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白痴の黒  作者: 忌神外
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38話 夢の世界にまた1人

 巨大な屋敷が見える。私はエストリーと共に地下深くへと、巨大な空洞へと、降り立ったのだ。なら、目の前の光景をどう理解したものだろうか。空洞の中、崩落の危険があるこのような場所で屋敷など建てるものだろうか?誘拐者はこのような場所に住んでいるとでも言うのだろうか?


「エストリー、地下に家を建てるのって、この世界では普通のことなんですか?」


「……大体は頭のおかしいやつがすることよ」


 この世界の人でもその感覚なのか。まあ、エストリーを標準にするのは不安なのだが。でも、扉の先が異空間でしたよりは常識的な光景と言える。いや、我ながら、基準がおかしくなっていないだろうか?まあ、今更か。


「ああ、はい、そうですか。安心しました」


 しかし、どう攻略したものだろうか?あえて、礼儀正しく、玄関から、お邪魔してみるか?エストリーに外から、魔術の炎で何か燃やして燻したり、建物そのものの破壊を試みるのもありだが。……石でも投げてみるか?足元にもよさげな大きさのがいくつかあるわけだし。うーん、どれが…………っ!?何だ!?


 唐突に視界が消えた。正確には黒くなった?いや、本当に一瞬の目眩だったのだが、何が起きた?というよりも、何が起こっている?灯りはどこだ?屋敷はどこにいった?というか、エストリーはどうなって……、何があった?


 空中にはゆらゆらと謎の光が漂っている。光は周囲にもいくつか漂っている。エストリーの衣服は何故か、所々破れているし、血が滲んでいる。顔や髪にも赤黒く、こべりついているし、それを正常と呼ぶのは到底、無理があった。


「……終わったようね」


 終わった?いや、何を言っている?これから、始めるところだったではないか?というか、何故、自身の状況を疑問に思わない?


「急いで、ドーレス殿を運びましょう。このままだと、死んでしまうわ」


 ……視線を動かすと、確かにドーレスさんと思わしき女性が倒れているのが映る。だが、いつの間に?何故、エストリーは突然、出現したドーレスさんに疑問を抱かない?血だまりの中、仰向けになっている彼女を何故、当たり前のように見ている?


 ……状況から、考えると私は錯乱しているのかもしれない。もしくは、エストリー達の方がおかしくなっているかだ。だが、どうする?仮に向こうがおかしくなっているのなら、エストリーに触ることで錯乱状態を解除できるかもしれない。しかし、実証したことがないので、危険ではある。

 

 うん、とりあえずは距離を取ろう。扉があったと思わしき方向から遠ざかろう。まあ、本当に取れているかはわからないが。


 そう、距離を取ろうとした。したのだが、ここで自身の違和感に気づく。


 ……おかしい。思うように力が入らない。


 後頭部と背中が地面とぶつかる。痛い。……倒れてしまった。なにが、起きている?私は……?気分が悪い、とても。


「……っ!ソトガミ!どうしたというの!?」


 ……エストリーに体を起こされるが力が入らない。


「……、……」


 喋ろうと試みたが無理の様だ。……ああ、視界が揺れる。私は死ぬのか?一体、何故?何が起きた?わからない、わからない。これは現実なのか?ああ、気持ちが悪い。何だ、何が起きた?何もわからない。状況が全く理解できない。私は、私たちはやられたのか?幻を見せられているのであれば、私の打ち消す力はどうやら、何の役にも立たなかったらしい。……だが、もし、これが現実なのならば?きっと、私はこれから死ぬ。死んだことはないのだが、不思議とそういう考えになってしまう。私はエストリーを、彼女を救えたのだろうか?ああ、それなら、どんなに良いことか。私が本当に死ぬのだとしても、彼女一人でも救えたという事実は私にとってはそこまで悪い結果ではなかった。……だが、そんな確証は残念ながらどこにもない。それに死ぬときはもう少し穏やかな感じで死にたかった。こんな薄暗い地下ではなく、春の麗らかな日差しの中で桜を見ながら、眠るように死んでみたかった。ああ、後者は案外かなっているか。……駄目だな。最後までくだらないことを考える。死の瞬間は聖人君子にでもなれると考えたこともあったのだが、私の場合は別にそんな……ことは……ない……よう………………。


「……………」




「……なさい」


 ……誰の声だ?


「のんきに寝ている場合じゃないでしょう?早く起きなさい」


 ……この声は……ええっと、誰だったか?


「……面倒くさくなったわ。起きなさい!」


「……おおっ!」


 頬に伝わる突然の衝撃に思わず、飛び起きてしまった。


 いきなり何だというのだ!?


「……エストリー?」


「漸くお目覚めのようね?」


「ええっと、おはようございます?……いや、その前にここは……」


 見渡すと、視界一面の見慣れた肉肉しい景色。また、あの夢を見ている?勾玉は身に付けていなかったと思うのだが。所持していれば、いいのか?もしくは、呼ばれたのだろうか?となると、目の前の存在はエストリーではなく、あのフードの男か?


