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白痴の黒  作者: 忌神外
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23話 ゲヘナの散策1

「ソトガミ様、エストリー様、ゲヘナの街を案内するにあたり、何か希望はございますか」

 

 希望か、まあ、私としては街の雰囲気を知るのもそうだが、そうだな……。まずは科学技術だろうか。見るとしたら、化学や工業的なもの、あとは好奇心もあるが工芸品を見てみたい。正直、魔術に関するあれこれを現段階で見せられても理解できるか怪しい。気になりはするが、一先ずはそちらを知っておこう。

 

 後は医療技術だろうか。万が一、怪我や病気になった時に日本の感覚でいると思わぬことが致命的になるかもしれない。うん、それも知る必要があるな。だが、診療所を見せてくれなんて言ったら、露骨に怪しまれるだろうから、それは一人の時にでも見に行くとしよう。


 提案するとしたら、一先ずは科学技術だろう。あまり、こちらから提案しても怪しまれる。先にエストリーの意見を聞いたうえで添える形にしよう。

 

「そうね、武具が見たいわ」

 

「武具ですか。では、鍛冶屋と武具を販売している店に案内いたしましょう」


 武具……、こちらとしては今回の目的に合致しているのでうれしいのだが、女性らしからぬ意見ではある。いや、この世界では女性が兵士の役職についているのは別段、珍しいことではないのか。


 それに彼女も一国の後継者だ。ならば、ゲヘナの国力を把握しようと考えているのかもしれない。というか、それをいったら、私もそうか。リテーリアさんは私の事情を多少なりとも知り得ている。それならば、こちらが元の世界に帰ろうと考え、行動するぐらいは想定しているはずだろう。それぐらいはいい。なら、私も適当に提案しよう。


「他にはございますか」


「貴方は何かないのかしら?」


「そうですね。私はこの街の工芸品などを見てみたいですね」


「工芸品でしたら、ドーレス殿の店が一番でしょう。そちらで構いませんか?」

 

「はい、お願いします。そういえば、リディアさんは何か見たいところはありますか?」


「……わたくしはエストリー様の護衛ですので」


「そうですか。私は特に構わないので、見たいところがあったら遠慮なく言ってください。エストリー構いませんよね?」


「ええ」


「お気遣い、ありがとう存じます」


 そうか。まあ、話しかけられたことに内心不満ではあるかもしれないが、何とかやっていけそうだ。

 

「フィオナはどうです?」


「私ですか!?私は、えっと……。皆さんと一緒にいれれば、それで十分です」


「そうですか。お二人とも道中、見たいところがあったら、言ってください。私も恐らく言うと思いますので。ああ、いや、リテーリアさん、大丈夫ですかね?」


「構いません。ただ、あまり寄り道をしてしまうと日が暮れてしまいますので時間が許す範囲になりますが」


「わかりました、ありがとうございます」


「では、まず、鍛冶屋からお連れ致します」


 この国の鍛冶屋はどんな感じなのだろうか。鍛冶屋というと何となく頑固な職人気質の親方が鉄を打っているイメージがある。どんな感じなのだろうか?楽しみだ。


「リテーリア、何だい。また、ぞろぞろ引き連れて。それにそこのお嬢ちゃん以外は明らかに戦士じゃない小娘と小僧じゃないか。冷やかしなら帰っとくれ」


 低く、重厚な声で私たちを迎え入れたのは圧倒的な筋肉を持つ女性だった。


 これは流石に驚いた。一瞬、男性はおろか、別の生き物なのではとすら思ってしまった。フィオナさんの両腕合わせても、彼女の片腕の方が一回りでかいだろう。身長は優に2mは超えているのがわかる。そこにいるだけだというのにとてつもないプレッシャーを感じる。フィオナさんとリディアさんは少し怯え、エストリーも警戒しているように感じる。


 何だ、この女性は。


「こちらにいるのはアルセド様の後継者となるソトガミ様だ。隣はゲヘナの同盟、ヴァルスフィアの次期領主エストリー様とその護衛を務めるリディア殿だ。もう少し、気を使ってくれ」


「アルセドのやつ、いつの間に小僧なんかこしらえたんだい?あたしゃ、聞いてないよ」


「遠方にいた親族より、養子に迎え入れた。城の者も昨日知ったばかりだ。あなたが知らぬのも、当たり前だ」


「ふぅん?おい、小僧、こっちに来て、その顔を良く見せな」


「おい、失礼だぞ」


 言われるままに、そびえ立つ老婆の前に行く。すると、老婆は体を屈め、こちらをじろじろと観察し始めた。


「小僧、鍛えていないね。手を見せな」


「手ですか?わかりました」


 右手を差し出すと、袖をぐいっと、まくられ、ひじ関節の辺りまで肌が露出した。老婆はそのまま、じろじろと眺めたまま、私の手のひらと腕を何箇所か揉んできた。


「小僧、弓も剣もろくすっぽ扱っていないね。魔術は使えるのかい」


 まあ、弓や剣は使ったことがない。まあ、そりゃ見ればある程度推察がつくだろう、別段不思議ではない。魔術はエストリーと事前に話している。私の言葉は魔術であるとこの人に説明しよう。だが下手に質問されでもしたら、ぼろが出る可能性が高い。最悪、エストリーの援護を頼るしかないだろう。


