26話 本当に異なる世界なのか?
その後、私たちはお茶を飲みながら、リテーリアさんから、ドレースさんが過去にやらかした事例についての話を聞いていたが、時間が経ってもドーレスさんが戻ってくることはなかった。
仕方がないので、フィオナさんとリディアさんの二人と合流したのだが、何故か、リディアさんがげっそりしていたので、少し早めに帰ることにした。庭園にはまた後日来ようということになった。帰りはその日の思い出を話しながら、鍛冶屋に寄り、エストリーの剣を受け取った。エストリー曰く、今までで見たことがないほど、最高な仕上がりだったらしいが私にはよくわからなかった。
程なくして、城につき、部屋に戻った私は今日あった人とドーレスさんの協力条件についてメモをした。正直時間が経ったら、何かしら、忘れそうだしな。それと……。
「それで明日はどうするの?」
そんなことを思い返していたが、エストリーの言葉により、思考は目の前の食卓に引き戻される。
「いえ、特に何も決めてはいませんが、また、街でも歩こうかなと」
特に決めてはいないとはいったが、嘘だ。診療所を見ようと思っていた。私の素性を隠すのはかなり難しいだろうが、それでも、一人で見たいところがいくつかあったのだ。
「一人で行くつもり?」
「え、ああ、その予定ですが」
「貴方は一人の時に襲われないかとか考えないのかしら?」
「それは確かにそうかもしれないですね」
確かにそうだ。エストリーの体を乗っ取った存在がまた、襲ってくるかもしれない。その時にまた、同じように切り抜けられるとは限らないのだ。
それにあの触手がまだ味方なのかも、どういう基準で行動しているのかも、わからない以上、迂闊に頼るわけにはいかない。まあ、出し方もわからないのだが。勾玉か血なのか?それとも、フィオナ擬きを呼びかけたことか?それ以外の何かかもしれない。とにかくまだ正解がわからない。
「まあ、襲われたら、その時はその時でしょう」
「貴方ね……、まあいいわ。仕方ないから、私がついて行ってあげる」
「別に無理しなくても大丈夫ですよ?今日は一日歩きましたし、エストリーもここまでの旅で疲れてないですか?」
「別に疲れていないわ。それと、一人で行きたいのなら、遠回しに言わないで、はっきりとそう言いなさい」
「いや、別にそういうわけではないですし、正直、ありがたくはあるのですが。というか、エストリーは出会った時は正直、怖い印象があったのですが、結構、面倒見がいいんですね」
「ソトガミ、貴方は何か勘違いしているようね。アルセド殿の言っていたことを忘れたのかしら。貴方は将来的に来る破滅を防ぐために必要なのでしょう?それが何かは知らないけれど、その前に貴方を失って世界が滅びましたなんて、愚かにも程があるわ」
それは確かにそうだな。まあ、正直、私が去った、もしくは、死んだ後の世界に責任は負えない。本来、その世界にあるもので助からなかったのなら、その世界はそれまでなのだ。
だが、生きている限りは、そして帰るまでは手助けをしよう。何より、私は元の世界に帰らなければならないのだ。ならば、死ねないし、道連れにもなりたくはないので、いくらでも手を貸す。
「確かにそうですね。じゃあお願いします。ただ、可能なら、二人で見回りたいのですが、大丈夫ですか?」
「二人?目立ちたくないと考えているのなら、無駄よ。貴方は黒いのだから、諦めなさい」
まあ、黒いというのもあるし、エストリーはエストリーで恐らく容姿で人目を集める。注目されないという目的で考えると組み合わせ的には正直、よろしくないのだが、まあ、襲われる可能性を考えると護衛は必要だろう。だが、だからと言って、大人数で行動したくもない。
「いや、まあ、確かにそうですが、今日みたいに大人数でというのも、それはそれであれなので」
「なら貴方の好きにしなさい」
「では、また明日、同じような時間で大丈夫ですか?」
「それでいいわ」
「じゃあ、お願いします」
食事が終わり、部屋に戻るとすぐベッドに横になった。
今日も中々美味しかったな。食に関する価値観もこちらと似ていたのは幸運だったといえるだろう。食事は真面目にモチベーションというか、精神的に疲労を回復させるのに必要だしな。どこぞの連合王国みたいにメシマズだったら、精神的に死んでいただろう。
それにしても疲れた。このまま寝てしまおうか?いや正直、勿体ない。しかし、やることがない。どうするか、まあ、こういう時は城でもぶらぶらしていよう。何か、情報が得られるかもしれない。よし、部屋を出よう。
私は扉を開け、部屋を出た。
と言っても、ただぶらぶらしているのもあれか。そうだな、エヌルグトースさんに連れていかれた場所を覚えているかどうか探索してみるというのはどうだろうか?私一人であの場所にたどり着けるかどうか。時間潰しに試してみるのだ。
……いや、流石にやめておこう。私がアルセドさん達を完全に信じていないように、彼らも私のことを正直疑っているだろう。ならば、迂闊なことはしない方がいい。もう少し彼らの信頼を得ることが先決だろう。それに、信頼を得れば誰に断るでもなく、あの場所を自由に出入り出来るようになるかもしれない。まあ、ここは好奇心を抑え、おとなしくしているとしよう。
