19話 この世界の女性
暫く、彼女を宥めていたが流石に立ちっぱなしも疲れてきた。
「明日、ゲヘナの街を見て回る予定なのですがフィオナさんも一緒に行きませんか」
「私行っていいんですか?」
「多分大丈夫だと思いますよ。一応、エストリー達の一行も加わるのでそれでも良ければですが」
そういえば、そこの所どうなのだろうな。まあ、大丈夫だろう。寝る前にリテーリアさんにでも言っておこう。
「……ソトガミさん、あの人と仲良くなったんですね」
あれはそういう感じではないというか……、何と言えばよいのか。
「わっ、私のこともフィオナって呼んでください!」
「えっ」
「駄目……ですか?」
泣きそうな顔で言われてもな。まあ、構わないがあらぬ誤解を生まないといいが。
「まあ、そういうのであれば、これからはフィオナで…」
「はいっ、フィオナです!」
もう元気そうだし、そろそろ大丈夫だろう。服も一応洗いたいしな。彼女を部屋に返そう。
「そろそろ遅いですし、明日に備えて休みましょう。部屋まで送りますよ。一応、フィオナの部屋も把握したいですし」
「あ……」
途端に元気がオフになった。
「……あの、やっぱり、まだ寂しくて……今日は……い、……い、」
口籠っているが、どうしたのだ……?
「一緒に寝てくれませんか……?」
流石にそれはまずい、事案である。
「貴方も年頃の女性ですし、結婚前に異性と同じ空間で寝るというのは出来る限り避けた方がいいかと」
嫌だというようにぎゅうっと、抱きしめる力が強まる。しかし、事案は事案である。この世界でロリコン認定されるのは避けたい。避けねばならない。
「ええっと……じゃあ、何か貸すのでそれを代わりにするというのは」
いや待て、私は何を言っているのだ……。疲れて思考がおかしくなっているな。
「…………なら、シャツを貸してください」
「え?シャツ……ですか?」
「……ソトガミさん、貸してくれるって言った」
まあ、確かに口走ってしまった。それは事実だが、この子はこの子で大丈夫だろうか……。やっぱり、心配になってくる。
「……貸しますが、他の人には絶対に言わないように頼みます」
シャツを渡し、無事フィオナを部屋に送り届けた。いや、押し込んだと言った方が正確だろうか。部屋に引き込まれかけたのを何とか回避した。
彼女が正常に回復するまで骨が折れそうだが、仕方ない。とりあえず、リテーリアさん辺りにでも同行者が増えることを聞きに行かなければ、服も何とかしなければならないが、先にそちらを片付けるとしよう。
すれ違った女性からリテーリアさんの部屋の場所を聞けたので向かって、扉をノックしたが、返事はない。どうも留守の様だ。
さて、どうしたものだろうか。ここで待つか、探すか。うーん、探して入れ違いになるのも面倒だが、折角だ、少しここを探索して、また戻ってこよう。一応、建物の構造ぐらいは頭に入れておきたいというのは建前でまあ、好奇心に負けたとも言える。いやまあ、実際、念のためというのもあるにはあるが、そこはうん。後付けだ。
とりあえず、こっちに進もう。来た方向とは反対の方へ。
「…………」
角を曲がったら、ポニーテールの女性と鉢合わせた。
誰だろう?まあ、来たばかりだし、知るわけないか。とりあえず、会釈だけしておこう。
「待て」
えぇ……。何だろうか、面倒ごとでなければいいのだが。
「ええっと、何でしょうか」
「ここで何をしている」
「いや、えっとリテーリアさんという女性を探していまして」
「奴の部屋なら、貴様が出てきたところにあったはずだが?」
さて、どうするか?まあ、隠す必要もない。素直に話そう。
「ノックしたのですが、留守みたいでしたので、また後で来ようかと」
「そうか」
目の前の女性、リテーリアさんとは顔見知りではあるのか、まあ同じ職場と捉えるとそれもそうか。なら、一応、挨拶しておこう。
「ええっと、私は外が「貴様は外神和平だろう、知っているとも」」
やはり、知られているのか。ここでは黒いのがどうしても目立つのだろう。
「よろしければ、お名前を伺っても?」
「エヌルグトースだ」
エヌルグトース……、この世界に来てから、馴染みのない名前ばかりだ。というより、呼び慣れないんだよなぁ。
「エヌルグトースさんですね、初めまして」
「……リテーリアに用があるのなら、ついてこい」
そう言うと、彼女は背を向け、歩き始める。
「奴に用があるのだろう」
「え、まあ、そうですが……」
「なら、早くついてこい」
「ああ、はい、すみません」
