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009話 勇者始動その2

 俺が自宅で忙しく動いていると、アレヤ部隊長がやってきた。


 開け放たれたドアをノックする音がするまで来訪に気づかなかった。


「部隊長」


「部隊長、じゃない。どこに行ってたんだ、お前」


「ああ……」


 《枯界》に行っていたとは言えないので、言葉を濁すことしかできない。


 《人界》に帰ってきてからの、“テグメリアの花冠”亭での会談を思い出す。


 俺が下された異端認定は、神を信じられないことが理由。それはつまり《九界》を統べる神の威光の不備を意味する、らしい。神の威光に不備がある(・・・・・・・・・・)などあってはならないことだとディレヒトは断言した。神を信じられない俺の存在を大っぴらに明かされてしまえば、信庁の権威が揺らいでしまうから秘密裏に《虚空の孔》刑で片付けてしまおうとして、失敗したのが事の顛末。


 俺は『俺が異端だ』と明かすという切り札を持っている。このカードを切れば信庁はガタガタになるだろうが、そのとき信庁はなりふり構わず異端の俺を始末しに来るに違いない。今や異端認定は双方にとっての抑止力となったのだ。


 というわけで、事情説明できない。


「ちょっと信庁本殿の方に呼ばれちゃってまして」


「何だそれは。私がくれてやったのは五日の療養休暇だぞ。音沙汰もなしに追加で六日も無断欠勤して、家に帰ってきたと思ったら……何をしているんだ?」


「ああ、ええと、引っ越しです」


「引っ越しィ!?」


 アレヤ部隊長の素っ頓狂に裏返った声なんて初めて聞いた。


「色々あって、ちょっと武者修行にでも出ようかなと」


「待て、待て待て待て。お前何言ってるんだ。私の部隊で一番剣が立つクセに、この上武者修行だ? というかユヴォーシュ、お前まだ私の部下だろう。除隊願なんて受け取ってないぞ」


「あ」


 異端認定、《虚ろの孔》刑、《枯界》での神との出会いと修行、《人界》への帰還とディレヒトとの会談。数日間で目まぐるしく事態が転がっていたため、俺がまだ征討軍に属している事実がすっかり頭から抜け落ちていた。


 そういえば確かに、俺が異端だという事実は公表されていなかった。『名誉保存』とはそういうことで、信庁としては完全に秘密裏に始末してしまいたかったから戻ってきてしまえばそこらへん元通りなのは筋が通っている。


「しまったな……。紙とペンありません?」


「この場で書く気か、お前。部下の様子を見に来たのに持ってるはずないだろう」


 荷造りで混沌とした家の中から探し出すのも面倒なので、横着(・・)することにする。


 《顕雷》が走った後には、無地の紙と愛用のペン、インク瓶が手元に出現している。


 サラサラとペンを走らせる。一身上の都合により征討軍を除隊させていただきたく存じます……と。


「ゆ。ユヴォーシュ……」


「はい」


「お前それ、《信業》の……」


「はい」


 今大事な書類を書いているから後にしてほしい。


「こちらを向けユヴォーシュ隊員!」


「はいっ!」


 アレヤ部隊長が一喝する。俺は六年間でしみついた部下としての反射で直立不動、命令に従ってアレヤ部隊長に向き直る。


 刃のような視線に貫かれた。……これは怒っている。かつて類を見ないほど怒っている。


「除隊願などどうでもいい、辞めたいなら私がどうとでもしておいてやる。それより話を聞かせろ、お前は……《信業遣い》になったのか? ───あの日、私に言っていたことが関係しているのか?」


 ───どうして俺は神を信じられないのか。そう俺は彼女に聞いた。関係しているかと聞かれれば間違いなく関係している。俺がみんなと同じように信仰を持てないから、異端だからすべては始まったこと。けれど───


「そう……ですね。詳しくは説明できないんです。俺にもよく分からないというのが実情なので」


 神を信じない“異端”という罪。


 にも関わらず授けられた《信業》。


 《枯界》で拾った棄神バスティの失われた過去。


 分からないことばかりだ。


「だから、知らないことを知りに行きたいと思います。いつか、説明できるようになったらきっと説明しますから」


「……約束だぞ、ユヴォーシュ」


「ありがとうございます」

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