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白痴の黒  作者: 忌神外
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25話 協力者ドーレス

 それにしても、本当に広いな。道中も3つほど、建物があったが、雑貨屋、カフェもあるらしい。カフェにはテラス席も用意されており、中々良さそうだ。フィオナさんは歩きながら、あちこち、興味深そうに見ている。


「ソトガミさんっ!ここ本当に広くて、お花がいっぱいでっ!それで、それで!」


 無邪気な笑みを浮かべ、子供のようにはしゃぐフィオナさん。楽しそうで何よりだ。私もこんな状況じゃなければ、素直に楽しめたのだが。いや、駄目だな。こういう時だからこそ、楽しめる時は楽しもう。折角の経験だ。こういうのも中々得難いものだ。

 

「お姉さま、素晴らしい場所ですわ。後日、わたくしと二人で参りませんか?」


「仕方ないわね。時間が出来たら、付き合ってあげる」


「はいっ!お姉さま、ありがとう存じます」


 それにしても、やっぱり目立つものだな。勿論、エストリーやリディアさん、リテーリアさんと一緒にいるのもあるが。それ抜きにしても、いやだからこそ、黒い私は目立つのだろう。道中のすれ違った人々の中には怪訝な目を向けるもの、明らかに嫌な顔をした人もいた。まあ、仕方ない。


「リテーリアさん、先程から、建物をいくつか素通りしていますが、一体どちらに?」


「申し訳ございません。何分広いものですので。そろそろ見えてくる頃です」


 歩き続けると、再び建物が見えてきた。まあ、先程のカフェやらと比べ、比較的大きい。武具屋の時と違い、特に外で待つわけでもなく、そのまま店内に入る。


 店の中は結構な人で溢れていた。


「ソトガミさん、色々置いてありますねっ!私、ここ大好きです!」


「確かにいい場所ですね」


 フィオナさんのテンションがやたら高いと思ったが、どうやら、ここが相当気に入ったらしい。まあ、楽しんでいるようであれば、何よりだ。こういう積み重ねで彼女の心の傷が癒えるとよいのだが。


「店主のドーレス殿と話してきますので、少しの間、店内でお待ちください」


「わかりました。皆さん、とりあえず、あっちの方から見てみますか?」


「ソトガミ様とエストリー様は私と一緒に来ていただいても?」


「はい?ああ、わかりました。フィオナ、何か面白いものがあったら、後で教えてください」


「わかりました」


「リディア、私が戻ってくるまで、貴女はそこのフィオナと行動していなさい」


「かしこまりました、お姉さま!……え!?いや、この方と!?」


「では、お二人ともまた後で」


 リディアさんが何かビクッとしているのだが、フィオナさんと何かあったのだろうか?まあ、大丈夫だろう。


 エストリーと共にリテーリアさんについていくと、視線の先には女性が二人おり、何やら話している。


 片方の女性に視線がいく。視線の女性は白い帽子をかぶっており、長い髪をしている。白を基調とした服を着ており、胸の辺りには花を挿している。上品でそして、どこか不思議な雰囲気を感じた。そして、その女性はもう一人の女性と楽しそうに何かを話している。


「白い帽子を被っているのがドーレス殿です」


「もう一人はどなたでしょうか?」


「わかりません。恐らくは客でしょう」


「ああ、はい。そういえば、私やエストリーが必要な理由は何でしょうか?」


「ドーレス殿はアルセド様の協力者です。異常については何人か協力者がいますが、彼女はその一人なのです」


 なるほど。彼女は異常に対し、何らかの知見を持っているかもしれない。可能な限り、友好的であればありがたいものだ。黒に偏見を持たれていたらそれまでだが。


「話し終わったようです。参りましょう」



「あら、リテーリアじゃない。そちらのお二人は?」


「初めまして、私は外神和平といいます」


「あらあら、あのリテーリアが連れてきたから、少し心配したのだけど、ご丁寧なのね。安心したわ」


「それはどういう意味でしょうか」


 リテーリアさんは特に表情を変えたわけではないが、どことなくムッとしていそうだ。


「うふふ、どういう意味でしょうね。ソトガミ君……でいいのよね?年下よね?君」


 見た限り、この女性は20代辺りには見える。年上だろう。


「私は18なので、恐らくは」


「そう、安心しました。もう一人はどなたでしょう?」


「エストリー・ヴァルスフィア。ヴァルスフィアの領主ゴルディアスの娘にして、次期領主よ」


「あらあら、これは失礼を致しました。わたしはリミードラ・ドーレスと申します。本日は私の庭園へいらしていただけたこと、誠に光栄に存じます」


「別にかしこまらなくていいわ。ドーレス殿はアルセド殿の協力者なのでしょう?」


「……それは助かるわ。どうせなら、気兼ねなく話したいもの。ところでソトガミ君は黒い髪をしているけど、もしかして君がそうなのかしら?」


「ソトガミ様はアルセド様の後継者であり、協力者です」


「そう、やっぱり君がそうなのね。でもどうして、アルセド殿の後継者に?」


「遠方の村にいた親族より、養子として引き取ったのです」


 私の素性を隠した?意図がわからない。いや、ありがたくはあるが。何が目的なのだろう。


「噂通りなのね。とりあえず、ここじゃ、なんでしょう。飲み物でも飲みながらお話しましょう?」


「ああはい、ありがとうございます」


「感謝するわ」


「じゃあ、ついてきてちょうだい」


 建物の3階に案内された。ここにはドーレスさんに招かれた人しか入れないらしい。


「そこのテラスに席があるでしょう?お好きなところにお座りになって。あ、おすすめは手前側の席よ。庭全体が見渡せるから。私は飲み物を用意してくるから、少しの間、待っていてちょうだいね」


