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巻き戻り妻は堪忍袋の緒が切れた もう我慢の限界です  作者: 碧りいな
他の生き方を知らないのです
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私、こっそり足を伸ばしました


 「フローレンスが素晴らしい女性として成長できたのも偏にご両親の教育の賜と感謝しております。ですがフローレンスはもうブレンドナー伯爵家の一員、義父上や義母上が何時までも案じられずと我々にお任せ下されば大丈夫ですよ。それにフローレンスは本当に良く出来た素晴らしい妻ですから」


 マックスがにっこり笑って口を閉じると父は『ふむ……』と言って顎を撫でた。


 「君の言う通り嫁に出した娘のことは婚家に任せるべきなのだろうな。マクシミリアン君、頼んだぞ!」


 結局この人は単純で丸め込まれ易いのだ。今までだってずっとずっと母や妹の言う事だけを疑いもなく信じ込んできたのだもの。だからこそ『ふむ』なんて呑気に言ってるのだ。だってマックスは嫁に出したのだから口を挟むなって言ったのも同然で失礼にもほどがあるのに、よりによって『頼んだぞ!』って……頼んじゃうのか!


 その隣で母は悔しそうに唇を噛んでいた。『淑女たるもの』って散々講釈を垂れてきた母。『感情を顔に出してはいけません』って星の数ほど注意されたがその母は躊躇無く顔に出すんだもの。でも自分は……そして妹のヘンリエッタに関してはそれが『表情豊か』って言い回しに代わり、誉められるべきチャームポイントになるのが不思議なんだけれど。


 「あまりこの方を誉めないで下さいね。本当に自惚れやで直ぐに真に受けるから困ってしまうのよ。少々お勉強ができたからまだ良かったものの女の子なのに器量も良くないし」「何を仰るのです!!」


 びっくり仰天と言わんばかりに声を張り上げて母の話を遮ったマックスを、周りの人々が何事かと見ている。だけどマックスはそんな事を気にする素振りもなく、茫然と目を見開き唇を震わせていたが急に無表情になった。


 「はぁ、そういうことか!」


 吐き出すようにそう言ったかと思うとマックスは突然憐れみと同情を込めて微笑んだ。それはそれは甘ーく優しいその微笑はいくら憐れみに起因したといってもマックスの微笑みには変わりがない。


 そう、この非常に顔立ちが良いマクシミリアン・ブレンドナーの、だ。


 切なげな、そして凄まじいまでの破壊力を有したその微笑に何事かとこちらを伺っていたご婦人達は一様にぽーっと頬を染める。おまけに声を張り上げられた母までも。


 「義母上、失礼ながら申し上げますがどうやら義母上には審美眼が備わっておいでにならないのではないかと……そうでなければ我が妻フローレンス・ブレンドナーを、この眩いほどの輝きを放つ美しいフローレンスを器量が良くないなどとどうして申せましょう?」


 ーーマックスくん?キミは何口走ってるのかしら?


 私はこっそりと足を伸ばし爪先でぎゅっとマックスの靴を踏んだ。けれどマックスは何も感じていないのか全く反応せず話を続けている。



 「僕は決して忘れることはできません。馬車から降り立ったフローレンスを初めて目にしたあの瞬間を……」


 マックスは余韻に浸るように目を閉じ、それからゆっくりと目蓋を上げると急に屈み込んだ。『え?なに?』と思うと同時に頭にくりくりと頬ずりをされ、周囲からは見物中のご婦人達の悲鳴が上がる。びっくりして一気に赤くなった私は何をするんだとマックスの足の小指をピンポイントで狙ってぎゅうーっと踏んだ。


 マックスは一瞬ぴくっとしたものの動じる様子はなく、でも頬ずりは停止したのでやれやれと思いきや脳天に、何故か脳天目掛けてキスをしたので周囲からは再び悲鳴が上がった。いや、脳天だよ?脳天。キスなんてされたいの?


 しかしご婦人達の様子から察するに脳天はアリらしい。


 「日の光を受けた黄金に輝く女神のようなフローレンスに僕は息をするのも忘れました。こんなにも美しく、そして愛らしく愛くるしいフローレンスという存在に。そして同じ時を過ごすうちに益々想いは深まっていくのです。もうこれ以上愛することなどできるはずがない、そう思ってもフローレンスへの想いは募るばかりです」


 ーーそれ以上言ったらこっちを使うから


 と念を送りつつマックスの靴の上に乗っていた爪先とヒールを入れ換えるとマックスは危険を察知したのか足をもじもじと動かす。でもどんなに逃げ惑っても私のヒールからは逃れられないのだよ?


 「それはそうと、ロートレッセ公爵ご夫妻にホルトン侯爵家の婿となる男性を探していると、そうお話されたそうですね?」


 出し抜けに替えられた話題に私は耳を疑った。


 ーー侯爵家の婿探し?どうしてそんな……だってそれは……


 目まぐるしく思考を巡らす私だったが気まずそうな両親の様子から察するに事実なのだろう。オフィーリア様が言っていたのは妹の婿養子を紹介して欲しいってことだったのね。


 納得する私の横でマックスは不思議そうに首を捻っていた。


 

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