならない。敵対しないというこちらの前提が崩れてしまう。


 しかし、あれはどうやって出現するのだろうな? エストリーと出会った日の他に、今日、黒幕と対峙した時も肉を出していたらしい。二つの事例から、共通点を探すとしたら、エストリーが近くにいたこと、私が戦闘に巻き込まれたことだろうか。この二つから要因を考えるならば、恐らくは後者の可能性が高いと思う。だが、具体的な要因はまだ、わからない。ある程度の血を流す必要があるのかもしれない。危害を受けた、あるいは受ける可能性が必要なのかもしれない。またはそういった状況でなくとも、私が必要だと思えば来るのかもしれない。……わからない。とりあえず、意図せず出てきて、好き勝手されるのだけはやめていただきたい。


「ソトガミ君、少し待ってくれたまえよ。……ああ、あった、あった。ソトガミ君、これを使って、形状を描いてみてはくれないかね?」


「ああ、はい、わかりました」


「それと、エストリー君、君にも描いてもらいたい。君もしっかりと見ているのだろう?」


「わかりました」

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