「すみません、ありがとうございます」


 彼女に言われた通り、テラスに出る。


 おお、すごいな。庭全体を見渡すと中々の景色だ。ここを眺めながら、のんびり紅茶やらコーヒーやらを飲みたいものだ。いや、今の気分は緑茶かもしれない。まあ、今はどれも飲めないのだが。


 テーブルに視線を向ける。


 それは円形であり、木製のようだ。特にどこかが腐敗している、汚れているといったことはない。綺麗と言える。


「エストリーとリテーリアさんは席の希望はありますか?」


「ございません」


「ないわ、貴方の好きに座れば?」


「そうですか。それと、リテーリアさん、私とエストリーだけの時は口調を崩して大丈夫だと思いますよ。というか、いつもの感じの方がありがたいのですが」


「そうか。貴公がそう言うのならば、そうするとしよう」


 とりあえず、おすすめされた手前左側に座ることにした。


 私が座ると、エストリーは私の右隣に座った。リテーリアさんは左隣りに座る。


「そういえば、ドーレスさんもアルセドさんの協力者なんですよね」


「そうだ」


「ドーレスさんは主に何をしているのですか」


「庭園を見ればわかると思うが、ドーレス殿は植物、特に花が好きだ。また、異常性を持った植物の収集に目がない。そして、その中には我らの役に立つものがある」


「なるほど」


「ドーレス殿は我らに対して、異常全般の協力、主として、植物の異常に対しての調査を行ってもらっている。また、異常性を持った植物を交配させ、別の異常性を持った植物を作っている。その中で役に立ちそうなものは我らに提供してもらっている」


 なるほど。しかし、異常性を持った植物を作っているか。中々に恐ろしいことをしていないだろうか?万が一、予期せぬ異常性を持ったもの、人類に害を及ぼすものがこの世に生まれる可能性を考えると、非常に危険ではないだろうか。


「異常性の植物を作っていると言いますが、今まで何か問題はなかったのですか?」


「むしろないとでも?」


「ああはい、そうですか」


 それは大丈夫なんだろうか。


「だが、有用なものが多い上、それで助かったことも何度かある。何より、ドーレス殿の趣味であり、交換条件だからな」


「交換条件?」


「ソトガミ、貴公も我らに協力する条件を提案しただろう。それは他の協力者も同じだ」


 なるほど。見返りなしに協力する方が稀かと言われれば、確かにその通りだろう。


「ドーレス殿が我々に協力するために示した条件は4つある。1つ、異常性を持った植物に関することは漏れなく、発見次第速やかに情報提供すること。2つ、その中でドーレス殿が欲した異常性を持った植物を提供すること。3つ、異常性を持った植物を交配させることを認めること。4つ、庭園が荒らされることなく保たれるように協力すること」


「ですが、異常性を持った植物の交配は危険が大きいのでは?」


「それは我らも同じ考えだ。何でもかんでも欲されては困るし、勝手に交配されても困る。だから、2つ目の条件は甚大な被害を及ぼす可能性がないとわかったものに限定した。3つ目に関しては、ドーレス殿が事前に交配を申告して、都度、我らが経過観察し、危険だとわかり次第、無条件で駆逐するのを認めるという条件を加えた」


 まあ、それなら、多少は安心だといえるかもしれない。


「だが、ドーレス殿も食い下がってきた。駆逐した際に発生した損失はすべて補填すること。無害な異常性を持つ植物の販売の許可すること。有用な異常性はゲヘナが買い取ることだ。これは最終的には我らが折れた」


 なるほど。これはまあ、商魂たくましいと言えるのかもしれない。まだ、大して話していないが、ドーレスさんがどのような人物かは何となくわかった気がする。


「お待たせしたわね~」


「いえ、わざわざありがとうございます」


「折角の天気ですもの、お話しするにも楽しい方がよいでしょう?」


 彼女はそう言いながら、ティーポッドを置くが、何か、ポッドの中でびちゃびちゃとうごめいているものがある。


「あの、ドーレスさん」


「安心して、味は美味しいから」


「待ちなさい。ポッドに入っているそれが何か説明しなさい」


 私も説明してほしい。味のことなんかよりも、今、目の前でここまで動いているこれについて聞きたい。


「あら、リテーリアから聞いていない?私、植物を作るのも趣味なの。これは最近、作ったもの。そのうち動かなくなるから気にしないで。それに動きが止まった頃が飲み頃だから。……ほら止まった」


