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白痴の黒  作者: 忌神外
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41話 目覚めと状況整理2

「話を戻すわ。貴方と私、そう簡単に二人きりになれるわけがないでしょう? 今回だって、私は視察の予定を変更して、無理を押し通して、貴方と二人だけで行動をしたのよ? 少なくとも、今回のゲヘナ滞在の間は同じ手は使えない。だから、貴方が、もしも、誰にも怪しまれず、誰にも聞かれない状況で私と話したいというのであれば、それはとても難しいことなの。それが理解できて?」


 まあ、確かにエストリーの言う通りだろう。アルセドさんやリテーリアさん辺りにも正直、監視はされていそうだし、そうでなくても、他の人の目につくのは当然と言えるだろう。今後のことを考えるとお互いに迂闊なことはできない。特に私はエストリーが今回のことを全て、露呈するのではという、危機感もそれなりにある。協力はして欲しいし、情報を得たいのは事実だが、機を待たねばならない。


 ……儘ならないものだ。


「……エストリー、例えばの話なのですが、夢の中で話すのはどうでしょう? 今回、何故、同じ夢を見ることが出来たのかはわかりません。ただ、前例があるのであれば、何らかの方法でまた、同じ夢を見れるはずです」


 少なくとも私は勾玉を使えば、あの夢を見ることはできる。エストリーに関しても、何かしらの手立てがあるはずだ。


「同じ夢を見たのは貴方が私に血を飲ませたことが関係しているのではなくて?」


「確かにその可能性はありそうですよね」


 安直すぎるかもしれないが、実際、思い当たることと言ったら、そのぐらいではある。


「でも、その考えには反対だわ。私はあの夢で黒幕と同じ姿をした存在に何度も殺されたのよ? 貴方は女神様と呼んでいたみたいだけれど。あれがいる場所で落ち着いて、会話が出来るとでも思っていて?」


 まあ、それ自体はそうなのだ。女神がエストリーを害することが分かった以上、夢の中でエストリーが再び、殺され続ける可能性は十分にある。そうなったら、エストリーとの会話どころではない。他の人がいないといった点ではいいが、難点はまさにそこだ。


「そもそも、あの場所は一体何なの?」


「いや、それは私にも正直、わかりません。夢の中としか」


「得ている情報はそれだけ?」


「まあ、そうですね。役に立てなくて、申し訳ないですが」


「そう。……それで? 貴方はその女神様から、干渉されない策があるのかしら?」


「いや、何も」


「何もって、貴方ね……」


「まあ、強いて言うなら、あのフードの男に守ってもらうことですが。あれもあれで正直、頼りたくはないんですよね」


「つまり、貴方はあれが再び襲ってくるかもしれない夢の中で対策もなく、無防備に二人きりでお話しようと、そうお誘いしているのね?」


「まあ、そもそも、まだ、再び同じ夢を見れるのか、どうかはわからないのであれですが、まあ、そうですね。とりあえず、あの場所で分かっている限りのことをいえば、まず、空間としては大体あんな感じです」


 例外はあるにはある女神の部屋や食事スペースは奇麗だったりするのだ。


「あと、あそこにいる存在としては、フィオナさんと同じ姿をした少女、ここでは夢フィオナとでも呼びますが、あれはまあ、多分、変に刺激しなければ、大丈夫だと思います。それと、フードの男、小瓶も持っていた人ですね。あとは黒幕と同じ姿をしていたらしい女神と、顔のない修道女達……そんなもんですかね。正直に話すと、私はこれまでに何回かあの夢を見ていますが、本来、あそこに女神が来ることなんて、一度もなかったんです。だから、何故、今回に限って、来たのかは正直、わからないのですが、普段通りであれば、あの空間は二人きりで会話するのには向いているのではないかなと」


「……貴方、さっきから、女神、女神と呼んでいるけれど、そもそも、あれは何?」


「ああ、あれはご本人が女神と名乗ってて、ついでに様と呼ばせて来ようとしているだけなので、正体に関しては全くわからないです。黒幕と同じ姿をしていると言っていましたが、恐らく別物だと思いますよ。そもそも、今回の件のエストリーを助ける条件が黒幕を倒すことでしたから」


「あれの目的は?」


 話してよいものだろうか?まあ、隠してもばれそうではある。あの女神が、人類を救済しようとしている善良な存在ですとか、言っても、誰も信じないだろうしな。実際に体験したエストリーは特に。


「先に大前提として言っておきます。私は私の世界やこの世界の人々を害するために動こうとは思っていません。それを前提に言いますが、あれは、この世界の人々を根絶やしにしたいみたいです」


