24話 ゲヘナの散策2
「ここが武具店になります。店主と話してきますので、少しお待ちください」
「わかりました」
ここか。まあ、見た感じは普通の建物だが結構大きいところを見る限り、儲かっていそうだ。
大きな看板に書いてある文字を見ると『ファノン武具商店』という言葉が思い浮かんだ。
んー、ああ、ファノンまでは理解できた。一応、読み書きの学習もある程度、効果があったようだ。いつ、言葉が通じなくなるかわからないのだ。意思疎通の手段は複数必要だろう。
続いて、店の小さな看板を見ると、剣と盾の絵が描いてある。
きっと、武器屋であると表しているのだろう。
「ソトガミさん、すみません。看板は何と読むのでしょうか?ファノンから先がわからなくて……。武具店でいいのでしょうか?」
ああ、これまでの会話と看板から、推察したのだろう。
「恐らくですが、ファノン武具店であっていますよ。私は武具商店って読めましたが」
「そうなんですねっ!ソトガミさん、ありがとうございます」
フィオナさんも上達している。私も頑張らなければ。
さて、リテーリアさんはどのくらいで戻ってくるだろうか。折角だし、エストリーに気になったことを聞くとしよう。リディアさんと何やら話しているが、まあ大丈夫だろう。
「エストリー、聞きたいことがあるのですが」
「何?」
「さっきの鍛冶屋の身長って、女性では割といる方なんですかね」
「そんな訳ないでしょう。ソトガミ、貴方は馬鹿なのかしら?」
「ですよね」
ああ、安心した。
「そういえば、エストリーも比較的高身長のように見えるのですが、ヴァルスフィアでは案外普通なのでしょうか?」
「私はかなり高い方。リディアはまあ普通よ」
「高身長もお姉さまの魅力の一つですわ」
「なるほど」
身長の大きさはリテーリアさん、エストリー、リディアさん、フィオナさんの順だ。私とエストリーが同じぐらいなので、まあ、身長の感覚は大体同じということがわかった。
暫くすると、店から、客と思われる人達がぞろぞろと出てきた。そして最後にリテーリアさんが一人の女性と一緒に出てきた。
「ソトガミ様、エストリー様、お待たせいたしました」
「お初にお目にかかります。私はこの店の店主のエリー・ファノンといいます。本日は貸し切りに致しましたので、ご安心して、お楽しみください」
店主というから、ある程度、年を取った人かと思ったが、結構若いな。年上と言っても、せいぜい20代後半といったところか。それはそれとして、貸し切りなんだな。一応、国の要人って考えるとそうなるのか。
「初めまして、私は外神和平といいます」
「エストリー・ヴァルスフィアよ」
「お二人とも、私の店によくいらしてくれました。では、ご案内いたします」
……おお、剣に槍、斧、盾、弓、それ以外のものも色々置いてある。
「ソトガミさん、すごいですっ!いっぱいありますっ!」
楽しそうで何より。
「確かに壮観ですね」
見た限り、銃はないようだ。なるほど。まだ、銃はないのだな。いや、探せば置いてあるかもしれないが、聞くのはやめておこう。
「お目に留まるものがございましたら、いつでもお申し付けください」
「ええ」
「わかりました」
「お姉さま、では私は店を見張っております」
「そう」
リディアさんも別に気楽にしていればよいと思うのだが、まあ向こうの立場で考えるとそうもいかないか。一応、護衛だしな。
「ソトガミ様」
ファノンさんより年老いた女性に話しかけられた。女性は落ち着いた気品のある声色でこう続けた。
「寸法を測らせていただきますので、こちらにおいでください」
寸法?一応、アルセドさんから、お小遣いは貰ったが、私は別に武具を買う予定はないのだが。まあ、従おう。恐らくはリテーリアさんが何か言ったのだろう。
「わかりました」
「ではご案内いたしますわ」
個室に案内された。
「上のお召し物をこちらに」
脱ぐのか。少し気恥ずかしいがまあ我慢しよう。
服を脱ぐと、身長やら、手の長さ、腕の太さなど、色々と寸法を測られた。女性は一つ一つ丁寧に、そして素早く測り取ると、さらさらっと数値をメモしている。
「以上になりますわ。上のお召し物です。どうぞ、お着替えなさってください」
思ったよりも早かった。
脱いだ服を再び着る。
