28話 滅ぼさなければならない存在
「しかし、夢の中というのはもっと色々な景色があっていいと思うのだが、どうして、ここには似たような景色しかないんだ。フィオナ、お前は飽きないのか?」
「う~ん、私は観光気分でここに居るのでそんなことないです」
別に観光するような場所ではないと思うのだが。
「そうか」
まあ、悪趣味な空間を何種類も見せられるよりは、慣れてくる分、こういう方がましか。
「というか、お前は元からここに居たんじゃないのか?」
「違いますよ。私、ソトガミさんをお手伝いするためにここに来たんです」
「日本に帰るための手伝いをしてもらったことなど、一度たりともなかったのだが?」
「女神様のお願いをお手伝いしてあげてるじゃないですか」
「あれは向こうが一方的に押し付けてきただけだろう。私が手伝う必要性もわからない。というかだ、お前も何故、手伝いなんてしている?何かメリットでもあるのか?」
「ソトガミさんに私を食べてもらえましたし、お部屋だってもらえました」
「後ろはともかく、前の理由がわからない」
「知りたいですか?」
「……いや、やっぱりいい。何も言うな」
赤らめた顔でろくでもない理由だということはわかった。
「それに、ここにいれば、退屈しないですっ」
退屈ね。こいつにとっての娯楽は一体何なのだろう。
「そもそもだが、お前は一体どこからここに来た?」
「この世界からかけ離れたとっても暗いところです」
「えらく抽象的だな」
「これ以上いっても、外神さんにはきっとわからないです」
フィオナの姿をした何かの言葉を信じるのであれば、こいつはあの世界には呼ばれないと来れないらしいが、この場所とどこか違う世界の行き来は出来るらしい。ならば、私も日本に帰ることは一応可能であるということだ。帰らせたくないのか、本当のことなのかはわからないが、こいつはそんなことは出来ないと言っているが、どういう手段を用いているのか知る必要があるだろう。まあ、そんなことをこいつに聞いたところで簡単に教えるとは思えないが。
「まあいい。フィオナ、お前について、はっきりさせておきたいことがある」
こいつの過去の言動についてはもう一つ気になることがある。私にこの勾玉を送り付ける際に彼女は肉を消費したと言っていた。あの時は所詮、夢であると大して気に留めていなかったが、今、この夢はただの夢ではなく、もう一つの現実であるとわかった以上、はっきりさせなければならないことがあるのだ。
「お前は人間を食べたことがあるのか?」
「ありますよ、あれ美味しいです」
まあ、こんな空間にいるやつなんてろくでもないのだから、今更だが、これではっきりした。こいつは明らかに人類の敵だ。相容れる存在ではない。だが、それなら、何故こいつは私を助ける?こいつと私に何の接点がある?やはりあの女神様と名乗る女性か?
「フィオナ、お前は今までに何人の人間を食べた?」
「今まで食べた人間の数なんて覚えていませんよ」
「なら、聞き方を変えよう。お前は人を殺し、食べているのか?」
「生きたままの方が美味しいです」
目の前のこいつを一発ぶん殴りたいがそんなことをしても意味がないし、恐らくこいつには敵わないだろう。だが、こいつの息の根を止める方法を何としてでも考えなくてはならないだろう。
しかし、まあ、正直、私はあの世界とは関係がない。私の世界の人類に似ているあの白い髪の人類が意味もなく害されるのは、あまり気分のいいことではないが、私にもやることがある。食物連鎖と考えれば、こういう世界があるのも仕方ないのかもしれない。だが、こちらの世界の人類を害する可能性を考えると、やはり、こいつは存在してはならない。
「……フィオナ、聞きたいことはそういうことじゃない。お前が生きている人間を襲い、食べているのかと聞いている」
「私が呼ばれる時って、人間がいますからね。お願いされることが多いですけど、大体食べちゃいます」
「お願い?それに誰に呼ばれるというんだ」
「誰なんて、知りませんよ。でも人間をくれるから多分悪い人たちじゃないです」
人間を差し出すような人間が悪くないわけないと思うのだが。
「皆、あいつを食べていいって、言ってくれますし。全員、残さず、食べてます」
「お前は何故、人間の肉に固執する?牛や豚だったり、他にも鳥とかあるだろう。それに肉以外にも魚や野菜もある。お前は人肉を食べないと生きていけないのか?」
彼女はきょとんとし、そのまま首を傾げ、数秒固まると、おずおずと口を開いた。
「生きていく……、何のことですか?」
「何を言っている、お前も生きているだろう?それに曲がりなりにもフィオナだというのなら、お前も一応、人間じゃなきゃいけないと思うのだが?やはり化け物でしたって認めるのか?」
「だから、私、フィオナですっ!」