「……あれが明確な敵意を向けてきていたのはわかってはいたのだけれど、何故、そう思い至ったのかしら。ソトガミ、貴方は何か知っていないのかしら」


「いや、何も。まあ、この世界の人々と女神で過去に何らかの確執があったのは間違いないでしょうが、正直、全くわかりません」


「そう。だとするならば、あれを説得するのは現時点ではほぼ不可能ということね」


「まあ、恐らくはそうなりますね。ただ、それでも、説得する手を放棄するのは考えていませんし、あれの矛先を何らかの対象に逸らして、時間稼ぎをするというのは一つの手かなと」


「時間稼ぎが通用する相手だと良いのだけれど」


「それはまあ、神頼みでしょうね」


「……彼らが直接出向かず、わざわざ、貴方を用いているのは、この世界に直接干渉することが出来ないということなのかしら」


「明確にどっちといった回答は難しいですね。フードの男は来れますし、夢フィオナは自発的には来れないだけで条件を満たせば来れるみたいです。女神は多分……、来れないんじゃないですかね?だから、エストリーが言うように私を用いているのではないかと。代役にした理由はわかりませんが」


「そう。そういうことであるのならば、こちら側にもまだ、対策の余地はあるということなのかしらね。でも、貴方が代役であるのならば、全くもって、矛盾した話だわ」


「矛盾とは?」


「あの女神と名乗る存在から見た貴方はこの世界を滅ぼすための尖兵のようなもの、もしくは貴方自身がこの世界を滅ぼす存在そのもの。でも、アルセド殿が言う貴方はこの世界が滅びないために必要な存在。ソトガミ、貴方は一体、どちらなのかしらね? 滅ぼす側なのかしら。それとも、救う側?」


「正直、どちらも担いたくはないのですが、滅ぼすよりは救う方がいいですかね」


 しかし、何故、こんなことをしなければならないのかとは常々思ってしまう。もちろん、助けられる限りのことはしたいという気持ちがないわけではないが、私の目的はあくまでも日本に帰ることであり、世界を滅ぼすことでも、救うことでもない。だがまあ、関係を持ってしまった以上は助けるべきだろう。それに万が一、こちらの世界に影響が及ばないとも限らないのだ。最低でも、注視する必要はある。


 ……というか、本当に何故、こういう立ち回りをさせられなければならないのだ。私は何か秀でた才能があるわけではないのだ。配役が明らかに間違っている。


「そう。私は滅ぼす方も似合っていると思うわ? 貴方のあの触手はそういったものでしょう?」


「まあ、確かに見た目はそんな感じですが、少なくとも私は人類側ですよ。というか、本当に何なんですかね、あれ」


「自覚がないのならば、本当に面倒ね。突然、現れて、周囲の人々を殺し始めてもおかしくはないということでしょう?」


「まあ、そうなりますね。とりあえず、個人的に思ったこととしては、まず、エストリーが再び、あの夢を見れるかということと、その場合、あの場所は会話場所として、適しているかどうかですね。あとは、今回の件をアルセドさん達にどのくらい話すかどうか、でしょうか。私はエストリーの裁量に任せるつもりでいますが、エストリーの体の件はどうしますか? というか、大丈夫ですか? 調子の方は」


「アルセド殿には、……話すべきだわ。私達だけでどうにかできる問題じゃないもの。……話すべきよ」


「そうですか。まあ、エストリーが構わないのであれば、そうしましょう。それで、体の調子はいかがですか?」


「調子は悪くはないわ。……いえ、違うわ。とてもいいの、とても。……私の体は一体、何になったのかしらね。それとも、あれは夢だけの出来事だったのかしら?」


「ううん、まあ、そう思いたくもなりますが、さっき言っていた通り、フードの男はこちらの世界に来れますし、あの夢での出来事もかなり信憑性は高いと思いますよ。……ところで、エストリーの回復魔術って、切断された指とかを治すことは出来るんですか?」


「……貴方、一体、何をさせるつもり?」


「ああ、いや、あくまでふと考えたことなので、無理に実行しなくてもよいのですが、仮に回復魔術で切断された指を元通りに出来るのであれば、例えば、ナイフなどで指を切り落としてみて、回復魔術を使わずに治癒できるのか、実験してみるのが手っ取り早いのではないかなと。まあ、痛みは伴いますが、元通りにできるのであれば、実験のリスクはそのぐらいなので。私は魔術を打ち消してしまうので、そうもいきませんが」


