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私、気になって仕方がありません


 私、本当におバカさんだったなって思っている。キスされたからって怒って飛びてして行くなんて……しかも夫から。


 庭で泣きじゃくっているうちにポツポツ雨が降ってきたのは気付いていた。でもこんな顔誰にも見せられない。そう思ってもうちょっとだけとぐずぐずしていたらいつの間にか土砂降りになっていて……。濡れたワンピースが重くて冷たくて、それで動けないのかと勘違いしていたけれど、もう既に熱が上がって動けなくなっていたのね。


 取り乱して軽率な振る舞いをしてしまった為にいまわの際まで行っちゃって、マナーの先生のお耳に入ったら「淑女たるものどんな時にも」ってお小言が矢のように降ってくると思ったが、そのマナーの先生ですらも回復した私を見て涙ながらに抱き締めて下さった。お小言抜きで!


 熱に浮かされてずーっとぼんやりしていた私は知らなかったけれど、かなり際どい所をうろうろしていた私の容態は沢山の人を心配させてしまった。


 今まさに私を力一杯抱き締めて号泣しているマリー・シャンティ伯爵令嬢もその一人らしい。よってマリー君の号泣付きの抱擁はもう10分も続き一向に終わりの目処が見えないが、それもこれも私が軽はずみなおバカさんだったのが原因なのでマリー君の気が済むまで辛抱するしかない。


 結局マリー君の号泣付き抱擁から解放されたのは30分近く経った頃で、号泣しながら抱擁されると腰に大きな負担が掛かるということを私は学び己の行いを猛省しているのだ。こっそりと腰を擦りながら。


 「とっても、とぉーっても心配いたしましたのよ、フローレンス様」

 「お騒がせしまして申し訳ございません」

 「もうっホントよ!でもね、こうして元気になって下さったんですもの、わたくし嬉しくて嬉しくて。マクシミリアンにもう会いに来ても大丈夫だと言われてすぐさま参りましたわ」


 マリー君が私を案じ大喜びで訪ねて来た上に号泣までしてくれるとは。しかも途中でバタークリームサンドを入手せんと行列に並んでくれたなんて!


 マリー君、私の信頼する情報屋マリー・シャンティ君!貴女とお友達になる日が来るなんて何度も巻き戻った私だけれど想像もしませんでした!散々利用してごめんなさい、ホントにごめんね。


 しかもマリー君はお友達になっても凄腕の情報屋だ。


 「フローレンス様はご存知かしら?立て続けに起きている失踪事件」

 「失踪事件?いいえ、初めて聞きましたわ」

 

 『やっぱりね』とご満悦のマリー君は目をキラリと光らせ、早速情報を明かしてくれた。


 最初に居なくなったのは平民の女学生だった。次は雑貨店の店員。そして診療所の看護師。何の変わりもなくごく普通に暮らしていた彼女達は前触れもなく忽然と姿を消した。駆け落ちや家出を疑う声も有ったが家族や友人は思い当たる事は何も無いと否定した。


 不思議なことに彼女達は半月に一人ずつ行方がわからなくなっており、さらには平民ではなくマクナフ子爵令嬢が居なくなった。


 「先月はトールボット男爵令嬢、それから先週はスカーレット・ベルミス伯爵令嬢が」

 「…………」


 私は喉に何かが詰まったみたいに声が出なくなった。スカーレット・ベルミス伯爵令嬢……私と同い年の彼女は縁談が纏まったばかりだ。春には式を挙げるのだと嬉しそうに話していた彼女が家出はもちろん駆け落ちするなんて絶対にあり得ない。


 「ね、おかしいでしょう?あんなにお幸せそうにしていらしたスカーレット様が家出するはずがないじゃありませんの。いよいよこれは連続誘拐事件なのではないかと本格的に捜査が始まったらしいですわ。それにしても次々と行方不明になるばかりで身代金の要求や……亡骸が見つかることもなくて」


 マリー君は自分で言いながらゾクッとしたのか身体をすくませ両腕を擦っている。


 「スカーレット様は何処で行方がわからなくなったのてすか?」

 「婚約者様と歌劇場でオペラをご覧になっていらして、休憩時間にお一人で化粧室に行かれたまま戻られなかったんですって」

 「そんな人目の多い場所で?」


 思わず聞き返した私にマリー君はコクコクと激しく首を振った。

 

 「そうなのです。あんな場所に怪しい者が居たら目立ちますでしょう?あ、そうそう、怪しいと言えばねぇ」


 そろそろ物騒な話題を変えたくなったのか、マリー君は仕切り直しだとばかりにお茶を飲み小声で、それもかなりのヒソヒソ声で私に耳打ちして来た。


 


 



 



 

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