「ありがとうございます。そういえば、寸法を測ることについて、リテーリアさんから何か聞いていませんか?」
「ええ、リテーリア様より、ソトガミ様に剣を見繕ってほしいとのことで、お体の寸法を頂戴いたしましたわ」
剣か。まあ、武器は何かしらあった方が護身にはなるな。確かに必要だ。
「そうなのですね。ありがとうございます」
扉を出ると、エストリーと店主のフォノンさんが話しており、フィオナさんは興味津々な様子で色々見ている。彼女はこちらを見つけるとすぐさま駆け寄ってきた。
「あ、ソトガミさん、見てくださいっ!リテーリアさんが買ってくれましたっ!」
そう言う彼女の手には短剣が握られていた。刀身には花の細工がしてある。
物騒ではあるが、鑑賞するならばお洒落ではある。
「花の彫り物がしてあってお洒落ですね」
「これで果物を切るのが楽しみですっ!」
喜んでいるようで何よりだが、その使い方は恐らく、リテーリアさんが想定していたのと違う気がする。多分、護身用だと思うのだが、リテーリアさんに視線を向けると、微妙な顔でこちらを見ていた。よし、黙っていよう。
「そういえば、エストリーはどこですか?」
「エストリーさんですか?えっと、先程、店主の方とどこかに向かわれましたけど……」
「エストリー様でしたら、店主と商談中です」
なるほど。なら、適当に店内を散策しつつ、エストリーさんを待つとしよう。ああ、だが、あまり視線があるのも困るしな。
「フィオナ、良ければ、リディアさんとお話ししては貰えませんか?一人で待っているのも退屈でしょうし、彼女は男性が苦手なようなので、お願いできませんか?」
「わかりました」
「助かります」
さて、後はのんびり見ていよう。
「ソトガミ様、気になるものがございましたら、いつでもお声がけください」
「わかりました。ありがとうございます」
一通り、店内を回った。珍しいものもあったが、まあ、変わり種と言えるぐらいだ。規模は大きいが、銃はないようだ。安心した。
程なくして、エストリーの商談が終わった。剣を2本ほど、購入したらしい。後で城に届けてもらうそうだ。フィオナさんとリディアさんの様子を見に行くと、何故かリディアさんが疲れていた。まあ、突っ込まないでおこう。
昼食のため、次の店に移動しているが、通りは結構な人で賑わっている。それなりに活発な街なのかもしれない。
「ソトガミさん、美味しかったですね」
「そうですね」
最初、エストリーと二人で食事をする予定だったらしい。ただ、リディアさんが恨めしい目をしていたのと、リディアさんが食事の席に混ざるなら、同じく護衛であるリテーリアさんも一緒の方がいい。かといって、フィオナさんを省くのも忍びないということで、全員で食事をした。
料理自体は魚料理の美味しいお店であった。甘くて、ふわふわしたパンとヨーグルトのようなものに甘い蜜が垂らしてあったデザートも良かった。パンに挟んで食べるのもおすすめのようで、試してみたら、かなり美味しかった。そういえば、私の剣は後日届くらしい。どんなのが届くのか、地味に楽しみだ。
「では、最後にドーレス殿の店にお連れ致しましょう」
私が挙げた工芸品の店か。正直、これまでの店で今回の成果としては十分な量知れたので、こっちは気楽に見るとしよう。あと、昼飯後ということもあり、微妙に眠いのだが、フィオナさんは元気そうだ。エストリー達も特に変わりないように見える。普段から、運動していない弊害がこんなところにも出るとは。
ドーレスさんの店は庭園の中にあるらしい。眼前には白いアーチに木々や花が巻き付いている門、門の中には木々や花、噴水などといった景色が見える。
「こちらです」
中に入ると、その広さにも驚かされた。人が数百人は並べそうな広さだ。人も多く、やはりというか女性が多い。
「ソトガミさん、私こんな広いお庭初めて見ましたっ!」
私もこんなに広い庭は中々見たことがない。
「お姉さま、素晴らしい場所ですわね」
「そうね」
リディアさんもここなら、楽しめそうだ。
「では、この庭園の持ち主であるドーレス殿の店にご案内致します」
「ドーレスさん、きっと素敵な方です。楽しみですね、ソトガミさんっ!」
リテーリアさんが一瞬、眉をひそめたが大丈夫だろうか?ドーレスさんか。一体どんな人物なのだろうか?