 何かの植物らしいそれは確かにぴたりと止まったが、こう減速していくのではなく、急に動きを止めるのが逆に異質さを際立たせている。ドーレスさんは全く気にしない様子で、私のカップに謎の植物の何かが抽出されたであろう液体を注いでいく。


 薄い緑色のそれはエストリー、リテーリアさんのカップにも注がれる。


「さ、まずは飲んでみて」


 いや、この世界では案外、普通のことなのかもしれない。一瞬そう思ったが、エストリー、リテーリアさんは明らかに警戒した様子だ。普通じゃないことに安心したが、それは眼前の現実が普通ではないということでもある。しかし、ドーレスさんはあくまでもてなしてくれているのだ。ここは飲むしかないだろう。


 私はカップを口元までもっていき、意を決して、液体を流し込んだ……!


「…………」


「美味しいでしょう?」


 いや、まあ、普通に美味しい。もう一回口に含む……、うん、美味しい。


「美味しいです。いやまあ、正直動いているのには驚きましたが」


「良かったわ」


 私の言葉に安心したのか、二人もカップの液体を口に含む。


「……悔しいけど、美味しいわ」


「リテーリアはどうかしら?」


「……美味しいですが、人に出すときは植物が動かなくなってからの方が良いかと思われます」


「う~ん、私は動くのも可愛いと思うんだけどなぁ。やっぱり、気持ち悪い?ソトガミ君はどう思う?」


「ええっと、私はまあ判断に困るといいますか」


「それもう答えているじゃない~!」


 別に可愛くはない。と思うが、この世界の価値観を把握できていないため、どちらがおかしいのか判別に困る。恐らくはエストリー、リテーリアさんの方が正常だとは思いたいが、この二人も大概なんだよな。もう少しサンプルが欲しいところである。


「ソトガミ、今考えていたことを口に出してみなさい」


「いえ、何も考えていません」


 まあ、実際うん。とりあえず、これを見て癒されるのは恐らく、変人か、仕事に疲れ、病む手前の人間ぐらいな気もする。いや、それは言い過ぎたかもしれないが。

 

「まあ、人によっては可愛いと思うかもしれません」


「ソトガミ君、気を使わなくてもいいのよ」


 彼女はしょんぼりしながら、席に着いた。


「さて、仕切り直して……。お話ししましょうか。まずはそうねえ。どうしてこちらにいらしたの?」


「本日はソトガミ様とエストリー様にゲヘナの街の案内をしているのです。ここに来たのはソトガミ様が工芸品を見たいとおっしゃられたためです」


「あらそうなの?なら、後で、おすすめなのを見せてあげる」


「ありがとうございます」


「ところで、リテーリア、今日は何か頼みに来たの?それとも、お二人を紹介しに来てくれたのかしら」


「ここに来たのはあくまでお二人のゲヘナ散策のついでです。新たに頼むことはありませんが、折角ですので、進捗は聞かせていただきたい」


「あ~、うっかり聞くんじゃなかったわね~。あれはまだ、時間がかかるわ。もう少し、弄りた…調べたいことがあるの」


「また、大がかりで対処するようなことがなければよいのですが?」


「大丈夫よ、大丈夫大丈夫。うん、大丈夫よ~……多分」


 そういう言い回しは嫌な予感しかしない。


「リテーリア、貴女、ゲヘナを案内しているのでしょう?なら、私のことよりも二人が楽しめるようにしないと……そうでしょう?」


「……では、その様にしましょう」


「そうそう。それがいいわ」


 今更ながら、リテーリアさんって、どういう立場なのだろうか?最初はアルセドさんの護衛かと思っていたが、どうもそうではないらしい。結構顔も広いように思える。今日の散策が終わった時にでも直接聞いてみるとしよう。


「そういえば、私の庭園はいかがだったかしら?」


「先にここに向かったので、あんまりしっかりとは見れていませんが、目の保養になるというか、良いところですね」


「美しい庭園だと思うわ」


「それは良かった。エストリー殿も今度、お時間ある時にでもゆっくりと……誰かしら?」


 扉をノックする音が聞こえる。


「リミドーラ様、わたくしです」


 年老いた女性の声が聞こえる。


「ああ、アンル、貴女だったのね。入っていいわよ」


「失礼します。リミドーラ様、お客人がいらしております」


「悪いけど、少し待っていただけるように言っていただけないかしら?すでに別のお客様がいるの」


「それが、急ぎお話ししたいことがあるそうで」


「困ったわね……」


「私は別に構いませんよ。あまり長居をするのも申し訳ないですし」


「そう遠慮しないで、もっとゆっくりしていって。う~ん、でも、そうね。……ごめんなさい、外させてもらうわね。飲み物は淹れなおしてもらうから、少し待っていてちょうだいね」


「かしこまりました、リミドーラ様」


「それじゃあ、三人とも、また後でね」


「はい」


 とりあえず、ドーレスさんが戻ってくるまでのんびりしているとしよう。


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