「……本当にいい性格をしているわね、貴方」


「我ながら、結構ひどい提案をしているのはわかってはいますが、こういうのは早めに確認できるうちに確認した方がいいのかなと。ああ、ただ、本当に無理はしなくていいので、その場合は別の方法を考えてみましょう。何なら、切断までいかなくても、少し、切る程度でもいいのかなとは思いますし」


「…………はぁ」


 エストリーはため息をつくと、左の手のひらを地面とくっつかせた。右手にはいつの間にか、彼女の拳3つ分ぐらいの長さの短剣が握られている。剣は彼女の指に添えられ、そして……。


 小さく不快な音と共に僅かだが、微かに聞こえる程度の呻き声がした。


 ……泡だ。あの時の肉の泡。それが彼女の指先に小さく発せられているのが見える。そして、10秒もかからない内に元通りになった。切り離された欠片は溶けて、赤黒い染みだけを証として、地面に残した。


 同じだ。夢の時と同じ。エストリーは恐らく回復魔術は使っていない。一連の動作を治療と考えるのには到底無理があった。あれはくっつけたのではない。生えたのだ。つまり、やはり、エストリーの体はすでに人の物ではなく、同時に私も同様の状態である可能性が高い。


 一体、誰が私にこの呪いを押し付けた? 女神か? フードの男か? ……わからない。失った記憶の中だけにいるいずれかの人物かもしれない。


「……満足したかしら?これで、私が化け物であることが証明できたわ」


「一番、きつい役目を押し付けてしまって、申し訳ありません。ただ、エストリーを化け物であるとは思いませんよ」


「思ってもいないことを言うのはやめてちょうだい。そういうのは私、本当に嫌いよ」


「いえ、これ自体は本心です。確かに人の物ではないのは確かですが、エストリーって、ぶっちゃけ、優しいですし、ただ化け物と呼ぶのはなんか、違うかなと」


「……優しい?貴方に優しくしたつもりはないのだけれど」


「いやまあ、何だかんだ話していて、そんな感じがしたので。あと、初めて会った見ず知らずの人物が日本に帰るとかいう、妄言みたいなことを手伝うと言ってくれるだけでも、普通にいい人だと思いますよ。実際、あの時はあんまり状況が分かってなかったので。半ば途方に暮れていたので。仮に本気でなくても、頑張ってみるかと思えたのは事実なので。あとは、ううん、こういう時のあれは難しいですね。まあ、精神面で特に変化がないのであれば、正直、何とでもなるんじゃないですかね。エストリーなら、まあ、多分、大丈夫だと思いますよ。多分、確証はないですけど」


「貴方、思ったよりも、調子のいい言葉がすらすら出てくるのね。……後で違っていたら、恨むわよ?」


「はは……、まあ、その時は寛大な心で許していただければ。……ちなみに今はどうですか? 誰か、人を食べたいだとか、人類を滅ぼしたい衝動とか、そういうのに駆られていたりはしますか?」


「……人類はどうでもいいのだけれど、貴方は滅ぼしたくなったわね。あと、無性に殴りたい衝動に駆られているのだけれど、これも化け物になった弊害というのならば、仕方ないわ。そうでしょう、ソトガミ? そこで待っていなさい、貴方の元へ向かうから。私の化け物としての衝動を落ち着かせて欲しいわ?」


「すみません、流石にふざけ過ぎました。なので、殴るのはやめてもらえると助かります」


「……全く、こういう時にでもくだらない冗談を言うのね、貴方。この数日で貴方について理解できたのはそれぐらいなものね」


「それは少し傷つくのですが」


「はぁ……、まあいいわ。今回のこと、アルセド殿には話しましょう。……ただ、一つ言っておくことがあるわ。彼ら以外の者には決して漏らさないこと。それを約束しなさい。もっとも、貴方が私を本当に化け物にしたいのならば、好きにすればいいと思うわ。でも、忠告しておくけれど、化け物の私はきっと執念深いから、忘れてもらえるとか、許してもらえるなどとはゆめゆめ、考えないことね?」


「わかりました。それはしないようにしますよ。とりあえず、城に帰ったら、アルセドさんの元へ向かいますか。報告は早い方がいいでしょうし。……うん、まあ、こんなもんですかね。あんまり話してて、帰りが遅くなっても、色んな面々から、怪しまれるでしょうし。そろそろ、起こしますか?ドーレスさん」


 ちらっと見るが、気絶したままのドーレスさんが目に入る。今回は流石に申し訳ないことをしてしまった。起きたら、謝罪はするとして、今のうちに、今後のお詫びを考えなければ。


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