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巻き戻り妻は堪忍袋の緒が切れた もう我慢の限界です  作者: 碧りいな
我慢強いと思っていました
9/70

私が受けた渾身の一撃


 巻き戻りを繰り返すうちに霧が晴れるように判ってきた事がある。話の出処はいつもマリー・シャンティという伯爵令嬢だ。彼と幼馴染みのマリーは多分彼が好きだったのだ。結局振られたんだか何だか知らないけれど、彼の奥さんにはなっていないのだからマリーの恋は叶わなかった訳で。腹いせに私にあれこれ耳打ちしてくる。


 マリーにしてみれば渾身の嫌がらせなんだろうけれど、私は毎度便利な情報屋としてマリーを利用させて貰っていた。目を丸くして『そんな……』って顔をして見せれば、張り切って新しい情報を次々と披露してくれるんだから本当に有り難いわよね。


 『この結婚に』を初めて宣言した彼に誰かいるのか?と聞いたら物わかりが良いと褒められたけれど、その誰かが誰なのか全然わからないままあの時の私は護衛騎士に殺された。他の女の影も遊んでいる素振りもなく不思議で堪らなかったのだが、巻き戻った私にマリーは渾身の一撃をくれた。


 彼には『誰かがいる』のではななくて『誰かがいた』のだ。


 マリーによると彼の想い人はヒルデガルト・メヒナーと仰る令嬢で、二人のお祖父様同士が親友だったそうだ。お互いの子ども達を結婚させたいと思っていたもののどちらも息子ばかり、その願いは孫の代に引き継がれ彼から遅れること二年後に念願のヒルデガルト嬢が生まれた。


 二人共年頃になりいつ婚約発表がなされてもおかしくないと思われていた頃、彼がドレッセンの大使館に行くことになった。それに合わせるようにヒルデガルト嬢もドレッセンのアカデミーに留学が決まる。


 時期を見て向こうで結婚するんだろうと誰もが思ったらしいけれど、ここからとんでもない展開になる。実はヒルデガルト嬢、天才と呼ばれる頭脳の持ち主であったのだ。


 あっという間にアカデミーで頭角を現し一目置かれる存在になったヒルデガルト嬢。そんな彼女に興味を抱いた一人の男性がいた。ドレッセン第三王子、バージル殿下である。いや、王子様って言ってもこの時既に43歳だったんだけど。


 親子ほども歳が離れていながら忽ち二人は恋に落ち、ヒルデガルト嬢の両親の元には『婚約しました』の事後報告が届いたという。


 こうして彼は生まれた時から側にいていつか結ばれると信じていた女性を奪われてしまったのだった。


 

 そういう事か!


 フムフムと頷きたいのを堪えて私は青天の霹靂を装ってみる。すると情報屋マリーは狙い通り新しい情報を仕入れて来てくれた。


 諦めきれない彼は例の雲の上の上司ロートレッセ公爵閣下にどうにかして欲しいと直訴した。そりゃまた思い切った事をしたものだ。


 ロートレッセ公爵は一応陛下に事の次第を報告されたらしい。婚約目前の二十歳以上も歳下の女性を横から掻っ攫ったのだ、抗議の一つくらいしてもおかしくはない。


 だが当のバージル王子が今まで独身を貫いていた理由が厄介だった。バージル王子、過去に我が国セティルストリアのさる侯爵令嬢に一目惚れし結婚を陛下に打診したもののご本人にすげなく断られ、それ以降十年以上心を惹かれる女性に巡り会えていなかったのだ。それがわかっていながらどうして抗議などできるものか。


 彼の願い虚しくお二人のご婚儀は異例の速さで執り行われた。どうやらかなりの早産でお生まれになったとされる元気一杯の赤ちゃんを巡る大人の事情だったらしいけれど。まぁ、バージル王子のお年を思えば誰もがおめでたいと祝福したのだそうだ。


 んー、彼が初恋を拗らせたのが解らなくはない気がする。とはいえとばっちりを受けた身としては不愉快この上ないけれども。


 そんな理由で彼はヒルデガルト嬢への想いを胸に閉じ込めるしかなかった。


 それならば初めと二回目は何だったのかは謎だが、まぁつまりあれがイレギュラーだったのだと思う。彼には『誰かがいた』のだ。そして彼の心の中には今もまだその誰かが居るのだ。



 



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