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白痴の黒  作者: 忌神外
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27話 少女の姿をした何か

 腐食した肉の臭いに、耳障りな音。だがまあ、この空間にも慣れた。いや、正確には今はどうでもいいといったところか。ここに来た私の目的、それは。

 

「あっ、ソトガミさんじゃないですか!急になんてもの送ってくるんですか!大変だったんですからね!」


「フィオナ擬き、お前に聞きたいことがある」


「だから、擬きじゃないですっ!それに私の言葉も無視しないでくださいっ!はぁ、全く、ひどいです、ソトガミさん」


「それは後で聞く。先に質問に答えてもらおう」


「もう、なんですか~?」


「お前は一体何だ?」


 目の前のこいつは何だ。もし、私をこの世界に送り付けたのがこいつらだとしたら、その正体を知る必要がある。足掻きはしているが、正直、生死など半ば諦めてもいる。つまり、なるようになれと思っている。


 今、目の前の存在をどんなに怒らせようと、それによって、どんな結末が待っていようとも構わない。だが、もし、あれが人を害する存在だとしたら、せめて、嫌がらせの一つでもしたいとは思ってはいるが。


「ソトガミさんは何だと思いますか?」


「質問を質問で返さないでくれないだろうか」


「じゃあ、ソトガミさんは何だと言ったら納得するんですか?」


 納得?こいつは何を言っている?自身の存在に納得も何もない。いや、まあ確かに目の前のこいつが私は全知全能の善良なる神だとか抜かしたら、流石に信じないが。


「少なくとも、お前は人間ではない」


「どうしてですか?」


「私は今までのお前の会話をある程度信じることにした。だが、だからこそ、お前は人間ではないという結論に至った。まず、第一に普通の人間は脳を食べさせてこないし、人間の脳は何度も生えてこない。まあ、これも夢だからと片付けることは出来る。だが、現実にまで干渉してきた存在はお前たちぐらいだ。お前は一体なんだ?何が目的で私をこの空間に縛り付けている?」


「だって、そうでもしないと、どっか消えちゃうじゃないですかっ!私、悪くありませんっ!それに私はフィオナですっ!貴方が望んだ可愛い可愛いフィオナですっ!」


「私は別に消えたりしていない。あと、一回、お前をフィオナ本人の前に引きずり出して、謝らせたくなった」


 呆れつつ、何気なく言い放った言葉だが、それを聞いたフィオナ擬きの表情は途端に変わる。例えるなら、親に好きなおもちゃを買ってあげると言われた子供のような顔というのだろうか。そんな感じだ。


「連れてきてくれるんですか!?」


「お前が何であろうと、ここが夢であることには変わりないのだから、本物のフィオナは来れないと思うのだが」


「ソトガミさんが殺せばいいんですっ!」


「お前は何を言っている」


「ええっ!?食べさせてくれるんじゃないんですか!?」


「そんなわけないだろう。それにそんなに会いたいなら、お前の方が来ればいいだろう、フィオナ擬き」


「私、呼んでくれないと来れません」


「お前はあいつみたいに勝手に行き来出来ないのか?」


 聞いた限りで解釈すると、こいつはこちらからアプローチをしない限りは現実に現れることは出来ないらしい。まあ、実際どうかは知らないが、本当ならいいことを知った。


「ソトガミさん、意地悪です……」


 珍しく落ち込んでいるところを見た。まあ、脱線してしまったので、本題に戻さなければ。


「で、結局お前は何だ」


「だから、フィオナって言っているじゃないですか」


 うーん、さっきから平行線な気がする。どうして、こいつは頑なに認めないのだろうか?まさか本当にフィオナだとでもいうのか?いや、流石にそんなことはないはずだ。試してみよう。


「フィオナ擬き、お前も本物だというのなら、ここまでの道中何をしてきたかとかは勿論わかるな?」


「知りませんよ、そんなの」


 あまりにも毅然とした態度で即答されてしまい正直、困惑した。


「それで信じろと言われても正直無理があるぞ。いや、そういえば、あのフードのやつは存在そのものになっていると言っていたが、まさか、お前もそうだとでもいうのか?」


「違いますよっ!だから、私はフィオナですっ!」


 さっきから、こいつとの会話が何一つ噛み合っていない。正直、このまま続けてもあれだ。別のことを聞こう。


「はあ、まあいい。それはまた別の時にでも聞く」


「ソトガミさん、信じてないです」


「信じてほしいなら、明確な証拠や納得させられる理由を考えてくれ」


「じゃあ、逆に聞きますけど、ソトガミさんは自分がソトガミさんだって、証明できるんですか~」


 ……言われると、それはまあ、確かにそうだ。自身の身元を証明するのであれば、他者にそうであると認められる必要がある。物であれば、身分証明書などがそれだ。だが、今の私はどうだろう?特にそういったものは持ち合わせておらず、立場はフィオナと名乗る目の前の人間ではない何かと変わらない。まあ、いちいち疑ってかかってもそれらがない限り、結論は出ない。


