099話 禁書捜索その3
「そんな便利なものがあるなら、それさえあれば見張りは不要なんじゃないのか?」
「ちっちっち、分かってませんねユヴォーシュさん。魔術とはすなわち意識。睡眠状態では、たとえどれほど簡単な魔術であっても、またどれほど熟達の魔術師であっても、行使は不可能です」
非論理式《奇蹟》だってそうでしょう、と言われると返す言葉もない。確かに、寡聞にして寝ながら身体強化をした話というのは聞いたことがない。
「気落ちすることはないですよ。誰しも知らない分野というものはあります。あとはどれだけ知ろうとできるかだけです」
「……つまり?」
「その剣って」
単純に知りたいことがあるって話を、そんな前置きをしないとできないものなのだろうか。
「ただの剣じゃないですよね。刀身が黒いのはファッションかとも思いましたけど、それ、閉輝鋼ですし」
「閉輝鋼、ってなんだ? ……何だ知らないんですか、みたいな顔するなよ。君が言ったんだろ、『どれだけ知ろうとするか』が大事だって」
「いやそれは、自分の埒外のものならそうですけども。まさか持ち主が知らないと思わないじゃないですか」
ごもっとも。
それでも律儀に解説しようとしてくれるウィーエは、彼女のご先祖さまと比べればよっぽど親切だ。彼ならきっと馬鹿を見る目で見て話題を変えていた。
「いいですか、閉輝鋼とは希少金属の一つです。反射率ゼロ……実際は限りなくゼロに近いはずだけど、今のところ反射を確認できないので便宜上ゼロとされています。これが意味するところは、つまり魔術的には純粋な黒である、という概念の付与が最も楽である、という点にあります」
「なるほど」
「不可視、封鎖、視力遮断、あるいはもっと幅を広げて、夜や闇に連なるイメージを引っ張りやすいんです。魔術の触媒としてはこれ以上ないほどですが、希少金属だけあって採掘量は少なく、よって高価で、しかも加工が難しい。……ぶっちゃけ、剣にしてる人は初めて見ました」
「そういうものか……」
ちなみに、《真龍》を戮したあと、一度だけムールギャゼットと話した時に聞いた話。《幻影の魔導書》による言伝、最後に伝えようとしていて俺たちが(ニーオのせいで)聞き逃した部分では、鍛冶師ジーブル・メーコピィへの請求権の譲渡について語っていたという。ジーブルがディゴールの商会から取り寄せて踏み倒していた材料費の取り立て代わりに、彼が鍛造したという魔剣をせしめるとよい、という話だったらしい。
どうしてそんな権利を持っているのか、という点についてはムールギャゼットは答えず消えた。
アファラグ山に居を構え、必要な材料を自力で獲れるようにしていたはずのジーブルが、そんなツケになるほど取り寄せた材料。今の話とあわせて考えれば、魔剣の材料として希少金属たる閉輝鋼を必要としていたからと繋がる。ムールギャゼットが「ジーブルのところに魔剣がある」と断言できたのも、材料から推察したか。
「まあ、魔剣だからな」
ちょっとだけ自慢したくなっての言葉に、ウィーエが猛然と突っ込んできた。文字通り、体当たりで。
「魔剣なんですか!? 見せてください見せてくださいうわ初めて見た! 永続化処理、加算概念、どうなって……ッ!」
「危なッ……いから抜き身の剣に抱き着こうとするな! 刃物だぞ!」
我を忘れて魔剣を鑑定しようとするウィーエを力づくで引っぺがす。細腕でも魔術師、非論理式《奇蹟》も修めているのかやけに力強い。こんなところでばっかり優秀さをアピールしやがって……!