しかし困った。となると、私はただ、目的もなくぶらぶらするしかないらしい。いやまあ、それもいいだろう。少し考え事をしたい気分だったのだ。適当にぶらぶらしてよう。
私は目的もなく歩き始めた。
まず、私の現状を確認しよう。
私の状況を説明するにはまず私が正気であるかどうかを知る必要がある。ここまで、現実ではあり得ない出来事を何度か経験してきた。つまり、これを説明するのには、私は正気ではないということか、私が異なる法則の世界に来てしまったということが答えになり得る。
いや、もしくは私が最初から生まれ育った世界におり、世界の法則が何らかの原因によって、狂ってしまったということも考えられるか。それは私が想像する限り、最もいや、二番目に最悪な正解だ。それは私が元の世界に、日本に帰るという目的を根本から無意味なものにしてしまうからだ。だが、知る必要はあるだろう。仮にここが元の世界であるならば、私はこの世界を正常な形にするように行動しなければならない。しかし、それは白い髪の人類を否定することになる。彼らを知り、彼らの成り立ちについて知らねばなるまい。
これは私の仮説でしかないが、恐らく彼らは私達人類が何らかの手段で創造した人工的な存在である、もしくは現人類に突発的な変異及び文明退化が起き、私は何らかによって、それを免れたということも考えられる。もしくは彼らは侵略者であるという可能性だ。だが、それについては情報が全く足りていない。私が知らねばならないことが増えたようだ。それはこの人類の成り立ちと人類との類似性、ここが地球であるかということだ。いや、別の星でなくても異なる世界、パラレルワールドという線も考えられるか。
いや、かなり複雑になってきたな。これは一旦このぐらいにしておこう。
最初に戻ろう。私が正気であるかどうかは正直、考えても答えが出るものではない。もしそうだとしたら、それはある日突然、私が正気に目覚めてくれることを祈るしかないのだ。現状でどうこうできるものではない。
そして、私が元の世界と異なる世界に来てしまった場合だ。いや、これの答えはいくつかあるが、主に考えられるとしたら、全く異なる世界、もしかしたら宇宙そのものすら違う世界に来てしまったという可能性、宇宙は同じであり、異なる世界、つまり、違う惑星であるか、同じ惑星であるかによっても、帰るための手段は変わる。
前者はまず、地球の座標を知り、何らかの交信手段を見つける必要がある。同じ惑星の場合はパラレルワールドということであり、これまでの常識が通用しない手段を用いる必要があるかもしれない。
うーん、だらだらと考え続けたが正直、紙にまとめるべきだったな。だが、誰かに見られでもしたら面倒だしな。どうしたものか。いや、せめて、燃やすなど、いつでも手軽に処分できる方法を見つけてからだろう。……よし、後は適当に歩いて、部屋に戻るとしよう。
部屋に戻ったが、正直、ここに来たことによる弊害が現れ始めているかもしれない。つまり、ぶらぶらすることしか時間を潰すことがないのだ。何か時間を潰す方法を考えねば。
……そうだ、オセロやチェスなど、私の世界にあった娯楽をフィオナさんにも教えてみるというのはどうだろう?いっそのこと、多くの人に広めてみるというのもいいかもしれない。もしかすれば、私以外にも、この世界に来てしまった人がいるかもしれないのだ。もし、そういう人が存在するならば、互いに協力できるかもしれない。うん、案外いいかもしれない。
いや、だが、それによって注目を集めるというのもそれはそれでまずいか?この世界では黒に対する嫌悪感が多少なりともあり、実際に暴力を振るわれもした。そんなことをしても、迂闊に敵をおびき寄せてはしまわないだろうか?うん、とりあえず、教えるにしてもフィオナさんぐらいにしておこう。
あー、でも、そもそも駒などを作る必要があるか。まあ、それは自作でいいだろう。木材や塗料があれば、何とでもなる。
さて、他に時間を潰す方法は何かあるだろうか?正直、オセロなどは相手がいないと時間が潰せない。一人で時間を潰せる方法を探さなければならないだろう。何かないものか。
……いや待った、あるではないか。素晴らしい時間潰しが。本だ、本を読めばいい。時間潰しにもなるし、この世界の情報を手に入れることもできる。運が良ければ、この現状を打破するための解決策を見つけることが出来るかもしれない。うん、そうだな、そうしよう。とりあえず、これから聞きに行くのもあれだし、明日辺りにでもリテーリアさんに聞いてみるとしよう。
うん、今日はこんなものでいいだろう。
私は部屋に戻った。
少し早いかもしれないが寝るとしよう。ベッドに横になり、目を瞑ろうとしたが、ふと勾玉のことが脳裏をよぎる。……そういえば、あの異常の会話から、フィオナ擬きに話を聞いていなかった。とりあえず、これまでのことと、あいつ自身のことを聞く必要があった。あれは恐らく人間ではない。その正体をはっきりさせる必要がある。
私は勾玉を首にかけ、眠りについた。