彼女の後をついて歩くが特に、会話もない。というか、何を話すべきか。この女性の素性というか、立場を知っておくべきか。今後の何かしらで関わることになるかもしれないしな。印象は良い方がいいだろう。
「エヌルグトースさん、聞きたいことがあるのですが」
「何だ」
「リテーリアさんとはどのようなお知り合いなのでしょうか?」
「そうだな、上司と言った方がわかりやすいだろう」
彼女は歩みを止めるわけでもなく、そう答えた。
「なるほど、エヌルグトースさんもアルセドさんの護衛をしているのですか?」
「勘違いしているようだが、リテーリアはアルセドの護衛などではない」
「え、いやここに来る道中、何度か危険な目に遭いましたが、彼女が片付けていたのでてっきり」
「やつが貴様にどう答えていたのかは知らぬが、アルセドについていたのはあくまでその方が色々と都合がいいからだ」
都合……、一体何の?彼女が必要だったのか、似たような人物であれば誰でもよかったのか。引っかかる。
「それは一体?」
「荒事をするなら、老いぼれた男より、若い女の方が怪しまれないからな」
老いぼれた男はともかく若い女性もあまり適していない気もするのだが。……ふと思えば、ここは恐らく私がいる世界とは明らかに異なるところがある。ならば、こちらのこれまでの常識、認識、感覚をすぐに適用するのは良くないのではないか?気を付けよう。
「一般に女性と男性、どちらが荒事に向いているのですか?」
「初めに言っておく、そんな比較に意味はない。だが、貴様が言うところの意味では女の方が強い」
なるほど。確かにエストリーもそうだが、ゴルディアスさんの一行では剣などを持っている女性を多く見かけた。つまり、護衛などの役割を女性が担っているのは普通なのだろう。だが、エストリーはそれだけでなく、火を放ち、物体を凍らせ、触れずに切り裂き、空を飛んでいた。もし、この世界の女性の兵士がほとんどそうだとするとそれはとてつもない脅威だ。基準を知っておく必要がある。
「そういえば、エヌルグトースさんは空を飛べますか?」
「飛べる。質問した意図はまあいいだろう」
色々聞くと怪しまれるだろうし、他は別のものにでも聞くことにしよう。
「質問は以上か?」
「ええ、ありがとうございます」
「なら、こちらの質問にも答えてもらおう」
「わかりました」
変な質問でなければいいが、まあそれはお互い様か。
「赤い目をした女にはあったか?」
赤い目……、フィオナは青い目、リテーリアさんはそれよりは僅かに緑がかっている。他の女性……そうだ、エストリー彼女は赤い目をしていた。
しかし、それが問題なのだろうか。エストリー達は客人として迎え入れられていたそれくらいは知っているだろう。なら、問題はないはずだ。
「目の色であれば、昼に来た、エストリーさんは赤い目をしていたと思いますが」
「他には?」
「他には……ええと………」
夢の中のフィオナ、そしてあの女性も目が赤かった。だが、それぐらいだ。エストリーの他には見ていないし、夢で会いましたと冗談を言えるほど、フレンドリーでもない。
「彼女だけだと思います。私が会ってきた皆さんは大概青や緑がかった目をしていましたね」
「そうか。その程度なら今は安心していい」
「安心とは?」
「貴様とエストリーの間に何があったかはすでに知っている」
「……何のことでしょうか」
「誤魔化す相手は選んだ方がいい。特に私とアルセドの前ではな。貴様が信じるかはさておき、あれは我らが関与したことではない」
把握している時点がかなり怪しいのだが。こういう時、どう振舞ったら自然に見えるのだろうな。まあ、どの程度把握しているのかはわからない以上、真実であれ、ブラフであれ、どちらでもいいようにするべきか。
「貴女やアルセドさんは一体何者なのですか?」
「知りたいのならば、このまま付いてくるがいい。リテーリアもそこにいる」
……このまま、言葉の通りついて行くべきだろうか。いざという時、ここからどう逃げ出す?ついて行くしかないだろう。
「案内してください」
私の行動はずっと昔から何もかも間違えていたのかもしれない。だが、嘆いても仕方ない。詰んでいたとしても、終わるまでは足掻くとしよう。いや、足掻かなければならない。この世界には他にも同じように来た人がいるかもしれない。もしかしたら、私が最初の一人かもしれない。元の世界に帰る方法などなかったとしても見つけなければならない。
私は足掻くしかないのだ、初めからずっと。




