表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
巻き戻り妻は堪忍袋の緒が切れた もう我慢の限界です  作者: 碧りいな
我慢強いと思っていました
7/70

だって私は貴族の娘なのだから


 『リーンドーン……リンドーン……』


 閉じていた目を開けた私はあまりの眩しさにもう一度眉を寄せ瞼をギュッと閉じた。今度は恐る恐る少しずつ慣らすように目を開ける。そこに広がっているのは初夏の爽やかな青空だ。


 ーーまた始まるのね……


 私は絶望で塗り潰されていく胸の痛みを無視して、隣に立つ彼に微笑み掛ける。たった今神の前で夫婦の誓いを交わし、祝福の花弁を舞い散らせている参列者の前に姿を現した私にはそれ以外の選択肢は無いのだ。


 何度も何度も幸せとは程遠い日々を繰り返して来た。でもそんな事が何だというのだ。今この場所で取り乱す事なんて私には赦されない。


 だって私は貴族の娘なのだから。


 


 披露パーティが終わりお客様の見送りを済ませた私は疲れた脚を引き摺るように部屋に戻った。複雑に編み込んで結い上げたせいで引っ張られピンが当たり痛くて堪らなかったけれども、メイド達の手で少しずつ解放されていく。


 「解放……か」


 ポツリと呟いた私を不思議そうに見つめる専属メイドのマイヤに何でもないと首を振った。何故だろう?何度も繰り返し、その度に当たり前のように自分の気持ちを押し殺して来たのに。それなのにこの時突然ぎゅうっと縛り付けていた何かがプチンと切れる音を聞いたかのように、ふっと身体が軽くなったのだ。


 ーー私はどれだけ我慢しなければならないの?


 ーー私は貴族の娘である前に一人の人間になってはいけないの?


 私は鏡に映る青白い自分と見つめ合った。


 ーーねぇ、私、とっても我慢強いと思っていたのよ。でもね、いくら何でも限界ってあるんじゃ無いかしら?


 私が頷くと鏡の私も頷いた。


 ーーその限界は、もう超えたわよね?


 私は口角をヒュッと吊り上げる。鏡の私も満足そうにニンマリと笑っていた。


 私は決意した。今私は解放されるのだ。何もかも受け入れ我慢するだけだったこれまでの私から。



 ∗∗∗∗∗∗∗∗∗∗



 社交界デビューを控えていた頃の私は両親がどんな縁談を持って来るだろうかと戦々恐々としていた。両親が相手に望むのは人柄ではなく容姿でもない。我が家にとってのメリット、ただそれだけだ。どんな人でなしだろうとクズみたいな男だろうと女癖が悪かろうと、親子どころか祖父と同年代だろうが構わない。実際内々に来ていた縁談らしき話の中にはそんな打診も有るにはあって、けれど両親は何を思う様子もなく淡々と条件を見比べるだけだった。


 しかし両親のメリット比べはあっけなく終わりを告げた。何故ならばデビュタントの私を一目見て『見つけた』と呟いた人がいたからだ。


 断っておくがそれは彼……私の夫となったマクシミリアン・ブレンドナーその人ではない。彼はその時まだ隣国ドレッセンの大使館勤めでその場に居なかったのだから。


 私を見つけたのは彼の上司(とは言っても組織の長で雲のずっと上の方だけれど)の夫人で、のっ引きならない事情を抱えて彼に丁度良い相手を探していらした。そんな事情なんてその時は私も両親も何も知らなかったけれど。


 肝心なのは彼の上司というお方が数年前まで王弟殿下だったロートレッセ公爵で、夫人は隣国ドレッセンから輿入れされた王女様だった事だ。そのご夫婦直々に打診された縁談、つまりは王家とのパイプを両親が拒む筈なんかない。私は彼が任務を終えて帰国すると直ぐにブレンドナー伯爵邸に連行された。


 

 それでも私はかなりほっとしたのだ。私達を出迎えた伯爵夫妻は私を見るなり嬉しそうに目を細めて微笑んでくれたし、五歳年上だという彼は……はっきり言って超が付くような美形だった。


 すらりと背が高く落ち着いた鳶色の髪をし、ヘーゼルの瞳は優しげに私を見つめていた。手を取られて庭を歩けば緊張している私に気遣いを見せてくれる。彼となら私は幸せな家庭を作れるのではないか?私は徐々にそんな甘い夢を見るようになっていった。


 そうして始まった結婚生活は穏やかに過ぎて行った。彼は優しかったし私を大切にしてくれた。そりゃあ結婚ありきで引き合わされた二人だもの、イチャイチャしたムードなんて無く彼から熱の籠った言葉を掛けられたことも無いけれど、静かで暖かい時間はとても心地好かった。

 

 それにあの時はそれなりに……新婚夫婦らしく『仲良く』もしていたし。春の気配を感じるようになった頃、私はお腹に新しい命を授かった事を知らされた。


 子どもが欲しいなんて一言も言わなかった彼がありがとうと言いながら涙ぐんだのには相当驚いた。基本無口で滅多に気持ちを表に出さない彼がそんなに喜んでくれたのが嬉しくて『大好きな貴方と私の赤ちゃん』なんて言っちゃったのだけれど。そうしたら彼がポロポロ泣き出して『やだ、ちょっと可愛らしいかも……』って思わずきゅんとしちゃったのよ。ノリで言ったのは確かに否定できないけれど、私達はきっと幸せな家族になれると私は明るい未来に想いを馳せていた。


 


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