「私の言葉は魔術によるものです」


「そうかい、他は?」


 深堀されたか。他も何も魔術は何一つ使えないし、わからない。


「……それは訳あって、教えることは出来ません」


「ふん、いっちょ前な口ぶりだね。まあいいさね。そこのお嬢ちゃんも来な」


 ようやく、掴まれていた腕を離された。


「おい!エストリー様と呼べ」


「別に構わないわ」


 エストリーは老婆の前まで行くと、自ら、腕のひじ関節辺りまでを露出させた。


「触れることを許可するわ。見たいなら、好きに見なさい」


「物分かりがいいのは嫌いじゃないよ」


 エストリーも私同様、手のひらやら腕を揉まれている。リディアさんが、恨めしい目で老婆を見ているが気にしないことにした。


「ソトガミさんっ!だ、大丈夫でしたか?」


 ああ、恐らく、フィオナさんはいきなり訳の分からないことを喋っている老婆にいきなり腕を掴まれている光景にしか見えなかったのだろう。誤解ぐらいは解いておこう。


「いえ、少し揉まれたぐらいで特に痛くはなかったので大丈夫ですよ」


「そ、そうですか。安心しました」


 まあ、あの巨体にいきなりあんなことをされたら、何事かと思うのも無理はない。


「ふん、こっちはましに鍛えているようだね。でも、まだまだ肉の付き方がなっちゃいないよ」


「そう」


「エストリー様に失礼だぞ!」


「そ、そうですわ!」


「ふん、うるさいね。まあいい、冷やかしなら、追っ払うつもりだったけど、剣ぐらいは研いでやる。寄越しな」


 そういうと、老婆は手のひらを上に向け、エストリーの前に差し出し、催促している。


「……」


 エストリーは無言で剣を差し出した。老婆は剣を受け取ると、鞘から抜き、刀身を眺め始めた。


「ふん、小娘の癖に生意気なのを持っているじゃないか。日没にまた来な」


「おい、勝手に決めるな。エストリー様、大変なご無礼を申し訳ありません」


 リテーリアさんが頭を下げている。


 この人も何だかんだ、結構大変なんだな。


「別にいいわ。私を連れてきたのだもの、腕はいいのでしょう?なら任せるわ」


「そういえば、この工房を見たいのですが、少し見せてもらってもよろしいでしょうか?」


「見たけりゃ、勝手に見な。荒らすんじゃないよ」


「わかりました、ありがとうございます」


「フィオナ、勝手に触ったりしなければ、自由に見学していいそうです」


「わかりましたっ!」


 フィオナさんは意外にも興味があるのか、色々眺めている。


「お姉さま、わたくしは入り口を見張っております」


「そう」


 リディアさんはあまり興味がなさそうだ。


「リテーリアは奥に来な。請求書はあんたのとこにつけるからね」


「……わかった」


 そういうと、二人とも工房の奥に消えていった。


 という訳で今、この場にいるのは私とフィオナさん、そしてエストリーの三人だけである。


 さて、私も見るとしよう。見た限り、今のところ不自然に感じるところはない。鍛冶屋らしいイメージだ。まあ、鍛冶屋なので当然と言えるが。世界が違えど、環境が近く、人型である以上、こういうところはこちらの世界と似たようなものになるのかもしれない。


「エストリー、貴女の国の鍛冶屋も大体こんな感じですか?」


「ここまで揃っているのもかなり珍しいわね。貴方は知らないから許してあげるわ。皮肉だったら、殴り飛ばしていたけれど」


「なるほど。そういえば、エストリー、良ければ手のひらを見ても?」


「何のつもり?」


「いや、正直、見ただけでそうわかるものなのかなと」


「知らないわよ。ほら、これでいい?」


 見せられるが、特に何かがわかるわけではない。というよりも、細くて綺麗な手をしている。とても鍛えているような手には見えないのだが、私にはこれでどうわかるのかいまいちわからない。


「やっぱり見る人が見れば、ある程度、熟練度がわかるものなんですかね?エストリーは細くて綺麗な手をしているので、正直、私にはどこを見ているのかわからないと言いますか」


「……今のは誉め言葉として受け取ってあげる」


「ん?ああ、それは勿論、褒めていますよ」


「貴方のも見せなさい」


「ああ、わかりました」


 両手を差し出す。


「エストリーは私の手のひらを見て、何かわかりますか?」


「そんなもの分かる訳ないでしょう」


「ですよね」


「むぅ……、ソトガミさん、私にも見せてください」


 工房に夢中かと思っていたのだが、いつの間にかフィオナさんがこちらに来ていた。


「ああ、はい。どうぞ」


 再び、両手を差し出すと、彼女は両手でぐにぐにしてきた。

 

「う~ん、ソトガミさんはあんまり、かちこちしてないです」


 カールさんとかと比べているのだろうか?手なんて意識でもしないと鍛えないし、私の場合、日常生活で大して運動していたわけでもないのだ。それはそうだろうな。

 

「フィオナの手も綺麗な手をしていますね」

 

「そ、そうですか?えへへ、うれしいです」

 

 少女ははにかんだ。が、隣はジト目でこちらを見ている。


「エストリー、どうかしました?」


「別に?」


 何だったのだろうか。


「ソトガミ様、エストリー様、そろそろ次の所へ参りましょう。武具店にお連れ致します」


「わかりました」


「わかったわ」


 次は武器屋か、楽しみだ。


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