 ……仕方ない、私が私を外神和平であると主張するのであれば、目の前の存在がフィオナであるという主張も認めざる負えないだろう。


「はぁ、わかった。なら、とりあえず、お前はフィオナということにする」


「ソトガミさん、信じてくれてないです」


「仕方ないだろう」


「いいですっ、別に。ソトガミさんにとって、私なんて、どうせ、そんなもんですよーだ」


 フィオナの姿をしたそれは不貞腐れているようだ。


「それより」


「やっぱりひどいですっ!」


「いいから聞け」


「……ふん、知りませんっ」


 顔を背け、頬を膨らませているしぐさは不機嫌であるとこちらに訴えているように見える。その行為は目の前の存在を見た目相応の少女のように感じさせた。


 こいつは人間ではないが、人間みたいなやつだな。


「わかった、悪かった」


「ん~~~!」


 ジトっとした目で見られている。


「信じればいいんだろう、信じれば」


「はぁ……、いいです、別に。それで、ソトガミさんは何を聞きたいんですか~?」


 ようやく話が進んだ。とりあえず、聞きたいことはいくつかある。異常について、あの触手について、渡された勾玉について、そして、こいつが過去に行っていた言動についてだ。


「まず、あの世界の異常についてだ。あの世界は明らかにおかしい。何故、魔術などが存在している。それに異常な性質をもった人や物についてだ。お前らと何か関係あるのか?」


「知りませんよ、そんなの」


「はぐらかしていないか?」


「そんなことしませんっ」


 まあいい。問い詰めるにしても、こちらも証拠が不足している。


「じゃあ、次にあの触手についてだ。あれはお前の仕業か?」


「さあ、どうでしょう~?」


「お前な……。まあいい、どうせ、お前かあの女神とか名乗っていた女性だろう」


 今なら、勇気をもって、あの女性に聞ける気がする。そうか、こいつに案内してもらえばいいのでは?だが、その前に勾玉についてはやはり聞いておこう。


「で、結局、渡されたあの勾玉は何なんだ。起きた世界で見たやつによると見境なく混沌を呼ぶものらしいし、何なら、お前の兄も混沌が何とかって言っていたが、まさか、ろくでもないものを押し付けたんじゃないだろうな?」


「ソトガミさんはやっぱり、食べたくはならないんですか?」


「お前やエストリーの体を乗っ取ったやつはそうなのかもしれないが、私にカニバリズムの趣味はない」


「エストリーって、誰ですか?」


「ん?一回、触手に飲み込まれたやつだぞ。……知らないのか?」


「ふぅん、そうなんですね。じゃあ、もうすぐこっちに来ますね」


「それはどういう意味だ?」


「死ぬってことですよ」


「飲み込まれたとは言ったが、別に食べられたわけじゃないぞ。彼女は無傷だ。体力は奪われたらしいが」


「あれにたくさん触ったのなら、そのエストリーっていうのは死んじゃいます」


 死ぬ?こいつは何を言っているのだ。彼女は特に傷などはない。あの後も特に何事もなく、ゲヘナの街を散策したのだ。呪い殺されるとでもいうのか?それとも、遅効性の毒でもあったというのだろうか?


「ソトガミさん、私、信じてましたっ!口ではあんな風に言ってても、ソトガミさんはきっと殺してくるって!」


 少女は喜んでいるのか、ぴょんぴょんとはねている。


 こいつがどういう思考回路をしているのか、何となく理解できた気がした。


 エストリーが死ぬ。もし本当であるとしたら、それは非常に困る。彼女は協力者になり得るのだ。死んでもらっては困る。目の前の存在に怒りはある。だが、エストリーが死ぬかもしれないというのであれば、何としてでもそれを防がなければならない。


「ソトガミさん?どうしたんですか、急に静かになって。あ、もしかして照れてるんですか?ソトガミさん、可愛いですっ」


「フィオナ、触手に触れたものは本当に死ぬんだな?」


「そうですよ。なので、ソトガミさんをほめてあげてます」


 エッヘンと言った風にしているが、やっぱり、こいつがフィオナであるとは思えないのだが。


「助かる方法はないのか?」


「ええっ!?ソトガミさん、何を言ってるんですか!?」


「フィオナ、お前は私に誰彼構わず殺させたがっているようだが、現時点で私は誰かを殺す気はない。だが、これまでの言動を聞いた限り、少なくとも女神様とかいうやつは私の協力がいるのだろう?なら選べ、エストリーを助け、私の協力を得るか、エストリーの死体を得て、私の協力を諦めるのか」


「ソトガミさんはそんなにそのエストリーとかいうのを助けたいんですか?」


「そうだ」


 彼女は元の世界に帰るために必要だ。


「そうなんですね。でも、私にはどうにもできませんよ」


「なら、あの女神様と名乗る女性はどこだ、案内しろ」


「私が連れて行くんですか?」


「他に誰がいる」


「いいですけど、私知りませんからね」


 目の前の少女は呆れながらそう答えた。


「別に構わない」


「なら、こっちですよー」


 とことこと歩き始めた少女の後をついていく。


 さて、女神様とか名乗っていた女性はどんな感じだったか。結構前のことだったので正直、もうあまり覚えてはいない。だが、恐らくは私をこんな状況にさせた原因だ。正直、会いたくはないし、極力関わりたくはなかったが、彼女なら、エストリーを助ける方法を知っているかもしれない。ならば、会いに行くしかないだろう。


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