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私、衝撃を感じました


 「お腹の子と一緒に死んでしまった君の葬儀を終えてここを出ると鐘の音が鳴り響いていた。でもそれは葬儀の終わりを知らせる鐘じゃなくて僕の横には花嫁の君が居たんだ……フローラ、君はどうだったのかな?」


 私は少しだけ間を置いてから口を開いた。


 「私は死んでしまうから……鐘の音でハッとして結婚式が終わったんだって気が付く、その繰り返しだったわ。一度目は疲れて立ったままうたた寝でもしてしまったのかと本気で思っていたけれど」

 「僕もそうだった。でも同じ日に同じように君の体調の異変を告げられた僕は不安で堪らなくなった。まさかとは思ったがあれは予知夢なのだろうか、また君を失うことになったらと……だから思わず安静にするようにきつく言ってしまった」


 深く後悔するかのように顔を歪めたマックスは、ふらりともといた椅子に腰掛け肘を付き組み合わせた手に額を当てて俯いた。


 「私、淋しかったの。やっと見つけたはずの穏やかな暮らしがやっぱり上っ面だけの物だったのが。この子は私達の赤ちゃんじゃない、マックスにとってはブレンドナー伯爵家の大事な跡取りでしかないんだって。でも、そうじゃなかったのね」


 マックスは俯いたまま微かに頷いた。


 「僕は君を失いたくなかった。でもこれは本当の巻き戻りだと気が付いた僕は流産さえ食い止めればとそんな風に思っていたんだ。だから僕は残酷な宣言をして君を寝室から追い出した。運命を変えて春を迎えたらその時は君に跪いて赦しを請うつもりで。でも君は殺されてしまいまた時間は巻き戻った。巻き戻る度に僕は思い付く限りの手を打ち、けれどもどんなに手を尽くしても君を失ってしまう。万策尽きた僕は君を客間に監禁し、ついには命を絶つことを選ばせるまでに君を追い詰めてしまった。僕が殺したようなものだ」

 「……」


 私は通路を挟んだ椅子にすとんと腰を降ろした。


 「冷たくなった君を見ながら、僕は君を二度と死なせない為に最後の可能性に賭けてみようと決意した」


 マックスはすっと顔を上げ私を真っ直ぐに見つめ、痛々しいくらい強引に微笑みを浮かべてから口を開いた。


 「あの冬の終わりが来る前に君を僕から開放しようって。そうすれば君は新しい道を歩き出し命を失うことなく生きて行けるんじゃないかと」


 そう言うとマックスは突然何かを思い浮かべた様子で肩を揺らして笑いを堪え、結局は我慢しきれずにカラカラと可笑しそうに笑いながら『ごめんごめん』と謝った。


 「びっくりしたんだ。今度のフローラは今までのフローラとはあまりにも違ったから。僕は初めて君から拒絶され夫婦で居るしかないどうでもいい存在として扱われ、戸惑ったけれども確信が持てた。これならきっと君が死んでしまうのを回避できるだろうって。今までのフローレンスだったなら僕の決意は揺らいだかも知れない。けれどフローラは違った。それくらいフローラからは色鮮やかないきいきとした光を感じたんだ。眩しく輝くフローラはオフィーリア様や王妃陛下を惹きつけ自分の力で大きな後ろ盾を得た。これで離婚したフローラを侯爵家に戻さなくても大丈夫だと安心しながらも僕は淋しくて……今まで封じ込めていた君への気持ちが溢れ出して止められなくなり、離れたくなくて手放すのを先送りにしてしまった。だってフローラは僕も断れずに受け入れた縁談だと思っているけれど、そうじゃない。僕はフローラに一目惚れしたんだよ。馬車から降りた君を見て一瞬で恋に落ちたんだ」

 「それ本当だったの?!」


 驚いて椅子の上てぴょこんと跳ねる私にマックスは顔を上げて優しく微笑んだ。


 「誰かに聞いたの?」

 「メゾンドアイラでそう言われたってマリー・シャンティ様が……。でも貴方、一度だって私にそんな事を言ったりしなかったじゃない。それに初めの優しかった貴方でさえ私に恋愛感情なんて見せなかったわよ?だから私、赤ちゃんがいるって判った時に涙を流した貴方にびっくりしたんだもの」


 そうだ。『大好きな貴方と私の赤ちゃん』……私からそう言われたマックスは幸せだと涙を流した。だからこそ私は二度目の時のマックスの強張った態度が余計に哀しかったんだ。


 「気持ちは何も変わっていないよ。あの時から僕はずっとフローラを愛している。でもあの頃は君を失う日が来るなんて思いもしなくて、一日一日が大切だとは考えてもいなかった。こうやって穏やかに暮らしていけば僕らは十分幸せだ、僕の気持ちはいつか君に伝わるしそうしたらいつか君が僕を愛してくれるようになるだろう……僕は呑気にそう思っていたから」

 

 それは仕方の無い事だったと思う。私だって一年も経たずに死ぬなんて思いもしなかったのだもの。

 

 「それなら……私の運命は私が変える、だって私のものだもの」

 「フローラ……良いかい?君を待っている人がいる。その人と手を取り合って新しい道を歩いて行くんだ。僕の側にいれば、君の命の火はまた消されてしまうから」


 立ち上がったマックスが通路を横切り私の横に跪く。そして私の手を握ると潤んで底光りする瞳が私を捕らえた。


 「フローラ、ジェレミアが君を待っているよ」


 その時私は鈍器で頭を殴られたような衝撃を感じた。

 


 

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