「フィオナは人間だ。お前がフィオナだというのなら、人間でなければならないのだが?」
「人間ですよ、でも人間じゃないから関係ありません」
意味がわからない。彼女は何を言っている。発言の内容が矛盾していることぐらいわかると思うのだが。こいつは頭がおかしいのか?いや、それは今更か。
「ソトガミさん、今、私のことひどい扱いしませんでしたか?」
「いや、頭おかしいなって」
「酷いですっ!」
「当たり前だろう。どう考えても矛盾しているじゃないか」
「それはソトガミさんがわかっていないだけですっ」
「何をだ」
「今のソトガミさんにはわかりませんよ」
「馬鹿にしているのであれば、協力を止めるぞ?」
「していませんっ!あの生…むぐっ!?」
いきなり、自分の口を両手で抑え、じたばたし始めた。
「~~~~~~~っっ!!!」
思いっきり、地団駄を踏んでいる。
前にもこんな光景を見た気がする。相変わらず、こいつは何をしたいのだろうか……。
「はぁ……はぁ……。ソトガミさん、意地悪しないでくださいっ!」
「私は何もしていないぞ。お前が勝手にじたばたし始めただけじゃないか」
「んん~~~~!」
「もういい、とりあえず、お前は死なないってことなのか?」
「……ふんっ、そうですよ。ソトガミさん、いつも信じてくれないです」
それはそうだろう。あんな矛盾した内容突っ込まない方が無理がある。だが、こいつの言葉をまたしても信じるというのであれば、こいつは死なず、そして、生きていく上で人肉を食べる必要がない。つまり、こいつにとって、人間とは……。
「美味しいから食べてるだけですっ」
……ただの嗜好品ということになる。
「フィオナ、お前はあの勾玉を送るときに、数百人の肉を支払ったと言っていたな?」
「そうですよ。私、ソトガミさんのために頑張って貯めていたの全部あいつに渡したんですからね?なのに、ソトガミさん、誰も殺してくれないです」
「言っただろう。私には誰かを殺害する理由がない。お前が持っていたその肉はどうやって手に入れた。襲ったのか?」
「違いますよ。送られてきたのを楽しみに取って置いただけです」
「送られてきた?誰に?どうやって」
「知りませんよ。いつも勝手に送られてきます」
「知らないって、お前な……」
まあ、とりあえず、今までの話を整理すると、こいつはフィオナであり、人間であり、人間じゃないらしく、元々はここではない、どこかの世界にいて、そして、死なない存在で、人間の肉はこいつにとって、嗜好品だが、呼ばれないと人間がいるエストリー達の世界には来ることが出来ないらしく、呼ばれたら、大体、人間を食べている。そして、こいつには人間の肉が何者かによって送られてくるということか。
……うん、よくわからない部分が多いが、とりあえず、言葉通りなら、こいつは人類にとって、やばい存在だ。何としてでも、こいつがあの世界に来ることを阻止しなければならない。
現状、こいつ自体をどうこうすることは出来ないだろう。だから、とりあえずは、あの世界でこいつを呼び寄せたり、こいつに人肉を送り付ける存在を見つけて、可能な限り、いや絶対に根絶やしにしなければならない。だが、そもそもとして、こいつの正体がいまいちわからない以上、どうすればいい?まあ、とりあえずだ。こいつには人肉が送り付けられる。つまり、人肉を使って、何かしようとしている者は片っ端から根絶やしにするべきだろうな。
いや、長々と考えたが、正直、私にそんな力はないし、アルセドさんやエストリーに頼もうにも、私がこの人類の敵であろう存在と繋がっていることが露見すれば、私まで敵認定されかねない。とりあえず、このことは黙っておこう。
話しながら、結構な距離を歩き、記憶のどこかに引っかかっていた場所が見える。そういえば、こんな割れ目があった。
「着きましたよ。ここから先はソトガミさんが行ってください」
「お前は来ないのか?」
「女神様苦手ですっ」
「はい?……まあいい。とりあえず、この先にいるんだな?なら、行ってくる」
割れ目を通り、扉の前まで来る。
私はこの黒い扉を知っている。ならば、この扉の先に彼女はいるのだろう。……正直、どんなんだったか。まあいい、とりあえず、聞きたいことは山ほどあるのだ。
私は意を決し、扉に手を掛けた。
この落ち着いた空間に何となく懐かしさを感じる。中に入ると、髪などにべったりとついていた粘液が外に吸い込まれていく。
ああ、そうだ。そういえば、そうだった。
奥からはクラシカルな音楽が聞こえる。再び、覚悟を決め、奥へと進んでいく。
寝室までたどり着くと、そこにはあの女がいた。私をあの世界に押し込んだあの女が。不気味なまでに美しいそれは私を見定めると、まるで脳に直接触れるかのような妖艶な声でこう言った。
「少しは貴方になったのね?」