「……お前、もしかして、フードの男か?」


「誰と間違えているのかはわからないのだけれど、寝ぼけているのなら、もう一回、目覚ましが必要かしら?」


「はい?」


 予想外の返答だ。


 ええっと、うーん、そうだな……ああ。


「フィオナ擬きー!」


「擬きじゃないです!」


「……いるのか」


「呼ばれたから、返事をしたのに何でそんな反応するんですか。あと、擬きじゃないです!」


「そっか」


「そっかじゃないですー!」


 ぶすっと、頬を膨らませているやつはともかく、とりあえずはこれがあの夢であることは確定した。しかし、そういうことなら……。


「お前はやっぱり、あのフードの男なのでは?」


 エストリーの姿をしている存在に視線を戻す。


「……今、どうすれば、貴方を理解させられるか、考えているわ。……数回ほど、頭に衝撃を与えたら、貴方は正気に戻ってくれるのかしら?」


 ……70%の確率でエストリーかもしれない。


「それはやめてください」


 とりあえず、目の前の存在がエストリーかフードの男と見分けるには……、ああ、そうか。


「これはどっちだ」


「私はフィオナなので、聞きたいことがあるなら、フィオナ擬きさんにでも、聞いてくださいっ」


「……わかった、訂正する。フィオナ、どっちだ」


「ソトガミさん、あんまり酷い扱いするなら、私、拗ねて、長き食道楽の旅に出ちゃいますよ?」


「それはどのくらいだ?」


「200年ぐらいです!」


「それは流石に長すぎるからやめてほしいな。わかったわかった、悪かった。謝るから、旅には出ないでほしい」


「じゃあ、頭撫でてくださいっ」


 とととっと、近寄ってきた夢フィオナがうりうりと頭を押し付けてくる。お前は犬か。


 本当に拗ねられて、何かしでかされても面倒なのでとりあえず、頭を撫でる。こんな空間には似合わないさらさらとして、心地良い感触がする。


「で、どっちだ?」


 撫でながら、再び問いかけた。


「んっ、これはソトガミさんが言っていたエストリーとかいうので合っていると思いますよ。少なくとも、あの生ごみじゃないです」


「……そう。貴方は生ごみなんて、呼ばれるような者と私をどう間違えたのかしら?」


 周辺温度が一気に下がった気がする。いや、実際は何も感じないのだが。つまり、25度くらいか。うん、それに関しては過ごしやすい。だが、心境としては適温ではない、つまり、よろしくない。


「簡単に説明すると、姿を自由に変えられるみたいなんですよね。生ごみというのはここにいるフィオナが勝手に呼んでいるだけで、私はフードの男と勝手に命名していますが……」


「そのフードの男と貴方はどういう関係なのかしら?それにそこの、貴方が撫でている少女は……、説明して、貴方の口から直接」


 エストリーの目から推測すると、困惑や疑念、怒りといったところだろうか?とりあえず、彼女を敵対させないために……。


「ソトガミさん、ソトガミさん」


 急に、撫でられていたやつが頬をつんつんして、呼んできた。


「どうした?」


「よくわからないですけど、そこの、私が食べちゃいましょうか?そうすれば、わざわざ説明する手間もなくなりますし。私は食べれて、win-winです。何となく、美味しそうなんですよね、あれ」


「……エストリーを少しでも傷つけた瞬間、私はお前たちには一切、協力しないし、お前の肉も食べない。次にそのふざけた台詞を吐いても、同じだ。いいな?」


 意味があるかはともかく、意思表示ぐらいはしておこう。白い髪の人類がこちらと同じかはともかく、ある程度、似ている以上は助けたい。


「ソトガミさんがそう言うなら、食べません。私、女神様のことはあんまり興味ないですけど、ソトガミさんが食べてくれないのは嫌なので」


 随分、あっさりと了承されてしまった。いや、それだと、私は彼女の肉を食べることを了承したことにならないか?まあ、それは今更か。焼いて、塩コショウなら、まあ、普通に食べれる。できれば、白米とか、パン類も欲しいが。


「もっと撫でてくださいっ」


「ん?あ、ああ、すまない」


「んっ、えへへぇ」


 こいつのことは本当によくわからない。


「エストリー、すみませんでした。先に言っておきますが、私は貴方に何かしようとは考えていませんし、今回のことについても、私から、何か意図的な行動はしていません」


「じゃあ、それは何?何故、フィオナもこんなところにいるというの?ドーレス殿ではなく、あの子がこの空間に違和感を持たずにいるのかしら?それに随分と仲がいいのね?」


「お前、案外、いいやつですね。そうですよ、私はフィオナですし、私とソトガミさんは仲良しなんです。だから、ソトガミさんは私のこと、もっとなでなでしてください」


 今更ではあるが、こいつはこいつで本当になんなのだろうな。まあ、今はここにいるエストリーの方を確認するべきだろう。


「フィオナ、これからエストリーと会話するから、少し黙っててくれ。お前が何か言うと、話がややこしくなる」


 フィオナはあからさまに不服な顔でこちらを見上げてきた。


「仕方ないですね。なら、ソトガミさんが撫でてくれる間は黙ってて、あげます」


「わかった、撫でていればいいんだな?」


 それぐらいなら、楽なものだ。


「エストリー、すみませんね。とりあえず、これについてなのですが、一応、フィオナという名前ではありますが、あの時のフィオナとは別物です」


「つまり、別人だと?」


「それに関しては今、この場では完全にそうですと答えられません。あと、こういうことを言うのも変ですが、まず先に言っておきます。ここは、この空間は私が見ている夢のはずです。なので、今目の前にいるエストリーが本物なのかどうかはわかりませんが、本物であるのなら、何故、エストリーが私の夢の中にいるのか、全くわからないのです」


「それについては間違いなく、貴方が原因だと思うのだけれど。だって、急に倒れた貴方を起こしたら、ここにいたのだもの」


 ……この言葉通りというよりは現状を考えるのなら、どうも私はあそこで倒れて、そのまま、気絶して、夢を見ているらしい。でないと、ここにいる説明がつかない。死後の世界が存在するのかはわからないが。少なくとも、ここは私の夢の中だ。つまり、死んだわけではなかったのだ、私は。だが、何故か、エストリーも一緒にここにいる。それが謎だ。


「とりあえず、エストリー、ここが夢である以上、いつ目覚めてしまうかわからないので、念のため、起きた時に互いに今の状況が事実であることを確認したいのですが、何か合言葉を決めませんか?」


「合言葉?」


「はい。目覚めているときに、この夢が、ただの夢でないことを確認するためにです。私は目の前のエストリーが夢にたまたま現れただけの存在として解釈すべきか、現実のエストリーと何故か同じ夢を見て、こうして会話しているのかを判別するために必要ですし、エストリーも同様に必要だと思うのですが」


「理屈はわかったわ。なら、互いに向けた。合言葉を決めましょう。貴方から私への合言葉はそうね……『グンモルジャードの泉は空を枯らす』。覚えたかしら?」


「グンモルジャードの泉は空を枯らす……、えっと、これ、どういう意味なんですか?」


「意味なんてないわ。グンモルジャードだなんて、泉は存在しないし、空は枯れたりしないわ」


「はぁ……、なるほど。まあ、確かに、意味のない言葉を言ってくる方が合言葉としては信用できそうではありますね」


「それで、私から貴方への合言葉は何にするの?」


「そうですね……」


 意味のない言葉の羅列を言ってもいいのだが、エストリーが本来、知り得てなければ、絶対に言わない言葉……


「『聖徳太子』で」


「ショウトクタイシ?」


「私の国、ゲヘナではなく、日本の……有名人です。私が教えない限りはエストリーが知り得ない情報だと思ったので」


「そう。なら、この夢の話をする時は、互いに双方の合言葉を言い合いましょう」


「そうですね。まあ、合言葉を度忘れした場合は夢の内容を詳細に語ってくれればいいので。私からエストリーはそうもいきませんが」


「どうして、そう思うの?」


「いや、こんな夢を見てました、なんて言ったら、普通に引かれそうなので」


「……貴方、変なところ気にするのね。今更だと思うのだけれど」


「え、そうなんですか。それは地味にショックなのですが」


「あの肉を出しておいて、引かれていないとでも思ったのかしら?」


「あれはあの時に何故か、勝手に現れただけで、私は意図して何かをしてはいませんよ。それにあれ以降は出てきていないですし」


「ドーレス殿を叩きつけたのを忘れたのかしら?それに黒幕だって、飲み込ませたでしょう?」


 ……何を言っているのだろうか?まるで私があの肉を再び、出して、命令したかのような。だが、そんな記憶はない。ないのだが。目の前のエストリーが本物だとして、私にこのような嘘をつくメリットはあるだろうか?それに確かに、思い返せば、気絶する直前の状況はよくわからない。


「エストリー、まず、その時の状況についての認識を説明してもらえませんか?私にはどうにも、ドーレス殿や黒幕に関する記憶がないのです。何故、ドーレス殿はあのような状態に?黒幕自体はどうなったのですか?」


「貴方、覚えていないの?……何も?」


「はい、屋敷を見つけてから、倒れるまでの間の記憶が全くありません」


「……そう、覚えてないのね。まあ、いいわ。なら、教えてあげる」


「その必要はないわ」


 あの女の声!?向けた視線の先にはあの女神が……、女神で合っているはずだ。見た目は全く同じなはずなのに、どこか違和感を感じる。


「……ソトガミさん、私、逃げます」


フィオナ擬きはそう言うと、突然、姿をくらましてしまった。


「……め、私を目の前に逃げたな。まあ、あんなやつはどうでもいいわ」


 女がフィオナ擬きを何て呼んだのかは聞き取れなかった。


「お前は……っ!」


「エストリー、面識があったのですか?」


「……貴方、本当は覚えていたのね?やっぱり、いい性格しているわね」


「言葉の意味がよくわからないのですが……?」


「ふざけないで。私たちの目の前にいるのは、……私たちが探していた誘拐犯、さっきまで戦っていた黒幕よ」

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